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世界は静かに壊れている【ショートショート集・短編集】  作者: 御影のたぬき


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【ホラー】乗客

 最後の乗客

 深夜の地下鉄。

 終電に乗った。

 車両には、僕一人だけ。

 ガラガラだった。


「次は、中央駅、中央駅です」

 アナウンスが流れる。

 電車が止まった。

 ドアが開く。

 誰も乗ってこない。

 ドアが閉まる。

 電車が動き出した。

「次は、西口駅、西口駅です」

 また止まった。


 ドアが開く。

 今度は、一人の老婆が乗ってきた。

「こんばんは」

 老婆が、僕の向かいに座った。

「こんばんは...」

 老婆は、じっと僕を見ていた。

「あなた、どこまで?」

「終点まで...」

「そう」

 老婆が微笑んだ。

「私も」 


 電車が次の駅に着いた。

「次は、東口駅、東口駅です」

 ドアが開く。

 今度は、サラリーマンが乗ってきた。

「...」

 サラリーマンは、何も言わずに座った。

 そして、スマホを見始めた。

 次の駅。


「次は、南口駅、南口駅です」

 若い女性が乗ってきた。

 無言で、隅の席に座った。

 次の駅。


「次は、北口駅、北口駅です」

 学生が乗ってきた。

 無言で、ドアの近くに立った。


 おかしい。

 乗客が増えているのに、誰も降りない。

 みんな、終点まで行くのか?

 そして、気づいた。

 乗客の全員が、僕を見ている。

 老婆も、サラリーマンも、女性も、学生も。

 じっと、僕を見つめている。


「...何ですか?」

 誰も答えない。

 ただ、見つめ続ける。

 次の駅に着いた。

「次は、終点、終点です」

 ドアが開いた。

 でも、誰も降りない。


「終点ですよ...?」

 老婆が立ち上がった。

「ええ、終点ね」

 サラリーマンも、女性も、学生も、立ち上がった。

 そして、全員が僕の方に歩いてきた。


「ちょ、ちょっと...」

 逃げようとした。

 でも、ドアが閉まった。

「なんで!? 終点なのに!」

 電車が、また動き出した。

「次は...」


 アナウンスが途切れた。

 ノイズが走る。


「次は...あの世...あの世です...」

 乗客たちが、僕を囲んだ。

「あなた、覚えてる?」老婆が言った。

「何を...」

「私たちのこと」

 老婆の顔が、変わった。

 腐り始めている。

「いやああああ!」

 サラリーマンも、顔が崩れていく。

 女性も、学生も。

 全員、死体だった。

「あなたが、轢いたのよ」

「え?」

「一年前。あなた、運転していたでしょ」


 思い出した。


 一年前、僕は交通事故を起こした。

 5人を轢いた。

 そして、逃げた。

「ひき逃げ...したんでしょ?」

 老婆が、僕の首に手をかけた。

「償いなさい」


 気づくと、線路の上にいた。

 電車が、こちらに向かってくる。

「待って! 助けて!」

 でも、体が動かない。

 電車が、迫ってくる。

 ライトが、眩しい。

「ごめんなさい! ごめんなさい!」


 電車が、僕を轢いた。


 翌朝、線路で遺体が見つかった。

 身元は、田中一郎、35歳。

 一年前のひき逃げ事件の、容疑者だった。

「自殺ですかね?」

「いや...」刑事が首を振った。「遺体の状態が、おかしい」

「何がですか?」

「全身に、複数の手の跡がある。まるで、誰かに押さえつけられたような」

「でも、現場には誰も...」

 刑事が、線路を見た。

 そこに、何か落ちていた。

 拾い上げた。

 古い、定期券だった。

「これ...一年前の被害者のものです」


 その日から、終電には怪談が生まれた。

「深夜の地下鉄に、幽霊が出る」

「ひき逃げ犯を、あの世に連れて行く」

「だから、深夜の地下鉄には、乗るな」


 でも、今夜も。

 誰かが、終電に乗る。

 そして、乗客たちが、その人を見つめる。

 じっと。

 まるで、何かを確認するかのように。


「あなたは...無実ね」


 老婆が微笑む。

 乗客たちは、次の駅で降りる。

 そして、また別の乗客を待つ。

 次の、ひき逃げ犯を。

 永遠に。

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