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世界は静かに壊れている【ショートショート集・短編集】  作者: 御影のたぬき


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【ディストピア】ライク数

SNSの「いいね」が、ある日突然、現実の価値になった。

最初は気づかなかった。投稿に100いいねがついた日、なぜかコンビニで100円引きしてもらえた。

「ポイントカードお持ちですか?」

「いえ...」

「あ、でも割引対象ですね」

とレジの店員が画面を見て言った。

「100円引きになります」

偶然だと思った。

しかし翌日、1000いいねがついた投稿をした後、レストランで食事をすると

「本日は1000円引きです」

と言われた。

「何かキャンペーンですか?」

「いえ、あなたの...」

店員が僕のスマホを見た。

「ライクスコアが高いので」

「ライクスコア?」

「ええ。SNSのいいね数で、社会的信用度が測られるんです。知りませんでした?」

帰宅して調べた。

一ヶ月前、政府が新しい制度を導入していた。


「ソーシャル・クレジット・システム」


SNSでのいいね数、フォロワー数、エンゲージメント率などから算出される「スコア」で、様々なサービスの価格や優先度が変わる。

高スコア者は割引や優遇を受けられる。低スコア者は...逆だ。

僕はそこそこのスコアだった。フォロワー5000人、平均いいね数500。

「これは...使えるかも」

そこから僕は必死に投稿を始めた。

毎日3回、バズりそうな内容を考える。猫の写真、感動的な話、共感を呼ぶ愚痴。

いいね数が増えるたびに、生活が楽になった。

電車賃が安くなる。スーパーで割引される。病院の待ち時間が短くなる。

しかし、ある日、投稿が全くバズらなかった。

「今日の僕の気持ち」というポエムを投稿したが、いいねは50だけ。

翌日、コンビニで

「通常価格になります」

と言われた。

「昨日まで割引だったのに...」

「ライクスコアが下がったようです」

慌てて投稿を続けた。しかし、ネタが尽きてきた。

そんな時、広告が表示された。

『いいね購入サービス - 1000いいね:1万円』

買った。

瞬間、スコアが上がった。生活も元に戻った。

でも、翌週にはまた下がった。

また買った。

気づけば、毎週いいねを買っていた。

給料の半分が、いいね代に消えていく。

ある日、職場で人事から呼び出された。

「君のライクスコア、下がってきているね」

「それが仕事と何の関係が...」

「大いにあるよ。当社では、ライクスコアが一定以下の社員は昇給対象外なんだ。むしろ、減給もあり得る」

「そんな...」

「頑張ってスコアを上げてくれ」

家に帰ると、アパートの大家から連絡があった。

「来月から家賃、上がります」

「なぜですか?」

「あなたのライクスコアが基準値を下回ったので」

狂ってる。

でも、これが新しい世界なのだ。

僕はさらに必死に投稿した。

友人の不幸話を盗んで投稿した。バズった。

感動的な嘘を作って投稿した。バズった。

他人の写真を盗んで、自分のものとして投稿した。バズった。

スコアは上がった。

しかし、ある日、本当の友人から連絡があった。

「お前、俺の話を勝手に投稿しただろ」

「あ、それは...」

「お前のせいで、俺のスコアが下がったんだよ。同じ話を投稿しても、『パクリ』認定されて、いいねがつかなくなった」

「ごめん...」

「謝って済む問題じゃない。俺、クビになったんだ。スコアが低すぎて」

電話は切られた。

罪悪感を感じた。しかし、止められなかった。

投稿をやめれば、僕も終わりだ。

数ヶ月後、僕のスコアは10万を超えた。

トップクラスだ。

生活は激変した。

電車もタクシーも無料。レストランは全て半額。病院は優先診療。

アパートも、高級マンションに引っ越せた。家賃は以前の半分。

会社では昇進した。

全て、ライクスコアのおかげだ。

しかしある日、街で見かけた。

ライクスコアが低い人々。

彼らは灰色の服を着せられ、特定の区域でしか生活できない。

「スコア難民」と呼ばれていた。

その中に、元友人がいた。

「おい...」

と声をかけた。

彼は僕を見て、目を逸らした。

「話しかけないでくれ。あんたみたいな高スコア者と一緒にいるところを見られたら、『すり寄り』と判定されて、さらにスコアが下がる」

「そんな...」

「あんたが俺を落としたんだ。もう関わらないでくれ」

彼は去っていった。

その夜、僕は考えた。

これでいいのか?

しかし翌朝、投稿していた。

だって、止められないから。

スコアが下がれば、全てを失うから。

それから一年。

僕のスコアは100万を超えた。

国内トップ100に入った。

あらゆる特権が与えられた。

専用車、専用レストラン、専用病院。

「上級市民」と呼ばれるようになった。

しかし、ふと気づいた。

周りに人がいない。

友人は全て去った。家族も連絡を絶った。

理由は分かっている。

僕が彼らのネタを搾取し続けたから。

一人でいると、むなしかった。

でも、スマホを見ると、何百万ものフォロワーがいる。

毎日、何万ものいいねがつく。

「愛されている」

そう思うことにした。

ある日、政府から通知が来た。

『ライクスコア上位者会議への招待』

会議室には、100人ほどの「上級市民」が集まっていた。

壇上に立った官僚が言った。

「皆さん、おめでとうございます。あなたたちは、新しい社会の支配者です」

「支配者?」

「ええ。ライクスコアが高いということは、社会的影響力が高いということ。つまり、あなたたちの意見が、この国の方針を決めます」

周りの上級市民たちが拍手した。

僕も、なんとなく拍手した。

「そして、スコアの低い人々は...」

官僚が冷たく言った。


「市民権を剥奪します」


「え?」

「彼らは社会に貢献していません。いいねをもらえないということは、価値がないということです」

画面に、スコア難民たちの映像が映った。

彼らは収容所のような場所に集められていた。

「これから、彼らは労働力として管理されます。もちろん、SNSへのアクセスは禁止です」

僕は立ち上がった。

「これは...おかしい」

「おかしい?」

官僚が僕を見た。

「あなたが今の地位を得られたのも、このシステムのおかげですよ」

「でも...」

「それとも、あなたもスコアを下げますか?」

座った。

何も言えなかった。

会議が終わり、外に出ると、スマホが震えた。

新しい投稿の通知だ。

誰かが、今の会議の内容をリークしていた。

『上級市民たちが、低スコア者を収容所送りに』

投稿は瞬く間にバズった。

しかし、いいねをつけているのは上級市民たちだった。

コメント欄には、

「当然だ」

「スコアが低いのは自己責任」

「社会のお荷物を排除すべき」

という声が溢れていた。

僕も、いいねを押した。

押さざるを得なかった。

だって、押さなければ、僕も落ちる側になるから。

その夜、夢を見た。

巨大な画面に、自分の顔が映っている。

その下に、数字が表示されている。

『ライクスコア:1,234,567』

数字が減っていく。

1,234,566

1,234,565

1,234,564

止まらない。

「やめろ!」と叫んだ。

しかし数字は減り続けた。

100万、50万、10万...

そして、ゼロになった瞬間。

僕の体が消えた。

目が覚めた。

スマホを確認した。

スコアは変わっていない。

安心した。

そして、投稿した。

「今日もいい天気ですね」

いいねが、どんどん増えていく。

僕は微笑んだ。

これでいい。

これが、幸せなんだ。

窓の外では、灰色の服を着た人々が列をなして歩いていた。

どこかの収容所へ。

僕は、カーテンを閉めた。

見なければ、いないのと同じだ。

スマホの画面だけを見ていれば、世界は美しいままだ。

通知が鳴った。

『あなたの投稿が10,000いいねを達成しました』

僕は笑顔になった。

笑顔にならなければならなかった。

それが、上級市民の義務だから。

評価いただけると嬉しいです。

ライクスコアが必要なので…

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