【SF】七回目の月曜日
目が覚めると、アラームが鳴っていた。
午前七時。
レンは手を伸ばし、スマートフォンを掴んだ。
画面を見る。
月曜日。二〇二六年二月一日。
レンはベッドから起き上がった。
窓の外は曇り空。いつもの景色。
洗面所に行き、顔を洗う。
鏡に映る自分。二十八歳。会社員。平凡な人生。
レンは歯を磨き、髭を剃り、スーツに着替えた。
リビングに行くと、テーブルの上にトーストとコーヒーが用意されていた。
同居人のユウが作ってくれたのだ。
ユウはソファに座り、スマートフォンを見ていた。
「おはよう」
レンが声をかけると、ユウは顔を上げた。
「おはよう。今日も早いね」
「会議があるんだ」
「頑張って」
レンはトーストを食べ、コーヒーを飲んだ。
そして、家を出た。
駅に向かう途中、レンはいつもの道を歩いた。
コンビニの前を通り、横断歩道を渡り、駅の階段を上る。
改札を抜け、ホームに立つ。
電車が来た。
レンは乗り込んだ。
車内は混んでいる。サラリーマン、学生、主婦。
レンは吊り革に掴まり、スマートフォンを取り出した。
ニュースアプリを開く。
見出しが並んでいる。
「株価が急落」「新しいウイルスの懸念」「政治家の不祥事」
レンは興味なさそうにスクロールした。
次の駅で、電車が止まった。
扉が開く。
人が乗ってくる。
その中に、一人の女性がいた。
黒いコートを着て、帽子を被っている。
女性はレンの前に立った。
レンは女性を見た。
顔は見えない。帽子が深く被られている。
だが、何か違和感があった。
女性がこちらを見ている気がする。
レンは目を逸らした。
電車が動き出す。
次の駅。
女性は降りた。
レンは肩の力を抜いた。
会社に着くと、レンはデスクに座った。
パソコンを起動し、メールをチェックする。
上司からのメール。
「九時から会議。資料を準備しておくこと」
レンはため息をついた。
資料はまだ完成していない。
急いで作業を始める。
だが、集中できなかった。
さっきの女性のことが気になる。
なぜ違和感を覚えたのだろう。
レンは首を振った。
考えても仕方ない。
資料を完成させ、会議室に向かった。
会議は二時間続いた。
上司が延々と説明をし、部下たちが頷く。
レンは黙って聞いていた。
会議が終わり、レンはデスクに戻った。
昼休みになり、レンは外に出た。
近くのレストランに入り、ランチを注文する。
食事中、レンはスマートフォンを見た。
SNSを開く。
友人の投稿が並んでいる。
旅行の写真、美味しい料理、幸せそうな笑顔。
レンは何も投稿しなかった。
特に書くことがない。
毎日が同じだから。
食事を終え、レンは会社に戻った。
午後の仕事は退屈だった。
データ入力、書類整理、メールの返信。
レンは機械的に作業をこなした。
時計を見る。
午後五時。
定時だ。
だが、周りはまだ働いている。
レンも残業することにした。
どうせ家に帰っても、することはない。
午後七時。
ようやく仕事が終わった。
レンは会社を出た。
外は暗い。
駅に向かう途中、レンはコンビニに寄った。
弁当とビールを買う。
レジで会計を済ませ、外に出た。
その時、誰かがレンの肩を叩いた。
振り向くと、そこには朝の女性がいた。
黒いコート。帽子。
女性は帽子を取った。
顔が見えた。
若い。二十代半ば。整った顔立ち。
だが、目が冷たい。
「レン」
女性はレンの名前を呼んだ。
レンは驚いた。
「誰だ」
「あなたを助けに来た」
「助ける?」
女性は頷いた。
「今日は月曜日。二月一日」
「そうだけど」
「明日も月曜日。二月一日」
レンは眉をひそめた。
「何を言ってるんだ」
「あなたはタイムループに囚われている」
女性は真剣な顔で言った。
「今日を何度も繰り返している」
レンは笑った。
「冗談だろ」
「冗談ではない」
女性はレンの目を見た。
「明日、目が覚めたら、また月曜日。二月一日。同じ一日が繰り返される」
レンは首を振った。
「ありえない」
「信じなくてもいい。だが、明日になればわかる」
女性は背を向けた。
「その時、私を探して。名前はミク」
ミクは人混みに消えた。
レンはその場に立ち、考え込んだ。
家に帰ると、ユウがテレビを見ていた。
「おかえり」
「ただいま」
レンは弁当を温め、ビールを開けた。
食事をしながら、レンはミクのことを思い出した。
タイムループ。
馬鹿げている。
だが、妙に気になる。
レンは早めに寝ることにした。
目が覚めると、アラームが鳴っていた。
午前七時。
レンは手を伸ばし、スマートフォンを掴んだ。
画面を見る。
月曜日。二〇二六年二月一日。
レンは硬直した。
もう一度画面を見る。
間違いない。
月曜日。二月一日。
昨日と同じ日付。
レンは飛び起きた。
窓の外を見る。
曇り空。いつもの景色。
レンは混乱した。
どういうことだ。
夢か。
いや、これは現実だ。
レンは洗面所に行った。
鏡を見る。
自分の顔。変わらない。
レンは頬を叩いた。
痛い。
夢ではない。
レンはリビングに行った。
テーブルの上にトーストとコーヒー。
昨日と同じ。
ユウがソファに座っている。
「おはよう」
ユウが声をかける。
「今日も早いね」
昨日と同じ台詞。
レンは震えた。
本当だ。
タイムループだ。
レンは会社に行かなかった。
代わりに、ミクを探した。
だが、どこにいるのかわからない。
駅に行ってみた。
電車に乗る。
車内を見渡す。
ミクはいない。
次の駅で降りる。
街を歩く。
コンビニ、レストラン、公園。
どこにもいない。
レンは諦めかけた。
その時、背後から声がした。
「探していたのか」
振り向くと、ミクがいた。
レンは駆け寄った。
「本当だった! タイムループだ!」
「言った通りだろ」
ミクは冷静だった。
「どうしてこんなことに」
「それを説明するには時間がかかる」
ミクはレンを喫茶店に連れて行った。
二人は席に座った。
ミクは話し始めた。
「あなたは今、タイムループの中にいる。今日を何度も繰り返している」
「何度も?」
「これが七回目」
レンは声が出なかった。
「七回目?」
「そう。あなたは六回、同じ月曜日を過ごした」
「なぜ覚えていない」
「ループがリセットされるたびに、記憶も消える。だが、七回目になると、記憶が残り始める」
ミクはコーヒーを飲んだ。
「私は時間管理局の職員だ」
「時間管理局?」
「時間の流れを監視し、異常を修正する組織」
レンは頭を抱えた。
「信じられない」
「信じなくてもいい。だが、事実だ」
ミクは続けた。
「あなたがループに囚われた理由は、今日起こる出来事にある」
「出来事?」
「午後八時。あなたは死ぬ」
レンは凍りついた。
「死ぬ?」
「交通事故だ。横断歩道を渡っている時、車に跳ねられる」
レンは震えた。
「それを防げばいいのか」
「そう簡単ではない」
ミクは首を振った。
「あなたが死を回避しようとすると、別の形で死ぬ。階段から落ちる、心臓発作を起こす、建物が崩れる」
「どういうことだ」
「因果律が働いている。あなたの死は、この日の運命として決まっている」
レンは絶望した。
「じゃあ、どうすればいい」
「運命を変えるには、原因を取り除く必要がある」
「原因?」
「あなたが死ぬ理由。それを見つけて、解決する」
ミクはレンの目を見た。
「一緒に探そう」
レンとミクは街を歩いた。
ミクはレンに質問をした。
「最近、何か変わったことはあったか」
「特にない」
「誰かと喧嘩したか」
「いや」
「仕事で問題は」
「いつも通りだ」
ミクは考え込んだ。
「では、今日一日の行動を思い出してみろ」
レンは記憶を辿った。
「朝起きて、会社に行って、会議をして、昼食を食べて、仕事をして、帰宅した」
「その中で、誰かと関わったか」
「上司、同僚、レストランの店員」
「他には」
レンは思い出した。
「電車で、女性と目が合った」
「女性?」
「黒いコートを着た女性。でも、それは君だった」
ミクは首を振った。
「私はループの外から来た。その女性は別人だ」
レンは混乱した。
「じゃあ、誰だ」
「わからない。だが、その女性が鍵かもしれない」
ミクは立ち上がった。
「もう一度、同じ行動を取ってみよう。その女性に会えるかもしれない」
レンとミクは駅に向かった。
電車に乗る。
車内は混んでいる。
レンは周りを見渡した。
黒いコートの女性はいない。
次の駅。
扉が開く。
人が乗ってくる。
その中に、女性がいた。
黒いコート。帽子。
レンは女性に近づいた。
「すみません」
女性が振り向く。
帽子の下から、顔が見えた。
若い。だが、疲れた顔。
「はい?」
「あなたは誰ですか」
女性は眉をひそめた。
「知りません」
女性は背を向けた。
レンは腕を掴んだ。
「待ってください」
女性が振り返る。
その目には、怒りがあった。
「離してください」
その時、ミクが割って入った。
「彼女は関係ない」
「でも」
「違う。彼女は普通の人だ」
ミクはレンを引っ張った。
次の駅で、二人は降りた。
「どうしてわかるんだ」
レンは聞いた。
「時間管理局の職員は、運命を読める」
「運命?」
「その女性の運命には、あなたとの接点がない」
ミクは歩き出した。
「別の場所を探そう」
レンとミクは一日中、手がかりを探した。
だが、何も見つからなかった。
夕方になり、二人は疲れ果てた。
「もう諦めた方がいいのか」
レンは座り込んだ。
ミクは首を振った。
「まだ時間がある」
「でも、もうすぐ八時だ」
「だからこそ、最後まで諦めるな」
ミクはレンを見た。
「あなたの人生は、ここで終わらない」
レンは立ち上がった。
「わかった」
午後七時半。
レンとミクは横断歩道の前に立っていた。
ミクが言った。
「ここで事故が起こる」
「俺が渡ろうとした時に、車が来るのか」
「そうだ」
「じゃあ、渡らなければいい」
「それでは解決にならない。別の形で死ぬだけだ」
レンは考えた。
「じゃあ、どうすれば」
その時、ミクが何かに気づいた。
「あそこを見ろ」
ミクが指差した先に、一人の男がいた。
中年。スーツを着ている。
男は電話をしながら、歩いている。
前を見ていない。
男は横断歩道に向かっている。
その時、レンは気づいた。
「あの男が車に跳ねられるのか」
「そうだ」
「でも、俺が死ぬんじゃ」
「違う。あなたが助けるんだ」
ミクは言った。
「あの男を助けるために、あなたは横断歩道に飛び出す。そして、車に跳ねられる」
レンは理解した。
「俺の死は、あの男を救うためだったのか」
「そうだ」
ミクは続けた。
「だが、あなたが死ねば、ループは終わらない。運命が成就しないから」
「どういう意味だ」
「あの男は、未来で重要な役割を果たす。彼が生きることで、世界は救われる」
レンは驚いた。
「じゃあ、俺が死ななければ、世界が滅ぶのか」
「いや」
ミクは微笑んだ。
「あなたが死なずに、彼を救えばいい」
「どうやって」
「考えろ」
レンは必死に考えた。
男を救い、自分も生き延びる方法。
時間がない。
もうすぐ八時だ。
男が横断歩道に近づいている。
レンは走り出した。
「何をする!」
ミクが叫ぶ。
レンは男に追いつき、肩を掴んだ。
「危ない!」
男が振り向く。
その瞬間、車が来た。
レンは男を押し倒した。
二人は地面に倒れる。
車は目の前を通り過ぎた。
クラクションが鳴る。
レンは息を切らせた。
男は何が起きたのか理解できない様子だった。
「何をするんだ」
「車です。跳ねられるところでした」
男は車を見た。
そして、レンに頭を下げた。
「ありがとう」
レンは立ち上がった。
ミクが駆け寄ってきた。
「やったな」
「ああ」
レンは笑った。
その瞬間、世界が揺れた。
光が溢れる。
レンは目を閉じた。
目が覚めると、アラームが鳴っていた。
午前七時。
レンは手を伸ばし、スマートフォンを掴んだ。
画面を見る。
火曜日。二〇二六年二月二日。
レンは笑った。
ループが終わった。
レンはベッドから起き上がった。
窓の外は晴れていた。
新しい一日が始まる。
会社に行く途中、レンはミクのことを思い出した。
彼女はどこに行ったのだろう。
もう会えないのだろうか。
レンは少し寂しかった。
だが、同時に感謝していた。
ミクのおかげで、レンは生き延びた。
そして、運命を変えた。
駅のホームに立った時、レンは声をかけられた。
「おはよう」
振り向くと、ミクがいた。
だが、様子が違う。
スーツを着て、通勤カバンを持っている。
「ミク?」
「誰ですか?」
ミクは不思議そうに言った。
「私の名前、どうして知ってるんですか」
レンは気づいた。
このミクは、時間管理局の職員ではない。
普通の人だ。
ループの中で出会ったミクとは別人。
いや、同じ人だが、記憶がない。
「すみません。人違いでした」
レンは謝った。
ミクは微笑んだ。
「気をつけてくださいね」
電車が来た。
レンとミクは乗り込んだ。
車内は混んでいる。
二人は離れた場所に立った。
レンはミクを見た。
彼女は何も覚えていない。
だが、それでいい。
レンは心の中で言った。
「ありがとう、ミク」
その日の仕事は順調だった。
会議も、昼食も、すべてが新鮮に感じた。
同じ日々の繰り返しではない。
毎日が、新しい一日だ。
レンはそれを実感した。
夕方、レンは会社を出た。
外は暗い。
だが、心は軽かった。
レンは歩き出した。
前を向いて。




