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第95話 ボクと天使と新しい精霊の情報。


 ボク達はリビングに移り、ウメちゃんは呼び出し。少し遅い朝ごはん代わりの焼きミツルとパンケーキをソファーに腰掛け食べる。


 こちらはボクを中心に左に和穂、右に狐鈴。

 正面にはリシェーラさん、右にシル、左にウメちゃん。


「リシェーラさん、確認したいんですけど……」


 ボクが焼きミツルを頬張るリシェーラさんに声をかけると……「固い、固い」なんて言いながらもコチラの話に耳を傾けてくれる。


「リシェーラさんの姿を認識している人って結構いるんですか?」


「んー……正直よく分からないわ。

 煌翼天使としての姿を把握しているのは、神様や十大天使はもちろん、天使の遣い、教会の教皇、大司教、司教、それぞれの国のトップ……あとはここに居る皆くらいかしらね。

 一対の翼の普通の天使姿は教会で時々見せているけど……基本、人の前に立つ必要のある事はアルクリットにおし……任せているから……」


 今絶対に押し付けてるって言おうとした。

 指先に摘んだスプーンを揺らしながら、誤魔化している。


「んー……なるほど、本来の姿、天使の姿、姿を消す……が基本の姿という事ですね?」

 

 ボクが指折り確認する。


「違いますよ」


 リシェーラさんは、しれっと否定をする。

 立ち上がり身を乗り出し、ボクの伸ばしている指にそっと手をかけ、残りの2本の指も折り曲げる。


「天使の輪を消した翼人族、翼を消してダークエルフとしても人前に出る事はできますよ。

 ただ、ダークエルフの姿だと、飛ぶことができないから不便だし、弓は……苦手なので、本物になりきれない……のだけど……」


 弓は相当苦手なようで、頬を染めながら、ゴニョゴニョ呟くように言い、ソファーに腰掛ける。


 どうやら、天使の輪や翼を消しながら説明をしていたようなのだけれど……。

 一度本来の姿を認識してしまっているボクには、ハッキリではないが、天使の輪と一対の翼は目に見えている。


「分かりました、ボクから誰かに紹介する時は翼人族として、紹介しましょう」


「そうね、そうしてもらえると助かるわ」


 リシェーラさんは焼きミツルを口に運び、スプーンを唇で咥え、両手を自分の頬に当てて目を細めて微笑む。


「それにしても、それだけ姿のバリエーションがあるならば、初めてウメちゃんに会った時とか、さっきのシルの前に出た時も、調整する事できたんじゃないですか?」


 ボクがふと、気になった事を尋ねると、室内に静けさが訪れる。


 腕組みをして、口先でスプーンを上下にピコピコさせるリシェーラさん。


 スプーンを右手ではずすと口を開く。


「そうね……全然考えていなかったわ。

 でも、これから私と深い仲になるでしょうから問題ないわね、次からは用心するわ」


 ため息をひとつつき、焼きミツルの容器にスプーンを置いて話を続ける。


「誰かを前にしている時はシェラ、翼人族のシェラと呼んでちょうだい」


「それじゃピンと来る者も現れるのではないかの?」


 狐鈴は突っ込んでくる。確かに……。


「まったく違う名前で呼ばれても、私が気が付かないし、誤って本当の名前で呼んじゃっても誤魔化せると思うのよ。

 まさか、天使が目の前に居るとは思わないでしょ」


 なるほどね、自分も呼ぶ側も機転を利かせることができるのね。


 そんな話をしていると、窓のところにクラマがかえってくる。


「戻りました……これはこれは、リシェーラさま……?」


 クラマは頭を下げて挨拶をする。


「クラマ、今は翼人族のシェラさんだよ」


 ボクが頭を下げているクラマにひと声かけると、クラマは頭を上げ、察する。


「……ああ、シェラ様ようこそお越しくださいました……」


 改めて頭を下げる。


「このメンバーは皆リシェーラさんの事知っているけど、他の人がいる時はその様にお願いね」


 ボクがクラマは伝えると、コクコクと頷き「承知しました」と返事する。


「アキラ殿、リンネ殿とチャコ殿が下でお待ちになられていますが……」


「ん、ありがとう。じゃ、ボク席外すね。シェラさんは狐鈴達とゆっくりしていってくださいね」


 ボクがリシェーラさんに伝えると、ニコリと微笑む。


「ウメちゃんは、下で呼ぶね」

「は、はい、よろしくお願いしますぅ」


 ボクはショルダーバッグを肩にかけ立ち上がると、和穂と一緒に下へと向かう。


「アキラーッ!」

 チャコがボクに気がつき、草原の方から声をかけてくれる。


 ボクがハシゴから降り切ると、腰のあたりに駆けつけてきたリンネちゃんが抱きつく。


 ボクがワシワシッとリンネちゃんの頭を撫でていると、ボクの後ろに上から飛び降りた和穂がフワリッと着地する。


「リンネちゃん、ちょっとだけ離れてね」


 ボクは数珠を手に握って地面を軽く叩く。


「ウメちゃん、おいでませっ!」


 ウメちゃんは四色の光りの渦と共に現れる。


「ウメちゃーんっ!!」


 リンネちゃんは今度はウメちゃんに抱きつく。


「リンネ、これっ」


 そんな2人を暖かく見つめていたチャコが、リンネちゃんに声をかける。


 ウメちゃんから手を離したリンネちゃんが、チャコの元へと駆け寄り、後ろ手で何か受け取る。


「はいっ、ウメちゃんっ」

 

 ウメちゃんに白い花で作った花輪を乗せる。


「おお、ウメちゃん、可愛いねっ」


 ウメちゃんは和穂に悪戯された、小さな三つ編みを解いていたので、ウェーブのかかった髪の毛の上に白い花王冠を乗せている。

 大きな垂れた耳はリボンの様に見え、お姫様にも見える。


「ありがとうございますぅ」


 すると、ボクの事を正面にいたチャコが、じっと見ている。

 ボクはチャコの視線に気がつき、しゃがむと、リンネちゃんはピンクの小さな花で作った花王冠を乗せてくれる。


「わっ、ありがとうね、ボクに似合うかな?」


 リンネちゃんはニコニコして「うんっ!」と言ってくれる。

 ボクはリンネちゃんの頭を撫でてやると、リンネちゃんは、手を後ろにしてボクの隣に視線を送ってモジモジしている。

 

「和穂っ」


 ボクが和穂に声をかけてやると、和穂も膝を地に付けて体を低くする。


「はいっ」


 リンネちゃんの手から和穂の頭に乗せられた、水色の小さな花で作られた花王冠は少し大きく、和穂の両耳もスッポリ通り、耳の生え際で、王冠が安定する。


 耳をピロピロ動かした和穂は、正面から愛しい者を見る様に、優しい表情でリンネちゃんに微笑みかける。

 そして、リンネちゃんの小さな肩に手を回して、身を引き寄せ「ありがとう……」とお礼を言い、頭をひと撫でする。


「うんっ」


 リンネちゃんは満足したように、子供らしい無邪気な笑顔で返事する。


「チャコもありがとうね」


 ボクはチャコにもお礼を伝える。

 もともと糸目のチャコは口元を緩めて笑顔になる。


 たぶんクラマだって、ボク達を呼びにきたって事は、花を摘む際に一緒になって手伝ってあげていたんだと思う。


 何だか想像すると凄く和む光景だよね。

 花を咥えた白いカラスと、女児2人が草原に座って花王冠を作っているんだよ、見たかったな……。




「チャコ、今日はレウルさんは一緒じゃないの?」


 そういえば、いつもチャコと一緒にいるイメージの白い大きな狼の姿が見えない。


「ハクフウ達と見回りに出てる」


 旅人のハクフウさん、リュートさんのオーガコンビはパーレンさんの家でお世話になっている。

 そして、家の手伝いや、メイルさんの家の薪割りなどの力仕事、見回りなどに率先して参加してくれている。


 ボク達同様、この地でバタバタに巻き込まれていたけれど、気ままな旅だからと、もう少しだけ滞在してから次の旅に向かうと話していた。


 そういえば……送別の宴の夜に、ボクのこれまでの経緯を狐鈴を通して聞いたハクフウさんは何故かボクに対して「師匠」と呼ぶ様になった……。

 いったい何を話したんだろう……。



 ボク達は頭に花王冠を乗せたまま、広場の手近な席へと腰を下ろす。


 リンネちゃんと、チャコは焼きミツルを食べ、ボク達は花王冠を乗せた者同士褒め合う。

 いつもは、あまり表情を表に出さない和穂も、ボクやウメちゃんに褒めそやされ、珍しく困った様に笑う。



「チャコは風と雷の魔法が使えるよ」


 シルが言っていた相性の良い魔法について、気になったのでチャコはどんな属性魔法が使えるのか聞いてみたら、その様に返事が帰ってきた。


 ダークエルフだからと言って、人間よりも魔力が沢山あっても、なんでも魔法が使える訳ではないようだ。それでも、2種類の属性が長けているのはシルの元での修行のたまものだろう。


 もっとも、火の魔法や水の魔法も使えるには使えるらしいけれど、あくまで初級から中級魔法程度の威力だという。


「風と雷かぁ……雷の使える精霊ってどんなのがいるんだろう……」


 ボクが独りごちていると、チャコがそんな呟きを拾う。


「アキラ雷の魔法に興味あるの? たしかトットが雷の精霊だったと思ったよ」


 トットさん……あまり話した事はないはずなんだけど……あ、黒猫の精霊だったっけ?


 初めての晩餐会と、送別の宴の時目にしてはいたけど、いつの間にか姿がなくなっていた。



「トット……彼は気分屋ですからな、人と共にあろうとは思わないハズですな。

 それでしたら、同じ属性で双子の【チヌル】を仲間にする事をお勧めしますぞ」


 見回り組、ロディ、リュートさん、ハクフウさん、レウルさん、ビフカさんとで、レウルさんの3倍はある大きな鳥を倒してきた。


 そのメンバーに、パーレンさん、ヤックさん、メイルさん、ボク達が加わりカマドを囲う。


 リシェーラさんはアルクリットさんが迎えに来ると面倒だからと、渋々と帰って行った。


 リンネちゃんはミルフィさんが迎えにきた。

 一緒に食べればと伝えたところ、晩御飯も作ってしまったし、新作のパンも手がけているところだという事で帰っていった。

 ミルフィさんの新作パンか、楽しみだな……。


 そんな晩御飯の席で、チャコに投げかけた質問を皆にもしてみた。


「チヌルか……あいつの場合は自分より強いものを慕うから、トットよりは分かりやすいな」


 ヤックさんは言う。


「チヌルさんって誰の事ですか?」


「あぁ、アキラさんは会った事ないね、チヌルはトットと一緒に生まれた精霊で、今は荒野に住んでいるんですよ」


 レウルさんは鳥の内臓をペロリと食べ終え、今は生の鶏肉を食しながら話に加わる。


「そうさね、チヌルなら狐鈴達の力を示せば、きっと仕えてくれるだろうよ。

 それにチヌルに久しぶりに会えるならば、あたしも嬉しいよ」


 パーレンさんはチヌルに会った事ある様だ。


「よければ、チヌルさんについて教えてもらえませんか?」


 ボクはなぜか、見た事があるトットさんよりも、チヌルという精霊について知りたい気持ちでいっぱいになった。


 精霊は大気中の下級精霊の中で、稀に生まれる上級精霊(突然変異した生命体)のようなモノをさすので、親など個体はない。

 もともとチヌルさんとトットさんは落雷の多い土地で同時に生まれたらしく、皆は双子と言っている。

 しかし、見た目はそっくりなのに、なに分性格は全く違うらしいのだ。


 チヌルさんと、トットさんは過去に、オンダさんとメイルさんの家で、共に住んでいたこともあったそうだ。


 チヌルさんは雷属性の精霊でありながら、剣術にも長けており、見回りや偵察はシルと共に広範囲に繰り出していた。


 チャコの家族が盗賊に襲われた現場に駆けつけた時も、2人は一緒だったようで、シル以上に正義感の強かった、チヌルさんは、シルですら、とても手に負えないほど暴れたそうだ。


 チャコの動かなくなった、家族達に対して涙を流しながら、地に額を打ちつけ、血に濡らし、何度も何度も、間に合わなかった事を謝罪していたそうだ……。


 そんな広すぎる荒野で起きた惨状を忘れない様に、そして過去にスタンピードの通り道だったなら尚更、予兆を自分が最前線で止めてみせると拠点を築き墓守をしながら見回っているそうだ。



「何というか……ワチはどこかそのチヌルという者は、アキラに似ている様な気がしているのじゃが……」


 話に耳を傾けていた狐鈴が、ふとボクを見て言ってくる。


「いや、ボクは強くないし暴れん坊でもないよ……」


 狐鈴は横に首を振る。


「他人のために本気で熱くなれる者だと言っておるのじゃ。

 ワチらの村民の御霊が囚われていた時、其方はアヤツらの為に憤怒し、クラマの作り出した妖魔相手に立ち向かっていたではないか……」


 和穂もクラマもボクを見て黙って頷く。

 

 そうかな……でも、話だけしか聞いていないけれど、何というか、ぜひ会ってみたいと思える。


「それじゃ、すぐ見つけられると良いけど、早速明日荒野に向かおうかね、アタシもチヌルと会うの久しぶりだから、楽しみだなー」


 シルは言う。


 ボクも新たな精霊との出会いにワクワクしながら夜を過ごす事になる。


 お帰りなさいませ、お疲れ様でした。


 人目を忍んでいるハズなのに、頻繁に遊びにくるリシェーラ様……つい、正体を出してしまうポンコツぶりは、何となく愛着がわいてきます。


 キルトさんと、リシェーラ様どちらがよりポン……なのか、後々楽しみになります。


 それでは、新たな仲間を求めて、また次回……。

 次のお話でまたお会いしましょう♪


 いつも、誤字報告ありがとうございます。


 100話を超えて、話が落ち着きましたら、読みやすい様にいったん、直しを入れて行きたいと思います。若干投稿のペースが遅くなるかもしれませんが、楽しみに待っていただけると嬉しいです。

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