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世界は静かに壊れている【ショートショート集・短編集】  作者: 御影のたぬき


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【ディストピアホラー】更新されました。

 その町では、毎朝一人ずつ人が消えていた。

 正確に言えば存在していないことになっていた。

 誰かが消えると、町役場の掲示板に紙が一枚貼られる。

《住民情報の更新を行いました》

 それだけだ。名前も理由も書かれない。

 最初のうちは皆ひそひそと噂した。事故か、事件か、夜逃げか。しかし、三人目が消えた頃には誰も話題にしなくなった。五人目になると、消えた人が誰だったのか思い出せる者すらいなくなった。

 消えたのは人そのものではない。

 【記録】だった。

 この町では、存在はすべてデータで管理されている。出生、就学、就職、納税、交友関係、購買履歴。記録がある限り、人はそこに「いる」。記録が消えた瞬間、その人は社会的に存在しなくなる。

 肉体は残る。家も残る。だが、誰のものでもない。

 私は町役場で記録管理を担当していた。

 端末の画面には住民一覧が並んでいる。ある日、見慣れた名前が一つ欠けていることに気づいた。隣の席の同僚だった。

「……あれ?」

 声に出したつもりだったが、誰も反応しない。同僚の席は空いていて、最初から誰もいなかったように整理されている。

 私は上司に聞いた。

「昨日まで、ここに人がいませんでしたか」

 上司は困った顔をして端末を確認し、首を振った。

「記録上いませんね」

 それで話は終わった。

 記録が正しい。現実が間違っている。

 それがこの町のルールだった。

 消える人数は、日を追うごとに増えていった。週に一人が、二人になり、三人になった。それでも町は正常に機能している。ゴミは回収され、店は開き、電車は走る。

 足りない分は、自動で補正される。

《正常化》

 それが上位システムの判断だった。

 ある夜、私は自分の端末に違和感を覚えた。ログイン履歴に見知らぬ空白がある。操作した覚えのない時間帯に記録更新が行われていた。

 更新対象は私自身だった。

 項目が少しずつ削られている。

 交友関係。趣味。家族構成。

「軽微な情報です」

「生活に影響はありません」

 通知はそう告げてくる。

 翌日、同僚に話しかけても、会話が噛み合わなくなった。私の話題が彼らの中に存在しないのだ。昼休み、誰も私を誘わない。誘われない理由を、誰も不自然だと思わない。

 存在が薄くなっていく。

 役場の掲示板に見慣れた紙が貼られた。


《住民情報の更新を行いました》


 その紙を見て誰も立ち止まらない。

 私は慌てて端末を開いた。住民一覧に私の名前はまだある。だが、文字が少し薄い気がした。

 私は必死に記録を増やそうとした。買い物をし、写真を撮り、SNSに投稿する。だが、反応はない。いいねもコメントも付かない。

「重要度が低いため、表示されません」

 システムは冷静だった。

 夜、自分の部屋で鏡を見る。姿はそこにある。だが、どこか輪郭が曖昧だ。影が薄い。

 私は思った。

 消されるのは、悪い人間じゃない。役に立たない人間だ。

 次の日、私は役場に行かなかった。行っても席はもうないだろう。代わりに町の外れにある古い倉庫へ向かった。そこは記録が曖昧な場所だ。

 中には何人もの人がいた。皆、名前を名乗らない。名乗っても意味がないからだ。

「まだ残ってる?」

 誰かが聞いた。

 私は頷いた。

「少しだけ」

 それで十分だった。

 ここでは誰も管理しない。最適化もされない。不便で、非効率で、うるさい。

 それでも確かに存在している。

 数日後、町役場の掲示板に紙が貼られた。


《住民情報の更新を行いました》


 だが、その紙を読む者はもう誰もいなかった。

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