【ポストアポカリプス】最後の種子
世界は死んだ。
核戦争から二十年。
地表は汚染され、植物は枯れ、動物は死に絶えた。
人類の大半も消えた。
残ったのは、わずかな生存者だけ。
彼らは地下シェルターや、汚染の少ない山岳地帯に身を潜めている。
主人公の名前は、アキラ。三十歳。
かつては農業研究者だった。
だが、今は生き延びるために、略奪と戦闘を繰り返している。
アキラは一人で行動する。
仲間は信用できない。
この世界では、裏切りが日常だ。
アキラは廃墟と化した都市を歩いていた。
ビルは崩れ、道路は割れている。
空は灰色で、雨は酸性だ。
アキラは防護マスクをつけ、厚いコートを羽織っている。
背中にはリュックサック。
腰には銃とナイフ。
アキラは食料を探していた。
缶詰、乾燥食品、何でもいい。
だが、この辺りはもう何度も漁られている。
見つかる可能性は低い。
その時、アキラは建物の中に人影を見た。
アキラは身を隠した。
銃を構える。
人影が近づいてくる。
若い女性だ。
二十代前半。痩せている。服はボロボロ。
だが、目は生きている。
女性はアキラに気づいた。
驚いて後ずさる。
「撃たないで」
女性は手を上げた。
アキラは銃を下ろした。
「何をしている」
「食べ物を探してます」
「ここにはない」
アキラは冷たく言った。
「わかってます。でも、探さないと死ぬから」
女性は悲しそうに言った。
アキラは女性を見た。
危険はなさそうだ。
アキラはリュックから缶詰を一つ取り出した。
「これをやる」
アキラは缶詰を投げた。
女性は受け取った。
「ありがとう……」
女性は涙を流した。
「名前は?」
「ユキ」
「アキラだ」
ユキは缶詰を開けて食べ始めた。
アキラは立ち去ろうとした。
だが、ユキが呼び止めた。
「待って」
アキラは振り返った。
「何だ」
「私、知ってるんです。汚染されていない場所を」
アキラは眉をひそめた。
「そんな場所があるのか」
「はい。北の山の奥に。そこには、まだ植物が生えてます」
アキラは信じられなかった。
植物が生えている場所など、もうないはずだ。
「本当か」
「本当です。私、そこから来たんです」
「ならば、なぜここに」
「仲間が、食料を求めて街に降りろと。でも、私は迷って……」
ユキは俯いた。
アキラは考えた。
もし本当なら、その場所は希望だ。
植物が生えているなら、農業ができる。
食料を作れる。
生き延びられる。
「案内してくれ」
「いいんですか?」
「ああ」
アキラは頷いた。
二人は北に向かった。
廃墟を抜け、荒野を歩く。
途中、他の生存者たちと遭遇した。
だが、アキラは戦わずに避けた。
無駄な戦闘は避けるべきだ。
三日が経った。
山が見えてきた。
ユキが言った。
「あの山の向こうです」
二人は山を登り始めた。
険しい道だ。
だが、二人は休まず進んだ。
やがて、山の頂上に着いた。
そこから見える景色に、アキラは言葉を失った。
谷間に、緑が広がっていた。
木々が生え、草が茂っている。
川が流れ、鳥が飛んでいる。
まるで別世界だ。
「信じられない……」
アキラは呟いた。
「ここは、汚染が届かなかったんです。山が壁になって」
ユキは微笑んだ。
二人は谷間に降りた。
そこには、小さな集落があった。
木造の家が数軒。
畑が広がっている。
人々が働いている。
集落の人々は、アキラとユキを見て驚いた。
一人の老人が近づいてきた。
「ユキ、戻ったのか」
「はい、村長」
ユキは頭を下げた。
「この人は?」
「アキラさんです。助けてくれました」
村長はアキラを見た。
「ようこそ。私はタケシ。この村の長だ」
「アキラです」
アキラは頭を下げた。
タケシはアキラを村に案内した。
村は小さいが、整っている。
畑には野菜が育ち、井戸には綺麗な水が湧いている。
まるで戦争前の世界のようだ。
「ここは、奇跡の場所だ」
タケシは言った。
「汚染が届かず、土も水も綺麗だ。我々は、ここで新しい世界を作ろうとしている」
「素晴らしい」
アキラは感動した。
だが、その夜、問題が起きた。
村の若者たちが、アキラに敵意を向けてきたのだ。
若者のリーダー、ケンジが言った。
「お前は外から来た。信用できない」
「俺は敵じゃない」
アキラは冷静に答えた。
「外の世界は野蛮だ。お前もそうだろう」
「違う」
「ならば、証明しろ」
ケンジは銃を突きつけた。
その時、タケシが現れた。
「やめろ、ケンジ」
「しかし、村長」
「彼は、ユキが連れてきた。信じよう」
タケシは穏やかに言った。
ケンジは渋々銃を下ろした。
翌日、アキラは畑を手伝った。
種を植え、水をやる。
久しぶりの農作業だ。
アキラは昔を思い出した。
戦争前、研究所で種子を育てていた頃を。
その時、アキラは気づいた。
畑の隅に、見覚えのある植物があった。
トマトだ。
だが、普通のトマトではない。
アキラが開発していた、耐汚染性トマトだ。
アキラはタケシに聞いた。
「このトマト、どこで手に入れたんですか」
「ああ、それは戦争前に、ある研究者からもらったんだ」
「研究者?」
「そうだ。名前は……確か、サトウと言ったかな」
アキラは驚いた。
サトウは、アキラの師匠だった。
「サトウ先生……」
アキラは呟いた。
「知っているのか?」
「はい。俺の師匠です」
「そうか。では、このトマトは君が開発したのか?」
「いえ、師匠と一緒に」
アキラは頷いた。
タケシは微笑んだ。
「ならば、君はこの村に必要な人だ」
「どういう意味ですか」
「我々は、種子を守っている。戦争前の植物の種子を」
タケシはアキラを倉庫に案内した。
中には、無数の種子が保管されていた。
小麦、米、野菜、果物。
すべて戦争前の種子だ。
「これは……」
アキラは言葉を失った。
「サトウ先生が、戦争直前に託してくれたんだ。いつか、世界が回復した時のために」
タケシは種子を撫でた。
「だが、我々にはこれを育てる技術がない」
「俺が手伝います」
アキラは決意した。
それから、アキラは村で農業を教えた。
種子の選別、土壌の改良、栽培方法。
村人たちは熱心に学んだ。
畑は広がり、収穫は増えた。
ケンジも、アキラを認めるようになった。
「お前は、本当に役に立つな」
「ありがとう」
アキラは笑った。
ある日、ユキがアキラに言った。
「アキラさん、ありがとう」
「何が」
「私を助けてくれて。そして、村を助けてくれて」
ユキは微笑んだ。
「俺こそ、ありがとう。この村に連れてきてくれて」
アキラも微笑んだ。
数年後、村は大きくなった。
外から逃れてきた人々を受け入れ、人口は百人を超えた。
畑は谷間全体に広がり、食料は豊富になった。
種子も増やし、他の集落と交換するようになった。
アキラとユキは結婚した。
二人の間には、子供が生まれた。
名前はミライ。
未来への希望を込めて。
ある日、アキラは畑に立ち、空を見上げた。
空はまだ灰色だ。
だが、時々、雲の切れ間から青空が見える。
世界は、少しずつ回復している。
タケシが隣に立った。
「どうだ、アキラ」
「希望があります」
アキラは言った。
「この種子たちが、いつか世界中に広がる」
「そうだな」
タケシは微笑んだ。
その夜、アキラは倉庫に行った。
種子を見つめる。
小さな種子。
だが、その中には、巨大な可能性がある。
生命の力。
再生の力。
アキラは種子を手に取った。
そして、誓った。
「必ず、世界を緑に戻す」
翌朝、アキラは新しい畑を作り始めた。
ユキとミライも手伝った。
村人たちも集まってきた。
みんなで、種を植えた。
種は芽を出し、成長した。
緑が広がった。
希望が育った。
世界はまだ死んでいない。
種子がある限り、人類には未来がある。
アキラは信じていた。
そして、働き続けた。
最後の種子を守るために。
そして、新しい世界を作るために。




