【SF】銀河の果て
西暦2157年。
人類は、ついに銀河系の果てに到達した。
探査船「ホライゾン」。乗組員は五名。
船長の八坂琉は三十五歳。宇宙飛行士としては中堅だが、経験豊富だった。
「座標確認。目的地まであと三時間」
副船長の九重澪が報告した。
目的地は、銀河系の最も外縁にある星系。人類が未だ到達したことのない領域。
そこに、奇妙な信号が検出されていた。
人工的なパターンを持つ信号。
それは、知的生命体の存在を示唆していた。
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三時間後、ホライゾンは目的の星系に到着した。
そこには、七つの惑星が太陽を周回していた。
だが、その中の一つが異様だった。
第四惑星。
その惑星の周囲に、巨大な構造物が浮かんでいた。
「何だ、あれは」
琉は目を見張った。
構造物は、リング状だった。惑星全体を囲むような、巨大なリング。
明らかに人工物だった。
「信号は、あのリングから発信されています」
通信士の十和田紬が言った。
「接近する」
琉が命じた。
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ホライゾンは、ゆっくりとリングに近づいた。
リングは、想像を絶する大きさだった。直径は地球の十倍以上。
表面には、無数の構造物が並んでいた。建物のようなもの、塔のようなもの、何かの装置のようなもの。
「これ、都市か?」
機関士の三条蓮が呟いた。
「だとしたら、誰が作ったんだ」
琉は、緊張していた。
その時、リングから新しい信号が発信された。
「船長、これ、招待のメッセージです」
紬が興奮した声で言った。
「招待?」
「はい。リングの内部に入るよう促しています」
琉は、決断した。
「入る」
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ホライゾンは、リングの開口部に向かった。
開口部は、ゆっくりと開いた。
中は、広大な空間だった。
そして、その空間の中央に、何かが浮かんでいた。
球体。
だが、ただの球体ではない。
表面が、虹色に輝いている。まるで生きているかのように。
「あれは」
琉たちは、息を呑んだ。
球体から、光の筋が伸びてきた。
ホライゾンに接触した。
次の瞬間、船内に声が響いた。
「ようこそ、旅人たちよ」
その声は、全ての言語を超越していた。直接、脳に語りかけてくるような感覚。
「私は、守護者。この銀河の記録を保管する存在」
琉たちは、驚愕した。
「あなたは、何者ですか」
琉が尋ねた。
「私は、かつてこの銀河に存在した文明が創造した人工知性。彼らは滅びたが、私は残った。そして、新たな知的生命体が現れるのを待っていた」
守護者が答えた。
「あなたたちは、人類。銀河で最も若い文明の一つ。だが、ここまで辿り着いた。それは、称賛に値する」
琉たちは、感動していた。
「あなたたちに、贈り物をしよう」
守護者が言った。
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次の瞬間、琉たちの意識は、別の場所に飛ばされた。
そこは、広大な図書館のような空間だった。
無数の光の粒が浮かんでいる。
「これは、銀河の記憶」
守護者の声が響いた。
「過去十億年の間に存在した、全ての文明の記録。彼らの知識、技術、文化、歴史。全てがここにある」
琉たちは、圧倒された。
光の粒に触れると、情報が流れ込んでくる。
ある文明は、惑星改造技術を開発していた。
ある文明は、時間を操る技術を持っていた。
ある文明は、意識を共有するネットワークを構築していた。
どれも、人類が未だ到達していない領域だった。
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だが、同時に、琉たちは知った。
これらの文明は、全て滅びていた。
ある文明は、戦争で自滅した。
ある文明は、環境破壊で滅んだ。
ある文明は、技術の暴走で消滅した。
「なぜ、全て滅んだのですか」
琉が尋ねた。
「それが、知的生命体の宿命だから」
守護者が答えた。
「知性は、創造と破壊の両方をもたらす。そして、多くの場合、破壊が勝る」
琉たちは、沈黙した。
「だが、希望もある」
守護者が続けた。
「中には、滅びを回避した文明もある。彼らは、この銀河を去った。より高次の存在へと進化し、別の次元へと旅立った」
「高次の存在」
「そう。物質的な肉体を捨て、純粋なエネルギー体となった存在。彼らは、もはやこの宇宙に縛られない」
琉たちは、想像もできなかった。
「あなたたち人類も、いずれその選択を迫られるだろう。滅びか、進化か」
守護者の言葉は、重かった。
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琉たちは、図書館を後にした。
意識が、元の船に戻った。
「今のは、夢か」
澪が呟いた。
だが、夢ではなかった。
琉たちの脳には、膨大な情報が刻まれていた。
過去の文明の知識。技術。教訓。
「これを、地球に持ち帰らなければ」
琉が言った。
「でも、どうやって」
蓮が尋ねた。
その時、守護者の声が再び響いた。
「心配無用。あなたたちの記憶は、既に地球に転送されている」
「転送」
「そう。私は、この銀河の全てのネットワークにアクセスできる。地球の記録装置にも」
琉たちは、驚いた。
「では、もう地球は」
「知っている。あなたたちが見たもの、学んだもの、全てを」
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琉たちは、守護者に別れを告げた。
「私たちは、帰ります」
「そうか。では、一つ忠告を」
守護者が言った。
「知識は、力だ。だが、その力をどう使うかは、あなたたち次第。賢明な選択を」
「わかりました」
琉は頷いた。
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ホライゾンは、リングを離れた。
地球への帰路についた。
だが、琉たちの心は、複雑だった。
「俺たち、とんでもないものを手に入れたな」
蓮が言った。
「ああ。これで、人類は大きく変わる」
琉が答えた。
「いい方向に、だといいけど」
澪が心配そうに言った。
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地球に帰還した琉たちは、英雄として迎えられた。
そして、守護者から得た知識は、すぐに研究が始まった。
惑星改造技術。エネルギー生成技術。医療技術。
どれも、人類を飛躍的に進歩させるものだった。
だが、同時に、危険も伴っていた。
軍事利用の可能性。倫理的な問題。社会的な混乱。
人類は、大きな岐路に立たされた。
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琉は、ある日、記者会見で尋ねられた。
「あなたは、人類の未来をどう見ていますか」
琉は、少し考えてから答えた。
「わかりません。でも、一つだけ言えることがあります」
「それは」
「私たちには、選択肢がある。滅びるか、進化するか。そして、その選択は、私たち全員が下すものです」
会場は、静まり返った。
「守護者は言いました。知識は力だと。でも、その力をどう使うかは、私たち次第だと」
琉は続けた。
「私は、信じています。人類は、賢明な選択ができると」
拍手が起きた。
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それから十年。
人類は、守護者の知識を基に、急速に発展した。
火星の地球化が完了した。
不治の病が次々と治癒された。
エネルギー問題が解決された。
だが、同時に、新たな問題も起きた。
技術格差による社会の分断。
倫理観の崩壊。
新たな紛争の火種。
人類は、まだ完璧ではなかった。
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琉は、再び宇宙に出た。
今度は、新しい探査船「ニューホライゾン」の船長として。
目的地は、さらに遠い銀河。
そこにも、守護者のような存在がいるかもしれない。
そして、もっと多くの知識が得られるかもしれない。
琉は、ワクワクしていた。
宇宙は、まだまだ広い。
未知のものが、無限にある。
それを探求することが、琉の生きがいだった。
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ニューホライゾンは、地球を離れた。
次の目的地へ向かって。
琉は、窓から地球を見つめた。
青く美しい星。
人類の故郷。
「また帰ってくるよ」
琉は呟いた。
そして、前を向いた。
宇宙の果てへ。
新たな発見へ。
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数カ月後、ニューホライゾンはある星系で、奇妙な現象を観測した。
時空の歪み。
まるで、ブラックホールのような。
だが、ブラックホールではない。
何か別のものだった。
「あれは、ワームホールか」
琉が呟いた。
「可能性があります」
新しい副船長、葉山翼が答えた。
「接近してみよう」
琉が命じた。
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ニューホライゾンは、ワームホールに近づいた。
その瞬間、強烈な引力に捕らえられた。
「まずい、引き込まれる」
翼が叫んだ。
「エンジン全開」
琉が命じたが、間に合わなかった。
ニューホライゾンは、ワームホールに吸い込まれた。
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琉たちの意識は、一瞬途切れた。
そして、気がつくと、全く別の場所にいた。
見たことのない星系。
見たことのない星々。
「ここは、どこだ」
琉が呟いた。
その時、通信装置が反応した。
メッセージが届いていた。
「ようこそ、旅人たちよ。あなたたちは、新たな銀河に到達した」
声は、守護者に似ていた。
だが、少し違う。
「私は、別の守護者。この銀河の記録を保管する存在」
琉たちは、驚いた。
「守護者は、複数いるのか」
「そう。各銀河に、一体ずつ。私たちは、全てつながっている」
琉は、理解した。
宇宙には、無数の銀河がある。
そして、各銀河に守護者がいる。
彼らは、宇宙全体の知識を共有している。
「あなたたちに、新たな贈り物をしよう」
守護者が言った。
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琉たちは、再び図書館のような空間に転送された。
だが、今度は前回よりも遥かに巨大だった。
無数の光の粒。
いや、光の海。
「これは、宇宙の記憶」
守護者が言った。
「全ての銀河、全ての文明、全ての存在の記録。宇宙誕生から現在まで、全てがここにある」
琉たちは、言葉を失った。
これは、想像を絶する規模だった。
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琉は、一つの光の粒に触れた。
そこには、ある文明の記録があった。
彼らは、宇宙そのものを創造する技術を開発していた。
新しい宇宙を作り出し、そこに移住する。
琉は、震えた。
「これが、進化の最終形態か」
「いや、これもまだ途中だ」
守護者が答えた。
「進化に、終わりはない。常に、次がある」
琉は、深く頷いた。
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琉たちは、数時間その空間で過ごした。
無数の知識を吸収した。
そして、元の船に戻った。
「これを、地球に持ち帰ろう」
琉が言った。
「でも、帰れるのか」
翼が尋ねた。
「帰れる。守護者が道を示してくれる」
琉は確信していた。
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ニューホライゾンは、守護者の導きで、再びワームホールを通過した。
そして、元の銀河に戻った。
地球への帰路についた。
琉は、窓から宇宙を見つめた。
宇宙は、想像以上に広大だった。
そして、想像以上に神秘的だった。
「俺たちは、まだまだ知らないことだらけだ」
琉は呟いた。
「でも、それがいい。だから、探求し続けられる」
琉の目は、輝いていた。
宇宙探査は、琉の人生そのものだった。
そして、それは、これからも続いていく。
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地球に帰還した琉は、再び英雄として迎えられた。
だが、琉は既に次の探査を考えていた。
宇宙には、まだまだ未知の領域がある。
まだまだ発見がある。
それを探すことが、琉の使命だった。
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ある夜、琉は空を見上げた。
星々が輝いている。
その一つ一つが、太陽かもしれない。
そして、その周りに、惑星があるかもしれない。
そこに、生命がいるかもしれない。
琉は、ワクワクした。
宇宙は、無限の可能性に満ちている。
そして、人類は、その可能性を探求し続ける。
琉は、そう信じていた。
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翌日、琉は新しいプロジェクトの会議に出席した。
次の探査船の計画。
目的地は、アンドロメダ銀河。
人類が初めて、別の銀河に到達する。
琉は、その船長に任命された。
「また、宇宙に行けるのか」
琉は嬉しかった。
宇宙探査は、琉にとって、全てだった。
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そして、五年後。
新しい探査船「オデッセイ」が完成した。
琉は、再び船長として宇宙に旅立った。
目的地は、アンドロメダ銀河。
そこには、何があるのか。
誰にもわからない。
だが、それがいい。
未知を探求することが、人類の本能だから。
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オデッセイは、地球を離れた。
アンドロメダ銀河へ向かって。
琉は、窓から地球を見つめた。
また会おう、地球。
また帰ってくるよ。
琉は、そう誓った。
そして、前を向いた。
銀河の果てへ。
新たな冒険へ。
琉の旅は、まだまだ続いていく。
宇宙と共に。
永遠に。




