【SFドラマ】返信の重さ
SNSのメッセージに「重さ」が表示されるようになったのは、半年前のことだった。
最初は気づかなかった。友人からのメッセージに、小さく「0.2kg」と表示されている。
「これ、何?」
調べると、新機能「エモーショナル・ウェイト」というものだった。
『メッセージに込められた感情の重さを数値化します。軽いメッセージは気軽に、重いメッセージは慎重に対応しましょう』
面白い機能だと思った。
友人からの「今日飲みに行かない?」は0.1kg。
母からの「元気にしてる?」は0.5kg。
恋人からの「会いたいな」は1.2kg。
確かに、感情の重さが分かる。
しかしある日、元カノからメッセージが来た。
「久しぶり。話したいことがある」
表示された重さ:15.8kg。
15キロ?
重い。異常に重い。
開封するか迷った。でも、気になって開いた。
「実は...」
文章を読み進めると、どんどん重くなっていく。
20kg、25kg、30kg...
最後まで読み終えたとき、表示は「42.3kg」になっていた。
内容は、彼女の深刻な病気のこと。誰にも言えなかったこと。僕に会いたいこと。
返信しようとした。
しかし、キーボードを打つたびに、重さが増していく。
「大丈夫?」:5.2kg
「会いに行くよ」:8.7kg
「力になりたい」:12.4kg
どの言葉も、軽すぎる気がした。42kgの重さに対して。
結局、返信できなかった。
翌日、また彼女からメッセージが来た。
「返事待ってる」
重さ:52.1kg。
さらに重くなっている。
僕は焦った。返信しないと、どんどん重くなる。
でも、何を書けばいいのか分からない。
三日後、また来た。
「もういいよ。ごめんね」
重さ:78.9kg。
一週間後。
「さようなら」
重さ:103.2kg。
100キロを超えた。
その後、彼女からの連絡は途絶えた。
しかし、未読のメッセージがそこに残っている。
103.2kgの重さで。
アプリを開くたびに、その重さがスマホを重くする。
本当に、物理的に重くなった気がした。
一ヶ月後、共通の友人から連絡があった。
「彼女、亡くなったよ」
重さ:45.3kg。
僕は床に座り込んだ。
そして、彼女への返信を書き始めた。
「ごめん。本当にごめん。会いに行けなくて。何も言えなくて」
送信ボタンを押す。
しかし、エラーが表示された。
『宛先不明:このメッセージは送信できません』
当たり前だ。もう彼女はいない。
でも、僕が書いた返信の重さが表示された。
「2.1kg」
軽すぎた。
彼女の103.2kgに対して、僕の返信はたった2.1kg。
それから、僕のスマホには未送信のメッセージが残った。
削除しようとしても、できない。
そして毎日、その重さが増していく。
2.1kg、3.5kg、5.8kg、9.2kg...
気づけば、50kgを超えていた。
これは、罪悪感の重さなのか。
それとも、後悔の重さなのか。
ある日、スマホが起動しなくなった。
修理に出すと、店員が不思議そうに言った。
「おかしいですね。内部に異常な負荷がかかっています。まるで、本当に何か重いものが入っているみたいに」
「重いもの?」
「ええ。データ的には何もないんですが、物理的なセンサーが重量を検知しているんです。約80kg分の」
80kg。
僕の未送信メッセージの現在の重さだ。
「これ、直せますか?」
「データを全て消去すれば...」
「それはできません」
できなかった。
この重さは、僕が背負わなければならないものだから。
それから半年。
スマホの重さは120kgを超えた。
もう持ち歩けない。部屋に置いたまま、充電し続けている。
でも、その画面には、彼女への未送信メッセージが表示されている。
『宛先不明:このメッセージは送信できません』
重さ:127.4kg。
そしてある朝。
スマホから通知音がした。
見ると、新しいメッセージが届いていた。
送信者:彼女の名前。
「大丈夫だよ。もう、許してる」
重さ:0.0kg。
その瞬間、スマホが軽くなった。
本当に、物理的に軽くなった。
未送信メッセージの重さが、すべて消えていた。
僕は泣きながら、そのメッセージを何度も読み返した。
これは幻覚なのか。
それとも、本当に彼女からのメッセージなのか。
分からない。
でも、確かに重さは消えた。
そして僕は理解した。
言葉には重さがある。
送らなかった言葉には、もっと重い重さがある。
でも、許しの言葉は、どんなに重い言葉も軽くできる。
たとえそれが、この世界からのメッセージではなくても。
僕はスマホを手に取った。
久しぶりに、軽かった。
そして、母に電話をかけた。
「久しぶり。元気?」
母の声が弾んだ。
「元気よ! どうしたの、急に」
「ううん。ただ、声が聞きたくて」
画面に表示された。
「この通話の重さ:0.5kg」
ちょうどいい重さだった。
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