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第98話 ボク荒野の食材を探す。

遅ればせながら明けましておめでとうございます。

本年も作品と共によろしくお願い致します。


投稿が遅れてしまい、ご心配をおかけしました。

それではいってらっしゃいませ。


 ボクはチヌルと和穂と共に、岩山沿いに食料を調達しに向かった。



 チヌルは今、先ほどまで羽織っていた外套を身につけていない。

 もともと外套は防具として使っているから、アースドラゴンとの戦闘の為羽織っていたらしい。

 今回は和穂も一緒だし、必要ないだろって。


 紫色の少し厚手の足首辺りまでの丈のスカート(腰巻き?) を履き、スカートの上から被せる様に赤い和服のような前開きの上衣を羽織って幅の広い帯を巻いている。


 登山靴の様な、ハイカットのスニーカーの様なゴツイ靴に、手には小手の様なグローブを着用していた。

 帯に沿わせる様に、ベルトを使い帯刀し、両手で収穫用の大きな籠を持っている。


「籠も和穂の収納空間にいれたら? 」と言ったんだけど、「手ぶらでいる事が落ち着かない」と断られた。


 スカートの裾と地面の間から先端だけ白い2本の尻尾がユラユラと動いている。


 イメージは猫又だな……。


 よくペットに洋服を着せる飼い主がいるとか聞くけど……こう実物を目の前にすると凄く可愛いと思う。


 チヌルは二足歩行なので、絵本やゲームなどのファンタジー作品の登場人物の様にも見える。


「アキラ、聞いてるかぃ?」

 チヌルがコチラに振り返り尋ねてくる。


「ごめん、聞いてなかった……」


「なんで……そんなに笑顔なのさぁ……」


「ああ、ごめん」


 ボクはピシャリッと自分の頬を挟む様に叩き刺激を与える。


「ゴメン、なんだって?」


「だから……」



 何でも、引越しになるから、ボク等の元に来るのは少し時間がかかるというのだ。


 まぁ、ウメちゃんの引っ越しの時のように、狐鈴に手伝って貰えば済む事だしね。

 その辺りの事をチヌルに伝える。


 あと事前にしておいた方が良い事は……。


「和穂、お願いできる?」

 ボクは手に巻いていた数珠を和穂に見せるとコクコクと頷く。

 和穂はしゃがみ、チヌルの尻尾の1本を握る。


「うにゃっ!?」

 尻尾を握られビックリするチヌルをよそに、白い部分の毛をプチリッと抜く。


「ひっ!」

「んっ……!!」


 突然の事に驚くチヌルに、尻尾に流れた電気に反応する和穂。

 和穂は顔をしかめ、驚きはしたものの、握った尻尾をマジマジと見ている。

 握った手の中からはみ出た尻尾の先は、別の生き物の様にピコピコ動く。


「な、なんだぃ?」

 和穂がしゃがんでいる事で目線がほぼ同じになった、和穂をチヌルが見つめる。


「ふっ……」

 和穂はそっと握った尻尾を離し、首を横にフルフル振り、立ち上がる。

 何だか分からないが、チヌルの尻尾の動きが和穂のツボにハマった様だ。


 和穂は抜き取った白い毛をボクの数珠に絡める様に持ち、光を宿らせる。


 すると、和穂はボクに数珠を返し、先ほど尻尾を握っていた手を開いたり閉じたり振ったりしていた。

 

「これで、チヌルもボクの呼びかけに一瞬で飛んで来れる様になったんだ」


「……え?」

「ボクがこれを身に付けている時に限るんだけど、離れていてもボクと頭の中で話ができて、一方通行だけど、ボクが呼んで応じてくれれば、この数珠がゲートになって、ボクの元へ来れるようになったんだ」


 チヌルは頭の上に「?」を乗せ首を傾げている。


 人間には使えない、精霊だけの通り道だから、ある意味ボクの精霊使いって職には相性が良いのかもしれないな……




「この地で食べられるのはメーソルという細長い草と、ナーヴという葉の厚い大きな草、ルボンテという実だよ」


 チヌルが説明してくれる。


 目の前の岩陰から葉っぱの先端の様なものが見える。


「あれはナーヴだねぇ、葉の内部がスカスカになっていて、水を溜めているんだ、水袋として水場の無いこの地では、重宝しているんだよ」


 葉っぱに近づいてみると、アロエの様に両端にトゲトゲが付いている……幅が広くて肉厚な、まるでちょっと大きめな湯たんぽの様な見た目だ。

 そんな葉が中の水の重さで枝垂れている。



「こ、これはどう収穫すれば良いのかな?」


 下手にもいで、貴重な中身の水をこぼしてしまったら流石に罪悪感にかられそうだ。


「あー……これはねぇ、こうするのさぁ」

 チヌルは葉っぱと茎の付け根を両手で押さえ、下に向かって力を加えると、パキンッと音がして1枚の葉っぱが採れる。



「飲む時はこう……」


 ボクが和穂に鍋を出してもらうと、チヌルは葉の先端を噛み切り逆さにする。


 すると、凄い勢いで葉の中の水が出てくる。

 葉に圧を加えると、残りの水分も出てくる。まるでスポンジの様だ。


 搾りきると切り口から中が見える。

 パッと見た目が麩菓子の断面図の様にも見える。


「これは、無味無臭の葉だけど、歯応えがあって、こうスカスカな構造だから料理に加えると、よく味が絡むのさ」

 チヌルが説明してくれる。


「これは干して水分を抜くとどうなるのかな?」


 ボクの疑問に、チヌルはキョトンとして、アゴに指を当て考える。

「さぁてね、アタイは試した事ないよ、すぐに食べちまうからねぇ」


 ヘチマの様に繊維質になるのだろうか、それともスポンジの様にフワフワになるのだろうか……。


 ボクの頭の中では、ひょっとしたら油揚げの代用品になるんじゃないかと、期待しているのだけれど、実際のところは試してみなくちゃ分からない。


 稲荷寿司の再現に至れば、和穂達も狐鈴も喜んでくれるだろう。


 とりあえず、10枚程収穫する。1枚あたりの重量がかなりある為、早々に和穂の収納にしまってもらう。


「あれがルボンテさぁ」

 チヌルが指差した先を注意してみると、広がる荒野の所々に白いサボテンのような植物が生えている。


「あれは皮を剥くと中身は赤くて、ヌメヌメしているんだけど、加熱したり焼くとヌメリがとれて美味しくなるんだ」


「生でも食べられるの?」


「んー、生では酸っぱくて食えたもんではないねぇ」


「だってさ、和穂」


 美味しいと聞いて目をキラキラさせて、尻尾をパタパタさせていた和穂だが、チヌルの言葉を聞いて耳を垂らし、尻尾の動きを止める。


「それとあれがメーソル、あれは茹でて食べるとシャキシャキしていて美味しいんだよ」


 荒野に放り出された岩の隙間から生えている細い葉を指差す。


 こちらも収穫する。

 コロモンからの遣いも、いつ来るか分からないので、これらの不思議な食材も色々試す事ができそうだ。



「そう言えば、アースドラゴンの肉って食べられるのかな?」


「そうだねぇ、普通の刃物では中々切れないし、あまり市場に出回らないから、高級食材として取り引きされているみたいだけど……


 アタイは食べた事ないから、美味しいのかまでは分からないねぇ。


 ドラゴンの肉は滋養強壮が凄いらしいよ」


 ボクはメーソルを根を残し収穫しながら、チヌルはルボンテを収穫しながら話をする。


 和穂は、目につくルボンテとメーソルを手当たり次第黙々と収穫する。


 ルボンテは切り口から出るヌメヌメと、酸味をイメージさせる匂いに抵抗があって、収納空間から取り出した寸胴に獲っては放り込む。


 チヌルの持って来た大きな籠にはメーソルを積み重ねていく。


 どれくらい集めた頃かな、ボクが顔を上げると、和穂とチヌルが同じ方向を向き立ち上がっている。


「ん? どうしたの?」


 ボクが声をかけると、チヌルが指を立て口元に当て、周りをキョロキョロする。


「サンドフィッシュだ……」

 チヌルは声に出す。


 自分の視線を、和穂の視線の先に合わせると、風景に少し違和感のある動きが見えた。


 擬態しているモンスターがいる。


 和穂が3体の狐火を召喚し、そのサンドフィッシュに向かって攻撃をする。


『ピギャオォォォッ!!』


 攻撃を受けて擬態を解いたサンドフィッシュは、自動車程の大きさで2匹いた。

 体に煙を燻らせながら、平たい赤い色の身体を宙に浮かせて、こちらに向きを変える。

 最初は大きなカブトガニの様に見えたけど、あれは殻を纏ったマンタだ。


『キュルロロッ』


 ハングライダーの様に低空飛行で滑る様に、突っ込んでくる。


 あんなのが接触したら、ひとたまりも無いだろう。


 和穂は両手に双剣を引き抜き、チヌルも腰の剣を引き抜いて、こちらへ向かってくるサンドフィッシュに向かって走っていく。


 和穂はサンドフィッシュに飛び乗り、甲殻の上から斬りつける。


 チヌルは姿勢を低くし、サンドフィッシュの腹の下にスライディングをするように潜り込み、剣を突き上げ、突進してくる相手の勢いを利用して斬りつける。

 深めの傷を刻む事はできたものの、接触の勢いで進行方向へと弾かれる。


 サンドフィッシュは獲物をボクに決めていたのか、勢いが止められないでいるのか、そのままの速度で血を流しながらコチラへ飛んで来る。

 

「クラマッ!」


 ボクはチヌルが手を掛けた、こちらへ向かってくる、サンドフィッシュの正面を指差す。


 そして風の鳥をアースドラゴンの身体に傷を付けたくらいの火力で放つ。


 が、サンドフィッシュのすぐ下にいるチヌルも巻き込んでしまうかもしれないと思い、狙いが上の方に……反動で更に上に向けて放ってしまった。

 

 風の刃はサンドフィッシュをかする事もなく飛んで行く。


 くう……なら、もっとひき寄せて放ってやる。

 もっと近くまで来いっ。


「クラマッ!」


 ズバッ


 2発目の風の鳥はサンドフィッシュは顔の中心に命中し、真っ二つに斬れ、地に墜落する。


 斬られた体は勢いが残っていたので、そのまま地面を擦り付けながらボクのすぐ横を通り止まる。



 これがアースドラゴンとサンドフィッシュの硬さの違いだろう……。

 

 離れた位地で転がっていたチヌルは、身体のバネの力で飛び起き、一度コチラを振り返り、目視で様子を確認すると、踵を返して剣を鞘に収め、和穂の相手している、もう1匹のサンドフィッシュの元へと駆けていく。


 和穂は甲殻の硬さを無視した斬撃で、次々と甲殻に傷を付けていく。

 

 サンドフィッシュは背中に乗ってダメージを与える和穂を振り落とそうと、メチャクチャな軌道で飛び回る。


 身体の重さが原因なのか、さほど高い位置まで飛ぶ事ができない様なので、チヌルはすぐにサンドフィッシュに近付き、和穂と合流する事ができた。


 チヌルは和穂の後方に、飛び乗り、ゴツイ手袋を外し、手の平に電気を生み出す。


 和穂はサンドフィッシュから飛び降りる。


 チヌルは和穂によって破壊された甲殻に手を当て電気を放電させる。


『ピギャーーーッ!!』


 体内の内側から感電させられた、サンドフィッシュはそのまま地に墜落し、バウンドする。

 そして、ビクッビクッと痙攣させた後、動きを止める。



 ボクは真っ二つに仕留めたサンドフィッシュに寄って観察をする。


 甲殻に触れてみれば結構硬く、それ程分厚くないので、軽くて丈夫な防具が作れる様な気がする。


 これは、魚類なのか、甲殻類なのか……どう調理するべきなのか……。

 

 動かなくなったサンドフィッシュを目の前に、食材としてどう料理するか考えているあたり、ボクも食いしん坊になってしまったのだろうか……。

 

 チリソースだったらどっち寄りでも美味しく食べられるな……など、腰に手を当て考えていると、チヌルと動かなくなったもう1匹を収納空間に入れた、和穂がこちらへ寄ってくる。


「チヌル、このサンド……」

「食べられるよっ!」


 ボクの質問を先回りして答えを出し、親指を立てニヤッと笑うチヌル。


「む……」


「アキラも食いしん坊さんだねぇ」


「ち、違うよ、この殻って防具に使えるのかなって……」


 流石に苦し紛れすぎたかな……

 

 すると、チヌルは自分の人差し指をアゴにあて、ボクのすぐ背後にあるサンドフィッシュに視線を移す。


「んー、どうだろうねぇ」


 シュルリと収めていた剣を再び引き抜き、跳躍し撃ち下ろす。


  ガギャンッ!!


 下ろしたチヌルの剣は弾き返され、チヌルはボクのすぐ横に着地する。


「いった、たたっ」


 チヌルは剣を鞘に収めて、手をプルプル振る。


「普通の剣じゃ、腹側はともかく、上の殻は叩き割る事はできなそうだねぇ、防具にするなら上かね」


「え!? さっきはどうやってドラゴン相手に戦っていたの??」


 ボクの質問に、腕を組んでいたチヌルは、グローブを外し、再度剣を引き抜く。


「普通の剣じゃって言ったろっ」

 チヌルはそう言うと剣を構えて、全身の毛を逆立てる。

 

 アースドラゴン相手に戦っていた時は外套を羽織っていたから気が付かなかったけど……。

 

 暫くすると、バチバチッと身体に電気を纏わせて、剣にも同様に流しているようだ。


「よっ!」


 振り落とした剣はサンドフィッシュの外殻を砕き、身を斬り地面に食い込む。


「へぇー」


 ボクはその切れ味に感心する。

 流石に、よく切れる刃と達人の技術によって斬り付けられた、芸術的な切り口とまでは言えないけれど、チェンソーなどで切り落とした大木のような切り口だった。


 チヌルは、手を地面に触れる事で身体に纏った電気を地に流し、鞘に剣を収める。


「そういえば、アキラの魔法は相変わらず凄いねぇ」


「あ、でも……2発が限界みたいだ。貯められていた魔力が空になっちゃった」


 今思うと、アースドラゴン討伐の時は、ウメちゃんからの魔力の供給があったからこそ威力も上げる事ができたし、続けて傷を刻む事もできたのだろう。


 実際1回で、この貯めている全魔力込めたところで、翼を斬り落とす事ができるか分からない。


 だって、シルは風の上級魔法に匹敵する威力とかって言っていたし。

 あの時だって、ウメちゃんから供給される魔力が膨れ上がる様子を確認していたしね。


 供給のない状態での、威力の調整と回数の制限が分かった事はボクにとって大きな収穫だったと思う。



「食料も調達できたし、帰ろう」

 チヌルはそう言うと、ボクの腰をポンポンと叩く。




 ボク達が食料を調達に向かっている間、残っていたメンバーは、今夜のキャンプ地となるチヌルの家の前にカマドを作ったり、チャコの両親から、ダークエルフの隠里のヒントになる様な話を聞き出していた。


 何でも、ダークエルフの隠里は不定期に、里に残る者によって入り口になるゲートの位置が書き換えられてしまうそうだ。


 

 ボク達は戻ると、カマドを使って半身になったサンドフィッシュを火にかける。

 

 本当に調理法に悩んだんだよ、結果、焼いたものがシンプルで1番美味しいのでは? と思ったわけ。


 想像以上に大きな食材を手に入れた事によって、カマドも拡張する事になった訳なんだけれど。


 その横ではチヌルのオススメのルボンテを鉄板で焼いていく。


 ルボンテは確かに皮を剥くとヌメヌメが出てくるのだが、大量にと言うほどではなく、ヌメヌメは鉄板上でパリパリになる。


 イメージとしては羽付き餃子のパリパリの様な感じと言うべきかな……。


 そして、期待の味……ボクはこの味、このもっちりとした食感を知っている。


 肉厚のイカだ……きっとパリパリの部分は、それはそれで美味しいのだろうけど、味見をした段階で、ボクの中で味付けは決定していた。


 【イカのバター醤油焼き】


 無性に食べたくなったのだ。

 和穂に保管してもらっていた醤油(ソーイ)とバターを出してもらい味付けをする。


 この最強の香ばしい匂いに誘われて、鉄板の周りに皆集まってくる。


 小さく切って、皆に味見させてあげる。


「うんまっ……」


「あとは食事の時ね」


 ハクフウさんの口にも合ったようで何よりだ。


 あとはサンドフィッシュの味、食感が、魚の様にホロホロなのか、甲殻類のようにプリンプリンなのか……どちらにしても、まさかこんな荒野で海鮮を食べられるなんて、誰が想像できただろうか。



 収穫してきたルボンテを鉄板に広げ、バター醤油焼きを次々と仕上げている横で、サンドフィッシュから滴る肉汁が、カマドの炭にジュウッと音を出させる。

 


「なんというか、アキラ達の獲ってきた食材は御神酒が呑みたくなるのぅ」


 頭の後ろで手を組んだ狐鈴が、カマドへと寄ってくる。


「わかる、海鮮とお酒って何であんなにも合うんだろうね……」


 酒蒸しとか……

 お酒にそんなに強くないボクでも、たまらなく好きな組み合わせだ。


「今度ジャグラさんに聞いてみようね、きっとミュート辺りを発酵させたお酒あるかもしれないし」


「じゃのっ」

 狐鈴はニパッと笑う。


 狐鈴じゃないけれど、無性にご飯が食べたい……。


「和穂、シュミュート……いつものミュートルより小豆みたいなやつ出してもらっていいかな」


 和穂はひと袋、収納空間から麻袋を出す。


「これはミュート、トッポギの様なやつだね、もっと豆みたいなやつだよ」


 和穂はポンと手を叩き、ミュートの袋を戻し、別の袋を引っ張り出す。


「うん、これこれ。和穂、今日はご飯を食べようね」


 耳をピョンと跳ね上げ、和穂は驚いた顔をする。


「んうぅー……」


 そして、ボクに抱きついて、頬擦りしてきた。


 本当だったら、毎日にでもご飯を食べたいくらいなのだが、そんな事をしたら、すぐに在庫を切らしてしまうからね。


 お試しの時のように美味しく炊けると良いのだけど……。


 ナーヴの葉はシュミュートを炊く為に3つ分の水を抜き、乾かしてみることにした。


 火の番はトルトンさんがしてくれている。


 ご飯が炊けるまでの間時間が空いているので、和穂を連れてぷらぷらと出歩く。


「ねぇ和穂、明日はルボンテ集めに行こう。

 きっとパーレンさんなら別のモノに仕上げてくれると思うんだよね」


 和穂はコクコクと頷く。


 荒野の夜は寒い、陽が落ちて気温がグッと下がる。


 ボク達が戻ると、皆カマドの周りで暖をとっていた。

 そこに、ご飯の炊ける甘い香り、そして温め直しのバター醤油焼きの香ばしい匂い。


  ぐぅぅうー……


 和穂のお腹が鳴る。


「ご飯にしようね」


 ボクのひと声に、皆笑顔になる。



 ご(シュミュート)のひと粒は、普通の米より大きく、納豆ひと粒と同じくらいあるけど、気にならない大きさだ。


 水加減が少し難しいかもしれない。


 ひとつまみ口に運ぶと、ほんの少しだけ芯が残っている様な……でも気にはならない。


 それ以上に……うう、ご飯旨いなぁ。



 今席を外しているクラマには悪いと思い、塩むすびにして、とっておいてある。


「和穂、これはクラマのだから食べちゃ駄目だよ」と釘を刺しておく。


 コクコクと頷きを見せていたけど、視線はおむすびにロックオンされていた。


「これはワチが預かっておこう」


 狐鈴が収納する様子を名残惜しそうに見つめる和穂。


「はい、和穂」


 小さな塩むすびをひとつ、そっと和穂に渡してやると、狐鈴はふっと笑い、ひと言いう。


「アキラは和穂にあまいのぅ」


「ボクもそう思うよ」


 尻尾を振りながら大事に塩むすびを頬張る和穂を見てボクと狐鈴は微笑む。



 サンドフィッシュは熱を通すと、ホロホロと簡単に身が崩れる。

 でも、口に入れるとエビ料理の様なプリプリとした、歯で噛み切る様な歯応えはないものの、噛み締める度に弾力のある食感と、口の中に広がる旨味が凄い。


「アキラちゃん、こうするともっと凄いわよ」


 トルトンさんは鉄板の上で香ばしい匂いのバター醤油をひと匙掬い、ボクのサンドフィッシュ焼きの上にかける。


 うわ、その手があったか、これ絶対旨いやつだ……。


 



 

「うう、もう食べられない……」 


 ボク達は、気がつけばあんなにも炊いていたご飯も、バター醤油焼きも、食べ尽くしていた。


 誰が言ったかは知らないけれど、ご飯が進むオカズをご飯泥棒と聞いた事がある……。


 上手いこと言う人がいたもんだ。


 まさにそれ……。


 これだけ炊いておけば、明日には稲荷寿司の試作品を作るだけの余裕はあるだろう……。

 なんて思っていた量のご飯が、今は皆の胃の中に収まっている。


 あの身体の大きなレウルさんや、食いしん坊のハクフウさんですらお腹をさすっている。


 ひとり箸を止めずにモクモクと和穂は皿に盛ったご飯を大事に、火から下ろしたサンドフィッシュを突っついている。


「アキラ、ご馳走様。久しぶりに美味しい料理を食べさせてもらったよぉ」


 チヌルはお腹をさすりながら、ナーヴの葉の水を火にかけ、お茶を作ってくれる。


「お粗末さまでした。

 こっちの世界の好まれる味が、ボクのいた世界のものと同じような感じだった事が、ボクにとって救いかな」


「そうなのかい、アタイはアキラの味、初めて食べたからねぇ。

 それにしてもあの人間を見ると姿を消していた、水龍がアキラに名付けをしてもらって……

 確か、食には興味すら持っていなかったと思ったんだけどねぇ。

 

 シル=ローズもそうだけどさ、きっとアキラが皆を変えているのかもしれないよ、良い形に……。


 だから、アタイはしばらく会わなかった皆と会う事が楽しみだよ」


 チヌルはボクにカップをよこす。


「オンダの話を聞いたよ、アキラ達には感謝しかないねぇ、アタイにとっても家族の様なものだったからさ。

 オンダの魂も、メイルの奴もアキラ達に救われた。


 アタイにとっちゃ、何ともスッキリしない感じだけど、メイルがオンダとちゃんとお別れできて、気持ち新たに歩き始める事ができるんだ。

 あの子にとったら、アタイに報告する事が、最後のひと区切りだったって事かねぇ。

 

 以前のメイルだったら、一緒に生活して伴侶が出来るまで、共にいる必要があったかもしれないけど、今のメイルなら大丈夫だろ」


 チヌルは焚き火の反対側で、笑いながらハクフウさんと狐鈴と会話をしているメイルさんを、子を見る親の様な表情で見つめボクに話す。


「チヌルにとったら、今までと変わってしまうかもしれないボクとの接触はやっぱり不安?」


 ボクはどんな表情でチヌルに声をかけていたかな、チヌルは驚いた様な表情を一瞬向け、首を横に振りふっと笑う。


「いや、アタイはこれっぽっちも不安に感じないよぉ。

 言ったろ、アキラとの接触は良い形に変化しているんだって。

 シル=ローズが、メイルが、皆が心許しているアキラにアタイが不安を感じるわけないだろっ」


「そりゃあ、あの人間不信のシル=ローズが、紹介したい仲間なんて言ってきたのは、驚いたけどねぇ」


 チヌルはニッと笑いボクに言う。


「何か言ったかい? アタシが何だって?」


 シルがコチラにやってきて、ジト目でチヌルの肩に腕を絡める。


「キモイって言ったんだよ、それに重いからやめれ」


 チヌルは目を細めシルに言う。


「酷いねぇ、アキラは良いのにアタシはダメなのかい?」


 シルは頬を膨らませ、チヌルの体から身を引くと、ボクの隣へと座る。


「チヌルと、アキラを会わせる事ができて、アタシは嬉しいんだ。

 もちろん、久しぶりにチヌルに会う事ができて嬉しいよ。

 同じ様に大切な者同士が仲良くやっているって、会わせたかいもあるってもんだよ」


 シルはチヌルから受け取ったお茶をひと口啜る。


「それで、チヌルはアキラと契約するのか、決まったのかい?」


「アタイのチカラなんて、本当に必要なのかねぇ、アキラのあの魔法は十分過ぎるほど強いと思うんだけど……」


 チヌルは冷ましていたカップのお茶に、これでもかというくらい息を吹きかけながら言う。


「アタシも普通の魔法使いなら十分過ぎるくらいのチカラがあるって思っているんだけど……。

 アキラは魔力がないから、何発も魔法を使う事ができない。


 限られた魔力で、頭を使って戦う。


 そんなスタイルになるだろうから、手札には色んなチカラを持っておきたいんだろ」


 シルの言葉にボクは自分の言葉を付け加える。


「ボクは、仲間を守るチカラが欲しいんだ。

 この世界では生活するだけのチカラがあれば、困らないって訳じゃないことが、痛いくらいに分かったから……」


 何とかなるなんて、初めてこの世界に来た頃のボクは甘っちょろい考えを持っていた。

 でも、実際は平和な世界で生きてきた昔とは違う、今は考え方をひとつ間違えたら、命だって奪われる世界なんだ。


 使えるものを最大限使って、守れる者は守りたい。

 

 その為のチカラが欲しい。


 チヌルは真正面からボクの目をジッと覗きこんでいる。


 チヌルの瞳にボクの姿が映っている。


 すると、目を細め笑う。


「いいよ、アタイのチカラを、アキラに分けてあげる。

 シル=ローズより強い、頭脳派の魔術師のチカラになれるならアタイは手を貸してやりたいからねぇ」


「何だい、チヌルはアタシが頭悪そうに言うね」


「違うのかい? 溢れる魔力にものをいわせて、強力な魔法をドーンッ、ドーンッって……」


 2人とも笑いながら話している。

 仲の良い友、そんな2人に挟まれて、ボクはつられて笑う。

お帰りなさいませお疲れ様でした。

今回はチヌルとの共闘その2でした。


海鮮料理を海でない所で無理矢理に作らせてみました。


次回も楽しみに来ていただけたら嬉しいです、それではまた次のお話でお会いしましょう♪


いつも誤字報告して下さる皆さん、ありがとうございます。

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