【不思議系】夢現の男
鷹取夢人は、夢を見た。
それは、宝くじに当たる夢だった。夢の中で、夢人は一等に当選し、莫大な金を手にした。
翌朝、夢人は目を覚ました。そして、いつものようにコンビニで宝くじを買った。
数日後、当選発表があった。
夢人の番号が、一等だった。
夢人は驚いた。
その後も夢人が見た夢は正夢になった。
夢人は確信した。
自分には、夢を現実にする能力があるのだと。
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それから、夢人は様々な夢を見た。
好きな女性と付き合う夢。昇進する夢。豪邸に住む夢。
そして、そのすべてが現実になった。
夢人は幸せだった。自分の人生は、思い通りに進んでいた。
ある日、夢人はカフェで一人の女性と出会った。
霧島柚葉。柔らかい笑顔を持つ、優しい女性だった。
夢人は柚葉に一目惚れした。そして、その夜、夢を見た。
柚葉と恋人になる夢。二人で笑い合い、手を繋ぎ、幸せな時間を過ごす夢。
数日後、夢人は再び柚葉と会った。そして、自然な流れで二人は付き合うことになった。
夢人は喜んだ。能力のおかげで、理想の恋人を手に入れたのだ。
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柚葉との日々は、幸せだった。
二人はデートを重ね、やがて結婚した。夢人は、夢で見た通りの幸せな結婚生活を送った。
だが、ある夜、夢人は悪夢を見た。
柚葉が、交通事故で死ぬ夢だった。
夢の中で、柚葉は横断歩道を渡っていた。そこに、暴走する車が突っ込んできた。柚葉は跳ね飛ばされ、血を流して倒れた。
夢人は叫んだ。だが、夢の中の夢人は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
夢人は目を覚ました。全身が汗でびっしょりだった。
隣で、柚葉が眠っていた。穏やかな寝顔だった。
夢人は震えた。
これまで見た夢は、すべて現実になってきた。
ならば、この悪夢も、現実になるのか。
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翌朝、夢人は柚葉に言った。
「今日は、外に出ないでくれ」
「どうして」
「頼む。家にいてくれ」
柚葉は不思議そうに夢人を見たが、頷いた。
「分かったわ」
夢人は仕事に行った。だが、一日中、柚葉のことが気になった。
何度も電話をかけ、柚葉が無事であることを確認した。
その日は、何も起きなかった。
夢人は安堵した。だが、次の日も、その次の日も、夢人は柚葉を家に閉じ込めた。
柚葉は次第に不満を抱き始めた。
「夢人、どうしたの。最近、おかしいわ」
「何でもない」
「嘘。私を外に出そうとしない」
夢人は黙った。
柚葉は続けた。
「私、息が詰まりそう。少しくらい、外に出たいわ」
「駄目だ」
夢人は強く言った。
「外は、危険なんだ」
「何が危険なの」
夢人は答えられなかった。
柚葉は悲しそうな顔をした。
「夢人、あなた、私のこと信用していないの」
「そんなことはない」
「じゃあ、なぜ」
夢人は頭を抱えた。
このままでは、柚葉との関係が壊れる。
だが、柚葉を外に出すわけにはいかない。
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それから一週間後、柚葉は我慢の限界に達した。
「もう、無理」
柚葉は荷物をまとめた。
「実家に帰るわ」
「待ってくれ」
夢人は止めようとした。
だが、柚葉は聞かなかった。
「夢人、あなたは私を愛していない。私を檻に閉じ込めて、それが愛だと思っているの」
「違う」
夢人は叫んだ。
「俺は、お前を守りたいだけなんだ」
「何から」
夢人は答えられなかった。
柚葉は玄関を出た。
「さよなら、夢人」
夢人は追いかけようとした。だが、足が動かなかった。
柚葉は階段を降りていった。そして、外に出た。
夢人は窓から柚葉を見た。
柚葉は横断歩道を渡ろうとしていた。
その時、夢人は見た。
暴走する車が、柚葉に向かってくるのを。
夢人は叫んだ。
「柚葉」
だが、間に合わなかった。
車が柚葉を跳ね飛ばした。
柚葉は地面に倒れた。血が流れた。
夢人は階段を駆け下りた。外に飛び出した。
柚葉の元に駆け寄った。
「柚葉、柚葉」
夢人は柚葉を抱きしめた。
だが、柚葉は動かなかった。
救急車が来た。柚葉は運ばれた。
だが、病院に着く前に、柚葉は息を引き取った。
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夢人は、すべてを失った。
柚葉は死んだ。夢で見た通りに。
夢人は自分を責めた。
もっと強く止めるべきだった。柚葉を外に出すべきではなかった。
だが、もう遅かった。
夢人は家に閉じこもった。仕事も辞めた。友人とも会わなくなった。
ただ、柚葉の写真を見つめる日々だった。
夢人は、自分の能力を憎んだ。
なぜ、こんな能力を持ってしまったのか。
なぜ、あんな悪夢を見てしまったのか。
夢人は、もう夢を見たくなかった。
だが、人間は眠らなければ生きられない。
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ある夜、夢人は再び夢を見た。
それは、柚葉が生き返る夢だった。
夢の中で、柚葉が夢人の前に現れた。笑顔で、手を振っていた。
「夢人、久しぶり」
柚葉は言った。
「私、戻ってきたわ」
夢人は涙を流した。
「柚葉」
「ごめんね、心配かけて」
柚葉は夢人を抱きしめた。
だが、夢人は気づいた。
柚葉の体が、冷たい。
そして、柚葉の目に、光がない。
夢人は恐怖した。
これは、本当の柚葉ではない。
夢人は目を覚ました。
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翌朝、玄関のチャイムが鳴った。
夢人はドアを開けた。
そこには、柚葉が立っていた。
夢人は固まった。
「柚葉」
「ただいま、夢人」
柚葉は笑った。
だが、その笑顔は、どこかおかしかった。
夢人は後ずさった。
「お前は、誰だ」
「私よ、柚葉」
柚葉は部屋に入ってきた。
「どうしたの、夢人。私のこと、忘れたの」
「お前は、死んだはずだ」
「死んでないわ。ほら、こうして生きているでしょう」
柚葉は夢人の手を取った。
その手は、冷たかった。
夢人は叫んだ。
「お前は、柚葉じゃない」
「違うわ。私は柚葉よ」
柚葉は夢人を見つめた。
その目は、空虚だった。
夢人は理解した。
これは、夢が作り出した偽物だった。
本当の柚葉は、もういない。
これは、ただの幻影だ。
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それから、夢人は偽物の柚葉と暮らした。
柚葉は、以前と同じように振る舞った。料理を作り、笑い、夢人と会話をした。
だが、何かが違った。
柚葉の笑顔には、温もりがなかった。柚葉の言葉には、感情がなかった。
夢人は、次第に狂っていった。
これは本物の柚葉なのか。それとも、偽物なのか。
夢人には、分からなくなっていった。
ある日、夢人は友人の久我翔太に会った。
翔太は夢人を見て、驚いた。
「夢人、お前、やつれているな」
「ああ」
「大丈夫か」
夢人は黙った。
翔太は続けた。
「柚葉さんのこと、聞いたよ。辛かっただろう」
夢人は翔太を見た。
「柚葉は、死んだのか」
「ああ。葬式にも出ただろう」
夢人は震えた。
「でも、柚葉は今、俺の家にいる」
翔太は困惑した。
「何を言っているんだ」
「柚葉が、戻ってきたんだ」
「夢人、お前」
翔太は夢人の肩を掴んだ。
「柚葉さんは、死んだんだ。もういないんだ」
夢人は頭を抱えた。
「じゃあ、俺の家にいる柚葉は、何なんだ」
翔太は答えられなかった。
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夢人は家に戻った。
柚葉が、いつものように出迎えた。
「おかえりなさい」
夢人は柚葉を見つめた。
「お前は、誰だ」
「私は、柚葉よ」
「違う」
夢人は叫んだ。
「お前は、俺が夢で作り出した偽物だ」
柚葉は黙った。
やがて、柚葉が口を開いた。
「そうよ。私は、偽物」
柚葉は悲しそうに笑った。
「私は、あなたの夢が作り出した幻影。本当の柚葉は、もういない」
夢人は涙を流した。
「なぜだ。なぜ、こんなことになった」
「あなたが、望んだからよ」
柚葉は言った。
「あなたは、私が生き返ることを望んだ。だから、夢がそれを叶えた」
「でも、お前は偽物だ」
「そうよ。でも、それでもいいでしょう」
柚葉は夢人を抱きしめた。
「私は、あなたを愛している。それだけは、本物よ」
夢人は柚葉を抱きしめ返した。
だが、その体は冷たかった。
夢人は、絶望した。
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それから数ヶ月、夢人は偽物の柚葉と暮らした。
だが、夢人は次第に壊れていった。
偽物と暮らすことに、耐えられなくなっていった。
ある日、夢人は決意した。
もう、夢を見ないようにしよう。
夢人は、眠らなくなった。
コーヒーを飲み、覚醒剤を使い、必死で目を覚まし続けた。
だが、人間は眠らずには生きられない。
三日後、夢人は限界に達した。
夢人は倒れ、眠りに落ちた。
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夢人は、夢を見た。
それは、すべてが元に戻る夢だった。
柚葉が生きている。事故は起きていない。すべてが、幸せだった。
夢の中で、夢人は柚葉と笑い合っていた。
そして、夢人は思った。
これでいいのかもしれない。
夢の中でなら、柚葉と一緒にいられる。
夢人は、夢の中に留まることを選んだ。
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夢人が目を覚ますと、柚葉が隣にいた。
「おはよう、夢人」
柚葉は笑っていた。
夢人は柚葉を見た。
柚葉は、生きていた。事故は、起きていなかった。
夢人は混乱した。
「これは、夢か」
「何を言っているの」
柚葉は不思議そうに夢人を見た。
「夢じゃないわ。現実よ」
夢人は、分からなくなった。
これは現実なのか。それとも、夢なのか。
もしかしたら、夢が現実を作り出したのかもしれない。
あるいは、これもまた、夢が作り出した偽りの現実なのかもしれない。
夢人には、もう判断できなかった。
だが、夢人は決めた。
もう、考えるのをやめよう。
この世界が夢でも、現実でも、どちらでもいい。
柚葉がいるなら、それでいい。
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それから、夢人は柚葉と幸せに暮らした。
二人は笑い合い、愛し合い、穏やかな日々を送った。
だが、時折、夢人は不安になった。
この世界は、本物なのか。
柚葉は、本物なのか。
自分は、本物なのか。
だが、夢人はその疑問を押し殺した。
考えても、答えは出ない。
ならば、このまま生きよう。
夢の中でも、現実でも、どちらでもいい。
夢人は、そう決めた。
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ある日、夢人は翔太に会った。
翔太は夢人を見て、驚いた。
「夢人、お前、元気そうだな」
「ああ」
「柚葉さんとは、うまくいっているのか」
夢人は頷いた。
「ああ。幸せだよ」
翔太は複雑な表情をした。
「そうか」
翔太は何か言いたそうだったが、黙った。
夢人は、翔太の表情が気になった。
だが、聞かなかった。
聞いてしまえば、この世界が壊れるかもしれないから。
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その夜、夢人は柚葉に聞いた。
「柚葉、お前は本物か」
柚葉は微笑んだ。
「それは、あなたが決めることよ」
「どういう意味だ」
「私が本物だと思うなら、私は本物。偽物だと思うなら、偽物」
柚葉は夢人の頬に触れた。
「でも、私の愛は本物よ」
夢人は柚葉を抱きしめた。
「分かった。お前は、本物だ」
柚葉は笑った。
「ありがとう」
二人は抱き合った。
夢人は、もう疑わないことにした。
この世界が夢でも、現実でも、どちらでもいい。
柚葉がいるなら、それでいい。
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それから数年が経った。
夢人と柚葉は、変わらず幸せに暮らしていた。
ある日、夢人は鏡を見た。
そこには、年老いた自分が映っていた。
だが、柚葉は変わらなかった。
柚葉は、若いままだった。
夢人は気づいた。
これは、やはり夢なのだと。
柚葉は、夢が作り出した幻影なのだと。
だが、夢人は何も言わなかった。
もう、どうでもよかった。
夢でも、現実でも、関係なかった。
夢人は、この世界で生きることを選んだ。
柚葉と共に。
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夢人が死ぬ時、柚葉が傍にいた。
「夢人、ありがとう」
柚葉は言った。
「あなたと一緒にいられて、幸せだった」
夢人は微笑んだ。
「俺も、幸せだった」
夢人は目を閉じた。
そして、静かに息を引き取った。
柚葉は、夢人の手を握っていた。
その手は、冷たかった。
柚葉は消えた。
夢が終わったのだ。
そして、夢人も、夢の中で消えていった。
すべてが、夢だった。
だが、夢人にとって、それは幸せな夢だった。




