思慕
何故こうなったのか……。
いったい、いつからそんな風に思われていたのだろうか。
ユーリは嬉しい、というよりただただ困惑していた。
だって、シンが自分を好き?
そんなこと、全く気づかなかった。
思いを抱いている人が、思いを寄せてくれている。
通常であるならば、ただ嬉しいと思えること。
倫理的なことや、ユーリが過去に捕らわれてさえいなければ、自分の気持ちを伝えて二人で幸せに、となるのだろうけど。
嬉しい、という思いが全くないと言えば、嘘になる。
でもだからといって受け入れる、ということはユーリにはできなかった。
むしろ、それならなおのこと、ここで突き放さなければいけないと思った。
だから、
「私はシンを小さな頃から見てきたんだよ。伴侶なんて、あり得ない。そんな風には思えない」
顔をちゃんと上げて、精一杯の嘘を。
シンのことが本当に大切だからこそ、自分なんかが相手ではだめだと思う。
「それだけ?」
余裕を含んだ冷静な声音に、焦りを感じる。
「そ、それに、私とシンとじゃ生きられる時間だって、違うでしょう!」
仮にここで受け入れたとしても、ユーリはいずれシンを置いてきぼりにしてしまう。
シンをまた、独りにすることになる。
できることなら、同族の女性と生涯を共にして欲しいと思う。
「それで終わり?」
問われても、言葉にならない。
ユーリには、嘘でもシンを貶すようなことは、できるはずがなかった。
「……」
「……まず、そういう風には思えないってことだけど。それなら最近の挙動不審の理由と、微妙に避けられてる理由は、何?」
唇を噛んで俯いた。
言えるはずがない。
ここでそれを言ってしまったら、このシンの様子では、絶対に説得できなくなってしまう。
何かもう、既にダメそうだけど。
「少し前からのユーリの態度。そういう意味で、意識されてるとしか思えないけど?」
「……」
全部見透かされている。
「確かに寿命は違う。残されるということは、とっくに覚悟はしてるよ。僕は独りになる。それでも、ユーリの最期の時まで傍で生きられる可能性は、只人より高い。そうすることでユーリを独りにしなくて済む」
「……!」
最後の言葉に驚き、顔を上げた。
「なんて顔してるの」
苦笑いしながらの言葉。
いったい自分はどんな顔をしているのか。
言われるくらい、酷く歪んだいるのかもしれない。
「僕が嫌なのは自分が残されることじゃなくて、ユーリが、大切な存在が寂しく、辛い思いをすることだよ」
当たり前のことだよ、と続けられた。
その思いは、ユーリ自身がシンに対して願っていることと、同じだった。