「せやな」「なんでやねん」「知らんがな」の三語しか使えない魔王討伐
トラックに引かれて転生転移の神様に聞かれた。
「君、関西人なんだって」
「せやな」
「関西人って三つのフレーズで会話が進むとは本当か?」
「なんでやねん」
「だって、この前来た関西人が言ったもん」
「知らんがな」
神様は小さくガッツポーズをした。
「本当だった。関西人はせやな、なんでやねん、知らんがな、で会話が進められるのだな」
「まあ、せやな」
「そこでだ、君。多少のアレンジは見逃すから、三つの定型文だけで異世界で暮らしてみてくれないかね」
「なんでやねん」
「楽しそうだから」
「知らんがな」
神様に異世界にほうりこまれた。
んなあほなー、という言葉は口から出てこなかった。あの三語しか口に出せないっぽい。あいつー。
ついたところは、定番の召喚魔法陣。異世界人がかしこまってる。
「勇者様」
「……せやな」
「魔王討伐に行ってくださいますか」
「なんでやねん!!」
行きたくねーよ。城でごろごろスローライフ一択っしょ。
「勇者様が魔王を倒してくださらないと、この世界の住民は死に絶えます」
「知らんがな」
知らん国の知らん住人のために、なんでわいが命かけなあかんねん。
「勇者様、わたくしがお供いたしますので、なにとぞ。なにとぞ。どうか一緒に魔王討伐に行ってくださいませ」
「……せやな」
だって、すんげえ美少女なんよ。これは断れんでしょ。
だもんで、筋肉マッチョな皆さんと、美少女と、ただのリーマンのわいが討伐に向かったわけなんですな。
「勇者様、お名前は?」
「……せーや……な」
「セーヤ様なのですね! わたくしのことはリリーとお呼びくださいませ」
「せやな」
リリーたん、かわゆす。やばす。わいの語彙力が仕事をしないっす。
まあ、どうせ三語しか言えんのやが。
魔物が出たらねー、マッチョマンたちがやってくれるんだが。なぜか最後のとどめを譲られるんだな。そんなお気遣い、マジでいらん。マジで。でも、言えない。
「なんでやねん!」
鬱屈のありったけを剣に込めて振り切る。
「知らんがな!」
やけくそで首を跳ね飛ばし、急所を突き、返り血をあびる。
怖いよー、いやだよー、おうちに帰りたいよー。でもリリーたんの前で逃げ出すわけにはいかんのや。毎日トラウマが更新されていく。
げっそりして食欲もわかん。
ああ、うどんが食いてえなあ。異世界のめしはなあ、肉とパンだからなあ。たこ焼き、お好み焼きもいいなあ。粉もんにソースかけて食いてえなあ。
「セーヤ様は寡黙でいらっしゃいますね」
「せやな」
「魔王との対決にそなえて集中されてるんっすね」
「さすがっす」
「かっこいいっす」
「尊敬しまっす」
「せやな」
どや、今のところなんとかなってんで。笑えねー。
やっとのことでたどり着いた魔王城は、お約束の罠がてんこ盛りだった。
床を踏んだら飛んでくる槍、転がる巨石、落とし穴、せまってくる壁。
ああ、いつものあれね、みんなよろしくねーと後方腕組みやれやれ待機をしてたら、なんとみんなテンプレ知らず。満身創痍の血まみれになってる。
「なんでやねんっ」
槍は振ってくるし、矢は飛んでくるもんやろーが。
「セーヤ様、すごいです」
「おおお、槍の雨を剣の高速回転で弾き飛ばしたぞっ」
「なんとっ、矢を手でとらえた」
「ひょえー、巨石に乗って転がって行った」
「信じられん、落とし穴に落ちるかと思いきや、両足を突っ張って耐えている」
「両足がビーンって、ビーンって」
「さすが勇者様」
「さす勇さす勇」
「知らんがなー」
もー、勘弁してよ。ヘロヘロになって、やっとの思いで着いた最奥の間は、パーティー会場だった。
布の面積が極限まで削減された、ほぼヒモ状態の衣装をまとったお姉ちゃんたちが踊りまくっている。
「なんでやねん」
「オーイエー」
一番奥で、魔王はDJをしていた。
「なんでやねーん」
「ワッザF」
魔王はサングラスをかけ、ハンバーガーを食べ、ビールを飲み、星条旗模様の服を着ている。めっちゃアメリカンやん。
もしや、あれか。お前も転生転移した口か。
入口とDJブースから見つめ合うふたり。
「なんでやねん?」
「オーマイガー」
そうか、お前もか。お前もあのクソ神にやられたんか。
なあ、腹立つよなあ。わいたちの人生、なんやと思てんのやっちゅう話やんなあ。
ふたりは分かり合った。
「せやな」
「オーイエー」
わいと魔王は力を合わせて時空を割る。
勇者と魔王、ふたりの魔力により、クソ神を引きずり出した。
「なんでやねん」
「ワッザF」
わいたちふたりに剣を向けられ、クソ神は白旗を上げた。
「すまん、悪かった、許してちょ」
「知らんがな」
「ワッザF」
「望みは、望みはなんでも叶える。心の中で思い描いてくれ」
「せやな」
「オーイエー」
わいと魔王はがっつり拳を打ち合わせた。
ふたりでパーティー会場に戻る。
魔王はマイクを持ち、お姉ちゃんたちに向かって叫ぶ。
わいは魔王と同じ意味の言葉を関西弁でたったひとりにささやく。
「すっきゃねん」




