6 ありふれた日常
読んでくださりありがとうございます
こうして叔母様一家に甘やかされながら、留学生活を楽しんだ。そんなある日学院の図書館で国で読んでいたミステリー小説の続編が出ているのをローザは見つけた。
なにかと思い出のある本を手に取る気にならなかったが、そろそろ前を向く時が来たのだろう。自然に手が伸びていた。
陽当たりの良い隅の席に座りパラパラと捲ってみた。書き出しから引き込まれてしまった。やはり面白かった。
借りて帰ろうとカウンターで手続きをしていると見知らぬ令息がじっと本を見ているのに気が付いた。
「この本がお好きなのですか?」
「ええ、勝手に女の子は恋愛小説が好きなのかと思っていたので驚いていたのです。失礼しました」
「昔から読んでいたのでそういうふうに思われると心外です」
「決めつけはいけませんよね、本当に申し訳ないです」
司書にこれ以上話さないでくださいという目つきで見られたので二人は慌てて廊下に出た。
「急に話しかけてごめん、君は二年生?僕は三年のクロード・リンガルという者だ」
「ローザ・キャロウですわ」
「ミランの親戚の子だね。隣国から留学に来てるんだよね」
「そうです。ミランお兄様をご存知なんですか?」
「同じクラスだよ。彼はいい奴だよね」
「とても優しいお兄様ですわ。馬車が待っていますので、ではこれで失礼します」
そこへミランとソフィアが急いでやって来た。
「お姉様お待たせしました。早くお姉様の所に来たかったのにお友達の話が中々終わらなくて、ミラン兄様が通りかかったので漸く離れられ助かりましたの」
「図書館で君の従兄妹殿に偶然会って本の話をしていたところなんだ。そちらは妹さん?」
「リンガル侯爵令息様ごきげんよう。ソフィアと申します。いつも兄がお世話になっております。じゃあ姉様帰りましょうか」
「そうね、失礼致します」
「本を返す前に僕に教えてくれると嬉しいな。次に借りたいんだ。ミランを通してでも良いから」
「分かりましたわ、ではごきげんよう」
この時リンガル侯爵令息は華やかな花たちに心を射抜かれぼうっとしてしまった。初めて会ったミランの妹は社交界の妖精と言われる夫人にそっくりだった。
三人は馬車のところまで歩き出した。
「ローザ何の本を借りたの?」
「ミステリーですわ。好きな作家でずっと読んでいたのですが、忙しくしていたのでこのごろ読めていなかったのです。図書館で偶々見つけたんです。懐かしくなって借りてみましたの」
「読んだら僕にも読ませてよ。ローザが面白いと言うなら興味があるな」
「良いですわ。この作家には他にもヒット作がたくさんありますので気に入られたら読まれると良いと思います」
「それは楽しみだ。ローザはミステリーが好きだったのか、知らなかった」
その時一瞬ローザの表情に翳がよぎったことに二人共気が付いた。
「お姉様、私も読んでみたいです。でも恋愛小説もなかなか面白いのですよ」
「そうなのね、恋愛小説も読んでみようかしら」
「屋敷の図書室にもありますし私の部屋にもあるんですのよ」
「楽しみだわ」
※※※
ミステリーはY街に、ある一人の商人が行き彼の商売相手の人物が殺される。次の事件が商人がXという街を訪れると縁のある人物が殺されZ街に行くとまた縁のある人物が殺される。犯人はその男ではないかと読者に思わせて・・・という連続殺人の話だった。それを探偵が鮮やかに解決していくのだ。ローザはドキドキしながら物語を読み終えた。
「ミランお兄様読み終わったのでどうぞ。ソフィアが読んだらリンガル侯爵令息様にお渡しください。きっと図書館で手続きをされるでしょうから」
「もう読んだの?そんなに面白かったんだね」
「次はどうなるのかなと気になってなかなかやめられなくなりますの」
「何を話しているんだい?」
「ライアン兄様、ごきげんよう。お仕事は大丈夫なのですか?好きな本の話ですわ。お気に入りの本を学院で見つけたので三人で回し読みしているところですの」
「へえ、僕も加えて欲しいけどそんなに長くは借りられないんだろうね。買ってあげようか」
「まあ、ありがとうございます。以前は良く読んでいたのですが、暫く振りでしたので、借りてみて又読めるかどうか見極めてからと思っていましたの」
「気に入っているんだろう?なら買ってあげるよ。ローザの部屋に置いておくのでもいいし、図書室に置いてもいいから。侍従に言って本屋に持ってこさせよう。その作家は沢山出しているの?」
「ええ、ベストセラー作家なので」
「じゃあ少しずつ注文しよう」
「兄上、良い所を持っていくね。ずるいな」
「何言ってるんだ。大人の余裕だよ。せいぜい頑張れ」
二人が何やら言い合いをしていたがローザは、国の自分の部屋の本棚を思い出して切なくなっていた。全部アレクにプレゼントされたものだったのだから。
帰ったら図書館に寄付をしてもう一度新しく買い直そうと思った。
こちらで同じ趣味の人が見つかれば良いなと思うばかりだった。
言い合いが終わったらしいライアンが
「弟たちとは色んなところに行っているんだろう?兄様にも付き合ってくれないかな」
と戯けて言った。
「喜んでお付き合いしますわ。何処へ連れて行ってくださるのですか」
「内緒だよ。今度の休日を楽しみにしてて」
朝からメイドに着飾られてローザは今日は何処へ連れて行って貰えるのだろうとワクワクしていた。
ドレスはローザの好きな薄いピンク色で襟と袖に白いレースがあしらわれている可愛らしいものだった。
今日はソフィアは友達とお茶会があり、ミランは本を読んだり剣術の稽古をして過ごすらしい。
ライアン兄様を独り占めして二人に悪いなと思っていたローザはそれを聞いてちょっとだけほっとした。
ミステリーはあくまで私の頭の中の架空の話です。宜しくお願いします。
何度も読み返しているのに自分でミスを見つけ、あ~という感じになります。
指摘してくださる皆様、ありがとうございます。