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2 アレクの罪

読んでいただきありがとうございます

 学院でもアレクの態度は素っ気ないものに変わっていった。婚約者に大事にされていない女性としてローザの評判は落ち始めていた。金髪に濃い藍色の瞳で目鼻立ちの整ったアレクは、次男でも伯爵令息で貴族令嬢からしたら優良物件なのだろう。近づこうとする者が後を絶たなかった。しかしアレクの態度は冷たいものだった。


エリザベート様以外女性として見られないのだろうとローザは覚悟を決めてアレクを休日に屋敷に呼び出す事にした。


「ゆっくりお話がしたいと思ってお誘いしましたの。お茶をお願いね」

メイドにお茶と苺のケーキを用意させて扉を開け人払いをした。扉の前には護衛を二人置いた。


「わざとらしい丁寧な口調はやめろよ。いつもの砕けた話し方で良い。それに学院で話せば良いだろうに、話とは何だ」


「すっかり変わってしまわれましたわね。

恋とは恐いものですね。貴方の想い人は手の届かない方ですわ。でもずっと想い続けていたいと思っていらっしゃるのでしょう?安心なさってくださいな、私は身を引きます。婚約はなかったことに致しましょう。

政略でも何でもなく親同士が私達の仲が良いだろうと決めてくれたものです。大人になれば人の気持ちは移ろうものです。どうかあの方へのお気持ちを大切になさってくださいませ。でも婚約者の方が何もされないとは思えません。お命は大事になさってくださいませ」


「待ってくれ、さっきから何を言っている。まるで私がローザ以外に心を移したようなことを言っているように聞こえるのだが」


「その通りで間違いはないかと思いますが、違いませんよね。学院に入ってからの貴方の態度で直ぐ分かりましたわ。視線の先にどなたがいらっしゃるかなんて。

お茶会でも私の話など聞いていらっしゃらなかったではありませんか。良いのです、想い人が他にいらっしゃるのに無理をされなくても。そんな方こちらからお断りですわ。後で父には話をしておきますので安心なさってください。ではごきげんよう。グレース、アレク様がお帰りよ、玄関まで送って差し上げて」

言いながら涙が溢れそうになるのをどうにか堪えた。



「誤解だ、好きなのはローザだけだ。年頃になり真っすぐ見つめるのが恥ずかしくなってしまった。綺麗になりすぎて直視出来なくなってしまった。話を聞くどころではなくなるというか、煩悩と戦うのが必死で」


「煩悩とは何でしょう。昔から嘘が下手ですわね。学院ではあの方ばかり見ていらっしゃったではありませんか。私に対する態度が冷たくなったと皆様に認定されて、婚約者に相手にされない可哀想な女扱いをされておりますの。騙されませんわ。では今度こそお帰りはあちらですわ」




 アレクは自分の失態を理解した。エリザベート様は手の届かない美術品の様な存在だった。恋心は少しはあったかもしれないが、唯憧れて見ていただけだった。

けれどローザに全部見透かされていたのはいただけない。大事にするべきはローザだったのに怠ってしまい、ぞんざいに扱い傷つけて怒らせた。とても気の合う婚約者だったのに馬鹿なことをしてしまった。ローザの冷たくなった顔ばかり浮かんで来て、アレクはどうやって屋敷の自分の部屋に帰って来たのか分からなかった。


 殿下にも見られているはずだ。今まで何もされなかったのが不思議なくらいだった。潔く処分は受けよう。家には迷惑がかからないように縁を切ってもらおう。自分の不徳のいたすところなのだから。


父親は宰相なので中々屋敷に帰って来ない。しかし息子のしでかした不始末を知らせない訳にはいかなかった。アレクは家令に手紙を預けて屋敷で謹慎することにした。



 一週間ほどしたある日父親が疲れた顔で帰ってきた。アレクを執務室に呼びつけると

「この度のことはこちらでも調べさせた。ローザ嬢に対するお前の態度の酷さは何なのだ。それが長く付き合っていた婚約者に対するものだったのか自覚していなかったのか。傲慢になりおって。恋をするのは仕方がないが相手にもされないお方だ。態度に出してはいけないと何故思わなかった。心に蓋をするくらいのことがどうして出来なかった。情けなくて仕方がない」


「申し訳ありません。ローザ嬢は婚約者で私を見捨てることはないと心の何処かで思い上がっておりました。切り捨てられて改めて大切さに気付いた大馬鹿者です。殿下からの処分も覚悟をしております。家から放り出されても自業自得だと思っております。どんな処分でも受けるつもりです」


「婚約は破棄になる、馬鹿なことをしたものだ。彼の方とは違う意味での心の清純な綺麗な良い娘だったのに。見る目がなさ過ぎだ。ずっとあの方を想っているわけにはいかないのだぞ。もう想いには蓋をしろ、良いな。

他にもそういう者が沢山いすぎて今更処分するのも大変だから殿下はもう良いと仰っていた。広い御心に感謝するのだな。我が家として何もしない訳にはいかないからお前は領地で謹慎処分とする。王都へ来ることは許さない。勿論女遊びは許さない」


「承知致しました。申し訳ありませんでした。真摯に反省致します」


キャロウ伯爵家にはランチェスター伯爵とアレクが謝罪に行った。

「この度は愚息が馬鹿なことをしでかしてローザ嬢に大きな傷を負わせてしまい申し訳が無い。親として情けない限りだと思っている。出来るだけの慰謝料を払わせて欲しい。こやつの私費と伯爵家から出来るだけ多く支払いたいと思っている」


「キャロウ伯爵令嬢、済みませんでした。自分でも最低な奴だと思っています。楽しかった思い出を泥で汚したのは私です。どうしてあんな態度が取れたのか恥ずかしく、穴を掘って埋まりたいくらいです。今更言ってもしょうがないですが恋では無く唯の憧れでした。でも酷く傷つけたのは事実です。償いは見てもらえないでしょうがこれからはまともに生きると誓いますので許してください。何の咎もない貴女に瑕疵をつけてしまい本当に申し訳ないと心から反省しています」



「分かりました。許すことはまだ出来ませんが、ランチェスター伯爵令息様に必要なのは私ではなかったと理解できましたのでこれで終わりに致しましょう」


この時ローザはいつになったらアレクを許せるようになるのか見当もつかなかった。


父は隣で拳を握りしめ歯を食いしばって殴りたいのを我慢してくれたようだ。

お互いの親がサインをして私達の婚約は破棄となった。



この後アレクは監視付きで領地へ送られた。





 王子妃教育で学院にはそれほど通っていなかったエリザベートにも噂が入って来た。王宮ですれ違いざまに「沢山の婚約を壊した悪女」と言われたり「傾国の美女と持て囃されて驕っている」だの好き放題言われていた。


婚約が壊れているというのは事実なので、父親に王子殿下との婚約を解消し修道院に入りたいと願ってみたが叶うはずもなかった。


「エリザベートが悪い訳では無い。態度に出し婚約者に悟られた男どもが愚かなだけだ。気にするな」

と父は庇ってくれたが心は晴れなかった。



婚約者のユリウス殿下には

「今更逃さないよ。どれだけ私がエリザベートを愛しているか分かっていないようだね。せっかく虫を駆除したのに、酷いな」

とさらっと怖いことを言われたような気がしたが、愛していると言われたのが嬉しくてエリザベートは殿下に抱きしめられ、赤くなった顔を胸に埋めたまま暫く動くことが出来なかった。




エリザベート(美し過ぎただけです)に魅入られた様になった貴族令息は婚約破棄をされる者や結婚しても離婚される者が多かったそうです。どれだけの美女なのって感じです。AI美女でしょうか・・・・・

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