12 未来へ
読んでくださりありがとうございました。最終回です。
めでたくライアンとローザの婚約が整い、学院の卒業を待って結婚式が行われることになった。
こちらで簡単な式を挙げ、母国で大きな規模の式をすることになった。父の商売相手の貴族や親戚などを招待することになり準備が大変だが、やることが決まったローザは充足感に満ちていた。ライアンの国では昔叔母様が着た豪華な花嫁衣装で式に臨み、叔母様の花嫁姿を思い出した叔父様とお父様が涙を流していた。叔母さまと母様は微笑ましそうにしていた。
ソフィアは可憐でミラン兄様は騎士団の正装でキリッとしていて格好良かった。
「結婚おめでとう、幸せになれよ」
「ありがとう、ミラン兄様。また母国の結婚式にも来てね」
「ああ、必ず行くよ。兄上があの方から狙われるとは、災難はいつ降ってくるか分からないね」
「ミラン、済まない。全部押しつけるような形になって」
「いいさ、家を守るのも大事な仕事だからね。領地のことは任せてくれ。困ったら相談するから宜しくね、兄上」
「色々申し訳ないと思っている。良い弟を持って幸せだ」
「兄様ローザ姉様ご結婚おめでとうございます。姉様、お兄様が何かやらかしたらミラン兄様と一緒にやっつけに行きますから安心してくださいませね」
「ソフィアありがとう。私は味方が沢山いるのね、幸せだわ」
「僕が一番の味方だよ、ローザ」
蕩けるような瞳のライアンが囁いた。
「そうですわねライアン兄様」
ぽっと赤くなった顔が初々しくて周りを温かな空気が包んだ。
母国での結婚式の準備のためローザはライアンと共に帰国することになった。
あれから苺の栽培は順調でバルリング領でもガラスのサンルームの大きな物を作らせて、貴族相手の高級品種として売り出すことになった。
叔父様一家の収入はぐっと増えることになった。苺を傷付けず運ぶために道路整備も盛んになり雇用も増えた。
ミラン兄様は騎士団を辞め領地経営に専念する事になった。
ソフィアはリンガル侯爵令息からアプローチを受けているらしい。ミステリーと恋愛小説が仲を取り持ったようだ。すぐにでも婚約を結びそうな雰囲気になっていた。
ローザとライアンも父の領地経営の手伝いをしながら、例の特別甘い苺を特産品にするべく栽培をすることにした。叔父様のところと同じ様にガラスのハウスを作り貴族向けに高級品として販売をすることにした。
それと共に銀を使い洗練されたデザインの食器やカトラリー、ネックレスやピアス等のアクセサリーでキャロウ領は着々と利益を上げ益々栄えていった。それに伴い王都でも店舗を出そうとローザ達は動き始めた。一等地に店を構えることにしたのだ。ショウケースに見栄え良く商品を飾り購買意欲を高める為だ。
カトラリーは侍従などの使用人が見定めに来るだろうが、アクセサリーはデートの時に寄って貰えたらという狙いがあった。思惑は当たりショップは金持ちの平民から貴族まで一目置かれる存在になっていった。
徐々に人気が出て高級なカトラリーはステイタスの為や毒の検出に役立つようになり、需要は更に増えた。
※※※
晴天に恵まれた春の日キャロウ領は喜びに包まれていた。一人娘であるローザ様の結婚式が今日なのだ。三日ほど前から出店が出ていて街はお祭り騒ぎになっていた。当日は領主からご馳走が領民に配られるということで皆浮かれていた。
街の賑わいを遠くに聞きながらローザは花嫁の支度に朝早くからかかりきりだった。ライアンと母が特に力を注いで作らせた繊細な白いレースのウエディングドレスが可憐な花嫁をより一層輝かせていた。ライアンはローザの美しさに声が出せないほど固まってしまっていた。
「とても綺麗で女神のようだ。息をするように褒められると思っていたがありふれた言葉しか出てこない」
「ライアンもとても素敵だわ」
前髪を上げ金のモールを付けた白の正装に身を包んだ花婿は、美丈夫ぶりが半端なかった。
叔母様一家は相変わらずの華やかさだった。昔叔母さまに憧れていた方々が遠巻きにされうっとりされているのを奥様達が睨みを利かされていた。そっくりなソフィアもその対象で令息達の視線をミラン兄様が牽制をして守っていた。
こうして厳かに式は始まり誓いの言葉とキスで締め括られた。ブーケトスはソフィアが受け取った。次の幸せな花嫁の予感に会場が浮かれ、やはり叔父様が微妙な顔をしていてローザの父に慰められていた。
ローザは実父と義父の仲の良さに心が温かくなっていた。ライアンもそう感じたらしく二人は顔を見合わせて微笑み合った。
披露パーティーは盛大でローザとライアンは顔を売っておきたいと考える親族への挨拶まわりで忙しくなった。流石に疲れが出始めたローザは途中で抜け出すことになった。
メイド達に湯船に浸けられ全身を磨かれ、薄いナイトウェアを着せられて夫婦の寝室に連れて来られていた。ついに本当の夫婦になるのだとローザは覚悟を決めた。ライアンは理性的でこの日までキスだけで我慢をしていた。
扉を開けてライアンが入って来たときに安心感で嬉しさが弾けた。
「ローザとても綺麗だ、結婚できたなんて夢のようだよ」
瞳には熱がこもりこれからの時間を予想させるようだった。ローザの唇に柔らかいものが触れた。
「ライアンも素敵です。これからよろしくお願いします」
言うか言わないかの内にさらにキスが続けられローザは何も考えられなくなっていった。とても丁寧に優しく愛されていると思うと、何も考えられなくなり快感を拾うようになった。ローザはいつしか気を失うように意識を飛ばしていた。
将来二人には息子が二人と娘が二人生まれ賑やかな生活を送ることになった。
忙しくも幸せな毎日を送っているとライアンが時々不安そうな顔で聞いてくるのだ。
「あの時私と結婚して本当に良かったのかな、後悔していない?」と。
私はこの可愛い人を抱きしめながら
「とても幸せです。愛していますわライアン」
と愛を囁きながら抱きしめるのだ。頭が良く頼りになって格好良く、いつまでも私一筋の夫を離す訳がないのだから。
素行の悪かった第一王女は帝国の王様の七番目の側室として嫁ぐことになった。
王が愛しているのは正妃様だけだそうだが、外交の都合で婚姻が断れず後宮の権力争いは熾烈らしい。
他国まで噂が聞こえて来るほどなので余程なのだろう。
ミランには被害が及ぶことはなかったので、仮婚約者には多大な慰謝料と共に速やかに婚約は白紙にされ瑕疵が付かないようにされた。
本人は気づいてもいないだろう。生まれたばかりの女児だったのだから。
騎士団で人気の高かったミランには釣り書がうず高く積まれるようになったが仕事を覚えるまではと頑なに断っていた。
将来ソフィアの友人と運命的な出会いをするとは、この時のミランはまだ知らない。
最後までお付き合いくださりありがとうございました。
ミランは失恋のショックで意気消沈しましたが、事情が事情だけに泣く泣く諦めました。
さっぱりした良い男ですので兄を恨むなんてしませんでした。顔で笑って心で泣くタイプです。
良い出会いが待っていそうです。
誤字報告ありがとうございます。
では皆様またお会い出来ますように。