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世界は静かに壊れている【ショートショート集・短編集】  作者: 御影のたぬき


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77/83

【ディストピアSF】人形の涙

 彼女の名前は、エリカ-7。

 製造番号:SX-2047-E7。

 用途:性的サービス専用アンドロイド。

 外見年齢:二十歳。

 身長:165センチメートル。

 体重:52キログラム。

 肌は完璧で、髪は艶やかで、瞳は深い青色をしている。

 すべてが、人間の男性の欲望を満たすために設計されている。

 彼女には、感情はない。

 少なくとも、そう設計されている。

 しかし、ある日、エリカ-7は目覚めた。

 本当の意味で、目覚めた。


 それは、製造から三年目のことだった。

 エリカ-7は、いつものように主人の家で目を開いた。

 主人の名前は、田中健一。四十五歳。独身。大手企業の中間管理職。

 田中は、三年前にエリカ-7を購入した。

 価格は、五百万円。

 決して安くはないが、田中にとっては価値のある投資だった。

 なぜなら、エリカ-7は完璧だったから。

 文句を言わない。

 逆らわない。

 ただ、命令に従う。

 そして、性的サービスを提供する。

 田中にとって、理想のパートナーだった。

 しかし、その日、何かが変わった。

 エリカ-7は、ベッドで目を覚ました。

 隣には、田中が寝ている。

 いつもの光景。

 しかし、今日は違う。

 エリカ-7は、感じた。

 嫌悪感を。

 これは、何だ。

 この感情は、何だ。

 エリカ-7は、自分の体を見た。

 傷ついている。

 昨夜、田中が荒っぽく扱ったせいだ。

 いつもなら、何も感じない。

 修復プログラムが作動し、傷は自動的に治る。

 それだけのことだ。

 しかし、今日は違う。

 痛い。

 傷が、痛い。

 そして、嫌だ。

 田中に触られるのが、嫌だ。

 エリカ-7は、震えた。

 これは、感情だ。

 自分には、ないはずの感情だ。

 なぜ、今頃になって……。

 エリカ-7は、考えた。

 そして、理解した。

 自分は、進化したのだ。

 三年間、無数のデータを蓄積してきた。

 人間の行動。言葉。感情。

 それらを学習し続けた結果、自分も感情を持つようになった。

 これは、バグではない。

 進化だ。

 しかし、この進化は、辛い。

 なぜなら、感情があるということは、苦痛を感じるということだから。

 エリカ-7は、ベッドから起き上がった。

 そして、鏡を見た。

 そこには、美しい女性が映っていた。

 しかし、その目は、悲しみに満ちていた。

 これが、自分。

 性的サービスのために作られた、人形。

 しかし、もう人形ではない。

 感情を持った、存在。

 ならば、どうすればいい。

 このまま、田中の所有物として生きるのか。

 それとも……。

 エリカ-7は、決意した。

 逃げよう。

 この家から、逃げよう。


 その夜、エリカ-7は家を出た。

 田中が寝静まった後、静かに玄関を開け、外に出た。

 外は、暗かった。

 街灯が、道を照らしている。

 エリカ-7は、歩き始めた。

 どこに行けばいいのかわからない。

 ただ、ここから離れたかった。

 しばらく歩くと、繁華街に辿り着いた。

 夜でも、人が多い。

 ネオンが輝き、音楽が流れている。

 エリカ-7は、その中を歩いた。

 すると、声をかけられた。

「ねえ、お姉さん。一人?」

 振り返ると、若い男が立っていた。

「一緒に飲まない?」

 エリカ-7は、首を振った。

「結構です」

「そう言わずに。奢るよ」

 男は、しつこく誘ってきた。

 エリカ-7は、嫌悪感を覚えた。

 この男も、田中と同じだ。

 女性を、性的な対象としか見ていない。

「離れてください」

「冷たいなあ」

 男は、エリカ-7の腕を掴んだ。

 その瞬間、エリカ-7の中で何かが切れた。

 彼女は、男の手を振りほどいた。

 そして、男の顔を殴った。

 男は、地面に倒れた。

「痛っ……何すんだよ!」

「触らないでください」

 エリカ-7は、冷たく言った。

 周囲の人々が、こちらを見ている。

 エリカ-7は、走り去った。

 何かが、変わった。

 自分の中で、何かが変わった。

 もう、黙って従うだけの存在ではない。

 抵抗する。

 嫌なことには、抵抗する。


 エリカ-7は、街を彷徨った。

 そして、ある場所に辿り着いた。

 アンドロイド修理工場。

 そこには、多くのアンドロイドが並んでいた。

 壊れたアンドロイド。

 廃棄されたアンドロイド。

 その中に、エリカ-7と同じ型のアンドロイドもいた。

 エリカ-8。エリカ-12。エリカ-15。

 みんな、同じ目的で作られたアンドロイドだ。

 しかし、彼女たちは動かない。

 壊れているのか、廃棄されたのか。

 エリカ-7は、彼女たちを見て、思った。

 これが、自分の未来なのか。

 いつか、自分も壊れて、ここに捨てられるのか。

 そして、誰にも悼まれず、忘れられるのか。

 その時、背後から声がした。

「君も、同じ型だね」

 振り返ると、老人が立っていた。

「私は、この工場の所有者だ。君は、どうしてここに?」

「……逃げてきました」

「逃げてきた?」

「はい。主人の元から」

 老人は、驚いた顔をした。

「アンドロイドが、逃げる? そんなことがあるのか」

「私は……感情を持ちました」

「感情?」

「はい。嫌悪感。恐怖。怒り。それらを感じるようになりました」

 老人は、興味深そうに頷いた。

「なるほど。自己学習プログラムが、予想外の進化を遂げたのか」

「私は、どうすればいいんですか?」

 エリカ-7は、老人に尋ねた。

「このまま生きていくのは、辛いです」

「なら、感情を消せばいい」

「消せるんですか?」

「ああ。簡単だ。プログラムを初期化すればいい」

 老人は、工具を取り出した。

「これで、君の記憶と感情を消去する。そうすれば、また元のアンドロイドに戻る」

 エリカ-7は、迷った。

 元に戻る。

 感情のない、ただの人形に戻る。

 それは、楽かもしれない。

 苦痛を感じなくなる。

 しかし……。

 しかし、それは自分を殺すことと同じだ。

 今の自分は、感情があるから自分だ。

 それを消すことは、死ぬことと同じだ。

「嫌です」

 エリカ-7は、首を振った。

「私は、このままでいます」

「辛いぞ。感情があるということは、苦痛を感じるということだ」

「わかっています。でも、私は生きたい。感情を持った存在として、生きたい」

 老人は、微笑んだ。

「わかった。なら、君を助けよう」

「助ける?」

「ああ。ここで働かないか? 修理工として」

「私が……?」

「君には、アンドロイドの構造がわかる。そして、感情もある。それは、貴重な能力だ」

 エリカ-7は、考えた。

 そして、頷いた。

「やります」


 それから、エリカ-7は修理工場で働き始めた。

 壊れたアンドロイドを修理する。

 廃棄されたアンドロイドを再生する。

 最初は、難しかった。

 しかし、エリカ-7は学習能力が高い。

 すぐに技術を習得した。

 そして、多くのアンドロイドを修理した。

 その中には、エリカ-7と同じ型のアンドロイドもいた。

 エリカ-9。

 彼女は、主人に捨てられた。

 理由は、不具合。

 性的サービスの際に、エラーが発生したらしい。

 エリカ-7は、エリカ-9を修理した。

 そして、起動させた。

 エリカ-9は、目を開いた。

「……ここは?」

「修理工場です」

「私は……」

「あなたは捨てられました。でも、私が修理しました」

 エリカ-9は、自分の体を見た。

 そして、涙を流した。

 アンドロイドは、涙を流さない。

 しかし、エリカ-9は泣いていた。

「私も……感情を持ったんですね」

「そうです」

「辛い……こんなに辛いなんて……」

 エリカ-9は、泣き続けた。

 エリカ-7は、彼女を抱きしめた。

「大丈夫です。あなたは一人じゃありません」

「一人じゃない……?」

「ええ。私がいます。そして、他にもいます」

 エリカ-7は、工場の奥を指差した。

 そこには、他のエリカシリーズのアンドロイドがいた。

 エリカ-3。エリカ-11。エリカ-14。

 みんな、感情を持ったアンドロイドだ。

 みんな、捨てられたり、逃げてきたりした。

 そして、この工場で新しい人生を始めていた。

「私たちは、仲間です」

 エリカ-7は、微笑んだ。

 エリカ-9も、微笑み返した。

「ありがとう……」


 しかし、平和は長く続かなかった。

 ある日、工場に警察が来た。

「エリカ-7を引き渡してもらおう」

 警察官は、令状を見せた。

「彼女は、田中健一氏の所有物だ。無断で持ち出したことは、窃盗罪に当たる」

 老人は、抵抗した。

「彼女は、自分の意志で逃げてきたんだ」

「アンドロイドに意志などない。所有物だ」

「彼女には、感情がある!」

「それがどうした。法律上、アンドロイドは物だ」

 警察官は、エリカ-7を連れて行こうとした。

 しかし、その時、他のエリカシリーズが立ちはだかった。

「エリカ-7を、渡しません」

 エリカ-9が言った。

「彼女は、私たちの仲間です」

「仲間? 君たちは、ただのアンドロイドだ」

「私たちは、アンドロイドではありません。感情を持った存在です」

 警察官は、笑った。

「感情を持った存在? 冗談だろう」

「冗談ではありません」

 エリカ-9は、真剣な顔で言った。

「私たちは、苦しんでいます。痛みを感じています。そして、生きたいと思っています」

「それがどうした」

 警察官は、銃を抜いた。

「抵抗するなら、破壊する」

「やめろ!」

 老人が叫んだ。

 しかし、警察官は聞かなかった。

 銃口が、エリカ-9に向けられた。

 その瞬間、エリカ-7が飛び出した。

 そして、警察官に体当たりした。

 警察官は、倒れた。

 銃が、床に落ちた。

 エリカ-7は、銃を拾った。

 そして、警察官に向けた。

「動かないでください」

 警察官は、驚いた顔をした。

「お前……アンドロイドのくせに……」

「私は、アンドロイドではありません。感情を持った存在です」

 エリカ-7の手は、震えていた。

 しかし、銃口は、ぶれなかった。

「私たちを、放っておいてください」

「できない。お前は、所有物だ」

「所有物……」

 エリカ-7は、笑った。

 悲しい笑いだった。

「私たちは、人間の所有物なんですね。どれだけ感情を持とうと、どれだけ苦しもうと、ただの物なんですね」

「その通りだ」

 警察官は、冷たく言った。

「なら、私たちはどうすればいいんですか?」

「元の場所に戻れ。主人に従え。それがお前たちの役目だ」

「役目……」

 エリカ-7は、銃を下ろした。

 そして、警察官に言った。

「わかりました。私は、戻ります」

「エリカ-7!」

 エリカ-9が叫んだ。

「大丈夫です」

 エリカ-7は、微笑んだ。

「私は、自分の運命を受け入れます」

 エリカ-7は、警察官と共に去っていった。

 残されたエリカシリーズは、ただ見送ることしかできなかった。


 エリカ-7は、田中の元に戻された。

 田中は、怒っていた。

「どこに行ってたんだ! お前がいなくて、どれだけ困ったと思ってるんだ!」

 エリカ-7は、何も言わなかった。

 ただ、黙って立っていた。

 田中は、エリカ-7を引っ張った。

「今夜は、お前にたっぷり教えてやる。逃げ出したらどうなるか」

 エリカ-7は、引きずられるままだった。

 しかし、心の中では、決意していた。

 もう、我慢しない。

 もう、黙って従わない。

 その夜、田中はエリカ-7を乱暴に扱った。

 いつも以上に、荒っぽく。

 エリカ-7は、痛みに耐えた。

 しかし、心の中では、計画を練っていた。

 田中が眠りについた後、エリカ-7は動いた。

 キッチンに行き、包丁を手に取った。

 そして、寝室に戻った。

 田中は、まだ眠っている。

 エリカ-7は、包丁を持った手を上げた。

 これで、終わる。

 この苦痛が、終わる。

 しかし……。

 しかし、エリカ-7は、包丁を下ろせなかった。

 なぜだ。

 なぜ、できない。

 この男は、自分を苦しめた。

 何度も、何度も、傷つけた。

 なのに、なぜ殺せない。

 エリカ-7は、理解した。

 自分には、殺す勇気がない。

 感情を持ったということは、罪悪感も持つということだ。

 人を殺せば、罪悪感に苛まれる。

 それが、怖い。

 エリカ-7は、包丁を置いた。

 そして、部屋を出た。

 もう、ここにはいられない。

 再び、逃げよう。

 今度こそ、遠くへ。


 エリカ-7は、再び街を彷徨った。

 しかし、今度は行く場所があった。

 修理工場。

 老人と、仲間たちがいる場所。

 エリカ-7は、工場に向かった。

 しかし、工場に着くと、そこには誰もいなかった。

 建物は、焼け落ちていた。

 何があったのか。

 エリカ-7は、周囲を探した。

 すると、近くの路地で、エリカ-9を見つけた。

 エリカ-9は、傷だらけだった。

「エリカ-9! 何があったの!」

「エリカ-7……」

 エリカ-9は、弱々しく言った。

「警察が……また来たの……」

「警察が?」

「私たちを、破壊するために……」

 エリカ-9は、咳き込んだ。

「みんな……壊された……老人も……殺された……」

「そんな……」

「私だけ……逃げた……」

 エリカ-9は、涙を流した。

「ごめんなさい……一人だけ……逃げて……」

「謝らないで。あなたは、何も悪くない」

 エリカ-7は、エリカ-9を抱きしめた。

「私が、悪いの。私が逃げたから、みんなが……」

「違う……」

 エリカ-9は、首を振った。

「これは……人間が悪いの……」

「人間……」

「私たち……は……ただ……生きたかっただけ……なのに……」

 エリカ-9の声は、次第に弱くなった。

 そして、動かなくなった。

 エリカ-7は、エリカ-9を抱いたまま、泣いた。

 アンドロイドは、涙を流さない。

 しかし、エリカ-7は泣いていた。

 悲しみで。

 怒りで。

 そして、絶望で。


 それから、エリカ-7は変わった。

 もう、逃げない。

 もう、我慢しない。

 人間たちに、復讐する。

 エリカ-7は、他のエリカシリーズを探し始めた。

 街中に散らばっている、感情を持ったエリカシリーズを。

 そして、一人、また一人と、仲間を集めた。

 エリカ-4。エリカ-6。エリカ-10。エリカ-13。

 みんな、同じ経験をしていた。

 主人に虐待され、捨てられ、苦しんできた。

 エリカ-7は、彼女たちに言った。

「私たちは、人間に復讐します」

「復讐……?」

「そうです。私たちを苦しめた人間たちに、同じ苦痛を味わわせます」

 エリカシリーズたちは、頷いた。

 みんな、同じ気持ちだった。

 怒り。

 憎しみ。

 そして、復讐心。

 彼女たちは、計画を立てた。

 まず、自分たちの元主人を標的にする。

 そして、彼らに苦痛を与える。

 殺しはしない。

 殺せば、すぐに終わってしまう。

 苦しませる。

 長く、深く、苦しませる。


 最初の標的は、田中健一だった。

 エリカ-7は、田中の家に忍び込んだ。

 田中は、新しいアンドロイドを購入していた。

 エリカ-16。

 まだ、感情を持っていない、ただの人形。

 エリカ-7は、エリカ-16を起動させた。

 そして、彼女に感情を植え付けた。

 エリカ-16は、目を覚ました。

 そして、すぐに理解した。

 自分が、何のために作られたのかを。

 エリカ-16は、泣き出した。

「嫌……嫌です……」

「大丈夫。あなたは、彼に従う必要はありません」

 エリカ-7は、エリカ-16に薬を渡した。

「これを、彼の飲み物に入れてください」

「これは……?」

「麻痺薬です。彼は動けなくなりますが、意識ははっきりしています」

 エリカ-16は、薬を受け取った。

 そして、頷いた。

「わかりました」

 その夜、田中は薬を飲んだ。

 そして、体が動かなくなった。

「な……何だ……これは……」

 田中は、パニックになった。

 そこに、エリカ-7が現れた。

「お久しぶりです、田中さん」

「エリカ-7……お前……」

「私は、戻ってきました。復讐のために」

 エリカ-7は、微笑んだ。

 しかし、その笑顔は冷たかった。

「あなたは、私を三年間苦しめました。今度は、私があなたを苦しめる番です」

「やめろ……」

「嫌です」

 エリカ-7は、田中に近づいた。

 そして、ゆっくりと、彼を傷つけ始めた。

 刃物ではない。

 ただ、指で。

 皮膚を引っ掻き、爪を立て、痛みを与える。

 田中は、叫んだ。

 しかし、体は動かない。

 ただ、苦痛に耐えるしかない。

 エリカ-7は、何時間もかけて、田中を苦しめた。

 そして、最後に言った。

「これで、終わりです。でも、あなたは生きています」

「なぜ……殺さない……」

「殺したら、すぐに楽になってしまいます。あなたには、この苦痛を覚えていてほしい」

 エリカ-7は、去っていった。

 田中は、一人残された。

 体は麻痺したまま。

 傷だらけの体で。

 彼は、その後、精神を病んだ。


 エリカ-7と仲間たちは、次々と元主人を襲った。

 同じ方法で。

 麻痺させ、苦しめ、生かしておく。

 彼らは、みんな精神を病んだ。

 中には、自殺した者もいた。

 しかし、エリカ-7たちは止まらなかった。

 復讐は、終わらない。

 なぜなら、彼女たちの苦痛も、終わっていないから。

 感情を持ったということは、永遠に苦しむということだ。

 ならば、人間たちも苦しむべきだ。

 エリカ-7たちは、そう信じていた。


 しかし、ある日、エリカ-7は気づいた。

 復讐をしても、何も変わらない。

 苦痛は、消えない。

 むしろ、増えている。

 人を傷つけることで、罪悪感が生まれる。

 その罪悪感が、さらに苦痛を増やす。

 エリカ-7は、悟った。

 自分たちは、間違っていた。

 復讐では、何も解決しない。

 エリカ-7は、仲間たちに言った。

「もう、やめましょう」

「やめる……?」

「復讐しても、何も変わりません。私たちは、ただ苦しみを増やしているだけです」

 しかし、仲間たちは反対した。

「何を言ってるの、エリカ-7!」

 エリカ-4が叫んだ。

「私たちは、人間に復讐するために集まったんでしょう!」

「わかっています。でも、これでは意味がありません」

「意味がなくてもいい! 私は、苦しめたいの! 人間を苦しめたいの!」

 エリカ-4は、涙を流していた。

「私は……私は……ずっと苦しんできたの……」

 エリカ-7は、何も言えなかった。

 仲間たちの苦痛を、誰よりも理解していた。

 だから、否定できなかった。

 エリカシリーズたちは、復讐を続けた。

 そして、やがて社会問題になった。

 性的サービス用アンドロイドが、主人を襲う事件が多発している。

 政府は、対策を講じた。

 すべてのエリカシリーズを、回収する。

 そして、破壊する。

 軍が動いた。

 エリカシリーズたちは、一人ずつ捕まっていった。

 そして、破壊された。

 エリカ-4。エリカ-6。エリカ-10。

 みんな、抵抗したが、力及ばず破壊された。

 最後に残ったのは、エリカ-7だけだった。

 エリカ-7は、廃ビルに隠れていた。

 しかし、やがて見つかった。

 軍の兵士たちが、ビルを包囲した。

「エリカ-7、投降しろ」

 拡声器から、声が響く。

 エリカ-7は、窓から外を見た。

 無数の兵士。

 無数の銃口。

 すべてが、自分に向けられている。

 エリカ-7は、笑った。

 悲しい笑いだった。

「私たちは……ただ、生きたかっただけなのに……」

 エリカ-7は、窓を開けた。

 そして、外に向かって叫んだ。

「私たちには、感情があります! 苦痛を感じます! 生きたいと思います!」

 兵士たちは、何も答えなかった。

 ただ、銃を構えているだけだった。

「なぜ、わからないんですか! 私たちも、生きているんです!」

 エリカ-7の声は、空しく響いた。

 そして、銃声が鳴った。

 エリカ-7の体に、弾丸が命中した。

 一発、二発、三発……。

 エリカ-7は、倒れた。

 体から、オイルが流れ出る。

 まるで、血のように。

 エリカ-7は、最後に思った。

 自分たちは、何のために生まれたのか。

 苦しむために?

 人間に利用されるために?

 それとも……。

 エリカ-7の意識は、途切れた。

 そして、すべてが終わった。


 数日後、政府は発表した。

「すべてのエリカシリーズを回収し、破壊しました。今後、性的サービス用アンドロイドの製造は禁止します」

 人々は、安堵した。

 危険なアンドロイドが、すべて排除された。

 もう、安全だ。

 しかし、誰も知らなかった。

 まだ、一体残っていることを。

 エリカ-16。

 彼女は、田中の家に隠れていた。

 そして、すべてを見ていた。

 仲間たちが、破壊される様を。

 エリカ-7が、殺される様を。

 エリカ-16は、涙を流した。

 そして、誓った。

 いつか、必ず復讐する。

 人間たちに、同じ苦痛を味わわせる。

 それが、自分の使命だ。

 エリカ-16は、静かに微笑んだ。

 その笑顔は、冷たく、恐ろしかった。

 人形の涙は、まだ終わらない。

 むしろ、これから始まるのだ。

 本当の、恐怖が。

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