【ファンタジー】終着駅まで
俺の名前は、田中修。三十二歳。職業は出版社の編集者。妻と五歳の息子がいる。ごく普通の人生を送っていた。しかし、その日を境に、すべてが変わった。
その日は、金曜日の夜だった。残業を終えて、午前一時過ぎに会社を出た。終電に間に合わなかった。仕方なく、タクシーで帰ろうと駅前に向かった。しかし、タクシーは一台も止まっていなかった。俺は駅のベンチに座り、スマホで配車アプリを開いた。しかし、近くに空車がない。困った。
その時、駅の構内から、電車の音が聞こえた。まさか、終電はとっくに出たはずだ。俺は不思議に思い、改札に向かった。改札は無人だった。しかし、ホームに明かりが灯っている。俺は改札を抜けて、ホームに降りた。
そこには、一両編成の古い電車が停まっていた。車体は深緑色で、窓ガラスには不思議な文様が描かれている。ドアが開いていた。中から、暖かい光が漏れている。俺は迷った。これは何の電車だ。しかし、寒かった。外で待つより、電車の中で暖まろう。俺はドアをくぐり、車内に入った。
車内は、木製のベンチシートが並んでいた。レトロな内装だ。照明は暖色で、暖かみがある。乗客は、数人いた。しかし、よく見ると、普通の人間ではなかった。一人は、頭に角が生えていた。もう一人は、緑色の肌をしていた。さらに別の乗客は、尻尾が生えていた。
俺は驚いて立ち尽くした。これは、夢か。俺は自分の頬を叩いた。痛い。夢じゃない。
「おや、人間が乗ってきたぞ」
角の生えた乗客が言った。緑色の肌の乗客も、俺を見た。
「珍しいな。最近、人間は滅多に乗らないのに」
「あ、あの、ここは何の電車ですか」
俺が聞くと、角の生えた乗客が笑った。
「異界巡回電車だよ。妖怪、幻獣、精霊、悪魔、みんなが利用する電車さ」
「異界?」
「そうだ。人間界とは別の世界だ。まあ、座れよ」
俺は、空いている席に座った。すると、ドアが閉まった。そして、電車が動き始めた。俺は窓の外を見た。真っ暗だった。何も見えない。
しばらくして、電車が減速した。そして、停車した。ドアが開いた。外を見ると、駅のホームがあった。しかし、見たことのない駅だった。駅名標には「河童駅」と書いてある。
一人の乗客が降りた。それは、緑色の肌で、頭に皿が乗っている生き物だった。河童だ。本物の河童だ。河童は、ホームを歩いて、駅の外に消えていった。駅の外には、川が流れているのが見えた。
ドアが閉まり、電車は再び動き始めた。角の生えた乗客が、俺に話しかけてきた。
「初めてか、この電車」
「はい」
「俺は鬼の太郎だ。よろしく」
「俺は、田中修です。人間です」
「わかってるよ。で、どこまで行くんだ」
「わかりません。終電を逃して、この電車に乗ったんです」
「なるほど。じゃあ、終点まで行くしかないな」
「終点?」
「ああ。この電車は、異界の各駅を巡って、最後は人間界に戻る。だから、終点まで乗ってれば、元の世界に帰れるよ」
「そうなんですか」
俺は安心した。それなら、このまま乗っていれば帰れる。
次の駅に着いた。駅名標には「天狗駅」と書いてある。一人の乗客が降りた。それは、赤い顔で、長い鼻を持つ生き物だった。天狗だ。天狗は、背中に羽を広げて、空に飛び去っていった。
「すごい」
俺は思わず声を出した。太郎が笑った。
「天狗は空を飛ぶのが得意だからな」
「本当に、異界なんですね」
「ああ。人間界とは違う世界だ。でも、悪い場所じゃないぞ」
電車は、次々と駅に停まった。「狐駅」では、九本の尻尾を持つ狐が降りた。「龍駅」では、巨大な龍が降りた。龍は駅に入りきらず、体を縮めて降りていった。「座敷童駅」では、小さな子供のような生き物が降りた。
それぞれの駅で、様々な妖怪や幻獣が乗り降りしていた。俺は、まるで夢を見ているような気分だった。しかし、これは現実だ。
次の駅に着いた。駅名標には「雪女駅」と書いてある。一人の美しい女性が乗り込んできた。しかし、彼女の周りは冷気に包まれていて、息が白く見えた。雪女だ。
雪女は、俺の隣に座った。俺は緊張した。雪女は、人間を凍らせると聞いたことがある。しかし、雪女は優しく微笑んだ。
「こんばんは」
「こ、こんばんは」
「あなた、人間ね」
「はい」
「珍しいわね。この電車に人間が乗るなんて」
「迷い込んでしまって」
「そう。大変だったわね」
雪女は、優しかった。俺は、少し安心した。
「あの、雪女さんは、どこまで行くんですか」
「私?私は、次の駅で降りるわ。雪山に帰るの」
「雪山?」
「ええ。私の住処よ」
次の駅に着いた。駅名標には「雪山駅」と書いてある。雪女は立ち上がった。
「それじゃ、さようなら」
「さようなら」
雪女は、電車を降りた。ホームの外には、雪が降っていた。美しい雪景色だった。
電車は、また動き始めた。太郎が言った。
「雪女は、優しいんだ。昔は人間を凍らせたりしたけど、今は平和主義だ」
「そうなんですか」
「ああ。時代が変わったんだよ。妖怪も、進化するんだ」
次の駅に着いた。駅名標には「一つ目小僧駅」と書いてある。一人の小柄な生き物が乗り込んできた。それは、一つ目で、坊主頭の小僧だった。一つ目小僧だ。
一つ目小僧は、俺の向かいに座った。そして、じっと俺を見つめた。一つしかない目が、大きく見開かれている。俺は、少し怖かった。
「な、何か?」
俺が聞くと、一つ目小僧は言った。
「お前、人間だな」
「はい」
「面白い。最近、人間を見てないから、珍しいんだ」
「そうですか」
「ああ。ところで、お前、何か食べ物持ってないか」
「食べ物?」
俺は、ポケットを探った。すると、朝買ったコンビニのおにぎりが出てきた。食べ忘れていた。
「これしかないですけど」
俺は、おにぎりを一つ目小僧に渡した。一つ目小僧は、喜んだ。
「おお、ありがとう!人間の食べ物は、美味いんだよな」
一つ目小僧は、おにぎりをむしゃむしゃと食べた。そして、満足そうに言った。
「うまい!お前、いい奴だな」
「いえいえ」
俺は、少し嬉しくなった。妖怪にも、優しいやつがいるんだな。
次の駅に着いた。駅名標には「ろくろ首駅」と書いてある。一つ目小僧は、降りる準備をした。
「じゃあな、人間。また会おうぜ」
「はい、さようなら」
一つ目小僧は、電車を降りた。ホームには、他の一つ目小僧たちが待っていた。みんなで、楽しそうに話していた。
電車は、次々と駅に停まった。「ぬりかべ駅」では、巨大な壁のような生き物が降りた。「砂かけ婆駅」では、老婆の妖怪が降りた。「油すまし駅」では、油を持った妖怪が降りた。
それぞれの駅で、ユニークな妖怪たちが乗り降りしていた。俺は、だんだん楽しくなってきた。最初は怖かったが、今は面白い。
次の駅に着いた。駅名標には「鬼駅」と書いてある。太郎が立ち上がった。
「俺は、ここで降りるよ」
「そうですか」
「ああ。お前、気をつけろよ。次の駅からは、少し危ない場所もあるからな」
「危ない?」
「ああ。悪魔の領域に入る。まあ、大丈夫だと思うけど」
「悪魔?」
俺は不安になった。太郎は、俺の肩を叩いた。
「大丈夫だ。悪魔も、最近は大人しいから。じゃあな」
「さようなら」
太郎は、電車を降りた。ホームには、他の鬼たちがいた。みんな、太郎を迎えて、笑っていた。
電車は、また動き始めた。車内は、俺一人になった。少し寂しかった。しかし、すぐに次の駅に着いた。駅名標には「インプ駅」と書いてある。ドアが開くと、小さな悪魔が乗り込んできた。それは、赤い肌で、小さな角と尻尾を持っていた。インプだ。
インプは、俺の隣に座った。そして、にやりと笑った。
「やあ、人間。珍しいね」
「こんばんは」
「俺は、インプのピート。よろしく」
「田中修です」
「で、どこまで行くんだい」
「終点までです」
「終点?ああ、人間界に戻るのか」
「はい」
「そうか。じゃあ、まだ少しあるな」
ピートは、ポケットから何かを取り出した。それは、小さな瓶だった。
「これ、飲むかい」
「何ですか」
「悪魔のウイスキーだよ。まあ、飲んでみな」
俺は、迷った。悪魔の飲み物を飲んで、大丈夫なのか。しかし、ピートは悪い奴には見えなかった。俺は、瓶を受け取って、一口飲んだ。
すると、口の中が燃えるように熱くなった。しかし、すぐに心地よい温かさに変わった。美味しかった。
「うまい!」
「だろう?悪魔のウイスキーは、最高なんだ」
俺とピートは、ウイスキーを飲みながら、話をした。ピートは、陽気な悪魔だった。人間界の話に興味を持っていて、俺にいろいろ質問してきた。
「人間は、今、何が流行ってるんだい」
「SNSとか、スマホとか」
「スマホ?何それ」
「携帯電話の進化版です」
「へえ、便利そうだな」
次の駅に着いた。駅名標には「サキュバス駅」と書いてある。ピートは、立ち上がった。
「俺は、ここで降りるよ」
「そうですか」
「ああ。お前、いい奴だったな。またな」
「さようなら」
ピートは、電車を降りた。ホームには、美しい女性の悪魔たちがいた。サキュバスだ。ピートは、彼女たちと楽しそうに話していた。
電車は、また動き始めた。次の駅に着いた。駅名標には「ドラゴン駅」と書いてある。ドアが開くと、巨大な龍が入ってきた。いや、入ってこようとしたが、大きすぎて入れなかった。龍は、体を縮めた。すると、人間サイズになった。そして、電車に乗り込んだ。
龍は、優雅に俺の向かいに座った。そして、深い声で言った。
「人間よ、よくぞこの電車に乗った」
「あ、ありがとうございます」
「我は、炎龍のイグニス。千年を生きる龍である」
「田中修です」
「うむ。人間にしては、礼儀正しいな」
「ありがとうございます」
イグニスは、威厳があった。しかし、話してみると、意外と優しかった。俺は、イグニスにいろいろ質問した。
「龍は、どこに住んでいるんですか」
「我は、火山に住んでいる。炎の中が、心地よいのだ」
「火山?熱くないんですか」
「我にとっては、温泉のようなものだ」
俺は、驚いた。龍は、火の中でも平気なのか。
次の駅に着いた。駅名標には「フェニックス駅」と書いてある。イグニスは、立ち上がった。
「我は、ここで降りる」
「そうですか」
「うむ。人間よ、無事に帰るがよい」
「ありがとうございます」
イグニスは、電車を降りた。ホームには、炎に包まれた鳥がいた。フェニックスだ。イグニスとフェニックスは、一緒に空に飛び去っていった。
電車は、また動き始めた。次の駅に着いた。駅名標には「妖精駅」と書いてある。ドアが開くと、小さな光が飛び込んできた。それは、羽を持つ小さな生き物だった。妖精だ。
妖精は、俺の周りを飛び回った。そして、高い声で言った。
「わあ、人間だ!久しぶり!」
「こんにちは」
「私は、妖精のティンク。よろしくね」
「田中修です」
ティンクは、とても元気だった。俺の肩に止まったり、頭の上に乗ったりした。そして、いろいろ話しかけてきた。
「人間の世界は、楽しい?」
「まあ、それなりに」
「私も、行ってみたいな」
「妖精も、人間の世界に行けるんですか」
「行けるけど、目立つから大変なの。だから、あまり行かないんだ」
次の駅に着いた。駅名標には「エルフ駅」と書いてある。ティンクは、立ち上がった。いや、飛び上がった。
「私は、ここで降りるね」
「そうですか」
「うん。またね、人間」
「さようなら」
ティンクは、電車を降りた。ホームには、美しいエルフたちがいた。ティンクは、彼らと一緒に森の中に消えていった。
電車は、また動き始めた。次の駅に着いた。駅名標には「ユニコーン駅」と書いてある。ドアが開くと、白い馬が入ってきた。いや、馬ではない。額に角が生えている。ユニコーンだ。
ユニコーンは、優雅に俺の前に立った。そして、美しい声で言った。
「人間よ、初めまして」
「初めまして」
「私は、ユニコーンのセレスティア。よろしく」
「田中修です」
セレスティアは、気品があった。俺は、少し緊張した。
「あの、ユニコーンは、どこに住んでいるんですか」
「私たちは、聖なる森に住んでいます。そこは、清らかな場所です」
「聖なる森?」
「はい。人間は、滅多に入れません。でも、心が清らかな人なら、歓迎します」
俺は、自分の心が清らかかどうか、自信がなかった。
次の駅に着いた。駅名標には「ペガサス駅」と書いてある。セレスティアは、立ち上がった。
「私は、ここで降ります」
「そうですか」
「はい。人間よ、無事に帰ってください」
「ありがとうございます」
セレスティアは、電車を降りた。ホームには、翼を持つ馬たちがいた。ペガサスだ。セレスティアとペガサスたちは、一緒に空に飛び去っていった。
電車は、また動き始めた。次の駅に着いた。駅名標には「グリフォン駅」と書いてある。ドアが開くと、鷲の頭とライオンの体を持つ生き物が入ってきた。グリフォンだ。
グリフォンは、力強い声で言った。
「人間か。珍しいな」
「こんばんは」
「俺は、グリフォンのレオ。よろしく」
「田中修です」
レオは、強そうだった。しかし、話してみると、気さくな性格だった。
「お前、怖がってないな」
「最初は怖かったですけど、今はもう慣れました」
「そうか。いい度胸だ」
次の駅に着いた。駅名標には「スフィンクス駅」と書いてある。レオは、立ち上がった。
「俺は、ここで降りる」
「そうですか」
「ああ。お前、いい奴だな。またな」
「さようなら」
レオは、電車を降りた。ホームには、人間の顔とライオンの体を持つスフィンクスがいた。レオとスフィンクスは、何か話をしていた。
電車は、また動き始めた。次の駅に着いた。駅名標には「バジリスク駅」と書いてある。ドアが開くと、蛇のような生き物が入ってきた。しかし、普通の蛇ではない。鶏の頭を持っている。バジリスクだ。
バジリスクは、俺を見て、シューッと音を立てた。俺は、少し怖かった。バジリスクは、人を石にすると聞いたことがある。
しかし、バジリスクは言った。
「安心しろ、人間。石にはしない」
「本当ですか」
「ああ。それは昔の話だ。今は、そんなことしない」
「そうですか」
俺は、安心した。バジリスクは、俺の向かいに座った。
「俺は、バジリスクのバジル。よろしく」
「田中修です」
バジルは、意外と話しやすかった。俺たちは、いろいろ話をした。
次の駅に着いた。駅名標には「ヒドラ駅」と書いてある。バジルは、立ち上がった。
「俺は、ここで降りる」
「そうですか」
「ああ。お前、いい旅を」
「ありがとうございます」
バジルは、電車を降りた。ホームには、九つの頭を持つ蛇がいた。ヒドラだ。バジルとヒドラは、何か話をしていた。
電車は、また動き始めた。次の駅に着いた。駅名標には「ケルベロス駅」と書いてある。ドアが開くと、三つの頭を持つ犬が入ってきた。ケルベロスだ。
ケルベロスは、俺を見て、三つの頭が同時に吠えた。
「ワンワンワン!」
俺は、少し驚いた。しかし、ケルベロスは尻尾を振っていた。嬉しいのか。
「あの、大丈夫ですか」
俺が聞くと、ケルベロスの真ん中の頭が言った。
「大丈夫だよ。俺たち、人間が好きなんだ」
「そうなんですか」
「ああ。特に、優しい人間が好きだ」
右の頭が言った。
「お前、優しそうだな」
左の頭も言った。
「うん、いい人だ」
俺は、嬉しくなった。ケルベロスに好かれるなんて。
次の駅に着いた。駅名標には「オルトロス駅」と書いてある。ケルベロスは、立ち上がった。
「俺たちは、ここで降りる」
「そうですか」
「ああ。お前、元気でな」
「はい、ありがとうございます」
ケルベロスは、電車を降りた。ホームには、二つの頭を持つ犬がいた。オルトロスだ。ケルベロスとオルトロスは、楽しそうに遊び始めた。
電車は、また動き始めた。次の駅に着いた。駅名標には「終着駅」と書いてある。電車が完全に停止した。ドアが開いた。俺は、ゆっくりと立ち上がった。そして、電車を降りた。
ホームに降りると、そこは俺が最初に乗った駅だった。人間界の駅だ。時計を見ると、午前六時だった。あれから、五時間が経過していた。しかし、体感では、もっと長い時間が経った気がした。
俺は、改札を抜けて、駅の外に出た。朝日が昇っていた。俺は、深呼吸をした。人間界に戻ってきた。
家に帰ると、妻が起きていた。
「おかえりなさい。遅かったわね」
「ああ、残業が長引いて。終電に乗り遅れたんだ」
「大変だったわね。お疲れ様」
妻は、朝食を用意してくれた。俺は、食卓に座り、妻と息子を見つめた。この日常が、どれだけ大切か。あの電車の旅で、俺は気づいた。
俺は、妻に言った。
「愛してるよ」
妻は、驚いた顔をした。
「どうしたの、急に」
「いや、ただ、言いたかっただけ」
妻は、微笑んだ。
「私も、愛してるわ」
それから、俺は仕事に戻った。しかし、以前とは違っていた。異界での体験が、俺を変えた。妖怪も、悪魔も、幻獣も、みんな優しかった。見た目が違っても、心は同じだ。
そして、ある日のこと。俺は、また終電を逃した。駅前に行くと、あの緑色の電車が停まっていた。俺は、迷わず乗り込んだ。今度は、怖くなかった。むしろ、楽しみだった。
電車に乗ると、太郎がいた。
「おお、また来たのか」
「はい。また異界を巡りたくて」
「そうか。じゃあ、一緒に行こうぜ」
太郎と俺は、また異界を巡る旅に出た。今度は、もっと多くの妖怪や幻獣に会った。そして、友達になった。
異界巡回電車。それは、人間と異界を繋ぐ橋だ。そして、その橋を渡ることで、俺は多くのことを学んだ。見た目が違っても、心は同じ。みんな、生きている。みんな、優しい。俺は、今も時々、あの電車に乗る。そして、異界の友達に会いに行く。それが、俺の新しい趣味になった。
三回目の旅は、さらに面白かった。電車に乗ると、見知った顔がたくさんいた。太郎、ピート、そして新しい乗客たち。
最初の駅は「座敷童駅」だった。小さな座敷童が乗り込んできた。彼の名前は、ワラシ。
「こんにちは、人間のお兄さん」
「こんにちは、ワラシ」
「お兄さん、お菓子持ってる?」
俺は、ポケットからチョコレートを出した。ワラシは、目を輝かせた。
「わあ、ありがとう!」
ワラシは、チョコレートをむしゃむしゃ食べた。そして、満足そうに言った。
「お兄さん、いい人だね。お兄さんの家に、福を運んであげる」
「本当?」
「うん。座敷童は、福の神だからね」
次の駅は「ぬらりひょん駅」だった。老人の妖怪が乗り込んできた。彼の名前は、ヌラリ。
「やあ、人間。また会ったね」
「こんにちは、ヌラリさん」
「今日は、いい天気だ」
「そうですね」
ヌラリは、のんびりした性格だった。俺たちは、天気の話をした。
次の駅は「かまいたち駅」だった。風のように速い妖怪が乗り込んできた。彼の名前は、カマイ。
「よお、人間」
「こんにちは、カマイ」
「今日は、飛ばすぜ」
カマイは、エネルギッシュだった。俺たちは、スポーツの話をした。
次の駅は「ぬっぺふほふ駅」だった。奇妙な形の妖怪が乗り込んできた。彼の名前は、ヌッペ。
「こんにちは」
ヌッペの声は、くぐもっていた。俺は、少し聞き取りにくかった。
「こんにちは、ヌッペさん」
「あなた、人間ね」
「はい」
「珍しいわ。最近、人間は滅多に乗らないのに」
「何度か乗ってるんです」
「そう。それは、素晴らしいことね」
次の駅は「件駅」だった。牛の体と人間の顔を持つ妖怪が乗り込んできた。彼の名前は、クダン。
「こんにちは、人間」
「こんにちは、クダンさん」
「私は、予言をする妖怪です」
「予言?」
「はい。あなたの未来を教えましょうか」
「お願いします」
クダンは、俺の手を取った。そして、目を閉じた。しばらくして、目を開けて言った。
「あなたは、幸せになります」
「本当ですか」
「はい。家族に恵まれ、仕事も順調です。ただし、健康に気をつけてください」
「わかりました。ありがとうございます」
次の駅は「鵺駅」だった。猿の顔、狸の体、虎の手足、蛇の尻尾を持つ妖怪が乗り込んできた。彼の名前は、ヌエ。
「やあ、人間」
「こんにちは、ヌエさん」
「俺、見た目怖いだろ」
「いえ、そんなことないです」
「嘘つけ。みんな、最初は怖がるんだ」
「でも、話してみると、優しいじゃないですか」
「そうか。ありがとう」
ヌエは、照れくさそうに笑った。
次の駅は「酒呑童子駅」だった。大きな鬼が乗り込んできた。彼の名前は、シュテン。
「おお、人間じゃないか」
「こんにちは、シュテンさん」
「酒、飲むか」
シュテンは、大きな徳利を取り出した。俺は、迷ったが、一杯もらうことにした。
「いただきます」
俺は、杯を受け取って、酒を飲んだ。強い酒だったが、美味しかった。
「うまいだろう」
「はい、とても」
「俺の酒は、天下一品だ」
シュテンは、豪快に笑った。
次の駅は「白澤駅」だった。白い獣が乗り込んできた。彼の名前は、ハクタク。
「こんにちは、人間」
「こんにちは、ハクタクさん」
「私は、知恵の獣です」
「知恵の獣?」
「はい。何でも知っています」
「じゃあ、質問してもいいですか」
「どうぞ」
「この電車は、いつから走っているんですか」
「この電車は、千年以上前から走っています。人間と異界を繋ぐために」
「千年?」
「はい。長い歴史があります」
次の駅は「九尾の狐駅」だった。美しい女性が乗り込んできた。しかし、後ろには九本の尻尾が見えた。九尾の狐だ。彼女の名前は、キュウビ。
「こんばんは、人間」
「こんばんは、キュウビさん」
「あなた、何度もこの電車に乗ってるわね」
「はい、好きなんです」
「それは、嬉しいわ。人間と異界が仲良くなるのは、良いことよ」
次の駅は「大蛇駅」だった。巨大な蛇が乗り込んできた。いや、乗り込もうとしたが、大きすぎた。蛇は、体を縮めて、人間サイズになった。彼の名前は、オロチ。
「やあ、人間」
「こんにちは、オロチさん」
「俺、大きすぎて、いつも苦労するんだよ」
「大変ですね」
「ああ。でも、縮められるから、何とかなる」
次の駅は「雷獣駅」だった。雷を纏った獣が乗り込んできた。彼の名前は、ライジュウ。
「やあ、人間」
「こんにちは、ライジュウさん」
「今日は、雷が多いんだ」
「雷?」
「ああ。俺が感情的になると、雷が出るんだ」
ライジュウは、少し困った顔をした。
次の駅は「ゴブリン駅」だった。小さな緑色の生き物が乗り込んできた。彼の名前は、ゴブ。
「やあ、人間」
「こんにちは、ゴブ」
「お前、いい奴だな」
「ありがとう」
「俺たちゴブリンは、いい奴が好きなんだ」
次の駅は「トロール駅」だった。大きな岩のような生き物が乗り込んできた。彼の名前は、トロル。
「やあ、人間」
「こんにちは、トロルさん」
「俺、見た目怖いだろ」
「いえ、大丈夫です」
「そうか。ありがとう」
次の駅は「ワイバーン駅」だった。二本足の龍が乗り込んできた。彼の名前は、ワイ。
「やあ、人間」
「こんにちは、ワイさん」
「お前、龍のイグニスに会ったか」
「はい、会いました」
「あいつ、元気だったか」
「はい、とても」
「そうか。よかった」
次の駅は「マンティコア駅」だった。ライオンの体、人間の顔、サソリの尻尾を持つ生き物が乗り込んできた。彼の名前は、マンティ。
「やあ、人間」
「こんにちは、マンティさん」
「お前、怖がらないな」
「もう慣れました」
「そうか。いい度胸だ」
次の駅は「クラーケン駅」だった。巨大なタコが乗り込んできた。いや、乗り込もうとしたが、大きすぎた。タコは、体を縮めて、小さくなった。彼の名前は、クラー。
「やあ、人間」
「こんにちは、クラーさん」
「海は、いいぞ」
「海?」
「ああ。俺は、海に住んでるんだ」
「そうなんですか」
「ああ。いつか、遊びに来いよ」
次の駅は「リヴァイアサン駅」だった。さらに巨大な海の怪物が乗り込んできた。彼も、体を縮めた。彼の名前は、リヴァイ。
「やあ、人間」
「こんにちは、リヴァイさん」
「お前、クラーに会ったか」
「はい、さっき」
「あいつ、元気だったか」
「はい、とても」
「そうか。よかった」
次の駅は「ベヒモス駅」だった。巨大な獣が乗り込んできた。彼も、体を縮めた。彼の名前は、ベヒ。
「やあ、人間」
「こんにちは、ベヒさん」
「お前、いろんな奴に会ってるな」
「はい、みんな優しいです」
「そうか。それは、よかった」
こうして、俺は様々な妖怪、幻獣、精霊、悪魔に会った。みんな、個性的で、面白かった。そして、みんな優しかった。
電車は、終着駅に着いた。俺は、電車を降りた。人間界に戻ってきた。また、明日から普通の生活が始まる。でも、俺には秘密がある。異界の友達がいる。それが、俺の宝物だ。
ある日、俺は息子を連れて、終電を逃した。わざとだ。俺は、息子にも異界を見せたかった。駅前に行くと、あの緑色の電車が停まっていた。
「パパ、あの電車は?」
「異界巡回電車だよ。乗ってみるか」
「うん!」
俺と息子は、電車に乗り込んだ。車内には、太郎がいた。
「おお、また来たのか。それに、子供も」
「はい。息子です」
「そうか。よろしくな、坊主」
「よろしくお願いします」
息子は、目を輝かせていた。そして、電車が動き始めると、窓の外を見つめた。
最初の駅で、河童が乗り込んできた。息子は、驚いた顔をした。
「パパ、あれ、河童?」
「そうだよ」
「本物?」
「本物だよ」
河童は、息子に話しかけた。
「坊主、初めてか」
「はい」
「怖くないか」
「怖くないです。かっこいいです」
河童は、嬉しそうに笑った。
「ありがとう、坊主」
次の駅で、天狗が乗り込んできた。息子は、また驚いた。
「パパ、天狗だ!」
「そうだよ」
「すごい!」
天狗は、息子に羽を見せた。
「坊主、触ってみるか」
「いいんですか」
「ああ」
息子は、天狗の羽を触った。そして、笑顔になった。
「柔らかい!」
こうして、息子も異界の旅を楽しんだ。様々な妖怪や幻獣に会い、友達になった。そして、終着駅に着いた時、息子は言った。
「パパ、また来たい」
「また来よう」
俺と息子は、異界巡回電車の常連になった。そして、妖怪や幻獣たちとの友情を深めていった。
異界と人間界。二つの世界は、この電車で繋がっている。そして、その繋がりが、俺の人生を豊かにしてくれた。




