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世界は静かに壊れている【ショートショート集・短編集】  作者: 御影のたぬき


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【SFディストピア】設計された涙

 診察室の白い壁が、午後の光を反射して眩しい。四十代半ばの女性、春日井真理子は、机を挟んで向かい合う医師の言葉を待っていた。


「春日井さん、検査結果が出ました」


 医師は静かに口を開く。真理子の手が、無意識に膝の上で握りしめられる。


「娘さんの智香さんですが、遺伝子異常は見つかりませんでした。身体的には完全に健康です」


「では、なぜ」


 真理子の声が震えた。


「なぜ、智香は笑わないんですか。なぜ、泣かないんですか」


 医師は画面を見つめたまま、しばらく沈黙する。そして、ゆっくりと顔を上げる。


「春日井さん。お嬢さんは、ジーンデザイン社のプログラムで設計されたお子さんですね」


 真理子の顔が強張った。


「それが、何か」


「智香さんの遺伝子配列を解析したところ、感情に関わる遺伝子群が、通常とは異なるパターンを示しています。これは、意図的に調整された痕跡です」


「意図的?ですって?」


「はい。お嬢さんを設計する際に、感情の起伏を抑制するオプションを選択されませんでしたか?」


 真理子は激しく首を横に振った。


「そんなこと、選んでいません。私は、ただ健康で賢い子が欲しかっただけです」


「パッケージプランをご利用になりましたか」


「ええ、プレミアムプランでしたけど」


 医師は深く息を吐いた。


「プレミアムプランには、標準で感情安定化オプションが含まれていたと思いますよ。激しい感情の起伏は、学業成績や社会適応に悪影響を与えるという研究結果に基づいて」


「そんな、聞いてません」


「契約書の細則に記載されていたと思います。たしか三百ページ目あたりに」


 真理子は言葉を失った。

---


 十五年前。真理子は夫の光一と共に、ジーンデザイン社の豪華なカウンセリングルームにいた。


「お二人のご希望を、ぜひお聞かせください」


 笑顔の女性カウンセラーが、タブレットを操作しながら言った。


「まず、基本的な健康面ですが、がん、心疾患、糖尿病、アルツハイマー、これらの発症リスクはゼロにできます」


「それは、素晴らしいですね」


 光一が興奮気味に応じた。


「知能面はいかがいたしましょうか。IQ120の標準プラン、IQ140のプレミアムプラン、IQ160のエクセレントプランがございます」


「プレミアムで」


 真理子が即答する。カウンセラーは満足そうに頷く。


「では、容姿はいかがでしょう。顔立ち、体型、身長、全て最適化できます」


「顔は、私に似せてもらえますか」


「もちろんです。お母様の美しさを最大限に引き出した形で設計いたします」


「身長は、女性の平均より五センチ高めの165センチを推奨しております」


「それで」


「運動能力、芸術的才能、社交性、これらも調整可能です」


 夫婦は目を輝かせながら、一つ一つの項目を選択していった。カウンセラーは流れるような手つきでタブレットを操作し続ける。


「それでは、最後にプレミアムプラン特典として、感情安定化オプションが無料で付帯されます」


「感情安定化ですか?」


「はい。過度な感情の起伏を抑制し、常に冷静で理性的な判断ができるよう調整いたします。キレやすい子供、鬱になりやすい子供、そういったリスクを完全に排除できます」


「それは、いいですね」


 光一が頷いた。真理子も同意した。


「では、こちらが最終的な設計図となります。ご確認いただけますでしょうか」


 画面には、まだ存在しない娘の完璧な設計図が表示されていた。


---


 智香は、文字通り完璧な子供として育った。


 三歳で平仮名を完全にマスターし、五歳で簡単な英会話ができるようになった。小学校に入学すると、常に学年トップの成績を維持した。


 容姿も真理子の面影を残しながら、欠点という欠点がなかった。大きな瞳、すっきりとした鼻筋、整った輪郭。クラスメイトの母親たちは、真理子を羨望の眼差しで見た。


 しかし、智香は決して笑わなかった。


 誕生日プレゼントを渡しても、「ありがとうございます」と礼儀正しく言うだけで、喜びの表情を見せない。遊園地に連れて行っても、「楽しいです」と言葉では表現するが、目が笑っていない。


 そして、決して泣かなかった。


 転んで膝を擦りむいても、淡々と消毒液を取りに行く。友達と喧嘩をしても、冷静に論理的な反論をするだけで、涙を流すことはない。


 真理子は最初、それを「芯の強い子」だと思っていた。しかし、年月が経つにつれて、違和感は確信に変わっていった。


 これは、普通ではない。


---


 中学二年生になった智香は、相変わらず学年トップの成績を維持していた。生徒会長にも選ばれ、教師たちからの評価も高い。


 しかし、友人は一人もいなかった。


「智香ちゃん、何考えてるか分かんないんだよね」


 同級生の会話を、真理子は偶然耳にしてしまった。学校の廊下で、保護者面談の順番を待っていた時のことだ。


「超優秀だし、見た目も完璧なんだけど、なんか怖いっていうか」


「分かる。ロボットみたいっていうか」


「この前、飼ってた猫が死んだって話をしたんだけど、『ペットロス症候群は一般的に三ヶ月から六ヶ月で改善します』とか言われて、ドン引きしたわ」


 真理子は、胸が締め付けられるような思いがした。


 家に帰ると、智香はいつものように自室で勉強をしていた。真理子はドアをノックする。


「智香、ちょっといい」


「はい、何でしょうか」


 智香が振り返ったが、表情は変わらない。真理子は覚悟を決めて口を開いた。


「あなた、学校で友達はいるの?」


「友人の定義にもよりますが、親しく会話をする相手という意味であれば、いません」


「それで、寂しくないの?」


「寂しさという感情は理解できますが、実感としては持っていません。一人でいる方が、効率的に時間を使えます」


 真理子は、娘の目を見つめた。そこには、確かに知性の輝きがあった。しかし、温かみというものが、決定的に欠けていた。


「智香、あなたは楽しいって思ったことある?」


「概念としては理解しています」


「概念じゃなくて、感じたことがあるかって聞いてるの」


 智香は少し考えてから、首を横に振った。


「感じたことは、おそらくありません」


「悲しいって思ったことは?」


「それも、ありません」


 真理子の目から、涙がこぼれた。智香はそれを見て、わずかに首を傾げる。


「お母さん、泣いているんですか」


「ええ、泣いてるわよ」


「なぜですか」


「あなたのことが心配だからよ」


「心配する必要はありません。私は健康ですし、成績も良好です」


「そういうことじゃないの」


 真理子は娘を抱きしめた。智香の体は硬く、抱き返してはこなかった。


---


 ジーンデザイン社に問い合わせても、回答は冷淡だった。


「契約書に記載された通りの設計を行っております。感情安定化オプションの詳細につきましては、契約時に同意をいただいております」


「でも、こんなことになるなんて、聞いてません」


「お客様の同意なしに遺伝子設計は行っておりません。全ての項目について、ご確認いただいたはずです」


「三百ページもある契約書、誰が全部読むんですか」


「それはお客様の責任です。当社に落ち度はございません」


 電話を切った真理子は、夫の光一に訴えた。


「ねえ、何とかならないの。智香を、普通の子に戻す方法は」


 光一は疲れた顔で首を横に振った。


「無理だよ。遺伝子は既に固定されてる。変更はできない」


「じゃあ、このまま智香は」


「ああ。このまま、感情のない人間として生きていくしかない」


 真理子は崩れ落ちた。


---


 高校生になった智香は、さらに完璧になっていった。全国模試で常に上位に入り、複数の難関大学から推薦の話が来た。


 人間関係は相変わらず築けなかった。クラスメイトとの会話は、最低限の業務的なやり取りだけ。部活動にも参加せず、放課後は図書館で勉強するか、まっすぐ帰宅した。


 ある日、智香が珍しく質問をしてきた。


「お母さん、私は変ですか?」


 真理子は夕食の準備をしていた手を止めた。


「どうして、そんなこと」


「クラスメイトが、私のことを『感情がないロボット』と呼んでいるのを聞きました」


「それは、ひどいわね」


「でも、事実です。私には、彼女たちが持っている感情というものが、理解できません」


 智香は淡々と続けた。


「友人が悲しんでいる時、なぜ一緒に泣くのか。嬉しいことがあった時、なぜあんなに大声で笑うのか。論理的に考えれば、どちらも非効率的な行動です」


「感情は論理じゃないのよ」


「それが理解できないんです」


 真理子は娘の隣に座った。


「智香、あなたに話さなきゃいけないことがあるの」


「何でしょうか」


「あなたは、お母さんとお父さんが、ジーンデザイン社で設計した子なの」


 智香はわずかに目を見開いた。しかし、それ以外の反応はない。


「遺伝子設計児、ですか」


「ええ。私たち、あなたに完璧になってほしくて、色々なオプションを選んだの。その中に、感情を安定させるっていう項目があって」


「それで、私は感情が欠如しているんですね」


「ごめんなさい、智香。お母さんたち、あなたのためだと思って」


 智香は少し考えてから、口を開いた。


「謝る必要はありません。お母さんたちの選択は、論理的に正しいものでした」


「でも、あなたは苦しんでるでしょう?」


「苦しむという感情も、私にはありません」


 真理子は、もう何も言えなくなった。


---


 大学進学が決まった春、智香は家を出ることを決めた。


「一人暮らしをします」


 夕食の席で、智香が突然宣言した。光一が箸を止める。


「どうして、急に」


「自立するべき年齢だと判断しました。また、お母さんの精神的負担を軽減するためにも、距離を置くべきだと考えます」


「精神的負担って?」


 真理子が聞き返した。智香は、いつもの無表情で答える。


「お母さんは、私を見るたびに罪悪感を感じているはずです。それは、お母さんの健康に悪影響を与えます」


「そんなこと」


「事実です。お母さんの睡眠時間は年々減少していますし、抗不安薬の処方も受けていますね」


 真理子は、何も反論できなかった。全て、事実だった。


「私がいなくなれば、お母さんは楽になります」


「智香、あなたは」


「私のことは心配しないでください。一人で生きていくことに、何の問題もありません」


 光一が口を挟んだ。


「智香、お前は寂しくないのか?」


「寂しさという感情は、私にはありません」


「家族と離れることに、何も感じないのか?」


「感じません」


 光一は、深く息を吐いた。


「そうか」


 真理子は、娘を見つめた。完璧に設計された、感情のない娘を。


---


 智香が家を出た後、真理子は以前よりも頻繁にジーンデザイン社のカウンセリングを受けるようになった。


 しかし、カウンセラーは決まって同じことを言う。


「お嬢さんは、設計通りに成長されています。何の問題もありません」


「問題だらけです。娘は、人間らしい感情を持っていないんです」


「それは、お客様が選択されたオプションの結果です」


「知らなかったんです、こんなことになるなんて」


「無知は、免責事項にはなりません」


 真理子は、何度も同じやり取りを繰り返した。そして、ある日、カウンセラーが別の提案をしてきた。


「春日井さん、もし次のお子さんをお考えであれば、今回の経験を活かして、より良い設計ができるかと思います」


「次の子、ですって」


「はい。感情豊かなお子さんをご希望であれば、そのように設計いたします」


 真理子は、カウンセラーの顔を見つめた。そこには、商業的な笑顔しかなかった。


「あなたたちは、子供を商品だと思ってるんですか!?」


「お客様のご要望に応じて、最高の製品を提供しているだけです」


 真理子は、立ち上がった。


「もう、結構です!!」


---


 それから五年が経った。


 智香は大学を首席で卒業し、大手企業の研究職に就いた。仕事の評価は高く、既に重要なプロジェクトを任されている。


 しかし、真理子との連絡は、月に一度のメールだけになっていた。


「お母さん、お元気ですか。私は変わりありません。仕事は順調です」


 そんな、事務的な内容だけ。


 真理子は、時々、娘に会いたいと思った。しかし、智香は忙しいことを理由に、なかなか帰ってこなかった。


 ある休日、真理子は一人で公園を歩いていた。そこで、母親と幼い娘が遊んでいる光景を見た。


 娘が転んで泣き出すと、母親は駆け寄って抱きしめた。娘は母親の胸で泣きじゃくり、やがて泣き止んで笑顔を見せた。


 真理子は、その光景を見て、涙が止まらなくなった。


 智香は、一度も泣いたことがない。


 智香は、一度も心から笑ったことがない。


 智香は、一度も「お母さん、大好き」と言ったことがない。


 完璧な子供を望んだ結果、真理子は人間らしさという、最も大切なものを失った子供を手に入れてしまった。


---


 その夜、真理子は久しぶりに智香に電話をかけた。


「もしもし、お母さん」


 智香の声は、相変わらず平坦だった。


「智香、元気?」


「はい、問題ありません」


「あのね、智香。お母さん、謝りたいの」


「何についてですか?」


「あなたを、あんな風に設計してしまったこと」


 電話の向こうで、わずかな沈黙があった。


「お母さんに責任はありません。選択したのは、お母さんとお父さんですが、結果を受け入れているのは私です」


「でも、あなたは幸せじゃないでしょう」


「幸せという概念を理解していないので、答えられません」


 真理子は、声を震わせた。


「智香、あなたを愛してるわ」


「はい、分かっています」


「本当に、分かってる?」


「論理的には理解しています」


「論理じゃなくて、心で」


 再び、沈黙。そして、智香が静かに言った。


「お母さん、私には心がありません」


 真理子は、電話を握りしめた。


「それでも!あなたは私の娘よ…」


「はい、遺伝的にはそうです」


 真理子は、もう何も言えなくなった。電話を切った後、一人で泣き続けた。


---


 翌年、ジーンデザイン社の前で抗議デモが起きた。


 遺伝子設計された子供たちの中に、智香と同じような症状を持つケースが多数報告されたのだ。感情の欠如、共感能力の低下、人間関係の構築不全。


 親たちは訴訟を起こした。しかし、裁判所は訴えを退けた。


「契約書に明記された内容について、企業に責任はない」


 真理子も、裁判の傍聴席にいた。判決を聞いて深く絶望した。


 法律は娘を救ってくれない。


 社会は娘を受け入れてくれない。


 そして、娘自身が救いを求めていない。


---


 智香が三十歳になった年、久しぶりに実家に帰ってきた。


 真理子は、老いていた。髪には白いものが混じり、背中も少し曲がっていた。


「お母さん、お久しぶりです」


「智香、よく来てくれたわね」


 二人は、リビングで向かい合った。真理子は、娘の顔をじっと見つめた。


 相変わらず、美しかった。欠点のない、完璧な造形。しかし、やはり目が笑っていなかった。


「智香、あなたに聞きたいことがあるの」


「何でしょうか」


「あなたは、お母さんのこと恨んでる?」


 智香は、少し考えてから答えた。


「恨むという感情を持っていないので、恨んではいません」


「じゃあ、何も感じてないの?」


「お母さんが私を設計したという事実は認識していますが、それについて特別な感情はありません」


 真理子は、深く息を吐いた。


「そう」


「ただ」


 智香が続けた。


「最近、少し分かってきたことがあります」


「何」


「お母さんが、なぜ私を見るたびに悲しそうな顔をするのか」


 真理子は、娘を見つめた。


「私は、お母さんが望んだ娘ではなかったんですね」


「違うわ、智香」


「いいえ、事実です。お母さんは、笑ったり泣いたりする、普通の娘が欲しかった。でも、私はそうじゃなかった」


「智香」


「それは、お母さんの責任でもあり、私の責任でもあり、そして誰の責任でもないのかもしれません」


 智香は立ち上がった。


「お母さん、もう私のことは気にしないでください。私は、この体で生きていきます」


「智香、待って」


「さようなら、お母さん」


 智香は、振り返らずに家を出た。真理子は、娘の後ろ姿を見送ることしかできなかった。


---


 それから十年後。


 真理子は病床に伏していた。末期がん。余命は、あと数週間。


 智香は、毎日病院に通った。母親の世話を、完璧にこなした。しかし、やはり涙は流さなかった。


「智香、ありがとう」


 真理子が弱々しく言った。


「いいえ、当然のことです」


「ねえ、智香。お母さん、あなたに謝りたいの」


「もう、何度も聞きました」


「でも、言わせて。ごめんなさい。あなたを、こんな風に」


 智香は、母親の手を握った。その手は、冷たく、細くなっていた。


「お母さん、私は不幸ではありません」


「本当に?」


「はい。幸せではないかもしれませんが、不幸でもありません。ただ、存在しているだけです」


 真理子は、涙を流した。


「それで、いいの?」


「はい。それが、私です」


 真理子は、娘の顔を見つめた。完璧に設計された、感情のない娘を。


「智香、あなたを愛してるわ」


「はい、知っています」


「本当に知ってる?」


 智香は、わずかに首を傾げた。


「お母さん、愛とは何ですか」


 真理子は、かすかに笑った。


「お母さんにも、よく分からないわ。でも、あなたのことを思うと、胸が苦しくなる。それが、愛なのかもしれないわね」


「胸が苦しくなる…」


「ええ」


 智香は、自分の胸に手を当てた。


「私にはその感覚がありません」


「そう」


 真理子の目から、涙が流れ続けた。智香は、その涙を不思議そうに見つめていた。


---


 真理子が亡くなったのは、それから三日後のことだった。


 葬儀で、智香は一度も泣かなかった。参列者たちは、冷たい目で智香を見た。


「あの娘、母親が死んだのに泣きもしないなんて」


「遺伝子設計児だって聞いたわ。感情がないんですって」


「可哀想に。いや、お母さんの方が可哀想か」


 智香は、そんな囁きを聞いても、何も感じなかった。ただ、淡々と葬儀を執り行った。


 全てが終わり、一人になった時、智香は母親の遺影を見つめた。


 笑顔の母親。まだ若く、元気だった頃の写真。


 智香は、その写真をじっと見続けた。胸に手を当てた。


 何も感じなかった。


 悲しくも、寂しくもない。


 ただ、母親がこの世界からいなくなったという事実だけが論理的に理解できた。


 智香は、遺影に向かって言った。


「お母さん。私は泣けません。それが、あなたが設計した私です」


 部屋には、誰も答える者はいなかった。


 智香は、遺影を丁寧に棚に飾り、部屋の電気を消した。


 そして、いつものように、明日の仕事の準備を始めた。


 感情のない娘は、感情のないまま、これからも生きていく。


 それが、完璧を求めた結果だった。


---


 数年後、ジーンデザイン社は感情安定化オプションを廃止した。


 多数の訴訟と社会的批判に耐えきれなくなったのだ。新しい広告には、こう書かれていた。


「お子様の個性を尊重した、人間らしい設計を」


 しかし、既に設計された子供たちは、元には戻らない。


 智香のような子供たちは、感情のないまま、社会の片隅で生きている。


 完璧な知能を持ち、完璧な容姿を持ち、そして完璧に人間らしさを失った子供たちが。


 春日井真理子が願った、完璧な娘。


 その代償は、あまりにも大きかった。


 そして、娘の智香は、その代償を理解することすら、できなかった。

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