【スペースオペラ】惑星売ります。
宇宙暦3021年。人類は銀河の隅々まで進出していた。無数の惑星に住み、新しい文明を築いていた。新たなビジネスも生まれていた。惑星売買。文字通り、惑星を売買する。テラフォーミング技術の発達により、不毛な惑星を住める惑星に変えることができるようになったのだ。そして、それを売る。この商売で、巨万の富を得る者もいた。しかし、失敗して破産する者も多かった。惑星売買はハイリスク・ハイリターンな商売だった。
男の名前は、ヴィクター・クレイン。彼は、銀河で最も有名な惑星商人の一人だ。これまでに、五十以上の惑星をテラフォーミングし販売してきた。成功率は、九十パーセント以上。業界でもトップクラス。しかし、彼は満足していなかった。彼には夢があった。究極の惑星を作ること。完璧な楽園を。そして、それを、最高の価格で売ること。
だが、ヴィクターも最初から成功していたわけではない。彼が惑星商人になったのは、二十五歳の時だった。それまで、彼は大企業で働いていた。テラフォーミング部門のエンジニアとして。しかし、会社の方針に不満があった。利益優先。品質は二の次。ヴィクターは、それに耐えられなかった。そして、退職した。自分で、理想の惑星を作ろうと決めた。
最初の惑星は、小さな惑星だった。地球の半分の大きさ。ヴィクターは、すべての貯金を使って購入した。金貨百万枚。大金だった。失敗は許されない。ヴィクターは、慎重に計画を立てた。大気、水、土壌、植物、動物。すべてを完璧にする。そして、テラフォーミングを開始した。
最初は、順調だった。大気が生成され、水が湧き出した。土壌も、徐々に改善された。ヴィクターは、喜んだ。計画通りだ。しかし、植物を植えた時、問題が起きた。植物が、枯れ始めた。原因は、土壌のpHだった。酸性が強すぎた。ヴィクターは、計算ミスをしていた。焦った。このままでは、すべてが無駄になる。
ヴィクターは、必死で対策を講じた。アルカリ性の物質を投入し、pHを調整した。しかし、時間がかかった。そして、その間に、多くの植物が死んだ。ヴィクターは、絶望した。失敗した。最初のプロジェクトで。しかし、諦めなかった。残った植物を大切に育てた。土壌を改良し続けた。数ヶ月後、ようやく植物が育ち始めた。緑が、広がっていった。ヴィクターは、安堵した。まだ、間に合う。
そして、動物を投入した。今度は、慎重に。少しずつ。環境に適応させながら。一年後、惑星は完成した。完璧ではなかった。しかし、住める惑星にはなった。ヴィクターは、これを売却した。価格は、金貨二百万枚。利益は、わずか百万枚。決して、成功とは言えなかった。しかし、ヴィクターは、学んだ。失敗から、多くのことを。そして、次のプロジェクトで、それを活かした。
それから二十年が経ち、ヴィクターは業界のトップに立っていた。彼のオフィスは、銀河最大の商業型宇宙ステーション「コメルス」にある。コメルスには今日も無数の商人が集まり、取引が行われていた。ヴィクターはステーション内のビル最上階にいた。広い部屋。壁一面に惑星の映像が映し出されている。彼が手がけた惑星たちだ。緑豊かな惑星。海に覆われた惑星。砂漠の惑星。美しい惑星たち。しかし、彼はそれらを見ても満足しない。まだ、足りない。もっと完璧な惑星を。
ある日、秘書のエレナが報告に来た。
「ヴィクター様、新しい惑星のデータが届きました」
「どんな惑星だ?」
「未開拓の惑星です。座標は、Sector7-G。大きさは、地球の1.2倍。大気はありません。水もありません。不毛の地です」
「白紙の状態か」
「はい」
ヴィクターは興味を示す。彼にとって白紙の惑星は好都合だった。何もないということは、何でも作れるということだ。
「その惑星を買え」
「価格はいくらを提示しますか?」
「いくらでもいい。買え」
エレナは頷き、交渉を始める。惑星はヴィクターのものになった。価格は金貨一千万枚。大金だが問題はなかった。
ヴィクターはすぐに惑星に向かう。彼が乗り込むのはテラフォーミング専用の宇宙船。船内には、テラフォーミング用の機材が所狭しと搭載されている。大気生成装置。水生成装置。土壌改良装置。植物の種子。動物の胚。虫の卵。人工子宮。細胞培養装置。最先端の技術だ。
数週間の旅の末、惑星に到着した。灰色の惑星。荒涼とした地表。何もない。惑星に到着しヴィクターがまず行ったのは大気の生成。大気生成装置を、惑星の表面に設置する。それは、巨大な機械だった。高さ百メートル。惑星のエネルギーを使って大気を生成する。酸素、窒素、二酸化炭素。その他の必要なガスを適切なバランスで作り出す。装置を起動すると、惑星の表面に霧が発生した。大気を作り出している。しかし、これはまだ第一段階。完全な大気になるには、数ヶ月かかる。
次に行うのは、水の生成。水生成装置を設置する。それは、惑星の鉱物から水を抽出する装置だった。起動すると、地面から水が湧き出す。最初はわずかに。しかし、徐々に増えていった。数日後、小さな池ができる。数週間後、湖になった。そして、数カ月もすると海ができた。ヴィクターは計画通りだと満足する。
合わせて土壌の改良も行う。惑星の土には栄養となる要素が含まれていない。そこで、バクテリアを投入する。土壌改良用のバクテリア。それらが、土を分解し栄養豊かな土に変えるのだ。数ヶ月後、土は湿り黒くなる。栄養が豊富になった証拠だ。次に植物の種子を蒔く。草、木、花。遺伝子操作により作られ培養されたモノだ。植物の種子を蒔いてから数日。種子が発芽した。
計画は順調だ。惑星は緑に覆われた。草原が広がり、森ができている。美しい。しかし、まだ足りない。動物がいない。虫の卵や動物の胚を準備する。様々な種類の虫や動物。それらを人工子宮と培養装置により急速に成長させる。数週間後には動物が誕生した。鹿。小さな鹿。それは、草原を駆けた。生命の息吹。その後も次々と動物を誕生させた。鳥が空を飛び、魚が海を泳ぎ、動物が大地を走った。惑星は生命で溢れた。しかし、まだ足りない。人間がいない。
入植者を募集。広告を銀河中に流す。
「新しい惑星で、新しい人生を。楽園惑星エデンⅡ、入植者募集」
応募が殺到した。何千、何万もの人々が応募してきた。その中から百人を選ぶ。能力が高く、協調性があり、夢を持つ人々。彼らが、最初の入植者になった。ヴィクターは、彼らを惑星に連れて行き、そして、言った。
「ここが、君たちの新しい家だ。好きに使ってくれ」
緑の大地。青い海。清らかな空気。美しい惑星。まさに、楽園だった。彼らはすぐに街を作り始めた。家を建て、畑を耕し、生活を始める。ヴィクターは必要な支援をおこない、それを見守った。計画は成功だ。
しかし、ある日問題が起きる。入植者の一人が倒れたのだ。高熱、嘔吐、吐血、全身の水疱。意識混濁。医者が診ても原因はわからなかった。
「この症状は見たことがありません」
そして、数日後には死んでしまった。ヴィクターは調査を命じた。原因はすぐに判明した。原因は植物だった。植物の花粉。それを吸い込むと、ゆっくりと症状があらわれる。ヴィクターは驚いた。遺伝子操作は、完璧だったはずだ。なぜ、有毒な植物が。調査の結果、惑星の環境が、植物の遺伝子を変えた。突然変異が原因であることが判明した。
予想外の事態。ヴィクターは対策を講じた。そして、有毒な植物をすべて除去した。そして、入植者に謝罪した。
「申し訳ない。私のミスだ」
入植者たちは、ヴィクターを責めなかった。
「仕方ないですよ。新しい惑星ですから」
それから、数年が経った。惑星エデンⅡは、繁栄していた。人口は千人を超え、街も拡大していた。農業も、工業も発展していた。ヴィクターは満足した。そして、惑星を売却することにした。価格は、金貨十億枚。巨額だった。しかし、この惑星なら、それだけの価値がある。ヴィクターは、広告を出した。
「楽園惑星エデンⅡ、売ります。価格:金貨十億枚」
問い合わせが殺到した。大企業、富豪、政府。みんな、興味を示した。ヴィクターは、最高額を提示した者に売ることにした。オークションが開催された。会場は、コメルス・ステーション。銀河中から、バイヤーが集まった。オークションが始まった。
「開始価格、金貨十億枚」
司会者が、言った。
「十一億!」
最初の入札。
「十二億!」
次の入札。価格は、どんどん上がっていった。十五億。二十億。二十五億。ヴィクターは、満足そうに見ていた。そして、ついに、最終価格が決まった。
「金貨三十億枚!」
落札者は、大企業「ギャラクシー・コーポレーション」だった。彼らは、惑星をリゾート地にする計画だという。ヴィクターは、契約書にサインした。そして、巨万の富を手に入れた。金貨三十億枚。生涯、働かなくても生きていける額だった。
しかし、ヴィクターは、引退しなかった。なぜなら、まだ夢があったから。もっと完璧な惑星を作ること。エデンⅡより、さらに美しい惑星を。
だが、惑星商人の世界には、ライバルがいた。その一人が、マクシム・ボルコフだった。彼は、ヴィクターと同世代の商人だった。しかし、やり方が違った。マクシムは、速さを重視した。品質よりも、スピード。彼は、三ヶ月でテラフォーミングを完了させた。しかし、その惑星は、問題が多かった。気候が不安定。生態系が脆弱。それでも、マクシムは売った。安い価格で。そして、次の惑星に移った。ヴィクターは、マクシムのやり方を嫌っていた。あれは、詐欺に近い。しかし、マクシムは、成功していた。数多くの惑星を売り、巨万の富を得ていた。
ある日、ヴィクターとマクシムは、同じ惑星に興味を持った。惑星ガイア。理想的な条件の惑星。大きさも、位置も、完璧。二人とも、欲しかった。しかし、所有者は一人にしか売らないと言った。そこで、競争が始まった。どちらが、より良い計画を提示できるか。ヴィクターは、完璧な計画を作った。十年かけて、理想の惑星にする。マクシムは、速い計画を作った。一年で、住める惑星にする。所有者は、悩んだ。品質か、スピードか。結局、所有者はマクシムを選んだ。理由は、資金繰りだった。早く売って、資金を得たかった。ヴィクターは、悔しかった。しかし、仕方ない。ビジネスだ。
一年後、マクシムは惑星ガイアを完成させた。そして、売却した。価格は、金貨五億枚。大成功だった。マクシムは、勝ち誇った。しかし、数年後、問題が起きた。惑星ガイアの気候が、崩壊した。マクシムの手抜き工事が原因だった。入植者たちは、怒った。訴訟を起こした。マクシムは、莫大な賠償金を支払わされた。そして、評判を失った。ヴィクターは、それを知って、心が揺れた。ざまあみろ、と思う反面。惑星が台無しになったことが、悲しかった。
ヴィクターは、次の惑星を探し始めた。そして、見つけた。惑星オメガ。それは、巨大な惑星だった。地球の三倍の大きさ。しかし、完全に氷に覆われていた。氷の惑星。平均気温は、マイナス百度。誰も、住めない。しかし、ヴィクターは、見た。可能性を。この惑星を、温暖化させる。氷を溶かし、海を作る。そして、楽園にする。それは、史上最大のプロジェクトになるだろう。しかし、ヴィクターは、やる。なぜなら、それが彼の夢だから。
ヴィクターは、惑星オメガを購入した。価格は、金貨五千万枚。安かった。なぜなら、誰もテラフォーミングできると思っていなかったから。しかし、ヴィクターは、できると信じていた。彼は、最高のチームを集めた。科学者、エンジニア、技術者。総勢百人。みんな、各分野のトップだった。そして、計画を立てた。惑星オメガ・テラフォーミング計画。期間は、十年。予算は、金貨五億枚。史上最大のプロジェクトだった。
しかし、プロジェクトは、決して順風満帆ではなかった。最大の危機は、資金不足だった。プロジェクト開始から五年目。予算の大半を使い果たしていた。しかし、惑星はまだ完成していなかった。このままでは、プロジェクトは中止になる。ヴィクターは、追加資金を調達しなければならなかった。ヴィクターは、銀行に融資を申し込んだ。しかし、断られた。
「リスクが高すぎる」
次に、投資家を探した。しかし、誰も興味を示さなかった。
「氷の惑星をテラフォーミング? 無謀だ」
ヴィクターは、絶望しかけた。しかし、その時、一人の投資家が現れた。名前は、レオナルド・サントス。大富豪だった。
「面白いプロジェクトだ。私が出資しよう」
ヴィクターは、救われた。サントスは、金貨三億枚を出資した。その代わり、完成した惑星の半分の権利を要求した。ヴィクターは、迷った。しかし、選択肢はなかった。契約を結んだ。
資金を得て、プロジェクトは再開された。最初の作業は、温暖化だった。惑星の氷を溶かすために、巨大な鏡を宇宙に設置した。それは、太陽光を反射して、惑星に集中させる装置だった。鏡の直径は、千キロメートル。それを、惑星の軌道上に配置した。起動すると、すぐに効果が現れた。惑星の表面温度が、上昇し始めた。マイナス百度から、マイナス九十度。マイナス八十度。徐々に、温かくなっていった。数年後、氷が溶け始めた。最初は、わずかだった。しかし、徐々に加速した。そして、五年後。惑星の半分が、海になった。もう半分は、まだ氷だった。しかし、順調だった。
次に、大気の生成。氷が溶けて、水蒸気が発生した。それが、大気の一部になった。しかし、それだけでは足りない。酸素が必要だった。ヴィクターは、大量の藻を投入した。光合成をする藻。それらが、酸素を生成する。数年後、大気中の酸素濃度が上昇した。呼吸できるレベルになった。ヴィクターは、喜んだ。計画は、順調だ。
そして、生命の投入。植物の種を蒔き、動物の胚を解凍した。しかし、ここで問題が起きた。植物が、育たなかった。土壌が、まだ栄養不足だった。氷の惑星だったため、土壌が貧弱だった。ヴィクターは、対策を講じた。大量の肥料を投入した。そして、バクテリアを増やした。数年かけて、土壌を改良した。そして、ようやく、植物が育ち始めた。緑が、広がっていった。ヴィクターは、安堵した。
しかし、次の問題が起きた。動物が、死に始めた。原因は、気候の変動だった。惑星オメガは、まだ不安定だった。温度が、急激に変化する。それに、動物が適応できなかった。ヴィクターは、悩んだ。どうすれば、気候を安定させられるか。科学者たちと、議論した。そして、解決策が見つかった。人工衛星を使って、気候を制御する。温度、湿度、風。すべてをコントロールする。それは、膨大なエネルギーを必要とした。しかし、やるしかなかった。ヴィクターは、巨額の投資をした。そして、人工衛星を打ち上げた。起動すると、気候が安定し始めた。動物たちも、生き延びた。ヴィクターは、安堵した。
そして、プロジェクト開始から十年後。惑星オメガは、完成した。緑豊かな大地。青い海。温暖な気候。多様な生命。まさに、楽園だった。エデンⅡを超える、完璧な惑星。ヴィクターは、涙を流した。ついに、夢が叶った。究極の惑星を作った。
ヴィクターの傑作。しかし、半分は、サントスのものだった。サントスは、すぐに自分の半分を売却すると言った。
「私は、ビジネスマンだ。感傷はない」
ヴィクターは、悲しかった。自分の惑星が、切り売りされる。しかし、契約だ。従うしかなかった。サントスは、惑星の半分を、大企業に売却した。価格は、金貨五十億枚。莫大な利益だった。そして、ヴィクターに言った。
「君の半分も、売らないか? 同じ価格で買おう」
ヴィクターは、迷った。五十億枚。生涯かけても使い切れない額。しかし、これは自分の傑作だ。売りたくない。ヴィクターは、断った。
「これは、売らない」
サントスは、肩をすくめた。
「残念だ」
ヴィクターは、入植者を募集した。今回は、一万人。応募は、十万人を超えた。ヴィクターは、厳選して、一万人を選んだ。彼らが、惑星オメガの最初の住民になった。
しかし、ヴィクターは、この惑星を売らなかった。なぜなら、これは彼の傑作だったから。売るには、惜しい。代わりに、統治することにした。ヴィクターは、惑星オメガの総督になった。そして、理想の社会を作ろうとした。平等。自由。平和。それが、彼の理想だった。しかし、現実は、甘くなかった。人々は、争った。資源を巡って。権力を巡って。ヴィクターは、介入した。しかし、うまくいかなかった。人間は、よりずっと複雑だった。ヴィクターが思っていたより。
ある日、反乱が起きた。一部の入植者が、ヴィクターの統治に反対した。
「ヴィクターは独裁者だ!」
「民主主義を!」
彼らは、武装蜂起した。ヴィクターは、困惑した。自分は、彼らのために、この惑星を作ったのに。なぜ、反対されるのか。しかし、理由はわかっていた。人々は、自由を求めている。他人に支配されたくない。たとえ、その支配が善意でも。
統治は、困難だった。人々は、思い通りにならなかった。反乱まで起きた。ヴィクターは、疲れ果てた。そして、気づいた。自分は、創造者であって、統治者ではない。惑星を作ることは得意だが、統治することは苦手だ。
ヴィクターは、決断した。統治を放棄する。惑星オメガを、入植者たちに譲る。そして、自分は去る。最後の日、ヴィクターは演説した。
「私は、この惑星を作りました。しかし、この惑星は、もう私のものではありません。君たちのものです。好きに使ってください。そして、幸せになってください」
入植者たちは、様々な表情を浮かべていた。感謝と、罪悪感と、安堵が、混ざっていた。ヴィクターは、宇宙船に乗り込んだ。そして、惑星オメガを後にした。振り返ると、美しい惑星が見えた。自分が作った、完璧な惑星。しかし、もう自分のものではない。ヴィクターは、寂しかった。しかし、同時に、解放された気もした。もう、統治する必要はない。もう、責任を負う必要はない。自由だ。
ヴィクターは、再び惑星商人に戻った。しかし、今度は、違っていた。惑星を売るだけでなく、人々に幸せを届けたいと思った。そのために、惑星を作る。それが、新しい目標だった。
そんなヴィクターが五十歳の時、一人の青年が弟子入りを志願してきた。名前は、アレックス。二十五歳。彼は、テラフォーミングに情熱を持っていた。
「ヴィクター様の下で、学びたいです」
ヴィクターは、最初は断った。弟子を取るつもりはなかった。しかし、アレックスは、諦めなかった。何度も、何度も、訪ねてきた。ヴィクターは、根負けした。
「わかった。だが、厳しいぞ」
「覚悟しています」
こうして、アレックスは、ヴィクターの弟子になった。訓練は、過酷だった。ヴィクターは、完璧主義者だった。少しのミスも許さなかった。アレックスは、何度も失敗した。そして、何度も叱られた。しかし、諦めなかった。一つ一つ、学んでいった。大気の生成方法。水の管理。土壌の改良。植物の選定。動物の配置。すべてを、マスターしていった。ヴィクターは、アレックスの成長を、密かに喜んでいた。
五年後、アレックスは、独立した。自分で、惑星をテラフォーミングする。ヴィクターは、資金を援助した。金貨一千万枚。大金だった。しかし、アレックスなら、返せると信じていた。アレックスは、最初の惑星を完成させた。そして、売却した。価格は、金貨三千万枚。大成功だった。アレックスは、ヴィクターに借金を返した。そして、感謝の言葉を述べた。
「ありがとうございました。師匠」
ヴィクターは、微笑んだ。
「いや、お前の努力だ」
それから、アレックスは、次々と惑星をテラフォーミングしていった。ヴィクターの教えを守りながら。品質を重視し、人々の幸せを考えながら。ヴィクターは、誇らしかった。自分の教えが、受け継がれている。
ヴィクターは、次の惑星を探し始めた。そして、旅を続けた。銀河の果てまで。新しい惑星を求めて。新しい夢を追いかけて。それから、三十年が経った。ヴィクターは、今や七十五歳になっていた。白髪が増え、皺も深くなった。しかし、まだ現役だった。これまでに、百以上の惑星をテラフォーミングした。銀河一の惑星商人として、名を馳せていた。しかし、体力は衰えていた。もう、若い頃のようには働けない。ヴィクターは、引退を考え始めていた。
ある日、エレナが訪ねてきた。彼女も、年を取っていた。しかし、まだヴィクターの秘書を続けていた。
「ヴィクター様、お客様です」
「誰だ?」
「惑星オメガからです」
ヴィクターは、驚いた。惑星オメガ。三十年前に去った、あの惑星。今、どうなっているのか。客を通すと、若い男性が入ってきた。
「初めまして、ヴィクター様。私は、惑星オメガの大統領、マーカスと申します」
「大統領……?」
「はい。惑星オメガは、今、民主主義国家です。人口は、百万人を超えました」
ヴィクターは、驚いた。あの惑星が、そこまで発展したのか。
「それは……良かった」
「はい。そして、今日は、お礼を言いに来ました」
「お礼……?」
「あなたが、この惑星を作ってくれたおかげで、私たちは幸せに暮らせています。本当に、ありがとうございました」
マーカスは、深く頭を下げた。ヴィクターは、涙を流した。嬉しかった。自分が作った惑星で、人々が幸せに暮らしている。それ以上の喜びはない。
「こちらこそ、ありがとう。君たちが、幸せでいてくれて」
二人は、握手を交わした。
その夜、ヴィクターは、決めた。引退する。もう、十分だ。やるべきことは、やった。夢も、叶えた。あとは、静かに余生を過ごそう。ヴィクターは、エレナに告げた。
「引退する」
エレナは、驚いた。しかし、すぐに微笑んだ。
「お疲れ様でした」
「ああ。長い間、ありがとう」
「こちらこそ」
ヴィクターは、小さな惑星を購入した。テラフォーミング済みの、静かな惑星。そこに、一軒家を建てた。庭には、花を植えた。そして、毎日、庭を眺めながら過ごした。平和な日々。しかし、時々、思い出す。自分が作った惑星たちを。緑の大地。青い海。笑顔の人々。それらが、ヴィクターの誇りだった。
そして、ある日。ヴィクターは、静かに息を引き取った。庭の花に囲まれて。穏やかな顔で。彼の人生は、終わった。しかし、彼が作った惑星は、永遠に残る。銀河の各地で、輝き続ける。ヴィクター・クレインの遺産として。
ヴィクターの死から一年後、銀河中の惑星商人たちが集まり、追悼式が開催された。会場は、コメルス・ステーション。かつて彼がオフィスを構えていた場所だ。数千人の参列者が集まった。惑星商人、科学者、エンジニア、そして入植者たち。みんな、ヴィクターに感謝していた。
式の最後に、アレックスが壇上に立った。彼は今や、銀河で最も成功している惑星商人の一人になっていた。
「師匠であるヴィクター・クレインは、私たちに多くのことを教えてくれました。惑星を作る技術だけではありません。人々の幸せを考えること。品質を妥協しないこと。そして、失敗から学ぶこと。師匠の教えは、今も私の中に生きています。そして、これからも、受け継いでいきます」
会場から、大きな拍手が起こった。アレックスは、涙を流しながら、続けた。
「師匠は、百以上の惑星を作りました。そのすべてが、今も銀河のどこかで輝いています。人々が住み、笑い、幸せに暮らしています。それが、師匠の最大の功績です。師匠、安らかにお眠りください」
アレックスは、深く頭を下げた。会場の全員が、立ち上がり、黙祷を捧げた。
式が終わった後、惑星オメガの大統領マーカスが、アレックスに話しかけた。
「アレックスさん、少しよろしいですか」
「はい、何でしょう」
「実は、惑星オメガに、ヴィクター様の記念碑を建てることになりました。彼が最初に統治した惑星として、彼を偲びたいのです」
「それは素晴らしいアイデアですね」
「ぜひ、除幕式に来てください」
「もちろんです」
数ヶ月後、惑星オメガに巨大な記念碑が完成した。緑豊かな丘の上に立つ、白い石造りの碑。そこには、ヴィクターの名前と、彼の言葉が刻まれていた。
「惑星を作ることは、人々の幸せを作ることだ」
除幕式には、数万人の住民が集まった。アレックスも、エレナも、そしてヴィクターが手がけた他の惑星からも、多くの人々が訪れた。マーカス大統領が、演説した。
「ヴィクター・クレインは、この惑星を作りました。そして、私たちに自由を与えました。彼は、完璧な創造者でした。しかし、彼は統治者ではなかった。それを理解し、私たちに惑星を託してくれました。私たちは、彼の遺志を継ぎ、この惑星を守り、発展させていきます」
除幕が行われると、白い碑が姿を現した。ヴィクターの姿が、レリーフとして刻まれている。彼は、惑星を見つめている。その表情は、穏やかで、満足そうだった。
式が終わった後、アレックスは一人で記念碑の前に立った。そして、心の中で師匠に話しかけた。
「師匠、私は今、十五の惑星をテラフォーミングしました。すべて、師匠の教え通りに作りました。品質を妥協せず、人々の幸せを考えて。そして、私も弟子を取りました。三人の若者です。彼らに、師匠の教えを伝えています。師匠の遺志は、こうして受け継がれていきます」
アレックスは、記念碑に手を置いた。そして、深く頭を下げた。
その後、アレックスは惑星オメガを後にした。宇宙船の中から、惑星を見下ろした。美しい惑星だ。緑と青に輝いている。ヴィクターが作った、完璧な惑星。そして、人々が自由に暮らす、民主主義の惑星。
アレックスは、次の目的地に向かった。新しい惑星を探すために。師匠の教えを胸に、新しい夢を追いかけて。ヴィクター・クレインの意志は、こうして次の世代に受け継がれていく。銀河の果てまで。永遠に。
完。




