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願いを叶える桜の『呪い』

作者: 劉龍

夕暮れに染まる教室である男が友人に語りかけた。


「俺さ、例の『願いを叶える咲かない桜』に願いをかけてみたんだよ」


「マジで?あれって、相当やばい代物じゃなかったけ?」


「いや、生憎何も起きてないんだけどさ、それについて少し調べてみたんだよ。それで、どこの高校のやつの話なのか分からんけど一つ面白い物があったんだ。それがさ―――」


   *   *   *


ある高校には、その地に学校が建つ前からある一本の大きな桜の木がありました。


しかし、その桜が咲いているところを見た人は誰もいませんでした。


ある年、その高校に入学した少女がいた。


彼女は、『咲かない桜の木』の噂を知り、幼馴染の少年と共に、事実なのか、それとも虚構なのか、それを確かめようとした。


そして、桜が唯一咲くといわれる、世間一般で言うこどもの日、五月五日に午前一時に、学校へと赴いた。


桜の木には何の変化も無く、二人が家へと帰ろうとしたその時に、桜が咲いた。


その桜は、見るもの全てを魅了するかのような蠱惑的な美しさで存在し、二人を圧倒した。


しばし、呆然としていた彼らが気付いた時には、美しい女が枝に座り見下ろしていた。


「あなたは、誰?」


少年より早く、正気に戻った少女が口にしたのは、そんなありふれた言葉だったが、この場では何より適切な言葉だった。


『私か?私は……そうだな、桜華とでも名乗っておこうか。しかし、久しぶりの客だな。おぬしらはあれか、『願いを叶える咲かない桜』の噂を聞いてここに来たのか?』


「え、ええ、そうよ。と、言っても現代では『願いを叶える』なんて話を知っている人間は少ないでしょうけど」


『そうか。それでも、久しぶりの客だ。私は気分が良い。おぬしら二人の願い程度なら叶えてやろう』


「あなたは、もしかして―――」


『おっと、小娘。余計な詮索は無しだ。おぬしらは、願いを言の葉に乗せ、紡ぐだけでいい。それを私が勝手に叶えるからの』


「私は、この学校で退屈しない日々を送りたい」


「俺は、俺の周りにいる目障りな連中に、俺の近くから居なくなってほしい」


『はは、人とはいつの世も似たような事を願うのか。それを叶えるも、また一興か。よろしい、おぬしらの願いしかと聞き入れた。一月後、この桜が葉桜となる数瞬を決して見逃してはならんぞ』


そう言って、女は元より存在しなかったかのようにその場には、何も無かった。


そうして、一月が経ち、葉桜ををみた二人に訪れたのは、彼らの願いは叶った。


   *   *   *


「なんて、話なんだけどさ、続きがあるんだよ」


「おいおい、マジかよ。つーかこの学校ってまさかうちの学校じゃないだろうな」


「さぁ、知らない。で、続きって言うのはな…」


   *   *   *


彼らの願いは叶った。


だがそれは、彼らが考えていた現実とは、あまりにも違った。


『この学校で退屈しない日々を過ごしたい』と願った少女は、確かにこの学校に在籍し、退屈な日々を過ごさなくなった。


だが、彼女が転校するという事実が消えるために、転校の理由となっていた両親は通り魔に殺され、県外で引き取って育てようと考えていた親類縁者は皆、交通事故だったり放火だったりと、様々な事象に巻き込まれ亡くなった。


『俺の周りにいる目障りな連中に、俺の近くから居なくなってほしい。』と願った少年の周りからは、彼にとっての目障りな連中は消え去った。


ただ、どこかに移り住んだということではなく、全員が全員、『咲かない桜の木』に首を吊って死んでいた。


彼らの願いは叶ったが、それに対する犠牲はあまりにも多大なものだった。


そしてまた、少年と少女もまた犠牲を払った。


少女は、その学校の教師として死ぬまで縛られ続けた。


少年は、会社に勤めても、少しでも邪魔だと思った人間は死んでしまうことを気に病み、少しずつ狂っていった。


   *   *   *


「これで、おしまいだ」


「願いの代償か」


「話は変わるけど、お前さ、俺の『彼女』に手を出そうとしたよな?」


「そ、それは……つい出来心で。今はもうそんな事考えてないよ」


「そっか。じゃあまぁ、いいや。そんなことより、なぁ、何か感じないか?息苦しいとか、なんかそんな感じの」


「えっ、なっ。がっ、ぐ、何だ、これ」


「俺の願いが叶ったのさ。俺から『彼女』を奪おうとした奴、奪おうとする奴、全て死ねばいい、という願いがね。そうそう、本当はこの話の『願いの代償』ってのは俺の適当にアレンジしたもので、実際は願いを叶え続けるっていうだけさ。誰かが死に至る願いのみしか叶えないけどな」


「おま、えっ……」


バタン


「全く、桜の『呪い』も楽じゃないね。桜の『呪い』の存在を意識させないと効果が現れないなんて、さ」


そして男は、友であったモノをチラ、と見つめた後、何もなかったかのように教室を後にした。


友であったモノと同じように、『彼女』に手を出す男がいることを望みながら・・・・・・

いかがでしたでしょうか?



自分の書きたいこと全てを書けたわけではないですが、今の自分の精一杯の作品を読んで楽しんでくれた人がいいな、と思います

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