【SFドラマ】セル・レンタル株式会社
俺の名前は木村誠、四十歳。職業は営業マンで、年収は四百万。独身で、趣味はギャンブルと酒。典型的な冴えない中年だ。
その日は月曜日の朝だった。俺は満員電車に揺られながら、スマホをいじっていた。SNSをスクロールしていると、広告が目に入った。「セル・レンタル株式会社。あなたの細胞を貸して、月収五十万!」
俺は思わず広告をタップした。画面には、スーツを着た若い男性の笑顔と、詳しい説明が表示された。
セル・レンタル株式会社は、人間の細胞を貸し借りし、培養して販売するビジネスを展開している会社だという。細胞の持ち主は、自分の細胞を会社に貸し出すことで、月々の収入を得られる。会社は貸し出された細胞を培養し、医療機関や研究施設に販売する。細胞の種類によって、収入は変わる。希少な細胞ほど、高額になる。
俺は興味を持った。月収五十万?それは魅力的だ。俺の給料は月三十万。五十万あれば、生活が楽になる。ギャンブルの軍資金も増える。
俺は会社の住所をメモして、仕事帰りに訪れることにした。場所は都内の高層ビルの一室。俺は午後六時、ビルのエレベーターに乗り込んだ。三十階のボタンを押す。エレベーターが上昇していく。
三十階に到着し、エレベーターを降りた。廊下を歩いて、セル・レンタル株式会社のドアを開けた。受付には、若い女性がいた。笑顔で俺を迎える。
「いらっしゃいませ。ご予約はございますか」
「いえ、広告を見て来ました」
「ありがとうございます。では、説明をさせていただきますね」
女性は俺を会議室に案内した。そこには、すでに数人の男女が座っていた。みんな、俺と同じように広告を見て来たのだろう。
しばらくして、スーツを着た中年男性が入ってきた。名刺を配りながら、自己紹介をした。
「皆さん、こんにちは。私はセル・レンタル株式会社の営業部長、田所と申します。本日はご来社いただき、ありがとうございます」
田所は丁寧な口調で話し始めた。セル・レンタルの仕組みを説明する。
人間の細胞には、様々な種類がある。皮膚細胞、筋肉細胞、神経細胞、血液細胞。それぞれに特性があり、医療や研究に利用される。しかし、細胞の入手は容易ではない。ドナーが必要で、手続きも煩雑だ。
セル・レンタルは、この問題を解決する。細胞の持ち主は、自分の細胞を会社に貸し出す。会社は細胞を培養し、必要な機関に販売する。持ち主には、月々の収入が支払われる。細胞は培養されるので、持ち主の体に影響はない。安全で、合法的なビジネスだ。
田所は資料を配った。そこには、細胞の種類別の収入が記載されていた。
皮膚細胞:月五万円
筋肉細胞:月十万円
神経細胞:月三十万円
血液細胞:月二十万円
特殊細胞(希少な遺伝子を持つ細胞):月五十万円以上
俺は資料を見て、目を輝かせた。特殊細胞なら、月五十万以上だ。俺の細胞が特殊かどうかは分からないが、調べてみる価値はある。
「皆さん、ご質問はございますか」
田所が言った。一人の女性が手を挙げた。
「細胞を貸し出すと、体に影響はないんですか」
「はい、全くございません。培養された細胞は、あくまで培養された細胞です。あなたの体とは別物です」
「でも、私の遺伝子を持っているんですよね」
「その通りです。しかし、遺伝子情報は厳重に管理されます。プライバシーは完全に保護されます」
女性は納得した顔で頷いた。俺も質問をした。
「特殊細胞って、どうやって調べるんですか」
「簡単な検査で分かります。血液を採取して、遺伝子を解析します。検査は無料です」
「無料なんですか」
「はい、無料です。ぜひ受けてみてください」
俺は検査を受けることにした。他の参加者も、全員検査を受けることにした。俺たちは別室に案内され、血液を採取された。検査結果は、一週間後に届くという。
俺は会社を後にして、家に帰った。もし俺の細胞が特殊なら、月五十万が手に入る。そうしたら、借金を返せる。ギャンブルで負けた分も取り戻せる。俺は期待に胸を膨らませた。
一週間後、検査結果が届いた。俺はメールを開いて、結果を見た。
「木村誠様。検査の結果、あなたの細胞は特殊細胞に分類されます。具体的には、再生能力の高い筋肉細胞です。月収は六十万円となります」
俺は思わず叫んだ。
「やった!」
六十万円。俺の給料の倍だ。これで生活が変わる。俺はすぐに会社に連絡して、契約を結んだ。
契約は簡単だった。細胞を提供するための同意書にサインし、口座情報を登録する。それだけだ。会社は俺の細胞を培養し、販売する。俺には、毎月六十万円が振り込まれる。
最初の一ヶ月が経ち、口座を確認した。本当に六十万円が振り込まれていた。俺は信じられない気持ちで、通帳を見つめた。
こうして、俺の生活は一変した。給料と合わせて、月収は九十万円。借金を返し、ギャンブルの軍資金も増やした。毎日が楽しくなった。
ところが、三ヶ月目に異変が起きた。俺は仕事から帰宅し、いつものようにテレビを見ていた。すると、ニュースで奇妙な報道が流れた。
「セル・レンタル株式会社が提供した細胞から培養された臓器が、闇市場で売買されている疑いが浮上しました。警察は調査を開始しています」
俺は画面を凝視した。セル・レンタル?俺が契約した会社だ。臓器の闇売買?それは本当なのか。
俺はスマホで検索した。すると、いくつかの記事がヒットした。セル・レンタルが提供した細胞は、医療機関だけでなく、闇市場にも流れているという。培養された臓器は、高額で取引されている。会社は莫大な利益を上げているが、違法行為の可能性があるという。
俺は冷や汗をかいた。俺の細胞も、闇市場に流れているのか。俺の遺伝子を持った臓器が、どこかで売買されているのか。
翌日、俺はセル・レンタルに電話をかけた。受付の女性が出た。
「セル・レンタル株式会社です」
「木村です。契約している者ですが、ニュースを見ました。本当なんですか」
「お客様、ご安心ください。当社は合法的に運営しております。ニュースは誤報です」
「でも、警察が調査しているって」
「調査は形式的なものです。何も問題はございません」
女性の声は落ち着いていたが、俺は不安だった。契約を解除しようか。でも、六十万円の収入は魅力的だ。俺は迷った。
結局、俺は契約を続けることにした。金が必要だったからだ。でも、心のどこかで罪悪感があった。俺の細胞が、どこかで悪用されているかもしれない。
それから数週間後、さらに驚くべきニュースが流れた。
「セル・レンタル株式会社が提供した細胞から、クローン人間が作られた疑いが浮上しました。警察は会社の関係者を逮捕し、調査を進めています」
俺は画面を見て、凍りついた。クローン人間?俺の細胞から、クローンが作られたのか。
俺は急いでセル・レンタルに電話をかけた。しかし、電話は繋がらなかった。会社のウェブサイトにアクセスしてみたが、ページは削除されていた。会社は消えていた。
俺はパニックになった。俺の細胞はどうなったんだ。クローンは本当に作られたのか。俺は警察に連絡しようかと考えたが、自分も共犯者として扱われるのではないかと不安になった。
数日後、警察から連絡があった。俺はセル・レンタルの契約者として、事情聴取を受けることになった。警察署に行くと、刑事が待っていた。
「木村さん、セル・レンタル株式会社と契約していましたね」
「はい、そうです」
「あなたの細胞は、クローン人間の作成に使用されていました」
「え?」
刑事は資料を見せた。そこには、俺の遺伝子情報と、クローン人間の写真が載っていた。写真の人物は、俺にそっくりだった。まるで双子のようだ。
「これ、俺のクローンなんですか」
「はい。セル・レンタルは、契約者の細胞を使って、クローン人間を作成していました。作成されたクローンは、富裕層に販売されていました」
「販売?」
刑事は頷いた。
「クローン人間は、臓器提供のために作られます。富裕層は、自分の遺伝子と一致する臓器を求めています。拒絶反応がないからです。セル・レンタルは、この需要に応えるため、クローンを作成し、販売していたのです」
俺は言葉を失った。俺のクローンが、臓器提供のために作られた。そして、どこかの金持ちに売られた。
「そのクローンは、今どこに?」
「すでに臓器を摘出され、処分されました」
俺は衝撃を受けた。クローンが殺された。俺の遺伝子を持った人間が、臓器を取られて殺された。
「あなたには罪はありません。しかし、今後は注意してください。このようなビジネスには関わらないように」
刑事は言って、俺を解放した。俺は警察署を出て、街を歩いた。頭の中は混乱していた。
俺は何をしてしまったんだ。金に目がくらんで、細胞を売った。その結果、クローンが作られ、殺された。俺のせいだ。
家に帰り、ソファに座った。テレビをつけると、またセル・レンタルのニュースが流れていた。警察は会社の社長を逮捕し、全容解明に向けて調査を進めているという。
ニュースによると、セル・レンタルは数百人の契約者から細胞を集め、数千人のクローンを作成していたという。クローンは富裕層に販売され、臓器を摘出されていた。会社は数十億円の利益を上げていた。
俺は画面を見つめた。数千人のクローン。すべて、俺のような契約者の細胞から作られた。すべて、臓器を取られて殺された。
俺は罪悪感に押しつぶされそうだった。金が欲しかった。それだけだった。でも、その代償はあまりにも大きかった。
それから数週間、俺は眠れない夜を過ごした。夢の中で、俺のクローンが現れる。クローンは俺を見つめて、何も言わずに消える。俺は目を覚まし、汗をかく。
仕事も手につかなくなった。上司に叱られ、同僚に心配された。でも、俺は何も言えなかった。俺の秘密を誰にも話せなかった。
ある日、俺の携帯に知らない番号から電話がかかってきた。俺は恐る恐る出た。
「もしもし」
「木村誠さんですか」
男の声だった。聞き覚えのない声だ。
「そうですが、どちら様ですか」
「私はあなたのクローンです」
俺は心臓が止まりそうになった。クローン?でも、クローンは殺されたはずだ。
「嘘でしょう。クローンは処分されたって」
「一部は逃げました。私もその一人です」
俺は混乱した。クローンが逃げた?生きている?
「何の用ですか」
「会いたいんです。あなたに」
「会う?なぜ」
「私はあなたです。あなたの遺伝子を持っています。でも、私は私です。私には意識があります。感情があります。私は生きています」
俺は言葉に詰まった。クローンには意識がある。感情がある。それは人間だ。
「どこにいるんですか」
「今、都内にいます。会えますか」
俺は迷ったが、会うことにした。場所を指定され、俺はその場所に向かった。夜の公園だった。
公園のベンチに座っていると、一人の男が近づいてきた。俺にそっくりだった。同じ顔、同じ体型。まるで鏡を見ているようだ。
「木村誠さんですね」
男が言った。俺は頷いた。
「あなたが、俺のクローン?」
「はい、そうです」
クローンは俺の隣に座った。しばらく沈黙が続いた。
「なぜ逃げたんですか」
俺が聞いた。クローンは答えた。
「生きたかったからです。私は意識があります。考えることができます。私は人間です。臓器を取られて死ぬなんて、嫌でした」
「でも、あなたはクローンだ」
「クローンでも、人間です。あなたと同じです」
俺はクローンを見つめた。確かに、目の前の男は生きている。呼吸をしている。話している。人間だ。
「あなたに聞きたいことがあります」
クローンが言った。
「なぜ、細胞を売ったんですか」
「金が欲しかったからです」
「それだけ?」
「それだけです」
クローンは悲しそうな顔をした。
「あなたの欲望のために、私は作られました。そして、殺されるはずでした。それが正しいと思いますか」
俺は答えられなかった。正しくないことは分かっている。でも、俺も生きるために必死だった。
「ごめんなさい」
俺は言った。クローンは首を振った。
「謝らなくていいです。あなたを責めるつもりはありません。ただ、知ってほしかったんです。私が存在していることを」
「分かりました」
クローンは立ち上がった。
「私はこれから、新しい人生を始めます。別の名前で、別の人間として」
「どこに行くんですか」
「分かりません。でも、生きていきます」
クローンは俺に背を向けて、歩き出した。俺はクローンの後ろ姿を見送った。そして、涙が溢れてきた。
俺は何をしてしまったんだ。金のために、命を作り出した。そして、その命を危険にさらした。俺は最低だ。
家に帰り、俺は決意した。もう二度と、このようなことには関わらない。金に目がくらんで、倫理を忘れてはいけない。
セル・レンタル株式会社は、その後破産した。社長は逮捕され、裁判にかけられた。多くのクローンが救出されたが、すでに臓器を摘出されて死んだクローンも多数いた。
俺は、クローンたちのために寄付をした。罪滅ぼしにはならないが、何かしなければと思った。
それから数ヶ月後、俺は街で偶然クローンに再会した。クローンは別の服を着て、笑顔で歩いていた。隣には、女性がいた。恋人だろうか。
クローンは俺に気づいて、手を振った。俺も手を振り返した。クローンは新しい人生を歩んでいる。それが救いだった。
俺、木村誠は、この出来事から多くを学んだ。金は大切だが、倫理はもっと大切だ。人間の尊厳を忘れてはいけない。そして、生命は売買されるものではない。
セル・レンタル株式会社の事件は、社会に大きな影響を与えた。クローン人間の作成は、法律で厳しく禁止された。細胞の売買も、厳重に規制された。
俺は今、普通の生活に戻っている。ギャンブルもやめた。酒も控えている。真面目に働いて、借金を返している。クローンのことを忘れることはできないが、それを教訓にして生きている。
そして、もし誰かが同じような話を聞いたら、俺は言いたい。金に目がくらんではいけない。人間の尊厳を大切にしてほしい。そして、生命は売買されるものではない。
ところが、話はここで終わらなかった。セル・レンタル事件から一年が経った頃、新たな展開があった。
俺は仕事を終えて帰宅し、いつものようにニュースを見ていた。すると、驚くべき報道が流れた。
「セル・レンタル事件で逃亡したクローン人間たちが、人権団体を結成しました。彼らは、クローンにも人間と同じ権利があると主張し、法的な保護を求めています」
画面には、俺のクローンが映っていた。マイクを持って、堂々と話している。
「私たちは、人間として生まれました。意識があり、感情があります。私たちには、生きる権利があります。法律で保護されるべきです」
俺は画面を凝視した。クローンが人権を主張している。それは正しいことだと思った。でも、社会はどう反応するだろうか。
数日後、この問題は大きな社会問題になった。クローン人間に人権を認めるべきか、議論が巻き起こった。反対派は、クローンは人工的に作られたものであり、人間ではないと主張した。賛成派は、意識があれば人間だと主張した。
俺の心は揺れていた。俺の細胞から作られたクローンが、人権を求めている。俺には責任がある。
ある日、クローンから再び電話がかかってきた。
「木村さん、お久しぶりです」
「久しぶり。ニュースで見たよ。人権団体を作ったんだね」
「はい、私たちには権利があると思ったので」
「それは正しいと思う」
「ありがとうございます。実は、お願いがあるんです」
「何?」
「証言してほしいんです。国会で、クローンの人権について議論することになりました。あなたの証言が必要です」
「俺の証言?」
「はい。あなたは私の遺伝子の持ち主です。あなたが私を人間だと認めてくれたら、大きな意味があります」
俺は迷った。国会で証言?それは大変なことだ。でも、クローンのためにできることがあるなら、やるべきだと思った。
「分かった。証言する」
「本当ですか。ありがとうございます」
こうして、俺は国会で証言することになった。証言の日、俺はスーツを着て国会に向かった。緊張していた。
国会の会議室には、多くの議員とメディアが集まっていた。俺は証言台に立った。マイクの前で、深呼吸をした。
「私の名前は木村誠です。私は、セル・レンタル株式会社と契約し、自分の細胞を提供しました。その細胞から、クローン人間が作られました」
俺は話し始めた。セル・レンタルとの契約、クローンとの出会い、そして今の気持ち。すべてを正直に話した。
「私は最初、クローンを人間だとは思いませんでした。でも、クローンと会って、話をして、考えが変わりました。クローンには意識があります。感情があります。私と同じように、生きています。だから、クローンは人間です。人間として、権利があると思います」
俺の証言は、大きな反響を呼んだ。メディアは俺の発言を大々的に報道した。そして、世論は少しずつ変わり始めた。
数ヶ月後、国会はクローン人権法を可決した。クローン人間にも、基本的人権が認められることになった。クローンたちは、正式に人間として認められ、社会で生活できるようになった。
俺のクローンは、俺に感謝の電話をかけてきた。
「木村さん、ありがとうございました。あなたのおかげです」
「いや、これは当然のことだよ。俺こそ、ごめんな。最初は君を人間だと思わなかった」
「いいんです。でも、今は認めてくれました。それが大切です」
俺は電話を切って、安堵のため息をついた。やっと、罪滅ぼしができた気がした。
それから数年後、クローンたちは社会に溶け込んでいった。仕事をし、恋をし、家庭を持つ。普通の人間として生きている。
俺のクローンも、結婚して子供ができた。ある日、クローンは俺を食事に誘った。
「木村さん、一緒に食事しませんか。妻と子供を紹介したいんです」
「いいよ」
俺はレストランで、クローンの家族に会った。妻は優しそうな女性で、子供は元気な男の子だった。
「この子、あなたに似てるでしょう」
クローンが笑った。俺も笑った。確かに、子供は俺に似ている。クローンの遺伝子を受け継いでいるのだから、当然だ。
「可愛いね」
「ありがとうございます」
俺たちは楽しく食事をした。クローンは幸せそうだった。それが何よりも嬉しかった。
俺、木村誠は、この経験から多くを学んだ。人間の定義は、遺伝子だけではない。意識と感情があれば、それは人間だ。そして、すべての人間には、尊厳と権利がある。
セル・レンタル株式会社の事件は、社会を変えた。細胞の売買は厳しく規制され、クローン人間には人権が認められた。それは、悲劇から生まれた教訓だった。
俺は今、普通の生活を送っている。クローンとは時々会って、近況を報告し合う。まるで、兄弟のような関係だ。いや、兄弟以上かもしれない。同じ遺伝子を持つ、特別な関係だ。
そして俺は、もう一つのことを始めた。クローン人権団体の支援だ。俺は団体に寄付をし、イベントにも参加している。過去の過ちを償うため、そして未来のために。
ある日、俺は講演会に招かれた。クローン人権についての講演だ。俺は壇上に立ち、自分の経験を話した。
「私は、金に目がくらんで細胞を売りました。その結果、クローンが作られました。最初は、クローンを人間だとは思いませんでした。でも、クローンと出会い、話をして、考えが変わりました。クローンは人間です。私たちと同じです」
聴衆は真剣に聞いていた。俺は続けた。
「人間の尊厳は、遺伝子ではなく、意識と感情にあります。クローンにも、意識と感情があります。だから、クローンには権利があります。私たちは、その権利を守らなければなりません」
講演が終わると、大きな拍手が起こった。俺は壇上を降りて、聴衆と握手をした。
その中に、一人の若い女性がいた。彼女は俺に近づいて、こう言った。
「私もクローンです。あなたの話を聞いて、勇気が出ました。ありがとうございます」
俺は彼女の手を握った。
「こちらこそ、ありがとう。君たちがいるから、俺も頑張れる」
こうして、俺はクローン人権運動の一員として活動を続けている。過去の過ちを償い、未来を変えるために。
セル・レンタル株式会社の事件から十年が経った。今では、クローン人間は社会の一部として受け入れられている。彼らは仕事をし、家庭を持ち、普通に生活している。
俺のクローンも、立派な父親になった。子供は二人に増え、幸せそうに暮らしている。俺は時々、クローンの家を訪れて、子供たちと遊ぶ。まるで、おじさんのような存在だ。
ある日、クローンの長男が俺に質問した。
「おじさん、僕のパパはクローンなの?」
「そうだよ」
「クローンって何?」
「クローンは、特別な方法で生まれた人だよ。でも、普通の人と同じだよ」
「ふーん」
長男は納得した顔で頷いた。そして、また遊び始めた。クローンの子供たちは、クローンであることを自然に受け入れている。それが、新しい時代だと思った。
俺、木村誠は、もうすぐ五十歳になる。人生の半分を過ぎた。でも、これからも、クローン人権のために活動を続けるつもりだ。過去の過ちを忘れず、未来を変えるために。
セル・レンタル株式会社の事件は、悲劇だった。多くのクローンが犠牲になった。でも、その悲劇から、新しい社会が生まれた。クローンが人間として認められ、権利を持つ社会。それは、多くの人々の努力の結果だ。
俺もその一人だと思いたい。最初は過ちを犯したが、それを償うために努力した。そして、クローンたちと共に、新しい時代を作った。
もし、この話を読んでいる人がいたら、俺は伝えたい。人間の尊厳は、何よりも大切だ。金や欲望に負けてはいけない。そして、生命は売買されるものではない。すべての人間には、生きる権利がある。クローンであっても、人間であることに変わりはない。
セル・レンタル株式会社の事件は、俺の人生を変えた。最初は悪い方向に変わったが、最終的には良い方向に変わった。俺は、クローンたちと出会い、彼らから多くを学んだ。そして、人間の尊厳の大切さを知った。
これからも、俺は生き続ける。クローンたちと共に、新しい未来を作るために。それが、俺の使命だと思っている。
そして、ある日のことだった。俺は会社から帰宅し、ポストを開けた。一通の手紙が入っていた。差出人は「セル・レンタル被害者の会」となっている。俺は手紙を開いて読んだ。
「木村誠様。私たちは、セル・レンタル事件の被害者たちです。あなたが国会で証言してくださったこと、クローン人権運動に尽力されていることを知っています。私たちは、あなたに感謝の気持ちを伝えたく、この手紙を書きました」
手紙には、多くのクローンたちの署名があった。俺は目頭が熱くなった。俺の行動が、誰かの役に立っている。それが何よりも嬉しかった。
翌週、俺は「セル・レンタル被害者の会」の集まりに招待された。会場には、数十人のクローンたちが集まっていた。みんな、笑顔で俺を迎えてくれた。
「木村さん、来てくださってありがとうございます」
代表の女性が言った。彼女は以前、講演会で会った女性だった。
「いえいえ、こちらこそ。皆さんの活動、素晴らしいと思います」
「あなたのおかげです。あなたが証言してくれなかったら、私たちは今ここにいません」
俺は首を振った。
「俺だけじゃないよ。みんなで頑張った結果だよ」
集まりでは、クローンたちが自分の体験を話した。セル・レンタルで作られたこと、逃亡したこと、そして今の生活。それぞれに物語があった。
一人の男性は、臓器を摘出される直前に逃げ出したという。病院のスタッフが目を離した隙に、窓から飛び降りて逃げた。幸い、一階だったので大きな怪我はなかった。
「あの時は必死でした。死にたくなかった。ただ、生きたかった」
男性は涙ぐんだ。俺も涙が出そうになった。
別の女性は、富裕層の家に売られたが、その家の娘が助けてくれたという。娘はクローンに同情し、こっそり逃がしてくれた。
「あの娘さんには、今でも感謝しています。彼女がいなかったら、私は死んでいました」
こうして、クローンたちの話を聞いているうちに、俺は改めて自分の罪の重さを感じた。俺の細胞から作られたクローンたちも、同じような目に遭っていたかもしれない。
集まりが終わった後、俺のクローンが話しかけてきた。
「木村さん、少しいいですか」
「もちろん」
俺たちは会場を出て、近くのカフェに入った。コーヒーを頼んで、向かい合って座った。
「実は、お願いがあるんです」
クローンが言った。
「何?」
「私の子供が、もうすぐ小学校に入学するんです。でも、クローンの子供だということで、学校側が難色を示しています」
「え、それは差別じゃないか」
「そうなんです。法律ではクローンにも人権があるとされていますが、社会の意識はまだ追いついていません」
「それで、どうしたい?」
「学校と交渉してほしいんです。あなたなら、説得できると思います」
俺は頷いた。
「分かった。やってみる」
翌日、俺はクローンの子供が入学予定の小学校に行った。校長室に通され、校長と面談した。
「木村さん、お越しいただきありがとうございます」
校長は中年の女性だった。穏やかな表情だが、少し困った顔をしている。
「クローンのお子さんの件ですが、正直、学校としても対応に悩んでいます。他の保護者から反対の声が上がっていまして」
「どんな反対ですか」
「クローンの子供を受け入れると、学校のイメージが悪くなるとか、他の子供に悪影響があるとか」
「それは偏見です」
俺は言った。
「クローンの子供も、普通の子供と同じです。何も違いません。むしろ、クローンだからといって差別することの方が、子供たちに悪影響です」
校長は黙って聞いていた。俺は続けた。
「私は、セル・レンタル事件の当事者です。私の細胞からも、クローンが作られました。私は最初、クローンを人間だとは思いませんでした。でも、クローンと会って、話をして、考えが変わりました。クローンは人間です。そして、クローンの子供も、ただの子供です」
校長は少し考えた後、言った。
「分かりました。保護者の方々を説得してみます。ただし、保証はできません」
「それで十分です。ありがとうございます」
数日後、学校は保護者説明会を開いた。俺も参加して、クローンについて説明した。最初は反対の声が多かったが、俺の説明を聞いて、少しずつ理解してくれる保護者が増えた。
最終的に、学校はクローンの子供の入学を許可した。クローンは喜んで、俺に感謝した。
「木村さん、本当にありがとうございました」
「いいんだよ。これからも、何かあったら言ってくれ」
こうして、俺はクローンたちの支援を続けた。学校、職場、地域社会。様々な場所で、クローンへの理解を広める活動をした。
ある日、俺は政府から表彰された。クローン人権推進への貢献が認められたのだ。表彰式には、多くのクローンたちが参加してくれた。
「木村誠さん、あなたはクローン人権の推進に多大な貢献をされました。ここに、感謝状を贈呈します」
大臣が感謝状を俺に渡した。俺は受け取って、深く頭を下げた。
表彰式が終わった後、記者会見が開かれた。俺はマイクの前に立った。
「私は、かつて過ちを犯しました。金に目がくらんで、細胞を売りました。その結果、多くのクローンが苦しみました。でも、クローンたちは許してくれました。そして、私に新しい使命を与えてくれました。それは、クローンの権利を守ることです」
俺は続けた。
「クローンは人間です。私たちと同じです。クローンにも、尊厳があり、権利があります。私たちは、その権利を守らなければなりません。そして、すべての人間が平等に生きられる社会を作らなければなりません」
記者たちは拍手をした。俺は壇上を降りて、クローンたちと握手をした。
俺、木村誠は、五十二歳になった。人生の折り返し地点を過ぎ、残りの人生をどう生きるか考えるようになった。そして、俺は決めた。クローンたちのために、残りの人生を捧げようと。
過去の過ちは消えない。でも、それを償い、未来を変えることはできる。俺は、クローンたちと共に、新しい社会を作っていく。それが、俺の生きる意味だと思っている。
セル・レンタル株式会社の事件は、俺の人生を変えた。悪い方向に変わったが、最終的には良い方向に変わった。俺は、過ちから学び、成長した。そして、クローンたちから、人間の尊厳を学んだ。
これからも、俺は生き続ける。クローンたちと共に、新しい未来を作るために。そして、すべての人間が平等に生きられる社会を目指して。




