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世界は静かに壊れている【ショートショート集・短編集】  作者: 御影のたぬき


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18/83

【ホラー】隙間の声

残酷な描写があります。

 隙間の声

 新しいアパートに引っ越してきた初日、壁から声が聞こえた。

「...たすけ...て...」

 か細い、女性の声。

「誰か、助けて...」

 隣の部屋からだろうか。

 壁に耳を当てた。

「大丈夫ですか!?」

 返事はない。

 でも、確かに聞こえた。

 翌日、管理人に確認した。

「隣の部屋、誰か住んでますか?」

「202号室ですか? 空室ですよ」

「でも、声が...」

「気のせいでしょう。あの部屋、もう3年空いてます」

 おかしい。

 その夜、また声が聞こえた。

「助けて...苦しい...」

 今度は、壁だけじゃない。

 床からも、天井からも。

「誰か...誰か...」

 声が、増えている。

 複数の声が、建物中から聞こえてくる。

 怖くなって、耳を塞いだ。

 でも、聞こえる。

 頭の中に、直接響いてくる。

「助けて」

「苦しい」

「出られない」

「暗い」

「狭い」

 一晩中、声が止まなかった。

 3日目の朝。

 もう限界だった。

 眠れない。声がうるさすぎる。

 アパートを調べることにした。

 202号室のドアを開けた。

 管理人から合鍵を借りて。

 部屋は、空っぽだった。

 家具もない。埃も積もっている。

 でも、壁が...おかしい。

 普通のアパートより、薄い気がする。

 コンコンと叩いてみた。

 空洞の音がした。

 この壁、中が空洞?

 おかしい。普通、壁の中には断熱材が入っているはずだ。

 カッターで壁紙を剥がした。

 石膏ボードが現れた。

 それを割った。

 中を覗き込んだ。

「うわっ!」

 思わず叫んだ。

 壁の中に、隙間があった。

 幅30センチほどの、細長い空間。

 そして、その中に...

 髪の毛が、びっしりと詰まっていた。

 長い黒髪。

 何十人分、いや、何百人分。

 絡み合って、壁一面を覆っている。

「なんだこれ...」

 震える手で、髪の毛を引っ張った。

 するすると、引き出される。

 まだ続いている。

 どこまである?

 5メートル、10メートル...

 引っ張り続けた。

 そして、先端に、何か固いものが触れた。

 引っ張り出した。

 頭皮だった。

 髪の毛がついたまま、剥がされた頭皮。

 血の跡が、黒く固まっている。

 吐きそうになった。

 でも、まだある。

 髪の毛が、まだ壁の中に続いている。

 さらに引っ張った。

 また、頭皮が出てきた。

 また。

 また。

 十数個の頭皮が、髪の毛で繋がって出てきた。

 悲鳴を上げて、アパートを飛び出した。

 警察を呼んだ。

「壁の中に...頭皮が...」

 警察官たちが、アパートを調査した。

 202号室だけじゃなかった。

 全ての部屋の壁に、同じ隙間があった。

 そして、全ての隙間に、髪の毛が詰まっていた。

「これは...」

 ベテラン刑事が、青ざめた。

「何人分だ?」

「分かりません...数百...いや、千人以上かもしれません」

 調査が進んだ。

 このアパートは、10年前に建てられた。

 建設業者は、既に廃業。

 責任者は、行方不明。

 でも、近隣住民の証言から、恐ろしい事実が判明した。

「このアパート、建設中におかしなことがあった」

「夜中、女性の悲鳴が聞こえた」

「でも、翌朝には誰もいなかった」

「何度も、何度も」

 つまり、建設中に、女性たちが連れ込まれた。

 そして、壁の中に...

「生き埋めにされたのか?」

「いや、違う」

 別の刑事が、検死結果を読んだ。

「頭皮の損傷パターンから、生きたまま頭皮を剥がされたと思われる」

「なぜ、そんなことを...」

「分からない。でも、髪の毛の状態から、壁の中で何年も生きていた可能性がある」

 それから、捜査は難航した。

 被害者の身元が、ほとんど分からない。頭皮だけでは、特定できない。DNA鑑定を行ったが、データベースに一致するものはほとんどなかった。

「失踪者として届けられていない人たちか...」

「ホームレス、家出人、外国人...誰も探さない人たち」

 そんな人たちが、壁の中に閉じ込められていた。

 アパートは取り壊されることになった。

 でも、取り壊し作業中、作業員が発見した。

「これ...なんだ?」

 基礎の下、地中深くに、さらに大きな空洞があった。

 そして、その中には...

 無数の手足が、絡み合って詰まっていた。

 腕、足、指。全て、関節で切り離されている。

 でも、まだ新しい。腐敗が進んでいない。

「これは...」

 警察が再び調査した。

 そして、恐ろしいことに気づいた。

 切断面が、きれいすぎる。

 医療用のメスで切られたような、精密な切断。

「外科医か?」

「それとも...」

 誰も、答えを知らなかった。

 そして、ある記録が見つかった。

 廃業した建設業者の、元社長の日記。

 そこには、こう書かれていた。


『彼女が言った。

「建物には、魂が必要だ」

「人の痛みを、壁に込めなさい」

「そうすれば、建物は永遠に立ち続ける」

 私は従った。女たちを集めた。

 壁の中に閉じ込めた。髪を剥いだ。

 彼女たちの悲鳴が、壁に染み込んだ。

 そして、建物は完成した。

 完璧な、永遠の建物が。

 でも、彼女は満足しなかった。

「もっと」

 彼女は言った。

「もっと、もっと、痛みを」

 だから、手足も切り取った。生きたまま。

 彼女たちの苦痛が、基礎に染み込んだ。

 そして、建物は本当に完成した。

 誰も壊せない、永遠の建物が。』


 日記はここで終わっていた。

「彼女とは誰だ?」

 警察は、元社長を探した。

 しかし、見つからなかった。

 10年前、忽然と姿を消していた。

 そして、取り壊し作業が始まった。

 しかし、おかしなことが起きた。

 重機で壁を壊そうとすると、刃が折れる。

 爆破しようとすると、不発。

 何をしても、建物が壊れない。

「これは...」

 作業員たちが恐れた。

「本当に、壊せないのか?」

 ある夜、作業現場に火災が発生した。

 建物が、自然発火したのだ。

 消防車が駆けつけたが、消せない。

 水をかけても、火は消えない。

 建物が、燃え続ける。

 そして、炎の中から、声が聞こえた。

「助けて」

「助けて」

「助けて」

 何百、何千という声が。

 火災は、三日三晩続いた。

 そして、建物は完全に焼け落ちた。

 跡地には、何も残らなかった。

 灰すらも、消えていた。

 まるで、最初から何もなかったかのように。

 警察は、調査を打ち切った。

「証拠が全て消えた」

「これ以上、調べようがない」

 事件は、未解決のまま終わった。





 数ヶ月後。

 隣町に、新しいアパートが建った。

 そして、そこに住み始めた人が、報告した。

「壁から、声が聞こえる」

「助けて、って」

「女性の声が」

 警察が調査したが、何も見つからなかった。

「気のせいでしょう」

 住民は納得したが、声は止まらなかった。

 毎晩、聞こえ続けた。

 そして、ある夜、一人の住民が、壁をカッターで切り開き中を覗き込んだ。そこには、何もなかった。ただの普通の壁。


 安心して、穴を塞ごうとした時。

 壁の奥から、手が伸びてきた。

 髪の毛に覆われた、女性の手が。

 そして、住民の髪を掴んだ。


「いやああああああ!」


 翌朝、その部屋には、誰もいない。


 ただ、壁に、新しい髪の毛が貼り付いていた。

 長く黒い、女性の髪が。

 そして、夜になると、また声が聞こえた。

「助けて...」

 新しい声が、増えていた。

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