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世界は静かに壊れている【ショートショート集・短編集】  作者: 御影のたぬき


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【ホラー】線香の本数

父が死んだのは、冬だった。

特別なことは何もなかった。

風邪をこじらせて、肺炎になって、そのまま。

通夜も葬式も普通だった。

親戚が集まり、坊主が来て、

よくある流れで終わった。

違和感が出たのは、その後。

仏壇は、父が生きている頃からあった。

母は毎朝、線香をあげる。

一本だけ。

必ず一本。

ある朝、母が言った。

「昨日、二本あったのよ」

私は、母がボケ始めたのかと思った。

線香が二本立っていたくらいで、

何を言っているんだ、と。

「私、一本しかあげてないの」

そう言って、母は線香立てを覗き込んだ。

その日は、一本だった。

次の日も。

その次の日も。

一週間ほど経った頃、

母がまた言った。

「昨日は、三本あった」

私は少し、嫌な気分になった。

数え間違いだ、と言ったが、

母は首を振った。

「増えてるの」

その日の朝は、

やはり一本だった。

母は、

誰にも言わず、

線香を数えるようになった。

ある日、私も一緒に確認した。

朝、母が線香をあげる。

一本。

夜、帰宅して、

仏壇を見る。

……二本。

確かに、増えていた。

母は、

その日は何も言わなかった。

ただ、

線香を一本、抜いた。

翌朝。

仏壇には、

二本あった。

母は、

三本目をあげなかった。

数日後、

母が言った。

「お父さん、

 帰ってきてる」

理由を聞くと、

母は淡々と答えた。

「生きてたときと、

 同じ数になったから」

父が生きていた頃、

仏壇にあげる線香は二本だった。

一週間後、

三本になった。

母は、

その朝から、

線香をあげなくなった。

「もう、

 足りてる」

夜中、

仏壇の前で、

音がした。

畳が、

ゆっくり沈む音。

朝、

仏壇を見ると、

四本あった。

母は、

その場に座り込んだ。

「来た」

その日から、

母は仏壇の前に座るようになった。

話しかける。

返事をしているように、

頷く。

線香は、

毎朝一本ずつ増えた。

五本。

六本。

私は、

寺に相談しようとした。

母は、

静かに言った。

「今さら、

 名前を呼ぶと、

 増える」

意味は、

聞かなかった。

ある朝、

仏壇には、

七本の線香が立っていた。

その前に、

母が座っていた。

動いていなかった。

医者は、

心不全だと言った。

葬式のあと、

仏壇に戻る。

線香立てには、

八本。

私は、

一本、抜いた。

その夜、

夢を見た。

父と母が、

仏壇の前に座っている。

父が言った。

「数が違う」

母が、

こちらを見た。

「戻しなさい」

目が覚めて、

仏壇を見た。

九本、

きちんと立っていた。

それ以来、

私は線香をあげていない。

数えもしない。

ただ、

増えているのは、

分かる。

減らしたら、

こちらに来る。

それだけは、

分かる。

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