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第90話 ボクと天使の交流。



「アキラどの、おはようございます」


 え……。





 深夜まで会場で休みながら歌っていたボクは、解放されるなり荷車に戻りワンピースに着替え、そのまま眠ってしまっていた。


 早起きも習慣化していたので、昨夜あんなに遅く眠ったのに、空が明るくなり始めたところで目が覚める。


 今朝もいつものように、目が覚めると、和穂に背後から締め付けられている。


「和穂、トイレ行ってくるよ」


 ボクの首に回された腕をペチペチと叩き伝えると、回された腕の力がゆるむ。

 

 ベリベリと和穂を剥がし、体を起こして大きく伸びをして、ひと息つく。


 今回の宴の為に屋外用のトイレを設置してくれたので、ツリーハウスまで戻らなくて済むのが助かる。


 いつも、ぼんやりした寝起きであの梯子を登るのもキツいし、何よりお腹に力が掛かるので、トイレもかなりギリギリなのだ。


 のそのそと立ち上がったところで後ろからずっしりと、のしかかられる。


「ワチも……」


「狐鈴……」


 狐鈴をぶら下げたまま、荷車の出口の扉を開けると、隙間から外の光が入ってくる。


「うー、まぶし……ん?」


 荷車の降り口正面に人影がある。


「アキラどの、おはようございます」


 え……?


 そこには、昨夜確かに帰って行った、外套を被った人物がいた。


「リシェーラさん?」


「はいっ、おっはようございまーす!」


 リシェーラさんはダボダボの袖をビッと挙げ、驚くほど元気に挨拶を投げかけてくる。


 昨晩「もう御霊もいないから、必要ないじゃろ」とボクが歌を終えたところで、結界は解除されていた。


「んぅー、うるさいのぅ……」


 狐鈴がボクの後ろから顔を出す。


「わゎっ、狐鈴さんの妹さんですか? かわいいっ!」


 リシェーラさんはフードを捲り狐鈴に顔を寄せる。


「本人じゃよ」


 狐鈴は顔を寄せてきたリシェーラさんの鼻を摘む。


「い、いひゃいっ!」


「リシェーラさん、ごめんね、ちょっとトイレ行ってくるから待っててっ!」


「え、え、ええ?」


 突然の来客に足止めされてしまったが、ボクの尿意は足を止めてくれない。

 

 ボクの腕にくっついていた狐鈴を引きずったままトイレへとダッシュする。




「お帰りなさい」

ボク達が荷車に戻ると入り口の前に、リシェーラさんは腰をかけ、ダブダブの袖ごと手をヒラヒラ振っている。


「はぁ……其方は確かに日を改めた……翌日じゃがの、何故そんなに忙しいのじゃ? それにあの遣いのアル……はどうしたのじゃ?」


 肩を落としながら狐鈴が尋ねる。


「帰ってから、次に話する日が楽しみで楽しみで、眠れなかったんです。

 アルクリットは面倒な子なので、目を盗んでこっそり来ました、てへっ」


 立ち上がって、こちらへ来たリシェーラさんは、頬を赤くしてボク達に言う。


 おい、天使様、そんなんで良いのか!?

 ボクは心の中で大きくツッコミを入れた。


「話し方も随分砕けたの、まぁワチはその方が助かるのじゃが」


「狐鈴ちゃんって呼んでも良いかな? 私の事もお姉ちゃんって呼んでっ」


 抱きつこうとするリシェーラさんの顔に手を当て静止させる狐鈴。


「それは却下じゃ、それにワチはきっと其方より年上じゃよ」


「ええーっ!

 残念です、お姉ちゃんになりたかったのになー」


 なんだか、とてもリシェーラさんは狐鈴との会話が楽しそうだ。

 うんうん、巫女と天使の交流だね。


「それじゃあ、この場は偉い人2人にお任せして、ボクはもうひと眠り……」


 荷車に引っ込もうとするボクを、右手はリシェーラさん、左手は狐鈴が掴み静止する。


「私はアキラどのとの話も、楽しみにしていたんですよ」


「アキラよワチを1人にしないでおくれよ」


 ニコニコしているリシェーラさんと珍しく困った顔をしている狐鈴……。


 うう、今日はダラダラしようと決めていたのに……。

 のんびり眠って、お風呂に行ってボーッとできたら最高だと考えていたんだけどな。


「とは言っても、立ち話もアレだよねぇ、リシェーラさんも人目を気にしている様だし……」


 あくびをひとつし、場所の移動を提案する。

 

 流石に荷車の中もギュウギュウになってしまうし、どうしたものか……。


 ボク個人の考えだったら、お風呂で裸の付き合いでお互いを理解し合えるだろう……と勝手にのんびりしたい気持ちを全面に出して言えるのだけど……。


 初対面のしかも天使様をひん剥くなんて、何か罰が当たりそうだ。


 そんな事を考えていると、荷車の扉が開く。


「……アキラ……遅い」


 和穂が起きてきた。ウメちゃんも連れて出てくる。


「お、おはようございまふぅ……2人とも、朝早くからどうしたんですかぁ……?」


 ウメちゃんは寝起きの様でポヤーッとしている。


 そんなウメちゃんをリシェーラさんは目をキラキラさせ、胸元で手を組んで見つめる。


「まあ、まあ、なんて可愛いらしいのでしょう……あぁ……、うぅん……」


 リシェーラさんが自分の中で何かと戦っている様だ。


 そして……


「よっと」


 ポンッと外套の隙間フードの下のマントの様になっているところから、淡いピンク色の鳥の様な大小の翼が4枚広げられる。


 そして、頭の上には透明な定規の様な四角い物体がそれぞれ、不揃いな長さで、ピンクだったり黄色だったり、違う色を発して光り輝き、花びらの様に円を描く様に並んで浮いている。


 更に先ほどまで強調されていなかった瞳の色もサファイアのような、エメラルドのような色に光を帯びる。


「ええ!?」

 ウメちゃんは突然リシェーラさんの姿が現れたように見えたらしく、驚きの声をあげる。


「わ……天使様みたい」


 ボクはポロリと心の声を表に出していた。


「はい。実は天使なんですよ……」


 リシェーラさんは周りを虜にする様な無邪気な顔でクスリと微笑んだ。




「ウメちゃん、ウメちゃんっ」


 リシェーラさんはウメちゃんを抱きかかえて顔をグリグリ擦り付けて、ご機嫌だ。


 何でも、カーバンクルは幻獣とも言われるくらい希少な精霊で、それでいて臆病で引き篭もりな個体が多いから、存在は知っていてもリシェーラさんですら300年ぶり位の遭遇になるらしい。


 どうやら、リシェーラさんが、翼や天使の輪や瞳の輝きを抑えている時は、精霊にすら姿を感知する事ができないらしい。

 リシェーラさんはウメちゃんと触れ合いたくて、気配を現すことにしたらしい。


「リシェーラ様、自分で歩けますよぉ〜」


 ウメちゃんはリシェーラさんに抱きかかえられたままアワアワしている。


「いいの、いいの、私がこうしていたいのだから、抱よ……んん、祝福をあなたにあげたいの」


 ボク達は、禊ぎに使った水辺のあたりまで、移動する事にした。その移動の間もリシェーラさんはウメちゃんを抱きかかえていた。


 ちょうど、荷車の屋根に降りてきて、挨拶をしてきたクラマも呼んで、ボク達の事をリシェーラさんに話すことにした。

 クラマも初めて見たリシェーラさんの姿に驚いていたっけ。



 ボク達は水辺の上に橋のように横たわっている倒木? 枝? (直径2メートルは超えている)に腰をかけ、自分達の話である、ここに来た出来事など、隠す事なくリシェーラさんに伝えた。



「皆さん大変だったんですねぇ、ここと異なる世界ですか……とても、興味深いです。


 それに、ほんの数日の間でこちらの世界で関わった出来事の数から分かるのは、いろいろな偶然が同じ時期に重なった様にも思えますが、小さな歯車が組み込まれた事で、空回りしていた世界が動き出した様にも思えますね」


 真剣な、でもどこか安心できる表情でリシェーラさんは頷く。


「リシェーラさんは、クラマがボク達をコチラの世界に転移させたのは、ただの偶然だと思いますか?」


 ボクからみたら偶然のひとつにも感じられるこの出来事にリシェーラさんの見解が気になった。


「私には奇跡といえる出来事だと思いますが、世界を作り出した万物の神様からしたら、それこそ異なる世界の文明か、人物かの干渉から生まれる物に興味があったのではないかと……。

 それがアキラどの達で決定していたのか、はたまた別の者の試練として、いずれ用意されていたのかまでは分かりませんけれど……」


 神のみぞ知る……か。

 するとリシェーラさんはピョンッと水面へと飛び降りる。

 そして、波紋を立て水面より少し浮いた位置に立つ。


「私は、皆さんに出会い、話が聞けてとても満たされました。

 トルッティス大陸10大天使がひとり、煌翼天使リシェーラはあなたがたを祝福します」


 すると、リシェーラさんは翼を大きく

広げ、両手をボク達にかざす。


 頭上のリング状に浮遊していた、透明の四角い光が離散すると、ボク達はリシェーラさんを中心に発せられた光に包まれる。


 ほんの数秒の出来事だったかと思うけれど、何だか暖かい気持ちに包まれた。


 光が消え、元の世界に戻ると、リシェーラさんはボクの後ろに立っていた。


「アキラどの、貴女が生きていくには、貴女の持つべき物を最大限会得する必要があると思います。

 今、貴女が困っている事は何かな?」


「言葉……かな、魔力に関しては必要最低限のものを、これがくれているから」


 ボクは後ろに振り返り、手首を見せる。するとウメちゃんのくれたブレスレットと、和穂とシルが作ってくれたブレスレットがカチャリと音を立てた。


「わかりました、ではちょっと失礼しますね」


 そう言うと、リシェーラさんはボクの頭に手を乗せて、小さく何か呟いた。


「これで、言葉は思う様に伝わる様になったはずよ。

 ただ、聞かなければ良かったなんてこれまで思えていたものまで聞こえる様になったから、気持ちだけは前向きにね」


 リシェーラさんがボクに微笑む。


 ボクはこれまで困っていた言葉の壁から解放された。


「ありがとうございます、本当に助かりました」


 ボクがお礼を言うと、リシェーラさんはしゃがみ、ボクの頭をくしゃくしゃっとしてボクに顔を近付けて言う。


「なーに、言葉を丁寧にしているのかな? 言葉に慣れていないのかしら? 私とアキラどのの仲じゃない。

 昨夜狐鈴さんの言っていた特別って言葉が少し分かった気がするよ。

 これからも宜しくね、ア、キ、ラ、ど、の」


 ボクはリシェーラさんの笑顔につられて笑ってしまう。


 隣に座っていた和穂がボクを引き寄せる。


「ふふ、さあて、ここからは私の知らない事になるわね……。

 精霊使いって職、実は私聞いたことしかないのよね、動物や、虫を仲間にするテイマー……能力を自分に宿して引き出す憑依師……死者を操るネクロマンシー……これらの職とは違うって事になるのだと思うのだけれど……」


 ボクの隣に座ったリシェーラさんは腕を組み考える。


「それなら少しだけ私が教える事ができると思います」


 狐鈴の隣りにいたウメちゃんが前方に体を傾けてこちらに伝えてくる。


「そうですね、試してみた方が分かると思うので、やってみましょう」


 ウメちゃんがそういうと、全員で倒木から離れ、地面へと移動した。

お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

リシェーラの天使っぽい姿のお披露目になりました。

ちょっと個性のある天使にしたいと思っています。

それでは、次回いよいよアキラの精霊使いについて触れていければと思っています。


また、次のお話でお会いしましょう♪

いつも、誤字報告ありがとうございます。

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