【ホラー】肉塊の館
一部グロテスクな描写があります。
雨の夜だった。
ケンタとマイとユウスケの三人は、山道で車が故障した。
携帯電話の電波は届かない。
周囲は暗く、街灯もない。
仕方なく、三人は歩いて助けを求めることにした。
雨の中を三十分ほど歩くと、古い洋館が見えた。
三階建ての大きな建物。
窓からは微かに光が漏れている。
ケンタが言った。
「誰か住んでるみたいだ」
「電話を借りよう」
マイが頷いた。
三人は洋館の門をくぐった。
玄関のドアをノックする。
しばらくすると、ドアが開いた。
中から老人が現れた。
七十代くらい。痩せている。顔色が悪い。
「こんな夜に、どうされました」
老人の声はかすれていた。
「車が故障しまして。電話を貸していただけませんか」
ケンタが頼んだ。
老人は微笑んだ。
「どうぞ、お入りください」
三人は洋館に入った。
内部は薄暗く、埃っぽい。
壁には古い絵画が飾られている。
老人は応接室に案内した。
「ここで待っていてください。電話を持ってきます」
老人は部屋を出た。
三人はソファに座った。
マイが周囲を見回した。
「なんか、嫌な感じがする」
「気のせいだろ」
ユウスケが笑った。
だが、ケンタも同じことを感じていた。
この洋館には、何かがある。
十分が経った。
老人は戻ってこなかった。
ケンタが立ち上がった。
「様子を見てくる」
「私も行く」
マイも立ち上がった。
ユウスケは一人で待つことにした。
ケンタとマイは廊下に出た。
奥に進むと、階段がある。
二階に上がる。
廊下の突き当たりに、一つの部屋があった。
ドアが半開きになっている。
中から異臭が漂ってくる。
腐敗臭だ。
ケンタは顔をしかめた。
「何だ、この臭い」
「やめよう、ケンタ」
マイが腕を掴んだ。
だが、ケンタは部屋に近づいた。
ドアを開ける。
部屋の中には、巨大な肉塊があった。
床一面に広がっている。
赤黒く、脈動している。
肉塊からは無数の触手が伸びている。
触手の先には、人間の顔がついていた。
男、女、子供。
顔は苦痛に歪んでいる。
口を開け、無言で叫んでいる。
ケンタは後ずさった。
マイは悲鳴を上げた。
その瞬間、触手が二人に襲いかかった。
ケンタはマイの手を掴み、走った。
触手が追いかけてくる。
廊下を駆け抜け、階段を降りる。
応接室に戻った。
「ユウスケ! 逃げるぞ!」
ケンタが叫んだ。
だが、ユウスケはいなかった。
ソファには、血の跡が残っている。
ケンタとマイは顔面蒼白になった。
その時、背後から声がした。
「お気づきになりましたか」
老人が立っていた。
だが、その姿は変わっていた。
老人の体から、肉塊が溢れ出している。
触手が体から生え、床に垂れている。
老人は笑った。
「私の家族です。皆、私と一つになりました」
「何を言ってるんだ!」
ケンタが叫んだ。
「あなた方も、家族になってください」
老人の体から触手が伸びた。
ケンタとマイは玄関に走った。
ドアを開けようとする。
だが、ドアは開かない。
鍵がかかっている。
触手が迫る。
ケンタは窓に向かった。
椅子を投げつける。
ガラスが割れる。
ケンタは窓から飛び出した。
マイも続く。
二人は雨の中を走った。
洋館から離れる。
だが、背後から何かが追いかけてくる。
振り返ると、肉塊が洋館から這い出していた。
巨大な塊が、触手を使って移動している。
速度は遅いが、確実に迫ってくる。
ケンタとマイは必死に走った。
山道を下る。
足を滑らせ、転びそうになる。
だが、止まれない。
肉塊は追ってくる。
やがて、道路に出た。
車のライトが見える。
トラックだ。
ケンタは手を振った。
「助けてください!」
トラックが止まった。
運転手が降りてきた。
「どうした?」
「化け物が! 追いかけてきます!」
マイが叫んだ。
運転手は訝しげに山道を見た。
だが、何も見えない。
肉塊は消えていた。
運転手は二人を車に乗せた。
警察に連絡し、洋館に向かった。
だが、洋館はもう存在しなかった。
跡地には、焼け跡だけが残っていた。
まるで何年も前に焼失したかのように。
警察は二人の話を信じなかった。
幻覚を見たのだろうと。
ユウスケは行方不明として捜索されたが、見つからなかった。
ケンタとマイは、あの夜のことを忘れられなかった。
夢に見る。
肉塊。触手。顔。
そして、ユウスケの声。
「助けて……」
数ヶ月後、ケンタは一人で山に戻った。
洋館の跡地に立つ。
焼け跡には、何も残っていない。
だが、地面に耳を当てると、微かに音が聞こえた。
脈動する音。
肉塊はまだ、地下に潜んでいる。
ケンタは立ち上がった。
そして、山を下りた。
二度と戻らないと決めた。
だが、ある日、ケンタの腕に異変が起きた。
皮膚の下に、何かが蠢いている。
ケンタは腕を見た。
皮膚が盛り上がっている。
そして、破れた。
中から、小さな触手が現れた。
ケンタは叫んだ。
マイも同じだった。
体の中に、何かが育っている。
肉塊の一部が、二人の体内に入り込んでいたのだ。
あの夜、洋館で。
二人は医者に行った。
だが、医者には何も見えなかった。
検査をしても、異常は見つからなかった。
だが、二人には見える。
触れる。
体の中で、肉塊が成長している。
やがて、ケンタは発狂した。
自分の腕を切り落とそうとした。
だが、止められた。
病院に入院させられた。
マイは耐えた。
だが、ある朝、鏡を見て絶望した。
顔に、小さな顔が浮かんでいた。
ユウスケの顔だ。
口を開け、何かを言おうとしている。
マイは鏡を割った。
そして、泣き崩れた。
それから一年後、ケンタとマイは消息不明になった。
最後に目撃されたのは、あの山に向かう姿だった。
二人は、洋館の跡地に辿り着いた。
そして、地面に横たわった。
肉塊が地中から這い出し、二人を飲み込んだ。
二人は抵抗しなかった。
もう、戦う気力はなかった。
肉塊の中で、ケンタとマイは融合した。
ユウスケと、老人と、その他大勢の犠牲者と。
皆、一つになった。
意識は混ざり合い、個を失った。
ただ、一つの存在になった。
肉塊は満足そうに蠢いた。
そして、再び地中に潜った。
次の犠牲者を待つために。
山道には、今も古い洋館が現れることがあるという。
雨の夜に。
道に迷った者を、招き入れるために。




