1・ついてない目覚め
第一話です。がんばりましたので楽しんでくださいね(笑)
クソ暑い初夏の朝……
ドスン。
俺がある衝撃と共に目を覚ました時、俺の世界の上下が逆になっていた。机やポスター、電気までが逆だ。
世界が上下逆になった────なんて事あるわけねーよな、当然。
俺の『常識』がどれだけ世界の『常識』とリンクしているのかは知らねーが、それくらいはリンクしていてくれてるだろう。
じゃなかったら困る。
俺の17年間で培ってきた『常識』が無駄だった事になっちまう。
ま、そんな事はどうだっていいんだよ。
世界の常識と俺の常識がリンクしていると仮定すれば……俺はベッドから落ちて中途半端な一点倒立をしている状況、という結論が出される。それを裏付ける証拠に、頭の一ヶ所がイテーし、首も悲鳴を上げてる。
うん、我ながら非の打ち所のない考えだ。
と、一人でニヤニヤしてたら、ドアの隙間から覗く双鉾と目が合った。中2になる妹だった………。
気まずい沈黙。
おそらく俺を起こしにやってきたんだろう。で、部屋を除いたらベッドから落ちてニヤニヤしている兄がいて困惑している。そんなトコだろうか。
「兄さん……キショいよ…」
辛辣な声音で呟くと、無情にもヤツはドアを閉めやがった。
俺はさっさと起きなかった事を激しく後悔し、力なく立ち上がる。
男特有の朝事情で腰を引きながらトイレに向かうと、リビングから母親のけたたましい声がする。是非とも目覚ましとして世界中に発信したいね。
「大和!! いつまで寝てる気なの!?」
「朝っぱらからうるせーな……もう起きてんだろーが」
「言い訳しないでさっさと顔洗ってきなさい!」
「言い訳じゃねーよ! これから行くとこだっての!」
「じゃあさっさと行きなさい!」
ダメだこりゃ……時代は省エネなんだし、わざわざ朝から無駄なエネルギーを使う必要もないだろ。
俺はそう結論づけるとトイレに向かった。
返事は!!?なんて声が聞こえたが空耳だろう、と考え無視する。
顔を洗ってリビングに入ると、妹はすでに食パンを頬張っていた。テレビじゃみのさんが今日も絶好調だ。あの人寝てんのか?
食卓に並んでるのは食パンと目玉焼きにハム数枚と牛乳。贅沢さえ言わなければまずまずの献立だ。
正直……和食が好きだけどな。
「おはよう……」
妹が小さく言う、視線はテレビ画面に向いていた。まださっきの事を気にしてるのか?
「ああ……」
俺は愛想のない妹同様の挨拶を返した。
ドカッと椅子に腰を降ろし、首を左右に鳴らす。コキッコキッと気持ちいい音が頭に響く。食欲を湧かせる匂いが鼻の細胞を刺激し、脳内の空腹反応とマッチして俺の腹を鳴らした。
さて……食うかと箸に手を伸ばすが、醤油が見当たらない。目玉焼きと言ったら醤油だ。ソースとか言う奴がいたら俺はソイツに醤油の素晴らしさを一時間語ってやる。拳を交えてな。
「オイ、醤油」
妹に、取ってこいを省略した指示を出すが、妹はチラッと一蔑するとすぐにテレビに戻った。激しく可愛くない。
「聞こえてんだろ?」
「うん…うるさい」
なんだこの態度は……ウザいと無言でけなされている感じだ。
いや、実際言葉裏にやられている。
こめかみがヒクつく。
怒るな…大人気ないぞ…俺。
相手は中1だぞ? 俺は数回、口呼吸をすると、やや兄貴ぶった(兄貴だけどな)口調で訪ねる。
「何で取ってくれないんだ?」
「無意味……」
こんのクソガキ……。
流石にコレには我慢しなくていいんじゃねーか?
「テメェ……怒るぞ? いいから取ってこい!!」
妹は物言いたげな視線を俺にぶつけると、コクンと頷いた。心なしか俺に対する同情を感じた。
「……わかった」
そのまま椅子から立ち上がると、俺の横に立つ。恐いくらいの無表情だ。
「んだよ……?」
答えることなく、妹は俺の顔の真下にある容器に手を伸ばした。俺の視覚神経と記憶が正しければ……それには醤油が入っていたはずだ。
「はい……醤油」
妹は目玉焼きが黒くなるほど、大量に醤油をブッかけた。俺はただうつ向くことしかできなかった。
「まだ足りない?」
すでにハムが沈没するほどの醤油がかかっているが、妹は一応俺に聞いた。情けか、もしくは更に追い詰めるためか。どちらにしても……情けない。
「いや……もう十分だ……ありがとう」
「どういたしまして」
妹は醤油を乱暴に置くと、席に戻っていった。
「いただきます………」
か細く呟いた俺は、目玉焼きに箸を伸ばす。
よく味わってから飲み込む。
しょっぱい…。気分的にもしょっぱい。
気分もそれに比例するのは間違いなだろーな。そして、今日はロクな日にならない予感がする。
どうでしたか?何かを感じた方は感想・意見をお願い致しますm(_ _)m
参考にいたしますのでっ