王子に近づくとか嫌です。
さらりと読んで頂ければ幸いです。
この学校には王子がいる。
いや、本当の王子じゃないけど、よく言う王子様的ポジションのイケメンと言うやつですけど。
もちろん漫画みたいに親衛隊みたいなものもあり、上級生や下級生にファンは多い。この王子のすごいところは、この学校にとどまらず他学校にも彼のファンはいるとまで言われているところだ。
どれだけこの地域の高校生はイケメンに飢えているのだろうか・・・。
そして、その王子と私は同じ学年でまさかの同じクラス。そして席も隣だ。別に隣といっても小学生のように隣同士で机をくっつけたりする訳ではないので別にいいのだが、休み時間のたんびに王子に群がる女生徒が邪魔でしょうがない。昼休みや放課後などは同学年だけでは飽き足らず上級生、下級生も集まるので私は早々と席を外すことにしている。
隣だというだけで変なやっかみはゴメンだ。私が好きでその席に座っているわけではない。くじで決まったのだ。もちろん教師も王子の存在で不正を働くものもいるかもと厳重に不正を防止してのくじ引きで、隣が王子だとわかった瞬間のクラス女子の目が一際怖かった・・。
話の流れで分かるように、私は王子に興味はない。イケメンだと思うし綺麗だとも思うが、なにぶん性格がよろしくない。
他の女子はクールだの言ってますが、ただ不機嫌さを表に出して威嚇しているだけにしか見えない。
頭はいいし、運動も出来るそうなので人を見下している感じも否めない。被害妄想かもしれんが・・・。
とにかく、どんなにイケメンでもいつでも不機嫌オーラを出され終始無言で、周りの女子の騒ぎも止めることもせず傍観している時点で私の中では無い。眼中にない。
しかし、王子に興味を少しでも持っていればこんなことにはならなかったのではないかと後で後悔することになる。
「俺のシャーペンが無い。」
昼休みの王子の一言で周りに居た女子は大慌てだ。一斉に王子のシャーペンの大捜査が始まりクラスをひっくり返すほどの徹底調査だった。シャープペン一本でこの有様・・正直ドン引きだ。
しかし、王子のシャーペンが見つかることなく昼休みが終わり午後の授業が始まるので何人かの女子が自分のシャーペンを置いていき、色とりどりのシャーペンが王子の机に並んでいた。
そんなにどうするんだよ・・と思わずツッコミを入れたくなるが関わりたくないので心中で盛大にツッコミを入れておく。
「あ、俺のシャーペン」
しかし、王子はあろう事か私のシャーペンを見てそう呟いたのだ。
「あんたが盗んだの?」
明らかに不愉快を顔に出しながらも王子に睨まれ、その言葉を聞いた周りの子(とくに女子)に敵意を向けられる。
「これは私のだけど。」
「そんなこと言って盗んだんじゃないの!!?」
私が答えれば王子の二つ前の席に座っている女子が私を睨みながらも怒鳴る。
「違うね。私のだもん。」
「盗んだから自分のとか言ってるんじゃないでしょうね!!?」
私が再度答えても信じられることもなく、最初に怒鳴ってきた子とよく一緒にいる子が再度私を怒鳴りつける。
「・・・・このシャーペンは駅前の本屋さんの文房具コーナーで買ったものだよ。そこに行けば大量に同じものがあるよ。」
「口では何とでも言えるわよね!」
「なら聞くけど、伊勢君が使ってたシャーペンは世界で一本とまで行かなくても数が少ないものなの?同じシャーペンを持っている人が居ないくらい?」
私の淡々とした声に怒鳴っていた女生徒は口をつむぐ。
「伊勢君。君も確証もないのに人を犯人扱いするのは辞めて。」
王子(伊勢君)に向かってそう睨みつければ王子は驚いた顔をするので私は鼻で笑ってやる。
「なに?自分と同じものを持ってるなんて気にしたこと無かったでしょ?私も気にしたこと無かったよ。だって興味ないもん。普通隣の席になったただのクラスメイトの持ち物とかチェックしないでしょ?気持ち悪い。」
私の言葉に何人かの女子生徒が目を逸らす。穏便に済ませようと思っていたが、毎回昼休みも放課後も無駄に校内を歩き回るのにも飽きたし、どうせ女子に嫉妬という悪意をぶつけられるなら面倒くさいから全部ぶちまけようと思った。
「勘違いしてるようだからはっきり言っとくけど、伊勢君はカッコいいとは思うけど好意は無い。確かに顔が綺麗だと思うけど、隣に並ぶのはそれなりの子じゃないとただの引き立て役だし、女子の嫉妬の的になるだけでしょ?同じくらい綺麗な子で同じくらいのスペックがないと伊勢君の隣に立とうだなんて思わないね。」
私の言葉にクラス中がシーンとなり、女生徒はみんな下を向いた。反感は買うだろうが、言いたいことが言えて少し満足。元々ボッチだからシカトされてもそれほど痛手は負わないし、力で訴えられるならその時また応酬すればいいだろう。
その後はまた授業に戻り(先生が気を使って流れを変えていた)その日は終了。何日か後になって王子のシャーペンを盗んだのは上級生だと分かり私を犯人扱いしてきた女生徒二人は謝りに来た。そして・・・。
「この間は疑ってゴメン。」
「・・・誤解が解けたんなら良かった。なら私は帰るね。」
放課後いつものようにさっさと帰ろうとすれば王子に呼び止められ人気の無い教室で頭を下げられた。
謝ってくれるのは嬉しいがいちいち呼び出して欲しくない。女子の目が痛すぎる。
王子の謝罪も受け取ったのでもう用はないだろうと足を扉に向けると王子に手を掴まれた。
「なに。」
「あの・・・ゴメン。」
「いいよ、謝ってくれたから。それに、伊勢君の状況を見ると疑うのが当たり前なんだろうしね。」
あの事件の後王子の持ち物がたまに盗まれることを知った。犯人はもちろんファンの子の仕業らしく、この間謝ってくれた二人が教えてくれた。
「色々大変だねぇ、まぁ頑張ってね。」
あの時はイライラのピークで爆発してしまったが、基本私は事なかれ主義だ。
面倒ごとには関わりたくないし、関わろうとも思わない。だから王子の呼び出しも二人っきりのこの状況も私からすれば最悪な状況だ。
さっさとこの場を離れたいので王子に捕まっている手を外そうとするが一向に外れない。むしろ握りが強くなった。
「・・・離して。」
「僕と・・友達になってください!!」
「ごめんなさい。」
私が少しイラつけば王子はなぜか頭を下げて懇願してきた。即答で断ったけど。
「なんで!?」
「いやいや、私が君に興味ないのも関わりたくないのも知ってるでしょ?察してよ。」
「でも、僕は友達になりたい!!」
「他にも伊勢君と友達になりたい人はたくさんいるから、その中から選んでください。」
王子の言葉を拒否りながらも手を離そうと必死で頑張るがさすがに男の力には敵わない。見た目ヒョロそうなのに案外力あるな・・。
「僕の見た目しか興味のない人と友達になんかなれないよ・・。」
「私は見た目にも興味が無いぞ。ってかキャラ違うくね?」
いつもの不機嫌そうなクール王子はどうした!目の前に居るのはタレ目で今にも泣きそうなヘタレ男子だぞ!!
「僕は元々引っ込み思案で人付き合いが苦手なだけなんだ・・それなのに、周りはクールとか言ってるし・・女子は寄ってくるけど、お陰で男子には敬遠されて友達も出来ない・・。」
おぉ、ヘタレだ。勘違いされてるのに言えない王道のヘタレ男子だ。しかし、とんだ勘違いで残念な王子だな。オイ。
「だからといって私と友達になる意味が分からない。」
「だって君は僕の見た目に興味ないんでしょ?」
「綺麗だとは思うけどね。」
「僕の見た目に執着するなら友達とは言えないから・・。」
確かに。見た目だけでいいならアイドルとかと変わらないからな。
「だから君がいい。僕と友達になってください。」
「だが断る。」
事情もわかったし同情の余地もある。が、しかしだ。私を巻き込まないでくれ。
「そんなぁ。」
「伊勢くんの言い分も判るが君の友人になれるほど私の心臓は鋼鉄で出来ていない。女のやっかみも嫉妬も遠慮願うね。」
「・・・僕が守るから。」
自分も守れてないのに私が守れるわけないだろ。っという目で見てやる。
「僕は諦めないから!!絶対に友達になってもらうんだ!!」
これだけ断られたんだから諦めろよ!!ヘタれ男子どこいった!?むしろそんなフラグはいらん!!明日からの学校が怖くてたまらない・・・。
結局、予想通り伊勢くんは翌日から私へのアピールが増え、周りを巻き込みながらも私の友人というポジションを得ようと努力する・・・。
「僕、御村さんと友達になりたいんだ。だから彼女に嫌われるようなことは辞めてね。」
自分のファンの子に見せたことのないような笑みを向ければ嫉妬の目を浴びはするが、何事もなく平和に過ごしている。
ただ、ヘタれはどこに行ったんだと言わんばかりの積極的王子に付きまとわれる毎日だが・・・。
カムバック 平凡な毎日!!!
ヤンデレじゃないよね??大丈夫よね??