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世界は静かに壊れている【ショートショート集・短編集】  作者: 御影のたぬき


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【日常ファンタジー】森の小さなパン屋さん

 森の奥に、小さなパン屋があった。

 丸太小屋を改装した店で、煙突からは美味しそうな香りが漂っている。

 店主は、エルフの少女リリィ。

 見た目は十歳くらいだが、実際は百二十歳。

 エルフは長命なのだ。

 リリィは長い金髪を二つに結び、緑のエプロンをつけている。

 耳は尖っていて、目は大きくて青い。


 リリィは毎朝早く起きて、パンを焼く。

 小麦粉、水、塩、イースト。

 シンプルな材料だが、リリィの手にかかれば魔法のように美味しくなる。

 焼きたてのパンは、森中に香りを広げる。

 その香りに誘われて、様々な客が訪れる。


 最初の客は、ドワーフの鍛冶屋グリム。

 背が低く、髭が長い。

 斧を担いでいる。

 グリムは毎朝、クロワッサンを買いに来る。

「おはよう、リリィ」

「おはよう、グリムおじさん」

 リリィは笑顔で迎えた。

「今日もクロワッサン?」

「ああ。お前のクロワッサンは最高だ」

 グリムは銅貨を三枚置いた。

 リリィはクロワッサンを袋に入れて渡した。

「ありがとう」

 グリムは店を出た。


 次の客は、ケンタウロスの少年ティム。

 上半身は人間、下半身は馬。

 まだ若く、十歳くらいに見える。

 ティムは走るのが大好きだ。

「リリィ! チョコパンある?」

「あるよ」

 リリィは棚からチョコパンを取った。

「はい、どうぞ」

「やった!」

 ティムは嬉しそうにチョコパンを受け取った。

 銅貨を二枚置いて、走って帰った。


 昼頃、妖精のルナが訪れた。

 ルナは手のひらサイズの小さな妖精で、羽を持っている。

 羽は透明で、光を反射して虹色に輝く。

「リリィ、こんにちは」

「こんにちは、ルナ」

「今日のおすすめは?」

「メロンパンだよ」

「わあ、食べたい!」

 ルナは羽を羽ばたかせて喜んだ。

 リリィはメロンパンを小さく切って、ルナに渡した。

 ルナは銀貨一枚を置いた。

 妖精の銀貨は、人間の銅貨十枚分の価値がある。

「ありがとう、ルナ」

「どういたしまして」

 ルナはメロンパンを抱えて飛んでいった。


 夕方、珍しい客が来た。

 ドラゴンの子供、フレイムだ。

 フレイムは体長三メートルほど。

 赤い鱗に覆われ、小さな翼がある。

 まだ飛べない。

 フレイムは恥ずかしそうに店に入ってきた。

「あ、あの……」

「いらっしゃい、フレイム」

 リリィは微笑んだ。

「何が欲しい?」

「カレーパン……」

 フレイムは小さな声で言った。

 ドラゴンは本来、肉食だ。

 だが、フレイムはパンが好きだった。

 特にカレーパン。

「はい、どうぞ」

 リリィはカレーパンを渡した。

 フレイムは金貨を一枚置いた。

「お釣りだよ」

 リリィは銀貨を何枚か返した。

 フレイムは嬉しそうにカレーパンを食べ始めた。

 口から少し火が出る。

「美味しい……」

 フレイムは幸せそうだった。


 夜になると、店は閉まる。

 だが、リリィの一日はまだ終わらない。

 リリィは裏庭に出た。

 そこには、小さな畑がある。

 野菜を育てている。

 トマト、レタス、人参。

 明日のサンドイッチに使う予定だ。

 リリィは水をやり、雑草を抜いた。


 その時、森の奥から声が聞こえた。

「助けて……」

 リリィは耳を澄ませた。

 確かに、誰かが助けを求めている。

 リリィはランタンを持って、森に入った。


 声の方向に進むと、倒れている少年がいた。

 人間の少年で、十五歳くらい。

 服はボロボロで、血が滲んでいる。

 怪我をしている。

 リリィは駆け寄った。

「大丈夫?」

 少年は目を開けた。

「た、助けて……」

「わかった。家に連れて行くから」

 リリィは少年を背負った。

 エルフは見た目より力がある。

 リリィは少年を家に運んだ。


 家の中で、リリィは少年の傷を手当てした。

 薬草を塗り、包帯を巻く。

 少年は意識を失っていた。

 リリィはベッドに少年を寝かせた。

 そして、スープを作った。

 少年が目覚めた時のために。


 翌朝、少年は目を覚ました。

 周囲を見回す。

 知らない場所だ。

 リリィが声をかけた。

「おはよう。気分はどう?」

 少年はリリィを見た。

 エルフだ。

「ここは……」

「私のパン屋だよ。森で倒れてたから、助けたの」

「ありがとう……」

 少年は頭を下げた。

「君の名前は?」

「レオ」

「レオね。私はリリィ」

 リリィは微笑んだ。

「お腹空いてる? パン焼いてあるよ」

「ありがとう」

 レオはベッドから起き上がった。


 リリィはレオにパンとスープを出した。

 レオは美味しそうに食べた。

「美味しい……こんなに美味しいパン、初めて食べた」

「ありがとう」

 リリィは嬉しそうだった。


 レオはしばらくリリィの家に滞在することになった。

 怪我が治るまで。

 レオは手伝いを申し出た。

「何か、できることはある?」

「じゃあ、薪割りをお願いできる?」

「わかった」

 レオは薪割りを始めた。

 リリィは店でパンを焼いた。


 数日が経った。

 レオの怪我は良くなった。

 レオは話し始めた。

「俺、村から逃げてきたんだ」

「どうして?」

「村が、魔物に襲われて……家族は、みんな……」

 レオは俯いた。

 リリィは黙ってレオの手を握った。

「辛かったね」

「ああ……」

 レオは涙を流した。

 リリィはレオを抱きしめた。

「ここにいていいよ。私と一緒に、パン屋を手伝って」

「本当に?」

「うん」

 リリィは微笑んだ。

 レオは頷いた。


 それから、レオはリリィのパン屋で働くようになった。

 レオは力仕事を担当した。

 小麦粉の袋を運んだり、薪を割ったり。

 リリィはパンを焼いた。

 二人は良いコンビになった。


 客たちもレオを歓迎した。

 グリムは言った。

「良い助手ができたな、リリィ」

「うん」

 リリィは嬉しそうだった。


 ある日、レオは言った。

「リリィ、俺もパンを焼いてみたい」

「いいよ。教えてあげる」

 リリィはレオにパンの作り方を教えた。

 最初は失敗した。

 生地がうまく膨らまなかった。

 だが、リリィは優しく教えた。

「大丈夫。何度も練習すれば、できるようになるよ」

 レオは頑張った。


 一週間後、レオは初めてパンを焼き上げた。

 形はいびつだが、ちゃんと膨らんでいる。

 リリィは嬉しそうに食べた。

「美味しい!」

「本当?」

「うん。レオは才能があるよ」

 レオは照れくさそうに笑った。


 それから数ヶ月が経った。

 レオは立派なパン職人になっていた。

 客たちはレオのパンも楽しみにするようになった。

 特にフレイムは、レオの作るカレーパンが大好きだった。

「レオのカレーパン、辛くて美味しい!」

「ありがとう、フレイム」

 レオは笑った。


 ある日、レオはリリィに言った。

「リリィ、俺、ここに来て本当に良かった」

「私も、レオが来てくれて嬉しいよ」

 リリィは微笑んだ。

「俺、ずっとここにいたい」

「うん。ずっと一緒にいよう」

 二人は手を繋いだ。


 その後も、森の小さなパン屋は繁盛した。

 リリィとレオは毎日パンを焼き、客を迎えた。

 グリム、ティム、ルナ、フレイム。

 みんな、パン屋が大好きだった。


 ある日、新しい客が来た。

 老人の魔法使いだ。

 長い白髭、とんがり帽子、杖を持っている。

 老人は店に入ってきた。

「ここが、噂のパン屋か」

「いらっしゃいませ」

 リリィが迎えた。

「何が欲しいですか?」

「全部だ」

 老人は笑った。

「私は旅の途中でな。美味しいパンがあると聞いて、寄ってみた」

「ありがとうございます」

 リリィとレオは、全種類のパンを袋に詰めた。

 老人は金貨を何枚か置いた。

「お釣りはいらん。素晴らしいパンに対する感謝だ」

「ありがとうございます」

 老人は店を出た。

 だが、振り返って言った。

「二人とも、良い未来が待っているぞ」

 そして、消えた。

 魔法で。


 リリィとレオは顔を見合わせた。

 そして、笑った。

「良い未来、か」

「うん。きっと、そうなるよ」

 二人は手を繋いだ。


 夕日が森を照らしている。

 パン屋の煙突からは、まだ煙が上がっている。

 明日も、美味しいパンを焼くために。


 森の小さなパン屋は、今日も営業している。

 リリィとレオが、笑顔で客を迎えている。

 ここには、温かさがある。

 平和がある。

 そして、希望がある。

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