【ポストアポカリプス】十八時間後の世界
2134年。世界は、些細な諍いから崩壊した。
それは、ある小さな島の領有権を巡る問題だった。二つの国が、その島を自国の領土だと主張した。最初は外交交渉だった。だが、交渉は決裂し、経済制裁が始まった。そして、軍事的緊張が高まった。
一発の銃声が、すべてを変えた。
国境付近で、兵士同士が衝突した。死者が出た。両国は、互いを非難した。そして、戦争が始まった。
最初は、局地的な紛争だった。だが、両国には同盟国があった。同盟国は、条約に基づいて参戦した。そして、さらに多くの国が巻き込まれた。
わずか三ヶ月で、紛争は世界大戦へと発展した。
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天城陽介は、その日も普通に会社へ向かっていた。
陽介は三十五歳のサラリーマンだった。地方の小さな町で、平凡な日々を送っていた。結婚はしていない。恋人もいない。ただ、毎日仕事をして、家に帰り、テレビを見て眠る。それが陽介の人生だった。
その日、陽介は地下鉄に乗っていた。スマートフォンでニュースを見ていた。
「世界情勢、さらに悪化。各国、軍事兵器の開発を加速」
陽介は、ため息をついた。
最近、ニュースは戦争の話ばかりだった。だが、陽介の町は平和だった。戦争は、遠い場所で起きている出来事のように思えた。
その時、地下鉄が急停止した。
アナウンスが流れた。
「緊急事態です。全員、最寄りの地下シェルターに避難してください」
陽介は、困惑した。
「地下シェルター、って」
周りの乗客も、同じように困惑していた。
駅員が現れた。
「皆さん、落ち着いてください。政府からの緊急通達です。直ちに地下シェルターに避難してください」
「何が起きているんですか」
誰かが尋ねた。
駅員は、青ざめた顔で答えた。
「核攻撃の、可能性があるそうです」
乗客たちは、パニックになった。
陽介も、震えた。
核攻撃。それは、冗談ではなかった。
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陽介は、駅員の指示に従って地下シェルターに避難した。
シェルターは、駅の地下深くにあった。古い施設で、冷戦時代に作られたものらしい。
シェルターには、多くの人々が避難していた。皆、不安そうな顔をしていた。
陽介は、壁に寄りかかって座った。スマートフォンを見たが、電波が届かなかった。
時間だけが、過ぎていった。
どれくらい経ったのだろうか。
突然、地面が揺れた。
激しい揺れだった。シェルターの天井から、埃が落ちてきた。人々が叫んだ。
陽介は、壁にしがみついた。
揺れは、長く続いた。
やがて、揺れが止まった。
シェルター内は、静まり返った。
誰かが呟いた。
「始まったのか」
陽介は、何も言えなかった。
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それから、時間の感覚がなくなった。
シェルター内には、時計があった。だが、陽介は時計を見る気になれなかった。
人々は、恐怖に怯えていた。子供が泣き、大人が祈っていた。
陽介は、ただ座っていた。何も考えられなかった。
何度も、揺れがあった。
爆発の音が、遠くから聞こえた。
世界が、終わろうとしていた。
陽介は、自分の人生を振り返った。
平凡な人生だった。特別なことは何もなかった。恋もした。だが、うまくいかなかった。仕事も、特に成功したわけではなかった。
こんな人生で、終わるのか。
陽介は、笑った。
笑うしかなかった。
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十八時間後、揺れが止まった。
シェルターのスピーカーから、アナウンスが流れた。
「外部の放射線量が、安全基準を下回りました。退避可能です」
人々は、顔を見合わせた。
誰も、動かなかった。
外に出るのが、怖かった。
だが、やがて一人の男が立ち上がった。
「俺は、出る」
男は、シェルターの出口へと向かった。
他の人々も、それに続いた。
陽介も、立ち上がった。
そして、外へと向かった。
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陽介が地上に出ると、世界は変わっていた。
空は、灰色だった。太陽は見えなかった。厚い雲が、空を覆っていた。
建物は、崩れていた。かつて高層ビルだったものは、今や瓦礫の山だった。
街は、静かだった。車の音も、人の声も聞こえなかった。ただ、風が吹いているだけだった。
陽介は、その光景を見て、呆然とした。
世界は、本当に終わったのだ。
陽介の隣に、一人の女性が立った。
「信じられない」
女性は呟いた。
陽介は、女性を見た。三十代くらいだろうか。長い髪を一つに束ねていた。
「あなたも、シェルターに」
「ええ」
女性は頷いた。
「柳生美波と言います」
「天城陽介です」
二人は、黙って街を見つめた。
やがて、美波が言った。
「これから、どうするんでしょう」
「分かりません」
陽介は正直に答えた。
「ただ、生き延びるしかないと思います」
美波は、頷いた。
「そうですね」
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陽介と美波は、シェルターの周辺を探索した。
他の生存者たちも、同じように探索していた。
食料を探す者。水を探す者。家族を探す者。
陽介は、近くのコンビニに入った。だが、店内は荒らされていた。棚には、何も残っていなかった。
「駄目ですね」
美波が言った。
「ええ」
陽介は、店を出た。
その時、一人の男が陽介に声をかけてきた。
「おい、あんたら」
男は、大柄だった。作業服を着ていた。
「何ですか」
「俺は、椿大地。同じシェルターにいた」
陽介は、大地を思い出した。確かに、シェルターで見かけた顔だった。
「天城です。こちらは柳生さん」
「よろしく」
大地は、手を差し伸べた。
陽介は、大地の手を握った。
「大地さん、これからどうするつもりですか」
「俺は、生き残る」
大地は力強く言った。
「この状況でも、人間は生きられる。そのためには、協力しなきゃならない」
「協力」
「ああ。一人じゃ、無理だ。だから、俺たちで協力して、生き延びるんだ」
陽介は、大地の言葉に頷いた。
「その通りですね」
「なら、一緒に来い。俺は、生存者を集めてる」
陽介と美波は、大地について行った。
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大地は、陽介たちを廃墟の中のビルに案内した。
そこには、既に何人かの生存者がいた。老人、若者、子供。様々な人々がいた。
「ここが、俺たちの拠点だ」
大地が言った。
「まだ水道が生きてる。地下に貯水タンクがあるんだ」
「食料は」
「近くの倉庫に、缶詰がある。放射能の影響を受けてないやつだ」
大地は、陽介たちに部屋を案内した。
「ここで、休んでくれ。明日から、仕事を分担する」
陽介は、部屋に入った。小さな部屋だったが、清潔だった。
陽介は、ベッドに横になった。
そして、初めて泣いた。
世界は、終わった。
だが、自分は生きている。
それが、嬉しいのか悲しいのか、陽介には分からなかった。
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翌朝、陽介は目を覚ました。
窓の外は、相変わらず灰色だった。
陽介は、食堂へ向かった。そこでは、生存者たちが朝食を取っていた。
缶詰のスープと、乾パン。それが、朝食だった。
陽介は、美波の隣に座った。
「おはようございます」
「おはよう」
美波は、疲れた顔をしていた。
「昨夜は、眠れましたか」
「いいえ」
美波は首を横に振った。
「悪夢ばかり見ました」
陽介は、何も言えなかった。
大地が、立ち上がった。
「みんな、聞いてくれ」
生存者たちが、大地を見た。
「俺たちは、これから生き延びなきゃならない。そのためには、仕事を分担する必要がある」
大地は、紙を取り出した。
「水の確保。食料の調達。警備。医療。それぞれの仕事に、人を割り振る」
生存者たちは、黙って聞いていた。
「まず、水の確保だが」
大地は、数人を指名した。
「次に、食料の調達」
陽介も、指名された。
「天城、お前は食料班だ」
「分かりました」
陽介は頷いた。
こうして、陽介たちの新しい生活が始まった。
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それから一週間が経った。
陽介たちは、廃墟の中で生活をしていた。
毎日、食料を探し、水を確保し、生き延びていた。
ある日、陽介は美波と共に食料を探しに出かけた。
廃墟の中を歩いていると、陽介は奇妙な光景を目にした。
瓦礫の上に、一人の男が立っていた。男はスーツを着て、マイクを持っていた。
そして、周りには人々が集まっていた。
「皆さん、聞いてください」
男は、声を張り上げた。
「私は、かつて国会議員だった鷺宮官兵衛です」
陽介は、立ち止まった。
鷺宮は、続けた。
「私は、この混乱を収めるために、新政府を立ち上げました」
「新政府、だと」
陽介は呟いた。
「我々は、秩序を取り戻します。そのために、皆さんの協力が必要です」
鷺宮は、人々を見渡した。
「まず、税金を納めてください」
陽介は、耳を疑った。
「税金、だと」
美波も、驚いた表情をしていた。
「世界が滅んだのに、税金を取るんですか」
鷺宮は、真面目な顔で答えた。
「もちろんです。政府を運営するには、資金が必要です」
「何を言っているんだ」
群衆の中から、誰かが叫んだ。
「政府なんて、もう必要ない」
「いいえ」
鷺宮は、きっぱりと言った。
「政府がなければ、社会は成り立ちません。我々は、秩序を守らなければならないのです」
陽介は、呆れた。
世界が終わったのに、まだ政治をやろうとしている。
陽介は、美波を促して、その場を離れた。
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拠点に戻ると、陽介は大地に鷺宮のことを話した。
「新政府、だと」
大地は、笑った。
「馬鹿げてる」
「でも、本気みたいです」
「放っておけ」
大地は手を振った。
「どうせ、長続きしない」
だが、陽介の予想に反して、鷺宮の新政府は徐々に勢力を拡大していった。
鷺宮は、生存者たちに秩序と安全を約束した。そして、多くの人々がそれに従った。
陽介は、不思議に思った。
なぜ、人々は鷺宮に従うのか。
美波が、答えた。
「人は、秩序を求めるんです」
「秩序、ですか」
「ええ。混乱の中では、何かにすがりたくなる。政府という名前だけでも、安心感を与えるんです」
陽介は、納得した。
人間は、どんな状況でも変わらない。
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それから数週間後、陽介たちの拠点に、鷺宮の使者が現れた。
「天城陽介さんですね」
使者は、書類を持っていた。
「はい」
「新政府からの通達です。あなたの拠点は、新政府の管轄下に入りました。つきましては、税金を納めていただきます」
陽介は、書類を見た。
そこには、食料、水、労働力の提供を求める内容が書かれていた。
「これは、冗談ですか」
「いいえ、本気です」
使者は、真顔で答えた。
「新政府は、秩序を守るために活動しています。そのためには、皆さんの協力が必要です」
「秩序、ね」
陽介は、書類を返した。
「お断りします」
「それは、できません」
使者は、冷たく言った。
「もし従わない場合、強制執行を行います」
「強制執行、だと」
大地が、割って入った。
「お前ら、何様のつもりだ」
「我々は、政府です」
使者は、動じなかった。
「政府には、法を執行する権利があります」
「法、だと」
大地は、笑った。
「世界が滅んだのに、まだ法があると思ってるのか」
「もちろんです」
使者は、きっぱりと言った。
「法がなければ、人間は獣と同じです」
陽介は、ため息をついた。
この男は、本気で言っているのだ。
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結局、陽介たちは新政府の要求を拒否した。
だが、それから数日後、新政府の警備隊が拠点にやってきた。
彼らは、武装していた。瓦礫から作った槍や、拾った銃を持っていた。
「天城陽介、出てこい」
警備隊のリーダーが叫んだ。
陽介は、外に出た。
「何の用ですか」
「税金を納めなかったな」
「ええ」
「なら、強制的に徴収する」
警備隊は、拠点の中に入ろうとした。
大地が、立ちはだかった。
「入るな」
「どけ」
「嫌だ」
大地は、槍を構えた。
警備隊のリーダーも、槍を構えた。
一触即発の状況だった。
その時、陽介が叫んだ。
「待ってください」
陽介は、リーダーに近づいた。
「話し合いましょう」
「話し合い、だと」
「ええ。暴力では、何も解決しません」
リーダーは、迷った。
やがて、リーダーが言った。
「分かった。鷺宮様と話をしろ」
陽介は、頷いた。
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陽介は、新政府の本部に連れて行かれた。
本部は、かつて市役所だった建物だった。建物は半壊していたが、まだ使える状態だった。
陽介は、鷺宮の部屋に案内された。
鷺宮は、机に座っていた。机の上には、書類が山積みになっていた。
「天城陽介さんですね」
「はい」
「私は、鷺宮官兵衛。新政府の代表です」
鷺宮は、陽介に椅子を勧めた。
「座ってください」
陽介は、座った。
「鷺宮さん、なぜ税金を取るんですか」
「政府を運営するためです」
鷺宮は、当然のように答えた。
「警備隊を維持し、インフラを整備し、人々を守る。そのためには、資金が必要です」
「でも、お金なんてもう意味がないでしょう」
「いいえ」
鷺宮は首を横に振った。
「お金がなくても、物々交換があります。食料、水、労働力。それらを集めて、分配する。それが、政府の役割です」
陽介は、黙った。
鷺宮は、続けた。
「天城さん、あなたは政府を馬鹿にしていますね」
「いいえ」
「嘘をつかないでください」
鷺宮は、鋭い目で陽介を見た。
「あなたは、政府なんて必要ないと思っている」
陽介は、正直に答えた。
「ええ、そう思います」
「なぜです」
「だって、政府が世界を滅ぼしたんですから」
陽介は言った。
「政治家たちが権力を争い、戦争を始めた。その結果が、これです」
鷺宮は、黙った。
やがて、鷺宮が口を開いた。
「その通りです」
「え」
「あなたの言う通り、政府が世界を滅ぼしました」
鷺宮は、俯いた。
「私も、その一人です。私は、国会議員として、戦争を止められなかった」
陽介は、鷺宮の表情を見た。
そこには、後悔があった。
「だからこそ、私は新政府を作ったんです」
鷺宮は、陽介を見た。
「もう一度、やり直すために」
「やり直す、ですか」
「ええ。今度は、失敗しない。秩序を守り、人々を守る。それが、私の贖罪です」
陽介は、何も言えなかった。
鷺宮は、立ち上がった。
「天城さん、協力してください」
「でも」
「お願いします」
鷺宮は、頭を下げた。
陽介は、驚いた。
かつての国会議員が、頭を下げている。
陽介は、迷った。
そして、答えた。
「条件があります」
「何ですか」
「税金ではなく、協力という形にしてください。強制ではなく、自発的に」
鷺宮は、考えた。
やがて、鷺宮が頷いた。
「分かりました」
---
それから、陽介たちの拠点は新政府と協力関係を結んだ。
陽介たちは、食料や水を提供し、新政府は警備や医療を提供した。
だが、陽介は新政府を完全には信用していなかった。
ある日、陽介は美波に言った。
「鷺宮は、本気で世界を立て直そうとしている」
「そうですね」
「でも、それは可能なんでしょうか」
美波は、首を傾げた。
「分かりません。でも、試してみる価値はあると思います」
陽介は、頷いた。
そして、空を見上げた。
相変わらず、空は灰色だった。
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それから数ヶ月が経った。
新政府は、徐々に勢力を拡大していった。多くの生存者が、新政府の下に集まった。
だが、問題も起きていた。
新政府の内部で、権力闘争が始まっていた。鷺宮の側近たちが、互いに争っていた。
陽介は、それを聞いて呆れた。
人間は、本当に変わらない。
ある日、陽介は街を歩いていると、奇妙な光景を目にした。
瓦礫の上に、簡素な教会が建てられていた。そして、そこには多くの人々が集まっていた。
陽介は、教会に近づいた。
中では、一人の男が説教をしていた。
「皆さん、聞いてください」
男は、白い服を着ていた。
「私は、柏木悟。神の使いです」
陽介は、眉をひそめた。
「この世界の終わりは、神の裁きでした」
柏木は、声を張り上げた。
「人間は、傲慢でした。戦争を繰り返し、地球を汚しました。だから、神は人間を罰したのです」
人々は、頷いていた。
「だが、神は慈悲深い」
柏木は、両手を広げた。
「我々に、もう一度チャンスを与えてくださった。だから、我々は神に感謝し、祈らなければなりません」
陽介は、教会を出た。
美波が、陽介の隣に立った。
「また、宗教ですか」
「ええ」
陽介は、ため息をついた。
「人は、神にすがるんですね」
「不安だからです」
美波は言った。
「未来が見えない。だから、何かを信じたくなる」
陽介は、頷いた。
人間は、本当に愚かだ。
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それから、さらに数ヶ月が経った。
新政府は、巨大な組織になっていた。だが、内部の腐敗も進んでいた。
鷺宮の側近たちは、賄賂を受け取り、権力を乱用していた。
陽介は、鷺宮に会いに行った。
「鷺宮さん、これではいけません」
「何がです」
「あなたの側近たちが、腐敗しています」
鷺宮は、黙った。
陽介は、続けた。
「このままでは、また同じことを繰り返します」
「分かっています」
鷺宮は、疲れた顔で答えた。
「でも、どうすればいいのか分からないんです」
「側近を解任してください」
「できません」
鷺宮は首を横に振った。
「彼らがいなければ、政府は回りません」
陽介は、呆れた。
「それでは、意味がないじゃないですか」
「分かっています」
鷺宮は、俯いた。
「でも、私には力がないんです」
陽介は、何も言えなかった。
鷺宮は、ただの人間だった。完璧ではなかった。
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陽介は、拠点に戻った。
大地が、陽介を迎えた。
「どうだった」
「駄目でした」
陽介は、首を横に振った。
「鷺宮さんは、もう限界です」
「そうか」
大地は、腕を組んだ。
「なら、俺たちはどうする」
「分かりません」
陽介は、正直に答えた。
「ただ、新政府に頼るのは危険だと思います」
「じゃあ、独立するか」
「独立、ですか」
「ああ。俺たちだけで、生きていく」
陽介は、考えた。
それも、一つの選択肢だった。
だが、その時、美波が言った。
「でも、それでは何も変わりません」
「え」
「私たちが独立しても、他の人々は新政府に従い続けます。そして、新政府は腐敗し続けます」
美波は、陽介と大地を見た。
「私たちが、変えなければならないんです」
「どうやって」
「新しいシステムを作るんです」
美波は、言った。
「政府でも、宗教でもない。人々が自主的に協力するシステムを」
陽介は、美波の言葉に驚いた。
「それは、可能なんですか」
「分かりません」
美波は、微笑んだ。
「でも、試してみる価値はあると思います」
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陽介たちは、新しいコミュニティを作ることにした。
それは、政府のような強制力もなく、宗教のような盲信もない。ただ、人々が自発的に協力するコミュニティだった。
陽介たちは、生存者たちに呼びかけた。
「私たちと一緒に、新しい社会を作りませんか」
最初は、誰も信じなかった。
だが、少しずつ賛同者が増えていった。
新政府に失望した人々。宗教に疑問を持った人々。そして、ただ平和に暮らしたい人々。
彼らが、陽介たちのコミュニティに加わった。
コミュニティは、民主的に運営された。重要な決定は、全員で話し合って決めた。
食料は、平等に分配された。仕事も、能力に応じて分担された。
それは、理想的なシステムだった。
だが、問題もあった。
話し合いには、時間がかかった。意見の対立もあった。時には、喧嘩になることもあった。
だが、陽介たちは諦めなかった。
少しずつ、コミュニティは成長していった。
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それから一年が経った。
陽介たちのコミュニティは、数百人の規模になっていた。
彼らは、農業を始めていた。放射能の影響が少ない土地を見つけ、そこで作物を育てた。
最初は、うまくいかなかった。作物は育たず、収穫はゼロだった。
だが、試行錯誤を繰り返し、やがて成功した。
小さな畑だったが、そこからトマトやジャガイモが収穫できた。
人々は、喜んだ。
久しぶりに、新鮮な野菜を食べることができた。
陽介も、喜んだ。
世界は終わったが、人間はまだ生きている。
そして、未来を作ることができる。
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ある日、鷺宮が陽介のコミュニティを訪れた。
鷺宮は、やつれていた。以前の威厳は、もうなかった。
「天城さん」
「鷺宮さん」
陽介は、鷺宮を迎えた。
「お久しぶりです」
「ええ」
鷺宮は、コミュニティを見回した。
「立派なコミュニティですね」
「ありがとうございます」
「私の新政府は、崩壊しました」
鷺宮は、俯いた。
「側近たちが、私を追い出したんです」
陽介は、何も言えなかった。
「私は、失敗しました」
鷺宮は、涙を流した。
「もう一度やり直そうとしたのに、また失敗した」
陽介は、鷺宮の肩に手を置いた。
「鷺宮さん、まだ終わりじゃありません」
「え」
「ここで、一緒に暮らしませんか」
陽介は、言った。
「新しい生活を、始めましょう」
鷺宮は、陽介を見た。
そして、頷いた。
「ありがとう、天城さん」
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それから、鷺宮はコミュニティの一員になった。
彼は、もう政治家ではなかった。ただの一人の生存者だった。
鷺宮は、畑仕事をした。慣れない仕事だったが、一生懸命働いた。
ある日、陽介は鷺宮と一緒に畑で働いていた。
「鷺宮さん、今はどうですか」
「楽しいです」
鷺宮は、笑った。
「政治家の時より、ずっと楽しい」
「そうですか」
「ええ。あの時は、常に権力を争っていました。でも、今は違う。ただ、作物を育て、人々と話す。それだけで幸せです」
陽介は、微笑んだ。
「良かったです」
二人は、黙って作物を育てた。
空は、相変わらず灰色だった。
だが、陽介には、その空が少しだけ明るく見えた。
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それから数年が経った。
陽介たちのコミュニティは、さらに成長していた。
彼らは、学校を作った。子供たちに、読み書きを教えた。
彼らは、病院を作った。怪我人や病人を治療した。
彼らは、図書館を作った。かつての世界の知識を、保存した。
少しずつ、文明が戻りつつあった。
だが、陽介は知っていた。
これは、かつての文明とは違う。
新しい文明だった。
人々が、互いに助け合う文明。
権力や金ではなく、信頼と協力で成り立つ文明。
それが、陽介たちが作ろうとしている世界だった。
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ある日、陽介は美波と一緒に丘の上に登った。
そこからは、コミュニティ全体が見渡せた。
「大きくなりましたね」
美波が言った。
「ええ」
陽介は頷いた。
「最初は、数人だったのに」
「これからも、成長していくでしょう」
「そうですね」
陽介は、空を見上げた。
空は、以前より明るくなっていた。灰色の雲が、少しずつ薄くなっていた。
「いつか、青空が戻るでしょうか」
「分かりません」
美波は、答えた。
「でも、いつか戻ると信じています」
陽介は、微笑んだ。
「そうですね」
二人は、丘の上に座った。
そして、黙ってコミュニティを見つめた。
世界は、終わった。
だが、人間は生きている。
そして、未来を作っている。
それが、十八時間後の世界だった。
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数十年後、陽介は老人になっていた。
コミュニティは、小さな町になっていた。数千人が暮らし、農業や工業が発展していた。
陽介は、ベンチに座っていた。隣には、美波がいた。美波も、老いていた。
「長生きしましたね」
美波が言った。
「ええ」
陽介は笑った。
「まさか、ここまで生きるとは思いませんでした」
「私もです」
二人は、笑い合った。
その時、一人の少年が走ってきた。
「陽介おじいちゃん」
「どうした」
「見て、青空だよ」
少年は、空を指差した。
陽介は、空を見上げた。
そこには、青い空が広がっていた。
雲が晴れ、太陽が輝いていた。
陽介は、涙を流した。
「戻ったんだ」
美波も、涙を流していた。
「ええ、戻りました」
二人は、抱き合った。
そして、空を見つめた。
世界は、終わった。
だが、人間は諦めなかった。
そして、新しい世界が、始まったのだ。
---
陽介が死ぬ時、彼は満足していた。
自分の人生は、平凡だった。だが、世界が終わった後、陽介は新しい世界を作った。
それは、小さな世界だった。だが、そこには希望があった。
陽介は、目を閉じた。
そして、静かに息を引き取った。
陽介の葬儀には、多くの人が集まった。
人々は、陽介を悼んだ。
そして、陽介が作った世界を、守ることを誓った。
陽介の墓には、こう刻まれた。
「天城陽介。新しい世界の創始者」
それは、陽介にとって最高の称号だった。
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それから百年が経った。
かつて陽介が作ったコミュニティは、大きな都市になっていた。
人々は、平和に暮らしていた。
戦争のない世界。権力争いのない世界。
それが、陽介が夢見た世界だった。
ある日、歴史の授業で、教師が子供たちに語った。
「百年前、世界は終わりました。核戦争により、文明は崩壊しました」
子供たちは、真剣に聞いていた。
「だが、人間は諦めませんでした。天城陽介という男が、新しい世界を作りました」
教師は、陽介の写真を見せた。
「彼は、権力や金ではなく、信頼と協力で社会を作りました。それが、今の私たちの社会の基盤です」
子供たちは、陽介の写真を見つめた。
「皆さん、覚えておいてください。人間は、どんな状況でも希望を持てば、未来を作ることができるのです」
子供たちは、頷いた。
そして、授業は終わった。
教室の窓から、青空が見えた。
雲一つない、美しい青空だった。
世界は、終わった。
だが、人間は生き延びた。
そして、新しい世界を作った。
それが、十八時間後の世界の、物語だった。




