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月と猫と鈴の音

作者: 雷光

ポケーッと空を眺めている。蝉の求愛行動、風鈴の音。満月に向けて鳴く猫達。

こんな時は何をするのにも気怠い。心地いいという意味で、うっといという意味でも。


下着一枚で寝転がるあたしの姿を見たら、あいつはどうリアクションするだろうか。まあ、いつも通り「女の子なんだから、もうちょっとデリカシーというを」とか何か言うんだろうな。ふふっ、乙女のデリバリーはデリケートなのだ。我ながら上手いこと言ったな。



「いや、全然上手くないからな」



あいつとは違う声を掛けられて驚く。それはもうめちゃくちゃ。いや、もうくちゃくちゃだ。くちゃくちゃ驚いた。

だが、そこはあたしだ。驚いたことを顔に出さずにすぐに起き上がる。



「なんだ、馬鹿兄貴」


「なんだとはなんだ、馬鹿妹」


「お前に言われたくないわっ、ぼけーっ!!」



いつもなら蹴りをかましたい所だが、今は何をするにも気怠い。あれ?どこかで聞いたフレーズだな。きっとテレビに何かだろう。起き続けてもうっといだけだ。あたしはすぐに横になった。



「飲み物持ってきてくれ。キンキンに冷えたグラスに、キンキンに冷えたオレンジジュース淹れて、カップゼリー付けるだけでいいから」


「はいはい。わかりましたよ、お姫様」



そう言って馬鹿兄貴は立ち去る。顔を向ければ、さっきまで読んでいたであろう漫画の単行本があった。

そういえば、あいつは「最新刊だ!いやっほぉぉおおおおぉぉぉおおおお!!」とか吠えてたな。馬鹿兄貴と一緒に。あいつでも馬鹿みたいになるんだと考えたら、少し嬉しくなった。すると自然に笑えた。


笑う。これがどれだけあたしには価値があるのか。それはあたし達にしかわからないだろう。

でも、それでいい。この価値はみんながみんなが知っていいものではない。むしろ知らない方がいい。奇跡の果てで手に入れた笑う、という掛け替えのない宝物。


もうこんな奇跡は起きないだろう。でももういい。あんな奇跡はこりごりだ。一回きりだ。

今度はあたし達が守るんだ。この輪を。みんなの笑顔を。

たぶん、これからも躓いたり、転んだり、遠回りしたりとあいつに迷惑をかけるだろうけど、それはあいきょーというやつだ。笑ってあいつは受け入れてくるだろう。



「……ありがとう、理樹」



こんなあたしを好いてくれて。好きだ、って言ってくれて。おかげで笑ってあいつと過ごせていける。新しい笑顔も、みんなの輪に受け入れてくれるだろう。


風鈴の音が耳を震わせる。猫達は歌う。満月に向けて。

お前もいつか、こんな世界を見れるんだぞ。あたしは再び起き上がって、お腹を撫でた。

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― 新着の感想 ―
[一言] いいですね。 笑う事の価値、あの感動の奇跡をなんとなく思い出しました。
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