【モキュメンタリー】事件記録:消えた街
【音声記録開始】
調査官A: 本日は2026年1月20日。消失事件から2週間が経過しました。これより、生存者へのインタビューを開始します。お名前を教えてください。
証言者: 田中...田中健一です。
調査官A: 田中さん、あなたは「消えた街」の唯一の生存者です。1月6日の夜、何が起きたのか、もう一度証言していただけますか?
証言者: 何度も言ってますが...信じてもらえないでしょうが...
調査官A: 構いません。全て記録されています。
証言者: わかりました。あの日、僕は仕事で隣町に行っていました。夜の10時頃、電車で帰ってきたんです。でも、駅に着いた時...
調査官A: 駅に着いた時、何を見ましたか?
証言者: 誰もいなかった。駅員も、乗客も、誰も。
調査官A: 時刻は?
証言者: 午後10時23分です。携帯の履歴に残ってます。
【携帯電話記録 - 田中健一 / 2026年1月6日】
22:15 - 通話発信 妻(京子) - 応答なし
22:18 - 通話発信 妻(京子) - 応答なし
22:23 - 駅到着 GPS記録
22:25 - 通話発信 警察 - 接続
調査官A: 駅を出た後は?
証言者: 商店街を通って家に向かいました。でも...全ての店が開いたまま、電気もついたまま。でも、人がいない。
調査官A: 一人も?
証言者: 一人も。コンビニのレジも無人。カウンターにコーヒーが置いてあって、まだ温かかった。誰かがいたはずなのに...
調査官A: 自宅に着いた時は?
証言者: 玄関が開いてました。妻の靴がある。夕飯の準備もしてあった。鍋が火にかけたまま。でも、妻はいない。
調査官A: [記録を確認] 防犯カメラの映像を見ましょう。
【防犯カメラ映像記録 - 商店街 / 2026年1月6日 21:47】
[映像説明]
21:47:15 - 通行人多数。通常の夜の商店街。
21:47:42 - 画面にノイズ発生
21:47:45 - ノイズ増加、映像乱れる
21:47:48 - 一瞬、画面が真っ暗に
21:47:50 - 映像回復
回復後の映像には、人が一人もいない。
車も止まったまま。
コンビニの自動ドアが開いたまま。
誰もいない。
調査官B: [記録に参加] 田中さん、この映像を見て何か気づくことは?
証言者: これ...3秒です。たった3秒の間に、みんな消えた?
調査官B: その通りです。市内の全ての防犯カメラ、信号機、店舗カメラ、全て同じ現象が記録されています。21時47分45秒から48秒の間、3秒間。
証言者: 3秒で...2万人が?
調査官A: 正確には23,847人です。住民登録上の人口です。
【現場検証記録 - 田中家 / 2026年1月8日】
検証官: 山田警部
記録者: 佐々木巡査
所見:
・玄関ドア:半開き状態
・靴:女性用スリッパ1足、玄関内に脱ぎ捨てられた状態
・リビング:テレビ点灯中(ニュース番組)
・キッチン:ガスコンロ点火中、鍋に味噌汁(温度測定時:78℃)
・ダイニングテーブル:夕飯準備中、茶碗2つ、箸2膳
・寝室:異常なし
・浴室:シャワー使用痕跡あり、タオル濡れた状態
特記事項:
住人(田中京子、35歳)が突然消失した様子。
食事の準備中、もしくは準備直後の消失と推定。
争った形跡なし。
強制連行の痕跡なし。
調査官A: 田中さん、あなたは消失した街に2時間ほど滞在していますね。その間、何か異常なことに気づきましたか?
証言者: 異常なことだらけでしたよ! でも...一つ、妙なことが。
調査官A: 何ですか?
証言者: 音です。全く音がしなかった。風の音も、虫の声も。街が、完全に沈黙していた。それと...
調査官A: それと?
証言者: 空気が、重かった。呼吸が苦しいわけじゃないけど、何か...圧迫されるような。
【大気成分分析 - 消失地域内 / 2026年1月7日】
分析機関: 国立科学研究所
担当: 松本博士
測定結果:
・酸素濃度: 20.9% (正常)
・窒素濃度: 78.1% (正常)
・二酸化炭素: 0.04% (正常)
・その他微量気体: 正常範囲内
特異事項:
通常測定では異常なし。
ただし、特殊スペクトル分析において、未知の電磁波パターンを検出。
・周波数: 432Hz 持続波
・発生源: 不明
・性質: 既存の電磁波とは異なる特性
松本博士コメント:
「この電磁波は、既知のどの自然現象とも一致しない。人工的な可能性が高いが、発生装置の痕跡は見つかっていない」
調査官B: 田中さん、消失前の数日間、街で変わったことはありましたか?
証言者: 変わったこと...ああ、そういえば。
調査官B: 何でしょう?
証言者: 1週間くらい前から、妻が頭痛を訴えてました。でも、病院に行っても原因不明で。
調査官B: 奥様だけですか?
証言者: いや...近所の人も同じこと言ってました。みんな、頭が重いって。僕は仕事で街を離れてることが多かったから、あまり感じなかったけど。
【医療記録 - 聖和病院 / 2025年12月28日〜2026年1月5日】
期間中の頭痛訴え患者数: 347人
(通常の同期間平均: 23人)
・共通症状:
・頭部圧迫感
・めまい
・耳鳴り(周波数432Hz付近)
・軽度の記憶障害
・診断: 原因不明
・処方: 鎮痛剤(効果限定的)
・担当医(消失): 佐藤医師
最終記録: 「患者の症状パターンが異常。何らかの環境要因の可能性。要調査」
調査官A: 次の証言者を呼んでください。
[10分間の休憩]
調査官A: お名前をお願いします。
証言者2: 鈴木美咲です。
調査官A: 鈴木さんは、消失当日、街の外にいたと。
証言者2: はい。東京に出張していました。帰りの新幹線の中で、ニュース速報を見て...
調査官A: 街に戻ったのは?
証言者2: 翌日の朝です。でも、封鎖されていて入れませんでした。
調査官A: 消失前、街で何か気づいたことは?
証言者2: [沈黙]
調査官A: 鈴木さん?
証言者2: ...実は、見たんです。
調査官A: 何を?
証言者2: 消失の前日、夜中に目が覚めて。窓から外を見たら...空が、おかしかった。
調査官A: おかしい?
証言者2: 星が...動いてたんです。ゆっくりと、螺旋を描くように。
【証言の裏付け調査 - 天文観測記録】
国立天文台記録: 該当日時の異常報告なし
気象庁記録: 異常気象の報告なし
しかし、
民間天体観測者3名から、類似の報告あり。
「2026年1月5日 23:47頃、該当地域上空の星々が異常な動きを示した」
撮影された写真には、星の光跡が渦巻き状に記録されている。
専門家見解:
「カメラの誤作動、もしくは大気の乱れによる光学現象の可能性。
ただし、3台の異なるカメラで同一現象が記録されているのは説明困難」
調査官B: 田中さん、もう一度お聞きします。消失した街に入った時、本当に誰もいませんでしたか?
証言者: はい...いや、待って。
調査官B: 何か思い出しましたか?
証言者: 公園で...子供の笑い声を聞いた気がします。
調査官B: 子供?
証言者: でも、姿は見えなかった。声だけ。それと...歌が聞こえた。
調査官B: どんな歌ですか?
証言者: [歌い始める] 「まあるい輪になれ、手をつないで、みんなで行こう、あの空の向こう...」
調査官B: [調査官同士で視線を交わす] その歌、知っていますか?
証言者: いえ、初めて聞きました。でも...なぜか懐かしい感じがして。
【民俗学調査 - 該当地域の伝承】
調査担当: 東教授(民俗学)
発見された古文書より:
「この地には古来より『消失の儀式』の伝承がある。
300年に一度、満月の夜、村人全員が輪になり歌を歌う。
そして、全員が『向こう側』へ渡る。
残された者には、空白の記憶と、歌だけが残る」
最後の「消失」記録: 1726年(享保11年)
次回予測: 2026年
調査官A: [記録を見ながら] 2026年1月6日は、満月でした。
証言者: まさか...儀式? そんな馬鹿な。
調査官B: 馬鹿なことが、実際に起きているんです。
【最終現場記録 - 消失地域中心部 / 2026年1月19日】
発見物:
市役所広場に、人型の影が23,847個、地面に焼き付けられている。
まるで、一瞬の閃光で蒸発したかのような痕跡。
配置:
全ての影が、広場中心に向かって倒れている。
中心には、直径3メートルの円形の焦げ跡。
中心部からの発見物:
古い石碑の破片。
刻まれた文字:「かえりみち」
調査官A: 田中さん、最後に一つ。もし、消えた人々が戻ってくるとしたら、何と声をかけますか?
証言者: [長い沈黙] ...「おかえり」って、言います。そして、妻に聞きたい。「向こう側は、どうだった?」って。
調査官A: [記録を終える準備] 本日の聴取は以上です。
証言者: あの...一つだけ。
調査官A: 何でしょう?
証言者: 最近、また聞こえるんです。あの歌が。夢の中で。それと...妻の声が。「一緒に来て」って。
調査官A: ...それ以上は言わないでください。
証言者: なぜ?
調査官A: あなたは、生存者として重要な証人です。消えてもらっては困ります。
証言者: でも...もし妻が呼んでいるなら...
調査官B: 田中さん、その歌を口ずさまないでください。聞いた者も、影響を受ける可能性があります。
【音声記録終了】
【追記 - 2026年1月21日 午前3時】
田中健一氏、自宅にて消失。
防犯カメラには、午前2時47分、自宅前に佇む田中氏の姿。
午前2時47分45秒、3秒間のノイズ。
回復後、田中氏の姿なし。
地面には、一つの影が焼き付けられていた。
顔は、空に向けられていた。
その夜、調査官全員の夢に、同じ歌が聞こえた。
「まあるい輪になれ、手をつないで、みんなで行こう、あの空の向こう...」
【事件は未解決のまま、調査打ち切り】
消失者総数: 23,848人
理由: 不明
【発見された最後の記録 - 田中健一の日記 / 消失当日】
「妻よ、今そっちへ行く。
待っていてくれ。
向こう側で、また手をつなごう。
調査官の皆さんへ。
これは事件じゃない。
これは、帰郷だ。
みんな、ただ故郷に帰っただけだ。
僕たちが本当にいるべき場所へ。
この街は、ただの待合室だったんだ。
300年ごとに、次の乗客と入れ替わる。
さようなら。
そして、次の300年を、よろしく」
【記録終了】
【この事件の全ての資料は、機密指定とする】
評価いただけると嬉しいです。




