表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

混乱

シンには絶対に幸せになって欲しかった。

こんな箱庭の中の狭い世界ではなく、明るい日差しの下で。




シンの耳がピンと張り、尻尾が毛羽だっている。

手触り悪そう、とついつい現実逃避的な思考が脳裏をよぎる。

しばらく触っていないから、禁断症状が出たのかも。

そんな場違いなことを思ってしまっているユーリにかまわず、ため息をひとつ吐き、シンが言葉を発する。


「今までずっと一緒に居たから、ね。ユーリの考えてそうなことは大体分かってるよ」


話し出した声音は、もういつものシンのものだった。落ち着いていて、柔らかい。

耳や尻尾だけじゃなくて、この優しい声が自分に語りかけてくれることにも、日々安心感があった。

この声が、ユーリがこの世界に居てもいいと、言ってくれている気がした。


ユーリの感慨とは別に、言葉が続いていく。


「大方、自分が傍にいると僕のためにならない。僕が幸せになれない。……そんなところ?」


ビクッと体が震え、俯く。

完全に見透かされている。


シンはユーリの反応を見て、いっそう確信を深めたようだった。


「それが理由なら、尚更従うつもりはないよ」


何故自分なんかに執着するのだろうか。

ユーリは不思議でならなかった。

離れた方が絶対に良いし、自分なんかと違って、シンなら何処にいっても大丈夫だと、確信している。


それなのに、何故……。


「さっきも言ったけど、僕はずっとユーリと一緒にいる。最期まで、ずっとだよ」


……最期まで?


「な、んで、そこまで……」


ユーリは訳がわからず、ひたすら混乱していた。

ここまで強固に異を唱えられるなんて、思ってもみなかった。

シンは本当に優しい。

横暴な振る舞いや言動も、反抗期すらなかったのだ。

だから、最初こそ嫌がって拒否したとしても、最終的にはユーリの言うことに納得してくれるものとばかり思っていた。


それが、


「本当に、分からないの?」


ふぅ、と息を吐いて言われた言葉にも、まるで見当がつかない。


「……」

「鈍いとは思ってたけど、まさかここまでだったとは、ね……」


シンの言いたいことが全く分からなかった。

う~んと一度唸ったシンの次に放たれた言葉は、ユーリにとって全てを覆されるようだった。


「僕はずっと、ユーリが好きだよ。もちろん育ての親としてじゃなくて、伴侶としての意味で」

「……!!!」


言葉にならなかった。

青天の霹靂。その言葉以外ない。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ