第2話 2
「――ええと、つまりは……」
クラリッサに詳細を聞き終えて、わたしは頭の中を整理する。
セバスさんが用意してくれたお茶の良い香りが、混乱した頭をすっきりさせてくれる。
一口含むと、ほんのり甘くて喉が通るような感覚。
初めての感覚に目を見開くと、セバスさんは片目をつむり。
「その場に合ったお茶を用意するのも、執事の嗜みでございますよ」
と、人差し指を立ててチャーミングに告げた。
難しい話をしてるから、それに合わせてくれたという事ね。
セバスさんは本当に有能だわ。
一方、今話題に挙がっているクラウフィードの無能さといったら……
わたしは思わずため息。
「――つまりクラウフィードは、この星を支配する為に、エリス様を陥れようとしたってこと?」
わたしの問いに、クラリッサもまた、呆れた表情でうなずく。
「しかも、宇宙海賊に踊らされる形で、ね……」
――宇宙海賊
<近衛騎士>がグローバルスフィア――既知人類圏に存在するローカルスフィアネットワーク群――に接続して、関連項目を抽出してくれる。
《既知人類圏内外で活動する反社会的違法集団。
その戦力は、組織によってまちまちではあるものの、大規模なものになると一国の軍隊にも匹敵する。
主な活動は貨物船や旅客船への襲撃、物資や人員の強奪。時には違法な人身売買にも手を染めている》
うぅ……この知らないはずの事を識ってる事にされる感覚、慣れないなぁ……
「宇宙海賊は、いったいなんの目的で?」
「さあ。外道の考えることなんてわからないわ。
ただ、このところ来園する船が襲われる事も増えてて、頭を悩ませてたところなのよね」
恒星間転送路を通って寄港する船はともかく、超光速航路を利用する船は、航宙法の制限もあって、衛星――緑の月の向こうに降りてくる。
海賊達は、そういう船を狙って襲撃しているのだとか。
「他にも、宇宙港の専属スタッフを脅して、工作活動をさせたりとかね」
セシリアを引き入れたのは、そういうスタッフさんのひとりだったのだという。
「――警備部の調べでは、そいつ、家族を人質に取られていたそうよ」
と、部屋のドアが横にスライドして。
現れたのは、蜂蜜色の綺麗な髪を今日は左右に結い上げたエリス様だ。
「姫様。陛下へのご報告はもうよろしいので?」
お茶の用意を始めながら、セバスさんが尋ねると、エリス様は大きくうなずく。
「ええ。一度、主星に帰って来いって言われたけど、海賊騒動が収まってからで良いそうよ。
まずはファンタジーランドの安全を確保しなさいって」
「それはようございました」
と、セバスさんはわたしの席の隣に、エリス様のカップを用意しながら微笑んだ。
エリス様は、わたしの前までずんずんやってきて。
「待たせたわね。ステラ。
改めて、エリシアーナ・レイア・サーノルドよ。
もう知ってるはずだけど、大銀河帝国第四皇女にして、サーノルド王国第一王女ね」
両腰に手を当てて、彼女は胸を張った。
《――サーノルド王国の現王妃は大銀河帝国、元第二皇女。
エリシアーナは皇帝の孫に当たり、現在皇位継承権第六位。
また、サーノルド王国において王位継承権三位の立場》
また<近衛騎士>が、知識を集めてくる。
――大銀河帝国。
既知人類圏の半分を版図に治める大星間国家だ。
この星――ファンタジーランドしか知らないわたしにとっては、規模が大きすぎて想像がつかない。
「え、えと。そんなお立場の人が、わたしなんかを近衛騎士にしてよかったんですか?」
恐る恐る尋ねると、エリス様は腕組みして、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「勝手に決めたから、お父様に怒られちゃったわ」
お父様というのは、ファンタジーランドでの設定上の父である陛下――ダストン・ファンタジーキングダムの事ではなく、サーノルド王国国王陛下の事だろう。
「でも、あのキャプテン・ノーツの孫で、マルチロール型ハイソーサロイドだって教えたら、むしろ褒められたわ」
誇るように微笑むエリス様。
――ハイソーサロイド。
《およそ三百年前に終結した、<汎銀河大戦>期に生み出された、ソーサルリアクター搭載型ヒト種属――ソーサロイドの上位種。
高稼働ソーサルリアクターを搭載し、高効率でソーサル・テクニックを運用可能。
<大戦>における決戦兵器として開発され、戦況に合わせて様々なタイプが戦場に投入された。
中でも当騎――マルチロール型は汎用性に重点が置かれており、あらゆる戦場の鎮圧、生存を可能としている。
現在、ハイソーサロイドは絶滅種とされており、ごく稀に<大戦>期を生き延びた者の子孫が発見される事がある》
……ふむ。
わたしの身体は、どうやらレアキャラだったみたい。
《――なお、<騎士>及び<近衛騎士>運用システムは、ハイソーサロイド技術を応用して開発されたものであるが、現状では劣化版としか評価しえないものである。
ただし、当騎ステラ・ノーツ運用においては、補助システムとして運用されており、その限りではない》
なるほど。
<近衛騎士>さん、やたら勝手に知識を呼び出してくれると思ったら、補助システムとして動いてるのか。
要するに、わたしが不思議に思ったら、色々と調べて教えてくれるって事だよね。
アレだ。前世のインターネットの検索サイト。
あれの高性能版なんだろうね、きっと。
コンピューターに疎いわたしは、前世ではうまく検索できない事もあったけど、<近衛騎士>さんが勝手に調べて教えてくれるんだから、便利だね。
そして、こんな事を考えている間も、わずか一瞬!
わたしは最初から知っていたような顔で、エリス様にうなずく。
「わたしがレアキャラだから、陛下をご納得させられたって言うのはわかりましたけど……キャプテン・ノーツ? おじいちゃんの事ですか?」
「サーノルド王国の救世主なのよ。
グローバルスフィアにあるでしょ?」
エリス様の言葉に従い、わたしは<近衛騎士>にキャプテン・ノーツについて調べてもらう。
そして、アーカイブムービーが引っ張り出されてきて、わたしのローカルスフィアで再生される。
「――な、なにコレっ!?」
その内容に、わたしは思わず驚きの声をあげていた。