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第96話 ボク達と共闘と新しい精霊。

「それじゃ、何かあったら声かけるね」


 ボクはいつでも連絡が取れる様に左手に数珠を巻く。

 さすがに昨日の今日ではブレスレットは作れないので左手には装飾品としてのウメちゃんのブレスレットが光る。


 今回の旅はチャコのご両親のお墓参りも含めているので、メンバーにチャコとレウルさんが入る。


 それと、連れて帰られなかったとしても、会ってオンダさんの事を伝えたいという、メイルさん、女性だけの旅だと心配とハクフウさんが名乗りをあげてくれる。


 ボク達の方は今回も和穂が一緒してくれて、空の目としてクラマも一緒だ。

 狐鈴もウメちゃんも今回は留守番だった。

 いや、同行に名乗りはあげてくれてはいたのだけど、そこは和穂が頑として譲らなかった。


 流石に、夜明けと共に出発なんて事ではないので、見送りに来てくれた人達も結構いた。


 今回の旅は急ぎの旅ではないので、シルはダジャルではなく、馬に跨っている。


 人数も膨れたので、荷車を引いて白夜も参加になる。



「それじゃ行ってくるよ」

 シルがパーレンさんに伝える。


「チヌルによろしくね、まぁ、あたしは連れて戻ってくると思っているけどね」

 パーレンさんはニッと笑い、シルの背中をパンパンと叩く。


「ああ、あの子もパーレンの激辛料理を忘れてしまっているかも知れないからね、たっぷり食わしてやってくれ」

 シルは親指を立てて、パーレンさんに笑いかける。



 ボク達は皆に見送られ、出発する。


 最短だと草原を突っ切るように進むのだろうけれど、特別製とはいえ、荷車が同行するので、迂回ルートを行く。


 1時間ごとに休憩を挟む。

 レウルさんは先導に当たってくれて、馬に跨るシルや、レウルさんに跨るチャコ、御者台に上がる者や、荷車に乗っている者も休憩毎に交代する。



「師匠、腰が引けてるっすよっ」

 御者台からハクフウさんが声をかけてくる。


「わ、わ、分かって、ますよー」

 ボクは今回のお出かけで、馬術を身につけるべく練習するのだが、どうも変なところに力が入るらしい。


 悲しいかな、今回のお出かけメンバーの中で唯一馬を乗りこなせていないのはボクだけだ。


「アキラー身体起こしてっ」

 隣を行くレウルさんに乗っているチャコからも声をかけられる……。

 ううう、なかなか上手くいかないものだ。


「ほらっ、アキラの緊張が馬に移ってるよっ」

 御者台と荷車を繋ぐ扉から顔を出したシルが笑いながら声をかけてくる。

 

 くぅ……太腿がプルプルする。



「師匠も苦手なものがあるんすねー」

 草原の切れ間まで来たところで、休憩を挟む。

 荷車に腰掛け、太腿をマッサージしていると、不思議そうな表情でハクフウさんが話してくる。


「そ、そりゃあ、初めてのものまで乗りこなせるほど超人ではないですよ……でも、帰るまでには乗りこなしてみせます」


「アキラ、燃えてるね」

 チャコが笑いかけてくる。


「うん、きっとボクに問題があるみたいだからね、どうにか習得したいんだ」


「おお、いい顔してる」


 ハクフウさんや、チャコと話をしているとシルが横から見ていて声をかけてくる。


「股関節と太腿がかなりヤバイけどね……」

 ボクは苦笑いしながら返事をする。


 ここから先は荒野が広がる何もない場所、スタンピードのもたらした爪痕とも言われている。

 そしてその先には今回の旅の目的である、チャコのご両親の墓石、そして墓守りをしながら、この地を守っている精霊のチヌルが住んでいる。


 休憩ごとに白夜は荷車から解放してあげている。


 今は和穂が白夜を撫でて労っている。


「え……!?」

 そんな和穂と白夜越しに、荒野の先の方から土煙りが上がった様に見えた。


 ボクが表情を変えたからか、シルもボクの視線の方向に身体ごと向きを変え、凝視する。


 すると、微かに衝突音? 爆発音? が聞こえ(注意して聞かないと聞こえないくらい)、後から再び土煙りが上がる。


「ちょっと先に行って見てくる、和穂一緒に来てくれ」

 シルは和穂に声をかけるが、和穂は横に首を振る。


「……アキラを連れて行って。呼んだ方が早い……」


 白夜を連れてボクの前に来る。

 シルは頷き、先に白夜にまたがり、ボクへと手を伸ばす。

 ボクはシルの腕を掴み、白夜の背中へと引き上げられる。


「クラマッ先に向かってっ!!」

 ボクがクラマに叫ぶと、クラマはすぐに飛び立つ。

 クラマを追う様に、ボク達を乗せた白夜も立ち上がり、すぐに駆け出す。


『狐鈴、ルーク、ウメちゃん、ひょっとしたら、呼び出す事になるかもしれないから、準備だけしておいてっ』


 ボクは念話で皆に一報入れ、白夜にしがみつく。



 開けた荒野での光景は、すぐにはっきりとしたものとなる。

 破壊音と共に肉眼でも見える、恐らく2階建ての家ほどある巨大な岩が崩れ、地響きが起こる。


「あれは……アースドラゴンだな……」

 シルはボクに教えてくれる。

 ボクはシルの声を聞き、キツネ面を装着し身体を起こす。


 ボクのキツネ面越しに見えるもの……


 よく恐竜の映画で目にしたことのあるT-REXのような体に長い尻尾、頭から尻尾にかけて、ゴツゴツとしたツノの様な背鰭の様な突起、そして背中に折り畳まれたコウモリの様な羽……。

 キツネ面だから、離れた存在を確認できているが、近付いたらどれだけ巨大なんだ……。


「あんなモノ倒せるのっ!?」

「わからない、でも交戦しているのはチヌルだよ。それだけはわかるっ」


 ボクの声かけにシルは大きな声で返してくる。


『アキラネェさん、トルトンと合流したよ』

『必要だったらいつでも呼んでっ』


 そんな時、ルークからの念話がボクの耳に入る。

 ルークはボクからの緊急の一報に、トルトンさんのところに向かってくれていたようだ。


 アースドラゴンは、尻尾を振り回し地面に叩きつけ、頭を振り回しながら、目の前に居るであろう獲物を探す。


 おそらく、クラマが参戦して撹乱させているのであろう。

 距離をとるような大きな動作はない。

 周辺の虫を叩き潰すように前足を振り下ろしたり、大きな頭ごとバクンッと噛みつくような動作が多くなる。


 で、でかい……だいぶ距離を詰めた時、アースドラゴンを見あげて首が痛くなりそうな位置に頭が見える。

 建物でいうと10階はなくても、8.9階くらいの高さはあるかも。

 そして辺りには破壊されたと思われる岩の残骸と地割れの痕。


「まだだっ、もう少し寄るよっ!」


 アースドラゴンによって起こされる地響きの影響のあるギリギリの岩場まで寄って白夜の足を止めさせる。


「あたしの魔法の範囲内に入った、アキラ任せたよっ!」


『トルトンさんお願い』

「トルトンさんおいでませっ!」

 乳白色の半球体の出現と共に、トルトンさんの姿が現れる。

 トルトンさんは、緊急事態と呼び出されて、まさかこんな状況になっているとは思っていなかったようだ。

 アースドラゴンを見上げ、驚きのあまり固まる。


「トルトンさん、安全地帯をっ」

 ボクの声に我に返り、頷いたトルトンさんは改めてドーム型にバリアを張る。


『皆んな、呼ぶよっ!』

「狐鈴、和穂、ルークおいでませっ!」


 2本の炎柱に水柱、それぞれの中心から3人が呼び出される。

 誰もが皆、目の前にいるアースドラゴンの巨体に驚いているかと思いきや……。


「おおぉー、でっかいのぉっ」

 狐鈴が1人歓喜の声をあげている。


「それじゃ、どこまで通用するか楽しむとするかのっ」

 狐鈴は笑いながら収納空間から和傘を取り出し、相棒の仕込み刀をスラリと引き抜く。


「シルッ! 水の魔法をっ! ルークはシルの魔法を受け止めて攻撃にっ!」


「「オッケー!!」」


 シルから水を供給してもらえば、ルークも魔力が温存できるだろう。


「皆んな、無茶だけはしないでねっ」

 

 頷き、バリアから出ていく皆の背中を見送る。


「トルトンさんありがとう、ボクの頭の中は火力の事ばかりだったから、来てもらえて助かりましたよ」


「いいのよアキラちゃん、ここしばらく話をする事もできなかったから、ゆっくり皆の帰りを待ちましょ」

 バリアを展開する伸ばした両手をそのままに、トルトンさんが話しかけてくれる。


「ウメちゃん、おいでませっ」

 バリア内でウメちゃんを呼び出す。

 呼び出されたウメちゃんはバリア越しに見える巨大なアースドラゴンを見上げた状態で固まる。


「え、ええー……」

 あまりにびっくりする出来事に直面すると、ウメちゃんの様に、まず今置かれている状況を理解する事に時間がかかる気がする……。


 

「ウメちゃん、魔力の供給をお願い、いざとなったらボクも精霊魔法を使おうと思っているから」


 ウメちゃんは言葉を失ったままコクコクと頷く。


 ボク達は岩の影にいる事が逆に危険な気がして少し、障害物のない場所まで移動する。


 アースドラゴンの足元を白夜に乗った和穂が駆け回る。

 撹乱かな……? 直接攻撃はしていないようで、ただ走り回っている。


 狐鈴は刀に炎を纏わせて切り付けている。


 体格の差がつきすぎているのか、決定的なダメージを与える事ができていない様子。

 しかし、狐鈴の斬撃は少々何か感じるものがあるらしい。


 アースドラゴンも尻尾を振り回し、顔を地に這わせながら迎撃する。


 ルークの放出させた水の砲弾が、アースドラゴンの下顎を掠める……アースドラゴンはぐらつきを見せるが、直ぐにルークの居たであろう場所に足を叩きつける。


 ボク達の居る所に地響きが訪れる。まともに立って居られずボク達はひっくり返り、地に伏せる。


「くぅ……長時間だと、キッツイなぁーーっ」

 ボクは地に四つ這いになったままの状態で、誰にでもなく口に出して呟く。


「喋っていると舌噛むよっ!」

 シルがコチラに声を投げかける。シルはシルで冷静に、水の魔法を放ったり、重力操作の魔法で、アースドラゴンの動きを鈍くする。


 ボクの魔法の射程圏の把握はボク自身ができていない。


 ボクは膝立ちで、右手でアースドラゴンを指差す。


「クラマッ!」


 ボクの指先に風の塊が集まっていく。

 キツネ面越しにアースドラゴンの位置を確認しているので、動きはよく見えている。



 まだだ……


 まだ……


 ウメちゃんから送られてくる魔力が指先の風の塊を膨らませる。


 アースドラゴンの注意は炎の刀を振り降ろす狐鈴にいっている。

 こっちには気が付いていない。


「今だ、いっけぇーっ!!」


 ボクの指先から風の鳥が飛び立つ。

 風の鳥が飛び立つ勢いでボクは後方にひっくり返る。


 ひっくり返った勢いでキツネ面が顔から外れる。

 目の前の景色が青空になる。

 

 ちゃんと届いたかな……


 ちゃんと当たったかな……


 ボクが地面から身体を起こそうとした時


「グギャラオオオオーーーッ!!」


 アースドラゴンの叫び声が辺りに響き、大気も地面も激しく震動する。


 ボク達から数百メートルは離れた位置にいたシルが、驚いた表情で振り返りボクを見ている。


 更に、その先数百メートル離れた場に片翼の半分が切り取られ、天に向かって叫び声を上げているアースドラゴンがいる。


 アースドラゴンが凄い勢いで睨みながらコチラを向いた。


 うわわっ、激怒(オコ)だ……


 すると、アースドラゴンとシルの間にフワリッと和穂が割って入る。


 和穂を降ろした白夜は、黒い物体を乗せていて、そのまま、シルを口に咥えるとこちらへ向かって駆けてくる。

 突然の事で、シルも状況の把握できないまま、白夜に咥えられている様子だ。


『結界を張るのじゃっ!』

 狐鈴からボクの耳に念話が入る。


 和穂は両腕を広げ、肩の高さまで肘を上げた状態のままで柏手を打つ。


「トルトンさんっ」

 ボクは叫ぶようにトルトンさんの名前を呼ぶ。


 地面から青白い光りが、いくつも噴き上がり、光の牢にアースドラゴンが閉じ込められるような状態になり、その直後紫色の閃光が天より落ちてくる。


 辺りは真っ白な空間で染められ、音もかき消される。



   バリバリバリッガラガラガラッ!!

 


 爆発音と共に爆風がこちらに向かって吹きつけて来る。


 トルトンさんはボクの叫びと同時に、光の牢がアースドラゴンを捕らえたところで、危機を感じバリアを張っていた。


 ボク達のいるバリアの横を、もの凄い風が辺りの岩のカケラを強制的に運びながら通り過ぎて行く。


 一瞬の事だったけれど、視覚も聴覚も麻痺する。


 その後もしばらく巻き上げられた土煙りが辺りの視界を遮る。


 バリアの中には、トルトンさん、ウメちゃん、ボク、駆け込んできた白夜とシル、そして初めて見る人影がいる。


「危なかったですぅ」

 ウメちゃんがキツネ面を手に持った状態で、顔面蒼白させ呟く。


 シルも汗びっしょり(白夜のヨダレではないよね)で腰を抜かし、地面に座り込んでいる。


『皆大丈夫!?』

 ボクは念話で皆の安否を確認する。


『ワチらは飛んだから大丈夫じゃ、アキラ達は大丈夫かや』


 ボクはバリア内を改めて確認する。

 トルトンさんの後ろにボクがいて隣にウメちゃん、滑り込むようにやってきた白夜にシル、そしてチヌルさんかな?


『とりあえず、ワチらは万が一の時の為に準備しておった荷車への結界に飛んだから、最終的な確認ができておらんのじゃが……』


 今になって思った……ボクがバリア内に皆を呼び寄せていれば、安全確認も同時にできたのでは……。

 

 あの爆発に仲間が巻き込まれていたらと考えるだけでゾッとする。


「狐鈴、和穂、クラマ、ルークおいでませっ」


 4人は戻ってくる。

 目立つ外傷はない様だけど、プレッシャーの中での戦いだったから、肉体だけでなく、精神的な疲労はかなりのものだっただろう。


 土煙りが落ち着くまではバリアから出ない方が良いだろうと言う事で、シルがボク達とチヌルさんとの仲介をしてくれる。


「チヌル久しぶりだね。今日はあんたに紹介したい仲間を連れてきたんだ」


 その人物は狐鈴よりは背が低く、元が何色なのかもわからないほど、ボロボロで汚れた外套を纏い、フードの奥から目を光らせ、「ふふっ」と笑う。


「うんうん、愉快だねぇ、あの人間嫌いのシルがアタイに、仲間を紹介ねぇ。

 確かに、懐かしい顔もあるけど、新しい顔が多いようだ、とても興味があるねぇ、あの強力な魔法を放った人間、それから底知れない力をもつあんた達は……ふふ、人間ではないねぇ……まぁ、おいおい話を聞くとして、アタイの事はチヌルと、呼び捨てでかまわないよ」


 指差し、ひとりひとり確認をする様に話していく。

 両手でフードを後ろに払い上げると黄色い右目と緑色の左目をしたオッドアイの黒猫の顔がボク達の前に露わになる。


「チヌルあんたに伝えたい事が、山ほどあるんだ。手短に彼女らの紹介だけさせてくれ」


 シルがチヌルに伝えると、チヌルは目を細めウンウンと頷く。


「この娘は、アキラ。昔、あんたには話した事があるだろ、あたしの生まれる前の記憶の世界の事を。アキラは訳ありで、そこからやってきたんだ」


 ボクの紹介を軽く触れただけで、チヌルは目を見開き固まる。


「いや、アタイはシルの言葉を信じていたし、シルの発明もそれを証明してきた。文献も存在しない、シルしか知らない、そんな世界から人間が来れるものなのかぃ?」


「だから言ったろ、訳ありだって。神様同士の戦いに巻き込まれて飛ばされてきたと言えば納得するかい?」


 シルが付け加えると、チヌルは視線を狐鈴に移す。


「ワチは狐鈴じゃ、稲荷大神様の巫女で、こちらの世界で言えば天使のようなものじゃろうか? かつては、自分達の世界でこの和穂と土地神として任されておった」


 和穂は黙礼をする。


「そして、コヤツはクラマ、かつては鴉天狗という神であったが、人間の怨みや呪いによって、祟り神になってしまっていたのじゃ。

 今はアキラに名付けをされて、アキラの式神となっておる」


 チヌルは顔を強張らせる。


「ちょっと、シルローズちゃん、チヌルちゃんが動揺しているわよ、詰め込みすぎじゃないかしら……」


 トルトンさんが声をかけてくる


「ト、トルトン、た、助けておくれよ、アタイ頭がパンクしそうだょ……」


 チヌルは凄い勢いで目を泳がせ、トルトンさんに縋り付く。


「私はウメちゃんですぅ。皆の様な特別な事は何もない、カーバンクルですぅ」


 ウメちゃんがスカートの裾を指で摘み上げ、礼儀正しい挨拶をしたところで、チヌルは完全に思考停止してしまった。


 チヌルが我に返った頃には土煙りもかき消され、荒野の一部がクレーター化していた。


 中央には、ピクリとも動かないアースドラゴンの姿があった。




 この場にいても何もできる事がないので、和穂と共に白夜に跨り、チャコ達を迎えに行く。


「師匠、結局のところ何が起きていたんすか?」

 白夜に荷車を着けていると、ハクフウさんが声を掛けてくる。


「チヌルとアースドラゴンが戦っていたから共闘してきたんですよ」


「「はぁっ!!?」」

 ハクフウさんと一緒に話を聞いていたメイルさんが声を揃えて言う。

 まぁ、そうなるよね……。


 チヌル達の待つ場に近付くにつれ、メイルさんの口数が減って表情が曇っていく。


「メイルさん、大丈夫?」


 ボクがメイルさんに声をかけると、作った笑顔で、返事をしてくる。


「うん、あまり、大丈夫ではないかな……離れた所で頑張っているあの子に、父さんの事を伝えないと……」


 メイルさんは小さくため息をつく。


「あの子の気持ちが分かってしまうから、伝える事が辛くて……」


 ボクは無意識のうちにメイルさんの頭を撫でていた。


「えと……」


 メイルさんはキョトンとボクを見る。


「って、あ、御免なさい、つい……1番辛いのはメイルさんのハズなのに……」


「ううん、おかげで少し気持ちが落ち着いた、ありがとう」


 メイルさんは作り笑いではない自然な笑いをボクに向ける。 


 シルから少しでもオンダさんの事が告げられていたら、メイルさんへの負担は減るだろうか……。


 直接の原因がワーラパントによるメイルさん強奪を目論んだ奇襲だったので、事実を知った時のメイルさんはどんな気持ちで、オンダさんと話をしたんだろう……。

 そしてチヌルさんにはどんな言葉を残したんだろう……。

 家族同様に生活をしてきた者同士の話に、外部の者が触れる事は決して許されない事だろう……。


 御者台の扉を開けると、外の風が流れてくる。



 レウルさんの背中に乗って並走しているチャコがボクに声を掛けてくる。


「アキラー、チャコおとう、おかあ会えるかな?」


「ボクもお墓に行ってみないと分からないから、絶対とは断言できないけど、いたら会わせてあげたいな」


 こればかりは御霊がその場に居なければ、どうする事もできない。


 ここにも、今回の旅の目的を胸に留めている少女(ボクよりはるかに年上なんだけれど)がいる。



「なんだぁ、ありゃ……」


 ボク達の向かう先に出現したクレーターを見たハクフウさんが声に出して言うと、荷車にいたメイルさんも御者台へと顔を出す。


 爆風によって更地になった荒野の中心部に陥没したクレーター。

 どう見ても自然が起こした現象には見えない。


「和穂の作った傷痕だねぇ……」


 ボクが言うと、皆絶句……視線が和穂に集まる。




「アタイは絶対に嫌よっ! 退けさせるに留めておけば良かったんだっ」


「討伐しちまったんだから報告しなきゃならないだろっ」


 ボク達がクレーター部に戻ってくるとチヌルとシルが声を張り上げて討論している場面に遭遇する。


 チャコもレウルさんも、ハクフウさんも、メイルさんも横たわるアースドラゴンを目の当たりにしてポカーンとしている。


「あ、アキラ、お帰り……」

 戻ってきたボクを確認して、肩を落としたシルが声を掛けてくる。


「どうしたの?」


「いやぁ……ドラゴンの討伐は、魔族の確認やスタンピードの確認のように、ギルドへの報告が必要なんだよ……アキラ達があまりに有名になりすぎてしまったから、チヌルにお願いしようと思ったんだけど……」


 あ……何だろう脳裏に頭を抱えているナティルさんがイメージできる……


「と、とりあえず……クラマに報告に行ってもらったんだが……すまないね、アキラ、ギルドの連中が到着するまでしばらくこの周辺で待機になりそうだ……」


 な、なんだってーっ!!


 お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

 チヌルとの合流を果たしました。

 チヌルにチカラを見せるには決闘か共闘かと悩みましたが、1番しっくりくる形にできたのではないかと思います。


 それでは、本日はここまでとなります。

 また続きのお話でお会い致しましょう。

 いつも、誤字報告ありがとうございます。

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