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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Twilight in Upper West 後編

俺たちの世界は、今、君たちが住んでいる世界に似ているように見えるが、これが全く違う。しかし、本当は同じであるべきだった。



―ある日、W・Iはこの星の寿命が幾ばくもないことを知った。いや、本当はわかっていたはずである。それが、「人類の発展と繁栄」に大きな影響を与えてきたことに対し、冷静に、迅速に対応策を検討し始めた―



今日、朝ごはんを食べていると、急にお母さんから環境について話された。この星は、とてもヤバイ状況にあること。この星のために何かしなければならないこと。俺にとっては今さらすぎると思える内容の話を延々としてきた。


「だから環境を守ることは大事なのよ。」

「ウン。でもなんで今さら?」

「今さらでも何でも、大事な事は大事なのよ!」


学校でも、先生は環境について生徒に教えるし、生徒は真面目に話を聞くし・・・。ポイズンに何かあったのだろうか。本当に今さら・・・。



いつもと違う授業に違和感を感じつつ、いつも通り夕方には外に飛び出した。夕焼けに光る丘に走っていくと、もうルカが寝転がってた。俺も横にコロッと寝転がった。


こんなことをするのも、今日で6日目だ。その間にいろんな話を聞いた。ルカの今までの話。ルカなりに調査したこと。もちろん俺からも喋ったがね。


俺はさっそく、今朝から感じている違和感について彼女に話した。彼女はウンウンとうなずいた後、自分もそう思うと言った。やはり、W・Iに何か変化があったのだろうか。


「でも、変な話だよな。今さら気がつくなんて。」

「もう・・・間に合わないのかな。」


最近は、夕方でも結構暑くなってきた。ふと横を見ると、一面に広がっていた草のじゅうたんも、ところどころなくなっている。


「私たち・・・いつまで生きられるのかな・・・?」


草のなくなっているところを見つめながら、ルカが寂しそうな顔で言った。


「・・・」


俺は何も言えなかった。そのことに対する恐怖は、俺も彼女もいっしょなのだ。しかも、気軽に「大丈夫」など言えるものでもなかった。



夕焼けは、今までより強く俺たちを照らしていた。


自然は、人間に恵みを与えることもあれば、災いをもたらすこともある。恵みばかり求めれば、後で災いをくらうことになる。用は人間と一緒だ。自然との接し方を間違えれば、たちまち不幸が襲いかかる。そして、もちろん寿命というものがある。


「俺も死ぬのは怖いさ。ポイズンを埋められていたときもな。だが、どっちにしても人は死ぬものだ。逃げようとしても逃げ切れるもんじゃない。」

「そう・・・だね・・・。」


彼女は、俺から目を逸らして、俺に背中を向けて寝転がった。ちょっぴり背中が揺れていた。


「それでも・・・やっぱり怖いよ・・・。」




陽が沈んで、俺たちも帰る時間になる。いつの間にか寝てしまっていたルカを起して、それぞれの家に帰る。


ポイズンに支配されていない、ただ一人の人間。その子と接する内に、次第に心が満たされていくような、いや、心ができていくような、そんな気持ちになった。ルカと一緒に何かを思う瞬間に、一人では感じられない嬉しさがあり、安心がある。何より、そういう気持ちが芽生えてきたことが何よりうれしい。


一緒に夕焼けの中にいると、自分のいる世界を忘れられる。幸いなことに、俺たちにも君たちと同じ、夕日を愛する心があったようだ。人を愛する心があったようだ。




夜になっても、あの夕日が頭から離れなかった。またなんでか、ルカの顔も頭から離れることはなかった。




耳をつんざく轟音に、俺は目を覚まさせられた。何重にもはられた窓の外の景色を見た。はて、ここは本当に俺のいた場所だろうかと思い、周りを見渡すが、確かにここはいつものここだった。


外では、巨大な施設が建てられていた。一夜にしてこれができていた。村を見下ろすその建物には、発射ステーションのようなものも作られていた。


テレビには、大量の人の移動が見られた。全人類が、同時に行動しているのだ。ここに向かって。


頭からはずしてあったポイズンに再び手をかける。W・Iへ接続し、この行動の意義を知ろうとした。ポイズンを通じて見れる情報を、俺は自分のパソコンで見ていた。




そこには一つの惑星の情報があった。青々とした海と、緑が広がる大陸でできている星。本来の俺たちの惑星の姿。名を「地球」という惑星だ。


さらに詳しく調べてみる。「地球」には、俺たちと同じ「人類」が住んでいる。環境、自然、文化などが、この星ととても似ている。いや、ほぼ同じといってもいい。ただ、彼らの文明は俺たちほど進んでいなく、そのため自然はかなり残っているということだ。


その地球を占領し、自分たちの星にしようというのが、W・Iが「人類の発展と繁栄のために」下した判断、そして手段なのだ。



そしてW・Iには、詳しい侵略の方法まで記録されていた。今、急に俺たちの前に建てられた建物。あれが地球侵略ステーションなのだ。さすがに今の技術でも、これ1個作るのがギリギリだったため、全人類がここに集められる予定だ。


このステーションには、宇宙ロケット、爆弾、銃、その他地球侵略に必要な全てが入っている。




窓の外を見ると、もう人々が集まってきている。皆ポイズンに操られ、ただひたすらステーションに向かっている。暑さにやられ、道に体を投げ出したまま動かない者や、もがき苦しむ者もいたが、そんなことなど気にも留めず、ただ向かっていった。



急にドアがバタンと開き、母さんが俺に近づいてきた。俺の手をバッと握り、そのまま連れて行った。その目は、どこを見ていたか、少なくとも俺をみてはいなかった。



家から出ると、焼けるような暑さに頭が痛くなる。目の前がゆがみ、足がおぼつかなくなっても、母さんは俺をただ引っ張っていった。はっきりしない景色に、ボンヤリと、俺と同じように引っ張られていく人が目に入った。


ステーションのドアがパッと開くと同時に、母さんがバタリと倒れる。普通なら心配でもしようものだが、この状況と暑さによって混乱し、どうでもいいように思えた。中から冷気が差し込んできて、逆に頭が痛くなった俺は、その場にハタッと座り込み、あとはよく覚えていない。



「シン・・・?」


俺は誰かに呼ばれたような気がして目が覚めた。まだボンヤリとしている景色に向かって、ゆっくりと手を伸ばした。


「母さん・・・?」


手から力が抜け、地面に落ちそうになるところで、その手はパッと拾われた。


「お母さんじゃないけど・・・。」

「ルカ・・・?」

「う、うん。」


やはりさっき見た人はルカだったようだ。まだフラフラする体をルカに引っ張ってもらって、周りを見回すと、皆、母さんと同じような目をしてグルグル施設内を歩いている。少し気味悪さをおぼえた。


「あれ、ルカ、お母さんは?」


ルカが「あっち」という風に首を振ってうつむいた。その方を見てみると、母さんと同じように倒れている女性が見えた。あまりの暑さにとうとう体も溶けだし、ドロドロになった体が地面に付き、さらに溶けている。少し吐き気がした。



「それで、シン?一体何が起こっているの?」


俺は今まで調べてきたことを手短に話した。興奮して少し舌が回らなかったり、言葉に詰まることがあったが、一応流れはわかってもらえた。


「そう・・・そんなことが・・・。でも、これからどうすればいいの?」

「わからない・・・けど、俺たちしか自由に動けないんだ・・・。」


そう、俺たちが動かなければ、地球に住んでいる人々が滅びてしまう。それに、ポイズンとW・Iがあるかぎり、人類は自然を食い荒らし続ける。見境もなく、獣のように。俺たちが動かなければ!



しかし、W・Iはそれを許さなかった。今、このステーション内にいる人間は、間違いなくポイズンの、W・Iの指示で動いており、このプログラムから外れた人間は、「異常」とみなされたのだ。


サイレンが鳴り響き、ステーションじゅうが赤く染まり、周りの大人たちが、一斉に飛びかかってくる。


何とかくぐりぬけて辺りを見渡すと、一か所開いているドアを見つけた。無我夢中でそこに飛び込んだ。大人たちがぶつけてくる拳に、何度かふき飛ばされたが、決死の覚悟ではねのけはねのけ、ようやくドアの中に入り込めた。後ろを振り返ると、ルカが抑え込まれているのが一瞬見えた。戻る暇もなく、ドアが閉まり、開かなくなった。



開かなくなった、ということは、閉じ込められたということか。この部屋にドアは見当たらない。W・Iの罠か。慌てて、ドアをたたきつけたが、さっぱり開く気配もない。たたく力も消え失せて、うす暗い部屋の、冷たく硬い床に座り込んだ。


「こっちへ来るんだ、君。」


静まりかえった部屋の中で、そんな声が聞こえた。あまりにも小さく、耳を澄まさないと聞こえないほどだ。


恐る恐る、声のする方に近づいてみた。今さら、W・Iの罠だとは思わなかった。もしそうだとしても、諦めの感情が既に心を支配していて、とても抗う気にはならなかった。



目を凝らすと、壁際に小さな筒のようなものが見える。それを拾うと、目の前に人の顔が現れた。不思議と驚く気もしなかった。


「ワシはポイズンを最初に作ったものだ。今日という日をずっと待っていた。君は私の記録を読んだかね?」


とても理解ができるような状況ではなかったが、答えられそうな質問だったので、ゆっくり首を縦に振った。


「それなら話が早い。今君が見ているこれは、私がW・Iに隠しこんでおいたプログラムだ。そして今、このプログラムを使って、このステーション内の爆弾全てを作動させられるスイッチを転送した。」

「・・・つまり、そのスイッチを押せば・・・。」

「ああ、このステーションは、木端微塵になる。」


頭がやっとハッキリして、この科学者が何を言っているのかがわかった。


「プログラムにスイッチは押せぬ、君が押してくれ。」


俺は、そのスイッチを持って立ち尽くした。頭の中に、あの丘から見た夕日が映った。


「もう持たない。私はもうすぐ消える。我ら人間の犠牲者を、これ以上増やさんでくれ。」


プログラムが消え、また部屋は暗くなった。





俺はこの星を愛したことはなかった。ポイズンに支配された感情は、むなしさしかなく、全ての思いは偽物だった。そしてここに住む全ての人の感情、それもまた偽物だった。


ただ、あの夕陽だけは別だ。そして、ルカも・・・。


初めて、心から美しいと思った。初めて、他人と一緒に笑って、悲しんで、そして命の温かさを感じることができた。



俺は、はるか「地球」に思いを寄せた。多分、君たちも、こんな風に命と命を触れ合って生きているのだろう。夕陽を美しいと思い、人と一緒にいる時間に幸せを感じ・・・。俺たちと同じだ。だって人間じゃないか・・・。







「ん?どうしたの、空なんて見つめて。鳥でも見てるの?」


「いや・・・なんでもないんだが・・・。」


「・・・?」


「ん・・・なんだよ、俺の顔に何か付いてるのか?」


「なんで泣いてるの・・・?」


「え・・・あれ?なんでだろ・・・。」


「変な人。・・・・・・綺麗だね、夕陽。」


「うん。きっとどこの星でも綺麗なんだろうなぁ。」


「フフ、本当にどうしたの?」


「・・・なんだろな。」








彼らの愛する星を殺してはいけない。俺は、力を込めてスイッチを押した。


ステーションは大きな音を上げて爆発し、地球を侵略しようとした、全ての兵器、ロケット、W・Iの意思は、全て炎に消えた。



爆音が鳴り響いた後、ゴオゴオと燃え盛る音が聞こえた。ドアが開き、部屋の外へ出られるようになった。人がたくさん倒れていた。プログラムの限界を超えたのか、ポイズンが作動していないようだ。遂にW・Iも万策尽きたのか。しかしそんなことを気にしている場合ではない。


周り一面炎に包まれている中を、入ってきたドアに向かって走り出した。床の硬いコカコカという音が耳に響いた。



しかし、中も地獄なら、外も地獄である。もうこの星の命数もなく、それよりも先に俺たちは滅びるのだ。外の目がくらむような暑さの中に再び飛び出した俺は、体が急に重くなって倒れこんでしまった。草にしても、地面にしても、燃えそうなくらい暑い。意識を放り出して、そこで眠りこんだ。





眩しい陽が目に入ってきて、俺は目を開けた。夕方になって少し涼しくなったのか、少し体が軽くなったように感じた。


灰と化したステーションが目の前にそびえたっていた。地球侵略の計画は、このステーションと共に砕け散った。これで地球の君たちが幸せに暮らせるなら、それでいいだろう。もし、君たちもまた、地球の自然を食い荒らす獣だったら・・・。そんな心配が少々頭をよぎった。しかしまあ、どちらにしても、ポイズンに支配されている俺たちよりはマシだろう。そう信じることにしよう。




ステーションの外にはおそらく、来る途中で力尽きた人、爆発に巻き込まれた人、そんな人たちの屍が転がっていた。この星で生きているのはもう俺しかいないと、これを見て気付かされた。文明が全てストップした今、残っているのは俺と、そこの丘の草原くらいかな・・・。


いつもの丘に登ってみる。きっと最後になるだろう。緑の草は、まだちょっと残っていた。その草原にも、いくつも屍が転がっていた。さすがに目を塞ぎたくなった。


坂の上の方に、まだピクピク動く人を見つけた。そこは、いつも俺たちが夕陽を見る、絶好の場所だった。



「・・・ここに、来たのか・・・。」

「うん。どうしても、最期に、あなたと見た夕陽をもう一度見たかったから・・・。」

「ルカ・・・。」


俺は、いつものように、ゴロリと寝転がった。夕陽は、遠い空で輝いていた。


「綺麗・・・。」


細々と、力なくルカが言った。



夕陽。いつの時代も愛されてきた夕陽は、滅びゆく人間たちを見て何を思っているのだろうか。悲しんでいるのだろうか。愛されてきた人間に、滅びをもたらしたのは自分かもしれない、そんな風に思っているのだろうか。


オレンジがかった草原に、ゴロリと寝そべっていると、ふとそんなことを考えてしまう。また、「地球」のことも。



地球の人たちは、俺たちより幸せな暮らしをしているのだろうか。子供は太陽の光を、温かいと喜ぶのだろうか。親の、温かい愛情をうけて育つのだろうか。俺たちにはできなかったことだ。


人と一緒にいる時間を幸せに思っているのだろうか。残念ながら俺にはわからないが、君たちがそうあることをただ願うことにしよう。





ずっと握っていたルカの手からフッと力が抜けた。

かなーりグダッタんですよオイ・・・。

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