ひまわり畑の約束
中学一年の夏休み。今年もおばあちゃん家に遊びに来た。大好きなひまわり畑に足を伸ばす。
すると私の背を越えるひまわりの合間に人影が見えた。同じ年くらいの男の子だ。透き通るような白い肌、物憂げに伏せた目が私に気付いた。
ふと笑んだ表情に思わず見惚れる。
「この辺の子?」
思ったより低い声に、ビクッとなった。
「ううん、おばあちゃん家が近くて」
「そう」
「うん」
ジリジリと肌を焼く日差しに心の中まで熱せられた。
「俺、もうすぐ死ぬんだ」
「えっ⁉︎」
初対面相手に何の冗談と思ったが、彼は真剣な表情だった。
「来年もまた来る?」
「……うん、多分」
「そっか」
そう言って、彼はひまわり畑の中に消えていった。
おばあちゃんに聞くと、陽太君という男の子が近くに住んでいて、重い病気でドナーが見つからず手術ができない状態らしい。
……そういえば、彼は病院で着るような服を着ていた。
その夏はひまわり畑に何度行っても彼に会えなかった。
翌年。私はすぐにひまわり畑に向かった。
彼がいた。
彼の体は透けて向こうにひまわりが見える。
「……嘘」
思わず声がもれた。
私に気付いた彼がこちらを向いた。
「また会えたね」
「……うん」
「でも、もう会えなくなる」
「そんなっ」
彼はふと、ため息をついた。
「頑張るの疲れたよ」
「でも、せっかく知り合えたのに」
「……不思議だったんだ」
「え?」
彼が私のすぐそばまで来た。
「どうして消えないんだろうって。君だったのかも。君に会いたくて……」
「……!」
私達の出会いはたった数分。それでも会いたいと想うには十分な時間だ。
目の前に立つ彼。お互いにじっと見つめ合う。
「来年もまた来てよ。会いに来るから」
「うん……。絶対、約束だよ?」
彼は微笑みながら頷いて、私の目の前でふっと消えてしまった。
広いひまわり畑の真ん中。ジリジリと照らす太陽。私の足元にポタポタと滴が落ちた。
その日から数日が経ち、帰る日がきた。ずっとふさぎこんでいた私はおばあちゃんに恐る恐る声をかける。彼の事を聞いてみようとした、ちょうどその時、電話が鳴った。
おばあちゃんが電話口で驚いている。電話が終わり、こちらを向いたおばあちゃん。
「日向子、陽太君の目が覚めたって」
「……え?」
彼はあの日、手術をしていたらしい。心肺停止でかなり危険な状態だったにも関わらず、奇跡的に持ち直したとか。そして今日、無事に目を覚ました。
彼の第一声は、
「ひまわりのあの子に会いたい」
だったそうだ。