【コメディ】最弱剣士、天下を取る
時は江戸時代。
拙者、山田半蔵と申す。
剣術道場の師範代...と名乗っているが、実は剣が全く使えない。
「やあああ!」
稽古で、弟子に竹刀で打たれる。
「痛っ!」
「師範代、弱すぎます!」
「う、うるさい! 手加減してやっているのだ!」
嘘である。
本気で戦って、負けている。
しかし、なぜか師範代の座にいる。
理由は、簡単だ。
口が上手いからである。
「いいか、剣というのはな、力ではない。心だ!」
「おお...」
弟子たちが感心する。
「拙者は今、お前たちに『負ける心』を教えているのだ」
「負ける心?」
「そうだ。負けを知らぬ者は、真の強さを知らない!」
弟子たちが、深く頷く。
「さすが、師範代...」
バレていない。
完璧だ。
ある日、道場に一人の男が現れた。
「ここが、山田道場か」
いかつい男だ。
刀の柄に、手をかけている。
「そうだが...何の用だ?」
「他流試合を申し込む」
まずい。
「あ、あいにく、今日は道場主が不在でな...」
「お前が師範代だろう? お前と戦う」
「え、えっと...」
逃げられない。
弟子たちも、見ている。
「師範代! やっちゃってください!」
「そうだ! 他流試合なんて、何年ぶりだ!」
助けてくれ。
仕方なく、道場の中央に立った。
相手は、明らかに強い。
構えが、違う。
「では、始める」
男が、突進してきた。
速い!
避けられない!
と思った瞬間、足を滑らせた。
「うわっ!」
転んだ。
男の剣が、拙者の頭上を通り過ぎた。
「な...」
男が驚いた顔をしている。
偶然、避けた?
いや、これは...
使える!
拙者は立ち上がり、わざとらしく構えた。
「ふふふ...読めていたぞ」
「何?」
「貴様の太刀筋、全て見切っていた」
嘘である。
でも、男は信じた。
「くっ...ならば、これでどうだ!」
男が、連続攻撃を仕掛けてきた。
拙者は、また転んだ。
「うおっ!」
ゴロゴロと転がった。
男の剣が、全て空を切る。
「馬鹿な...」
「ふふふ...」拙者は立ち上がり、埃を払った。「拙者の『転倒流剣術』、見事であろう?」
「転倒流...?」
そんな流派、存在しない。
今、作った。
「この技は、転がることで相手の攻撃を全て避ける、究極の防御技!」
男が、汗を流している。
「そんな剣術が...」
「さあ、次は拙者の番だ」
拙者は、剣を構えた。
しかし、持ち方が分からない。
適当に握った。
「むん!」
振り下ろした。
しかし、手が滑って、剣が飛んでいった。
「あ」
剣が、男の頭に当たった。
「ぐは!」
男が、倒れた。
気絶している。
「...」
弟子たちが、沈黙した。
そして、爆発的な歓声。
「すごい! 師範代、勝った!」
「剣を投げて倒すなんて!」
「あれも『転倒流』の技ですか!?」
「え? あ、ああ! そうだ! あれは『無刀取り』ならぬ『無刀投げ』だ!」
完璧に、ごまかせた。
この噂が、広まった。
「山田道場の師範代、他流試合で圧勝!」
「転倒流剣術、恐るべし!」
次々と、挑戦者が現れた。
全員、拙者の「転倒」で倒した。
いや、正確には、偶然倒れている。
でも、みんな「技」だと思っている。
「山田師範代、天才!」
「あの転がり方、神業!」
拙者の名声は、うなぎ登りだった。
そして、ついにその噂が、将軍の耳に入った。
「ほう、転倒流剣術か」
「はい。非常に珍しい流派だそうです」
「面白い。城に招け」
まずい。
将軍の前で、演武しろと?
絶対にバレる。
「あの、拙者は...」
「何だ?」
「持病がありまして...」
「構わぬ。医者も呼ぶ。来い」
逃げられなかった。
江戸城。
将軍の前で、演武することになった。
「では、始めよ」
相手は、柳生但馬守。
将軍の剣術指南役。
日本最強の剣士の一人。
終わった。
殺される。
「では...参る」
柳生が、構えた。
その瞬間、拙者の足が震えた。
いや、震えているのではない。
畳が、揺れている。
地震だ!
「うわあ!」
拙者は転んだ。
柳生も、バランスを崩した。
「な、なんだ!?」
地震が、激しくなる。
拙者は、転がり続けた。
柳生の剣が、全て外れる。
「くっ...この揺れの中で、あんなに動けるとは...」
違う! これは地震のせいだ!
しかし、周りはそう見ていない。
「すごい...地震の中でも、転倒流を使いこなしている!」
「さすが、山田師範代!」
地震が、収まった。
拙者は、立ち上がった。
柳生は、刀を下ろしていた。
「参った...これほどの達人とは」
「え?」
「拙者の負けだ」
将軍が、拍手した。
「見事! 山田半蔵、そちを剣術指南役に任じる!」
「え!?」
それから、拙者は将軍の剣術指南役になった。
毎日、将軍に剣を教える。
いや、教えているフリをする。
「将軍様、剣というのは、心です」
「ほう」
「まずは、転ぶ練習から」
「転ぶ?」
「はい。転倒流の基本です」
将軍が、転ぶ練習を始めた。
「こうか?」
「素晴らしい! さすが、将軍様!」
何も教えていない。
でも、将軍は満足している。
「山田師範、そちのおかげで強くなった気がする!」
「ありがとうございます!」
しかし、ある日、事件が起きた。
「大変です! 隣国の刺客が、城に侵入しました!」
「なに!?」
「将軍様を狙っています!」
まずい。
拙者が、守らねば。
いや、無理だ。拙者は弱い。
「山田師範! お願いします!」
「え、ええっと...」
逃げられない。
刺客が、現れた。
黒装束の男。
明らかに、強い。
「将軍の首、いただく」
「させぬ!」
拙者は、剣を構えた。
震える手で。
刺客が、突進してきた。
速い!
避けられない!
拙者は、目を閉じた。
そして、転んだ。
本当に、ただ転んだだけ。
しかし、刺客が「わっ!」と声を上げた。
拙者が転んだ拍子に、畳がめくれた。
刺客が、それに足を取られた。
「ぐあっ!」
刺客が転倒した。
そして、自分の刀に刺さった。
「ぐふっ...」
刺客は、動かなくなった。
「...」
周りが、沈黙した。
そして、歓声。
「すごい! 師範、刺客を倒しました!」
「転倒流、恐るべし!」
「畳をめくって転ばせるとは!」
違う! これは偶然だ!
でも、誰も信じない。
それから、拙者の名声は、さらに高まった。
「山田半蔵、天下無双!」
「転倒流の開祖!」
全国から、弟子が集まった。
みんな、転ぶ練習をしている。
「師範! もっと転び方を教えてください!」
「う、うむ...では、横転の極意を...」
適当に教えた。
でも、みんな真剣に練習している。
そして、ある日。
弟子の一人が、本当に強くなった。
「師範! 私、他流試合で10連勝しました!」
「本当か!?」
「はい! 転倒流、最強です!」
まさか...
転倒流、本当に強いのか?
いや、そんなはずは...
【数年後】
転倒流は、全国に広まった。
そして、拙者は「剣聖」と呼ばれるようになった。
弟子たちは、次々と他流試合で勝利している。
本当に、強くなっている。
「師範、転倒流のおかげで、人生が変わりました!」
「そ、そうか...」
拙者は、今でも剣が使えない。
でも、もう誰もそれを気にしていない。
「剣がなくても、転倒流があれば最強!」
それが、拙者の教えになっていた。
将軍からは、「山田半蔵、そちを大名に取り立てる」と言われた。
「ありがたき幸せ!」
こうして、拙者は、日本で最も弱い剣士から、天下人になった。
転がり続けて、天下を取った。
人生、何が起こるか分からない。
【エピローグ】
老いた拙者は、弟子たちに囲まれていた。
「師範、最後に一つ、教えてください」
「何だ?」
「転倒流の極意とは?」
拙者は、考えた。
そして、答えた。
「...転んでも、立ち上がることだ」
弟子たちが、深く頷いた。
「さすが、師範...」
違う。
本当は、「転ばないようにすること」が一番だ。
でも、もういい。
拙者の人生は、転び続けた人生だった。
でも、幸せだった。
転んでも、転んでも、なぜか上手くいった。
それで、いい。
拙者は、静かに目を閉じた。
伝説の剣士として。
【完】
ブックマークお願いします。
評価いただけると嬉しいです。
こんな話が見たい等リクエストがあれば、コメントまでお願いします。作品に反映できそうであれば、リクエストを作品に反映するかもしれません。




