過去
彼、シンが言ったことは、彼女にとって全く予想外の言葉だった。
彼女、ユーリの幼い頃はシンと同様に、毎日のように両親やその親類等から虐げられていた。
それは言葉によるものだったり、肉体的に傷を負うようなものだったり。
日によって違いはあっても、様々なやり方で、ユーリは血縁の人たちからその存在を否定され続けていた。
その理由は、肌、瞳、髪の毛の色がほとんどの只人と違うからだった。
もちろん、両親から受け継いだものでもない。
ユーリが生まれた頃のこととかは、使用人たちが喋っていた内容からになるけれど。
生まれた当初は当然のごとく母親が不貞を疑われた。
母親がどれだけ否定をしても、未だ検査方法が確立されていないこの世界では、確かめようがなかった。
ユーリの容姿は、父親から受け継いだ部分も確かにある、ということにもかかわらず、母親の言葉は一切聞き入れられることはなかった。
母親は次第に赤ん坊のユーリに近づかなくなり、その精神のバランスを徐々に崩していった。
世間体を気にして体裁を整えるためか、それともほんの僅かでも慈悲の精神があったのか。
ユーリには世話人がつけられ、成長することができた。
母親の心が生きている時間は、ユーリを生む以前の過去に戻ってしまったけれど、時々現在の時間に帰ってくることもあった。
けれどもユーリの姿を見ると、錯乱して支離滅裂な言動と行動を繰り返す。
その時母親から発せられる言葉は、どうして自分の言葉をちゃんと聞かず、疑うことしかしないのか。それとユーリがさえ生まれてこなければ、という彼女の存在を否定する言葉がほとんどだった。
そして、周囲に置いてある色々な物をユーリに向かって呪いの言葉と共に投げつけてくる。
小さな身体では避けるのもままならず、ユーリは常に至るところに傷を負っていた。
それを使用人たちが遠巻きに見ていたのだった。
なかにはユーリを庇い、なんとか助けようとした使用人の女性もいたけれど、ユーリの父親に見とがめられ職を辞めさせられた。
そのこと以来、使用人たちはみんな主人の逆鱗に触れるのを恐れ、最低限の食事の用意と寝具の整備以外一切関わらなくなっていった。
傷を負って血を流していても、周囲は見て見ぬふりを通した。
だからユーリの身体には、未だに至るところにその時の傷痕が残っていた。
その父親は娘だった上に、毛色の違う子供に対して嫌悪を隠しもせずに、ユーリを見る目には常に蔑みのようなものが宿っていた。
そして次第に誰彼憚ることなく、愛人宅に入り浸るような日々が多くなっていった。
母親がユーリに暴力を振るうことも含め、普段はユーリの存在を無視して放置しているけど、嫌なことでもあったのか機嫌の悪いときには父親もユーリに向かって暴言をぶつけることが少なからずあった。
肉体を傷つける暴力こそ、振るうことはなかったけれども。
だから、ユーリは毎日できるだけ自分の気配を押しころして日中を過ごし、夜間は小さな両手で耳を塞ぎ、寝具の中で小さな身体を更に縮ませ、ずっとまるくなっていた。
そんな日々が崩壊したのは、未明から小雨が降り続いた、湿った空気が蔓延する午後だった。
体調回復の目処はたってません。
放置せず完結させるための省略化措置で、更に拙くて申し訳ないです。