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DAYS:1 非なる日常の幕開け~序~

ああ…今日もいい天気だなあ。


太陽の光で目が覚めるなんて、なんて爽やかな朝なんだ。

一昨日から徹夜でゲームやってたから、今日は昼までノンストップ睡眠だと思っていた。

うーん…とりあえず妹を起こしにいこうかな。



夏休みも終わりにさしかかった、ある日のことだった。

オレ、築島ツキシマ 明日眞アスマは普通の高校2年生。

妹を溺愛するただの凡人だ。


「おーい、オレのヨウカー。あ・さ!」

妹の築島 八日ヨウカは、寝起きはいいが眠りが深い。

一度目を閉じると、夢の世界からなかなか帰ってこないのだ。

ここで、簡単に妹についての情報をおさらいしておこう。

ヨウカはオレの1つ下で高校1年生。ビジュアルは平凡なオレとは似ても似つかない美人。

成績優秀でスポーツ万能。何をしても目立ってしまうこんな妹。

本当に同じ親から生まれたのか甚だ疑問ではあるが、今は置いといて。


オレは最近妹を起こすのに、ある物を使用することを覚えた。

「さあヨウカ…起きたまえ!」

素早くマイスマホを取り出し、妹の耳元へ近づけとある音声の再生ボタンを押す。


『…おはよう。また寝坊か?朝に強いと思ってたのに可愛いギャップだな―――』


「きゃああああああああ!」

「おはよう、ヨウカ♪」

「お兄ちゃん!?今、コノハくんの声が…」

「ん?」

「…何でもない。着替えるから出てって?」


ヨウカは、この音声で必ず飛び起きる。

ちなみにコノハってのはオレの親友で柄芳ツカヨシ 此覇コノハのことだ。

俗にいうイケメンという奴で、こいつも何をやっても目立つタイプだ。

オレとは出席番号が近いからというごく単純な理由で仲良くなったんだけど

話も合うし、遊びに行っても楽しいしコノハが近くて良かったと心から思っている。

ただ、一つ難点がある。それは、良く女子に仲立ちを頼まれること。

コノハに近づきたいなら自分で行けばいいのに、今時の女子は男友達を味方につけたがる。

オレが何言ったって結果は変わらないと思うけど…


さてさて、ヨウカの長い着替えを待つこと早15分。

服だけでどんだけ時間かかってんだよ。今日何かあるのか?

「ヨウカー。着替え長くないか?」

一定時間の無言の後、苛立ちが混ざった声が返ってきた。

「…何で待ってるの。今日は土曜でしょ。」

「ああ。そういえば。でも昼からだろ?」

「分かってるっ!ボク洗面台に行きたいから早く部屋帰って!」

ドアを内側から激しく叩かれ、もたれかかってたオレの肩にするどい振動が走る。

「はいはい。お兄ちゃんは退散しますよ。」


洗面所に行きたいと言ってオレを追い払ったはずなのに、ヨウカは一向に部屋から出てこない。

一体何をしてるんだろうか。

まあ、オレとヨウカの部屋は一枚の壁を挟んで隣同士。

頑張って耳を澄ませば、話し声だって聞こえる。

さあ、聞き耳をたてよう。

『…だから、今度は…』

小さい声で話してるせいか、途切れ途切れに聞こえてくる。

せめて、誰と話してるのか知りたいなー。


ま、別にいっか。早速飽きたオレはスマホにDLしているアプリを起動させる。

今流行りの、ブロック崩しなるものだ。

でもなかなか上手く出来なくて、レベルもコノハにすっかり追い抜かれてしまった。

若干の苛立ちを込めてブロックを動かしていると、コノハからの着信に阻まれた。

「はいよー、どした。」

『あ、アスマ。別に今聞くことでもなかったんだけど、ちょっと気になって。』

「何が?」

『ヨウカちゃんに、明日遊びに行こうって誘われたから。』

ここで、オレはさっきの疑問の答えにたどり着く。

何だ、コノハと話してたのか。

「ふーん。それが?」

『あれ、アスマが言い出したんだと思ってた。詳細は今日話すって言ってたからてっきり…』

さすがのオレも、これでヨウカの反応の答えが出た。

あれだけコノハの声に反応するってそういうことだよな。

「オレが言いだしっぺなら、自分で伝えるっての。お前鈍いの?」

『そりゃそうか。鈍いって何だよ』

「べーつに。待ち合わせ遅れんなよ」

『はいはい。また後でな』


ヨウカ…お兄ちゃんは複雑だ。




 夏休みに入ってから、ほぼ毎週土曜のお昼に3人で出かける場所がある。

ショッピングモールだとか、デートスポットではない。はたまた、勉強会でもない。

いつも行くのは、最寄り駅にある商店街の奥の方。そこに小さな喫茶店があって

通ううちに、マスターとはすっかり仲良くなってしまった。

そこで何をするのかと言っても、基本的には他愛のない話をするだけ。

でも、この時間が何よりも落ち着いたりする。

「まーたコノハくんが最後ー!」

「はは、ごめん。いつもヨウカちゃんに言われてる気がするよ。」

「ほんとだよー!たまにはコノハくんに言われてみたいー」

よく見てみると、ヨウカのはしゃぎようが尋常じゃない。

今まで可愛いな妹!くらいしか思ってなかった光景だけど。

「アスマ?」

「あー悪い。すぐ行く。」

別の事実が判明すると、全く違う景色に見えるとはまさにこのことだ。

この気持ちはどこに持っていけばいいんだろうか。


 喫茶店は、インテリアがアンティーク縛りですごく凝っている。

おしゃれな雰囲気は出てるのに、常に人の気配を感じないのはどうしてだろう。

まあ、それは置いといてオレ達はいつもの窓側の4人席に腰掛ける。

ヨウカがソファー側をひとり陣取り、向いのイスにコノハ、オレが座る。

「マスター、いつもの!」

奥からハイハイ、とマスターの低音ボイスが聞こえてくる。

ちなみにヨウカがキャラメルマキアート、コノハがカフェモカ、オレがブラックだ。


「ヨウカちゃん、さっき電話で話してたことなんだけど」

「ああ!えっとね、えへへ。」

コノハのやつ!空気読めよ…オレ知らないって言ったじゃねえか。

イケメンのくせにそういうとこ駄目だよな。

ヨウカが物凄い形相でオレを見ている。分かった。うん。

「ちょっとトイレ行ってくるわー」

「いってらっしゃーい!」

オレはそそくさとその場を離れることしか出来なかった。

一応トイレに入り、スマホに目を向ける。特にやることもないけど、仕方ない。


ヨウカは、コノハに好意を持っているんだよな?

元々すごく懐いてたから、思慕があったのは分かっていた。

でも、オレの中では「兄の友」っていう意味での好意を予想していた。

まさか、男として意識してるなんて考えもしなかった。

いつまでもオレの可愛い妹なんだって思ってたけど、いつか離れていくんだよな。

“切ない”って気持ちは、こういうのを言うんだよな。

はあ…。オレの深いため息は誰にも気づかれることなく消えていく…。


そろそろいいかな、と戻ってみると

ヨウカの様子が何だかおかしい。ソワソワして、とにかく嬉しそうだ。

どうやら、いい方向に展開したようだが、オレには想像出来ない。

「なあコノハ。さっきの話って結局何だった訳?」

少し意地悪してみることにした。

「2人で遊びに行くだけだけど?」

「え?」

「コノハくん言っちゃうんだもんなー。確かに隠すことじゃないけど。お兄ちゃん、ボクらの邪魔しないでよ?」

案外普通にコノハが返してきたこと、そして邪魔するなと念押しされたことに

オレは想像以上にショックを受けた。置いてけぼりくらうってこういう気持ちだった訳か。

「はいはい。せいぜい仲良く手でも繋ぎなさいよ」

「お兄ちゃん!」

顔を真っ赤にしながら怒るヨウカに見惚れながら、オレは傷ついた自分を必死で押し殺したのだった。



「もう夕方か。そろそろお開きにしようか。」

コノハのこの一言でオレたちはいつも解散する。

あれからヨウカはずっと上機嫌で、オレに対しての風当たりも良かった。

2人でのデートがそんなにいいものなのか?

「それじゃあ、明日ね!」

「うん、またねヨウカちゃん。」

コノハと別れた後、また兄妹2人きりになる。オレはすっかり気落ちして

いつもなら1人の女として輝く妹を襲いたい衝動にかられるのに(だめだろうけど)

もやもやした気持ちを振り払えずにいた。

「あっ、お兄ちゃんごめん!忘れ物しちゃったから先帰ってて!」

「は?いいよ付いてくよ。どうせ同じところに帰るんだから」

「…コノハくんを追いかけるから、先帰ってて?」

なんて怖い顔するのヨウカちゃん…。空気が読めないとはオレのことですか。

「はいはい、いってら」

オレは精一杯の笑顔で見送った。あの時のヨウカの顔を、オレは一生忘れない。



自分の部屋でいつも通りアプリを頑張る。

そういえば、コノハから連絡がこないな。まだ2人っきりなのだろうか。

結局そんなことばっか考えてて、ゲームすら手につかない。

オレの落ち込みっぷりは、まじで失恋したやつみたい。

「はあ…」

誰にも気づいてもらえない溜息再び。

その瞬間、珍しく家の電話が鳴った。そして親の絶叫が聞こえた。

「母さん、どうした!?」

「アスマ!あんた何で一緒にいなかったの!…はい、すみません…」

電話しながら、オレに激怒する母…。なんだよ、この嫌な予感…

母親が慌てて父親を部屋からたたき出し、オレは何も聞かされないまま車に押し込まれた。

「な、なあ、ちゃんと説明してくれよ。何があったんだよ?」

「…行けば分かるわよ」

母の嗚咽交じりの言葉に、オレは気づいてしまった。


「もう…運ばれた時には手遅れでして…」


目の前に横たわる遺体。とてもキレイと言える状態ではなかったけど

ヨウカなんだと認めざるをえなかった。

オレは完全に思考回路が停止した。呆然と立ち尽くし、両目からつたう涙さえ止められない。

医師が事情を話しているようだったけど、オレには何も聞こえてこない。

あの時別れたのが最期になるなんて、考えられないだろ普通。

オレはどうしてあの時、空気読めって怒られてもついて行かなかったのだろう。

そんな後悔だけが頭をぐるぐる回る。オレはバカだ…



気づけば、お葬式の準備が始まっていた。親は手続きのためか、霊安室から出ていく。

オレとヨウカの2人ぼっち。

「はは…ヨウカ…嘘だよな。いつもの冗談でーす!なんて、起き上がったりして…」

ありえもしない状況を期待して言ってみる。

掠れたオレの声が空しく部屋に響く。

『…ねえ…』


「オレ、ずっとヨウカを見守ろうって思ってたんだよ…。どんな我儘も聞いてあげようって…」

泣き声過ぎて、ちゃんと声に出てるか不安だ。

どうせ誰も聞いちゃいないけど。

「だから、コノハにもそれとなく伝えてみようかなって、おも」

『ねえってば!』


「…………」

今、確かに声が聞こえた。

ここにいるのは、オレとヨウカだけ、のはず。

ショック過ぎて幻聴まで聞いちゃってやばすぎだろ。

『う・し・ろ!』

念のため、後ろを振り返ってみる。

すると、そこに何故かいるはずのない人が…いた。


『良かった…誰も気づいてくれないかと思った~』

「……ヨウカ?」

『そうだけど?お兄ちゃん見えてるんだよね?』

「…ええ、おそらく。オレの妄想じゃなければ」

『お父さんもお母さんも全く気付いてくれなくてさー。まさかお兄ちゃんだけとは…つらい』

さっきまで喋っていたヨウカが目の前に現れ、オレは緊張の糸が切れてしまった。

涙がさっき以上に止まらなくなり、わーという声しか出なくなった。

『ちょ、落ち着いてよ。そんな状況じゃないだろうけど』

ひとしきり泣いてから、オレはヨウカに向き直る。よく見ると、足は普通にある。

「あのさ…ヨウカは今の事態を理解してる感じ?」

『そうだね~死んじゃってるよね。さっき三途の川渡ろうとしたら追い返されちゃって。』

「はあ」

『煩悩が多すぎると成仏出来ないんだって。だからお兄ちゃん協力してね?』


いつもの調子で話すヨウカにすっかり落ち着いてしまったオレ。

「いやいや…何をすればいいのか見当もつかん」

『さっき泣きながら、どんな我儘も聞くって言ったじゃん』

「うっ、それはそういう意味では」

『とにかく、よろしくね?お兄ちゃん?』

とんでもない状況だけど、オレはヨウカを成仏させるために、お願いを叶えてあげることになったのだった…

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