【異世界転生】異世界召喚されたけど、勇者じゃなくて「空気」だった件
目が覚めたら、石造りの大広間にいた。
「召喚成功です!陛下!」
ローブを着た魔法使いっぽい老人が叫んでいる。
王座には、王冠を被った男性。
周りには、騎士や貴族らしき人々。
「おお...ついに勇者が!」
王様が立ち上がった。
ファンタジー世界に転移した!
これは、異世界召喚の王道パターンだ!
僕は主人公!勇者として、この世界を救う運命なんだ!
「勇者よ!我らが世界を救ってくれ!」
きたー!
「はい!僕が勇者ですね!任せてください!」
元気よく返事した。
しかし、王様が首を傾げた。
「ん?誰だ?」
「え?僕です、召喚された勇者の...」
「いや、誰もそなたには話しかけておらぬが?」
王様が、僕の隣を見た。
そこには、イケメンの青年が立っていた。
え?いつの間に?
「私が勇者です。この世界を救うため、参りました」
青年が格好よく宣言した。
「おお!なんと凛々しい!」
「さすが勇者様!」
みんなが歓声を上げた。
ちょっと待て。
「あの...僕も一緒に召喚されたんですけど...」
「ん?」
王様が僕を見た。
「そなたは、誰だ?」
「いや、だから、一緒に召喚された...」
「ああ、従者か」
「従者!?」
「そうか、勇者様には従者が付いておったか。良きことだ」
違う!
「僕も勇者候補のはずです!」
魔法使いが慌てて資料を確認した。
「えーっと...召喚儀式の記録を確認します...ああ、確かに二人召喚されていますね」
「ほら!」
「しかし...」
魔法使いが困った顔をした。
「一人は『勇者』、もう一人は『空気』と記録されています」
「空気!?」
「はい。属性:空気。職業:その他。スキル:特になし」
周りがざわついた。
「空気を召喚してどうする」
「魔法の無駄遣いでは?」
「まあ、勇者様のお供としてはちょうどいいかも」
ひどい!
それから、僕は「空気」として、勇者パーティーに同行することになった。
勇者の名前は、シン。
レベル1の時点で、ステータスがカンストしている。
初期装備の剣も、伝説級。
「さすが勇者様!」
「初めての戦闘で、ドラゴンを一撃です!」
「素晴らしい!」
一方、僕のステータスは...
名前:田中太郎
レベル:1
HP:10
MP:5
攻撃力:2
防御力:1
スキル:なし
特性:空気(周囲の人に気づかれにくい)
ふざけんな!
「田中、荷物持ち頼む」
「はい...」
「あ、それと水くみも」
「はい...」
僕は、完全に雑用係だった。
3日目。
パーティーに、美少女の魔法使いが加わった。
「私はリリア。勇者様のお力になりたく、参りました」
「よろしく、リリア」
シンが爽やかに笑う。
リリアが頬を赤らめる。
「あの...僕もいるんですけど」
「ん?誰?」
リリアが不思議そうに周りを見た。
「ここです!目の前に!」
「あ、ごめん。気づかなかった」
僕の特性【空気】のせいで、常に存在感がゼロなのだ。
1週間目。
パーティーに、女戦士、女僧侶、女盗賊が加わった。
全員美少女。
全員、シンに惚れている。
「勇者様、お疲れでは?肩を揉みましょうか?」
「勇者様、私の料理を召し上がってください」
「勇者様、私と二人きりで話しません?」
完全にハーレムだ。
「あの、僕の晩御飯は...」
「あ、そこにパンあるから適当に」
ひどい!
1ヶ月目。
魔王城に到着した。
「さあ、魔王を倒すぞ!」
シンが剣を掲げる。
「勇者様、頑張ってください!」
女性陣が応援する。
「...僕も戦うんですけど」
「え?田中も来るの?」
「当たり前でしょ!パーティーメンバーなんだから!」
「まあ、荷物持ちとして必要か」
荷物持ちじゃねえ!
魔王戦。
シンが魔王と一騎打ち。
格好いい。
強い。
そして、勝った。
「やった!勇者様が魔王を倒しました!」
「素晴らしい!」
みんなが歓声を上げた。
「あの...僕も後ろで回復薬投げたり、サポートしてたんですけど...」
誰も聞いてない。
帰還後。
王城で、盛大な祝賀会が開かれた。
「勇者シンよ!そなたは我が国の英雄だ!」
王様が、シンに勲章を授けた。
「勇者様!」
「勇者様!」
民衆が歓声を上げる。
「...僕も一緒に戦ったんですけどね」
ぼそっと呟いた。
「ん?誰かいたか?」
シンが周りを見回した。
「ここです!隣に!」
「ああ、田中か。気づかなかった」
当然のように言われた。
その夜。
祝賀パーティー。
シンは、女性陣に囲まれている。
「勇者様、結婚してください!」
「いえ、私こそが勇者様の妻に相応しい!」
修羅場だ。
僕は、隅っこでワインを飲んでいた。
一人で。
誰も話しかけてこない。
いや、僕がいることに気づいてすらいない。
「...つまんねえ」
そんな時。
一人の女性が、僕に話しかけてきた。
「こんにちは」
振り向くと、地味な格好の女性。
でも、よく見ると可愛い。
「あ、こんにちは...え、僕に話しかけてるんですか?」
「はい。あなた、一人ですね」
「まあ、いつもですけど...」
「私もです」
女性が微笑んだ。
「私も、誰にも話しかけられないんです」
「なんで?美人なのに」
「私も『空気』属性だからです」
「え!?」
同類がいた!
「私はエリナ。宮廷魔法使いです」
「僕は田中。勇者の...荷物持ちです」
「荷物持ち?」
エリナが笑った。
「謙遜ですよね?勇者パーティーのメンバーでしょう?」
「いや、本当に荷物持ちなんです...」
僕は、これまでの経緯を説明した。
エリナは、同情してくれた。
「大変でしたね...」
「まあ、慣れました」
「私も、宮廷魔法使いですが、誰にも認識されません。報告書を出しても、『誰が書いた?』と言われます」
「分かる!」
意気投合した。
それから、僕とエリナは仲良くなった。
「空気同士、頑張りましょう」
「ですね」
ある日、エリナが提案した。
「ねえ、この『空気』属性、実は最強なんじゃないですか?」
「え?」
「だって、誰にも気づかれないんですよ。つまり、どこにでも侵入できる」
確かに。
「盗賊とか、諜報員として最適では?」
「なるほど...」
僕たちは、『空気』の力を活かすことにした。
数ヶ月後。
隣国が、我が国に侵攻してきた。
「大変です!敵の軍師が天才で、我が軍は連戦連敗!」
「勇者よ!何とかしてくれ!」
シンが出陣したが、戦術では勝てない。
「くそ...このままでは...」
その時、僕とエリナが動いた。
『空気』属性を活かし、敵陣に潜入。
誰にも気づかれずに、軍師のテントに侵入。
「ふむ、次の作戦は...」
軍師が作戦書を書いている。
僕たちは、それを盗み見た。
そして、味方に情報を流した。
「敵は明日、北から攻める!」
「なぜ分かる?」
「情報網です」
僕たちの情報のおかげで、味方は連戦連勝。
最終的に、敵を撃退した。
「やった!勝利だ!」
「勇者様のおかげです!」
...え?
「勇者シンの武勇が、敵を震え上がらせた!」
「さすが勇者様!」
情報提供したの、僕らなんですけど!
「まあ、いいか」
エリナが苦笑した。
「いつものことだし」
「慣れましたね」
それから、僕とエリナは裏で活躍し続けた。
表の英雄は、常にシン。
でも、実際に問題を解決しているのは、僕たち。
誰も気づかないけど。
「まあ、これはこれで楽しいかも」
「ですね。目立たないけど、役に立ってる」
「そうそう」
ある日、エリナが言った。
「ねえ、田中さん」
「なに?」
「私たち、結婚しません?」
「え!?」
「どうせ誰も気づかないし、勝手に結婚しちゃいましょう」
「...いいですね」
僕たちは、ひっそりと結婚した。
誰にも祝福されなかったけど。
誰も気づかなかったけど。
でも、幸せだった。
10年後。
勇者シンは、王女と結婚し、王になった。
国は平和で、繁栄している。
「全て、勇者王シンのおかげです!」
民衆が讃える。
実際には、裏で僕とエリナが、様々な問題を解決し続けていたんだけど。
まあ、いいか。
「書類できた?」
エリナが、お茶を持ってきた。
「うん、今終わったよ」
僕たちは、今も宮廷で働いている。
誰も僕たちを認識しないけど。
「ねえ、そろそろ隠居しない?」
エリナが提案した。
「いいね。どこか静かな村で」
「うん。誰にも気づかれずに、のんびり暮らそう」
「最高じゃん」
僕たちは、翌日、宮廷を去った。
誰にも気づかれずに。
「あれ?書類が勝手に片付いてる」
「誰がやったんだ?」
「まあ、いいか」
みんな、気づいてない。
小さな村で、僕とエリナは静かに暮らしている。
畑を耕し、家を建て、子供も生まれた。
「パパ、村の人たちが『誰が住んでるんだろう』って言ってたよ」
「そりゃそうだ。僕たち、空気だからな」
「私もママから『空気』属性受け継いだの!」
「将来、役に立つぞ」
「ほんと?」
「ああ。目立たなくても、大切な仕事はできる。僕とママみたいにね」
子供が笑顔で頷いた。
空気で、いい。
目立たなくて、いい。
幸せなら、それで十分だ。
遠くから、勇者王シンの銅像が見える。
「勇者王シン、この国を救った英雄」
まあ、頑張ったのは僕たちなんだけどね。
でも、いいんだ。
これが、僕たちの生き方だから。
【エピローグ】
実は、この世界には秘密があった。
真の支配者は、『空気』属性の者たちだった。
歴史の影で、常に世界を動かしてきたのは、僕たち。
勇者は、ただの表の顔。
本当の英雄は、誰にも気づかれない。
「ねえ、田中」
「ん?」
「私たち、実は世界を救ってたんだよね」
「そうだね」
「でも、誰も知らない」
「それでいいんだよ」
僕たちは笑った。
そして、静かな夕暮れの中、家に帰った。
誰にも気づかれずに。
今日も、明日も。
僕たちは、『空気』として生きていく。
それが、最高の人生だから。
【おまけ:勇者シンのその後】
「おい、最近、国の問題が全然解決しないんだが」
「そういえば、前は勝手に解決してたのに」
「誰かが影で動いてたのか?」
「まさか...」
シンは、今頃気づいた。
田中がいなくなってから、全てが上手くいかない。
「田中...お前、実は凄かったのか...?」
でも、遅い。
田中は、もう宮廷にいない。
どこにいるかも分からない。
「田中ーーー!戻ってきてくれーーー!」
叫んでも、届かない。
『空気』は、もう去ってしまったから。
【完】




