交差
母親が亡くり、父親に捨てられた後は確かに大変だった。何も持たないまま、僅か十歳にして、文字通り独りになってしまったのだから。
けれども、精神的には重しが無くなって、楽になったような気がした。
数日間ふらふらと宛どなく歩いていた。
どうしようか、と思案にくれていたユーリを拾ってくれたのは年を取った無口な女性だった。
ユーリはその人から、最低限の生きる術を教わった。しかしその人も、そう時をおかずに亡くなってしまった。
それからユーリはずっと独りだった。
シンを連れてくるまでは。
ユーリは元々誰かと一緒に生活する、ということは一切考えていなかった。
女性が亡くなった後は特に。
それに、ユーリは自分を拾ってくれた人に、何もしてあげられなかった。
独りが寂しかった、ということだけじゃなくて、ユーリも自分を助けてくれた人と同じようにすることで、恩返しの意味もあったのかもしれない。
だけど結果的にはユーリの方が、シンの存在に大分助けられたように思う。
特に成長する以前の子供の頃、そのふさふさの耳と尻尾にはとても癒やされた。
膝の上に抱き上げて、とにかく日々もふもふを堪能していた。
抱き上げられなくなった後も、触らない日はなかった。
それでも日々思っていた。
この温もりは、今だけ。
シンが成人したらまた独りに戻るのだ、と。
そして、それ以降はずっと独りでいると。
そう決心していた。
確かに十八歳という年齢は適齢期なのだろう。
だけどユーリは自分が誰かと夫婦になることだって、一切考えていなかった。
だからこそ、シンに言われた言葉は全くの想定外で、理解ができなかったのだ。
「適齢期なんて……。なんで、関係ないよ。ただ、成人したら一人立ちするのが……」
それだけ、じゃないけれど。
「僕は成人した後も、ユーリとずっと一緒にいる。そう、思っていたけど?」
嬉しい。
その言葉を聞いて、率直にそう思った。
声音には非難の色がにじんでいたけれども。
それでも、その言葉に甘えることはしてはいけない。
自分なんかの傍にずっと居たら、シンはこの先未来永劫幸せになれない。
それどころか不幸になってしまう。
ユーリはその思いを変えることはできなかった。
だから、なんとしてでも説得しなければならない。自分から離れることを。
諸々併発しています。
皆様も心と身体をどうかご自愛くださいませ。