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世界は静かに壊れている【ショートショート集・短編集】  作者: 御影のたぬき


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12/85

【モキュメンタリー】事件記録:消えた街

【音声記録開始】

調査官A: 本日は2026年1月20日。消失事件から2週間が経過しました。これより、生存者へのインタビューを開始します。お名前を教えてください。

証言者: 田中...田中健一です。

調査官A: 田中さん、あなたは「消えた街」の唯一の生存者です。1月6日の夜、何が起きたのか、もう一度証言していただけますか?

証言者: 何度も言ってますが...信じてもらえないでしょうが...

調査官A: 構いません。全て記録されています。

証言者: わかりました。あの日、僕は仕事で隣町に行っていました。夜の10時頃、電車で帰ってきたんです。でも、駅に着いた時...

調査官A: 駅に着いた時、何を見ましたか?

証言者: 誰もいなかった。駅員も、乗客も、誰も。

調査官A: 時刻は?

証言者: 午後10時23分です。携帯の履歴に残ってます。


【携帯電話記録 - 田中健一 / 2026年1月6日】

22:15 - 通話発信 妻(京子) - 応答なし

22:18 - 通話発信 妻(京子) - 応答なし

22:23 - 駅到着 GPS記録

22:25 - 通話発信 警察 - 接続

調査官A: 駅を出た後は?

証言者: 商店街を通って家に向かいました。でも...全ての店が開いたまま、電気もついたまま。でも、人がいない。

調査官A: 一人も?

証言者: 一人も。コンビニのレジも無人。カウンターにコーヒーが置いてあって、まだ温かかった。誰かがいたはずなのに...

調査官A: 自宅に着いた時は?

証言者: 玄関が開いてました。妻の靴がある。夕飯の準備もしてあった。鍋が火にかけたまま。でも、妻はいない。

調査官A: [記録を確認] 防犯カメラの映像を見ましょう。




【防犯カメラ映像記録 - 商店街 / 2026年1月6日 21:47】

[映像説明]

21:47:15 - 通行人多数。通常の夜の商店街。

21:47:42 - 画面にノイズ発生

21:47:45 - ノイズ増加、映像乱れる

21:47:48 - 一瞬、画面が真っ暗に

21:47:50 - 映像回復

回復後の映像には、人が一人もいない。

車も止まったまま。

コンビニの自動ドアが開いたまま。

誰もいない。

調査官B: [記録に参加] 田中さん、この映像を見て何か気づくことは?

証言者: これ...3秒です。たった3秒の間に、みんな消えた?

調査官B: その通りです。市内の全ての防犯カメラ、信号機、店舗カメラ、全て同じ現象が記録されています。21時47分45秒から48秒の間、3秒間。

証言者: 3秒で...2万人が?

調査官A: 正確には23,847人です。住民登録上の人口です。




【現場検証記録 - 田中家 / 2026年1月8日】

検証官: 山田警部

記録者: 佐々木巡査

所見:

・玄関ドア:半開き状態

・靴:女性用スリッパ1足、玄関内に脱ぎ捨てられた状態

・リビング:テレビ点灯中(ニュース番組)

・キッチン:ガスコンロ点火中、鍋に味噌汁(温度測定時:78℃)

・ダイニングテーブル:夕飯準備中、茶碗2つ、箸2膳

・寝室:異常なし

・浴室:シャワー使用痕跡あり、タオル濡れた状態

特記事項:

住人(田中京子、35歳)が突然消失した様子。

食事の準備中、もしくは準備直後の消失と推定。

争った形跡なし。

強制連行の痕跡なし。

調査官A: 田中さん、あなたは消失した街に2時間ほど滞在していますね。その間、何か異常なことに気づきましたか?

証言者: 異常なことだらけでしたよ! でも...一つ、妙なことが。

調査官A: 何ですか?

証言者: 音です。全く音がしなかった。風の音も、虫の声も。街が、完全に沈黙していた。それと...

調査官A: それと?

証言者: 空気が、重かった。呼吸が苦しいわけじゃないけど、何か...圧迫されるような。




【大気成分分析 - 消失地域内 / 2026年1月7日】

分析機関: 国立科学研究所

担当: 松本博士

測定結果:

・酸素濃度: 20.9% (正常)

・窒素濃度: 78.1% (正常)

・二酸化炭素: 0.04% (正常)

・その他微量気体: 正常範囲内

特異事項:

通常測定では異常なし。

ただし、特殊スペクトル分析において、未知の電磁波パターンを検出。

・周波数: 432Hz 持続波

・発生源: 不明

・性質: 既存の電磁波とは異なる特性

松本博士コメント:

「この電磁波は、既知のどの自然現象とも一致しない。人工的な可能性が高いが、発生装置の痕跡は見つかっていない」

調査官B: 田中さん、消失前の数日間、街で変わったことはありましたか?

証言者: 変わったこと...ああ、そういえば。

調査官B: 何でしょう?

証言者: 1週間くらい前から、妻が頭痛を訴えてました。でも、病院に行っても原因不明で。

調査官B: 奥様だけですか?

証言者: いや...近所の人も同じこと言ってました。みんな、頭が重いって。僕は仕事で街を離れてることが多かったから、あまり感じなかったけど。




【医療記録 - 聖和病院 / 2025年12月28日〜2026年1月5日】

期間中の頭痛訴え患者数: 347人

(通常の同期間平均: 23人)

・共通症状:

・頭部圧迫感

・めまい

・耳鳴り(周波数432Hz付近)

・軽度の記憶障害

・診断: 原因不明

・処方: 鎮痛剤(効果限定的)

・担当医(消失): 佐藤医師

最終記録: 「患者の症状パターンが異常。何らかの環境要因の可能性。要調査」

調査官A: 次の証言者を呼んでください。

[10分間の休憩]

調査官A: お名前をお願いします。

証言者2: 鈴木美咲です。

調査官A: 鈴木さんは、消失当日、街の外にいたと。

証言者2: はい。東京に出張していました。帰りの新幹線の中で、ニュース速報を見て...

調査官A: 街に戻ったのは?

証言者2: 翌日の朝です。でも、封鎖されていて入れませんでした。

調査官A: 消失前、街で何か気づいたことは?

証言者2: [沈黙]

調査官A: 鈴木さん?

証言者2: ...実は、見たんです。

調査官A: 何を?

証言者2: 消失の前日、夜中に目が覚めて。窓から外を見たら...空が、おかしかった。

調査官A: おかしい?

証言者2: 星が...動いてたんです。ゆっくりと、螺旋を描くように。




【証言の裏付け調査 - 天文観測記録】

国立天文台記録: 該当日時の異常報告なし

気象庁記録: 異常気象の報告なし

しかし、

民間天体観測者3名から、類似の報告あり。

「2026年1月5日 23:47頃、該当地域上空の星々が異常な動きを示した」

撮影された写真には、星の光跡が渦巻き状に記録されている。

専門家見解:

「カメラの誤作動、もしくは大気の乱れによる光学現象の可能性。

ただし、3台の異なるカメラで同一現象が記録されているのは説明困難」

調査官B: 田中さん、もう一度お聞きします。消失した街に入った時、本当に誰もいませんでしたか?

証言者: はい...いや、待って。

調査官B: 何か思い出しましたか?

証言者: 公園で...子供の笑い声を聞いた気がします。

調査官B: 子供?

証言者: でも、姿は見えなかった。声だけ。それと...歌が聞こえた。

調査官B: どんな歌ですか?

証言者: [歌い始める] 「まあるい輪になれ、手をつないで、みんなで行こう、あの空の向こう...」

調査官B: [調査官同士で視線を交わす] その歌、知っていますか?

証言者: いえ、初めて聞きました。でも...なぜか懐かしい感じがして。




【民俗学調査 - 該当地域の伝承】

調査担当: 東教授(民俗学)

発見された古文書より:

「この地には古来より『消失の儀式』の伝承がある。

300年に一度、満月の夜、村人全員が輪になり歌を歌う。

そして、全員が『向こう側』へ渡る。

残された者には、空白の記憶と、歌だけが残る」

最後の「消失」記録: 1726年(享保11年)

次回予測: 2026年

調査官A: [記録を見ながら] 2026年1月6日は、満月でした。

証言者: まさか...儀式? そんな馬鹿な。

調査官B: 馬鹿なことが、実際に起きているんです。




【最終現場記録 - 消失地域中心部 / 2026年1月19日】

発見物:

市役所広場に、人型の影が23,847個、地面に焼き付けられている。

まるで、一瞬の閃光で蒸発したかのような痕跡。

配置:

全ての影が、広場中心に向かって倒れている。

中心には、直径3メートルの円形の焦げ跡。

中心部からの発見物:

古い石碑の破片。

刻まれた文字:「かえりみち」

調査官A: 田中さん、最後に一つ。もし、消えた人々が戻ってくるとしたら、何と声をかけますか?

証言者: [長い沈黙] ...「おかえり」って、言います。そして、妻に聞きたい。「向こう側は、どうだった?」って。

調査官A: [記録を終える準備] 本日の聴取は以上です。

証言者: あの...一つだけ。

調査官A: 何でしょう?

証言者: 最近、また聞こえるんです。あの歌が。夢の中で。それと...妻の声が。「一緒に来て」って。

調査官A: ...それ以上は言わないでください。

証言者: なぜ?

調査官A: あなたは、生存者として重要な証人です。消えてもらっては困ります。

証言者: でも...もし妻が呼んでいるなら...

調査官B: 田中さん、その歌を口ずさまないでください。聞いた者も、影響を受ける可能性があります。




【音声記録終了】

【追記 - 2026年1月21日 午前3時】

田中健一氏、自宅にて消失。

防犯カメラには、午前2時47分、自宅前に佇む田中氏の姿。

午前2時47分45秒、3秒間のノイズ。

回復後、田中氏の姿なし。

地面には、一つの影が焼き付けられていた。

顔は、空に向けられていた。

その夜、調査官全員の夢に、同じ歌が聞こえた。

「まあるい輪になれ、手をつないで、みんなで行こう、あの空の向こう...」




【事件は未解決のまま、調査打ち切り】

消失者総数: 23,848人

理由: 不明




【発見された最後の記録 - 田中健一の日記 / 消失当日】

「妻よ、今そっちへ行く。

待っていてくれ。

向こう側で、また手をつなごう。

調査官の皆さんへ。

これは事件じゃない。

これは、帰郷だ。

みんな、ただ故郷に帰っただけだ。

僕たちが本当にいるべき場所へ。

この街は、ただの待合室だったんだ。

300年ごとに、次の乗客と入れ替わる。

さようなら。

そして、次の300年を、よろしく」

【記録終了】

【この事件の全ての資料は、機密指定とする】

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