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第88話 ボクの捧げる鎮魂歌・後編。

前回の話は少し投稿直後に訂正されています。1時間後くらいに訂正したものを投稿していますので、投稿直後に読まれた方は、ご確認していただければと思います。



 ……ざわ、ざわ……


 ボクがステージ横の階段に近付くと、狐鈴がコチラに振り向き目を細めて笑う。


「さすが、アキラじゃの、先の歌だけで、すっかり会場はあったまったようじゃ……」


 どんな風にあったまったかは、気になるが、それを聞く様な野暮な事はしない。


「まだ、準備体操の様なものだし、コレからどうなるかだね……」


 ボクはほっぺたをムニムニマッサージしながら返事をする。


「え!?」


 ボクの呟きに反応したのは、スゥの驚いた声だった。


「アキラ様、あれだけの歌でしたのに、準備体操なのでありますか?」


 和穂はボクの肩にいた、スゥの首根っこを摘み上げ、自分の顔の正面にもってくると、コクコクと頷いて「凄い……」とひと言呟き、ボクの反対側の肩へと乗せる。


「あはは……期待してくれるのは嬉しいけれど、期待された結果、残念な気持ちにさせたら悪いな……」


 ボクは曖昧な言葉で返したが、今日これから歌うモノのために、たくさん練習したし、皆を付き合わせてきたのだから、成功させたい気持ちは誰よりもある。

 

 ほぐしたほっぺたを、今度はピシャピシャッと手の平で叩き、自分に気合を入れる。


 顔を上げると、和穂は先にステージの階段を上がり、ボクに手を伸ばしエスコートしてくれる。


「ありがと」


 ステージに上がり、和穂の手がそっと離れたところでお礼を言うと、ボクにだけ見える角度で柔らかく微笑む。そして、先程と同じところに座りボクの方へと向く。


 ボクは中央でくるりと千早を翻すように回る。


『それでは始めますね……』


 ボクは語りかけるように歌い始める。

 静かな歌を【祈り】と【願い】を込めて歌う。


 1枚の切り離された、鳥の羽根が水面にゆっくりと舞い降り、着水して波紋が広がる様なイメージで……。


 1曲目を終えたところで、皆の注目がボクに集まっている事が分かる。


 徐々に勢いのある曲にしていく。

 背中を押してあげる様に、けれど決して強すぎる事なく支える様に……。



 見守る家族の思い、共に歩んでいる仲間の思いに代わって……。



 ボク達は去る者を決して忘れない。


 去るものが心配しない様に、この地を明るくしよう、花を植えるのも良いかもしれない。

 

 残された者達の未来の誓い。


 どうか、皆が生まれ変わった先には、幸せが満ちています様に……。


 そして、この地の者達が最後の最後まで幸せであります様に……。



 ボクは両方の手平をみぞおちの辺りで重ねて伏せ、歌う。


 広場の隅までこの歌声が、ボクの……ボク達の想いが、祈りが届きますように……。



 何曲歌った頃だったろう……


 暖かく優しい風がボクの頬を撫でる。

 ボクの千早の袖をなびかせる。


 ボクは白い光の世界に投げ込まれた様に、目の前が白くなった。




「そろそろ逝かせてやろう……」



 狐鈴の声でも、和穂の声でもない声がボクの頭の中に直接囁きかけてくる。


 誰の声……?


 どこかで聞いた事のある声……。


 身内の声ではない、懐かしい声……。


 しかし、不快には思えず、むしろ清々しくも思える。


 ボクは光の先に向かって無意識に頷き、最後のテーマの歌に入る。


 【旅立ち】の歌……。


 上衣の袖の中に忍ばせていた、水晶の数珠を手に巻き、胸元で握り歌う。



 ボクの背中に翼があったら、どこまで飛んで行けるだろう……。

 

 雲の更に上に広がる青い空の果て……。


 行った事のない空想の世界……。


 きっと何処までも飛んで行けるだろう……。


 でも、ボクには翼がない……飛び方を知らないから……。


 翼のある君にボクの代わりに想いを託させて欲しい……。


 …………


 ……



 ボクが白い光から引き戻されると、ステージの下、すぐ近くで歌を聞いていた御霊達が、いくつもの小さな金色の発光体になっている事に気がついた。


 金色の発光体は離れていても、とても暖かく感じる。



 ああ、以前水辺で歌っていた時目にしていたのは、旅立つ前の御霊達だったんだね……。



 シャンッ……


 狐鈴が立ち上がり、ステージの床にいつの間にか取り出した錫杖をトンッと打ち付け、結界内の地面を金色に光らせる……



「この者達を極楽浄土へと導き賜え」


 錫杖の金属音はシャラシャラと鳴り、狐鈴の紅い目が光る。




 そして、ボクも誰に言われるでもなく、両手を広げて、御霊達を導いていた。


「お姉ちゃんありがとう」


 羊人族の子供達兄弟が手を引き、笑顔でボクの胸元に飛び込み、そして昇って行った。


「アキラさん、貴女に会えて良かった、本当に最高の夜をありがとう」


 最後の最後まで、ダンダルさんは……

 ボクの頭にポンポンと手を乗せ昇っていった。


「ワシと、メイル……仲間を救ってくれて本当に、本当にありがとう、皆幸せになってくれよ」


 オンダさんはボクの手を硬く握った、そしてニッと笑って、皆に親指を立て昇って行った。



 真っ暗になった空に次々と金の光が吸い込まれて行く。


 ボクの身体を通って昇って行った者達は、今まで、無念や悲しみをボクに伝えて去って行ったのだが、今回は感謝の気持ちを与えてくれて、軽くなる様な……最後まで暖かい、そんな気持ちで送り出してあげることができた。



 みんな、さよなら……今度はどうか、どうか幸せな人生を……。


 

 ボクは最後の光が見えなくなるまで空を見つめていた。


お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

これにて、ワーラパント編が終幕しました。

次回はエピローグと、新しい何かが起こる……かもしれません。


期待して頂いて、良い意味で期待を返していける物語にできたらなと思っております。


 余談ですが、先日、キツネの村に遊びに行って来ました。放し飼いのキツネ達の自由な行動に大変癒されました。

 ウチの子(狐鈴、和穂)も負けないくらい、自由にさせてやろうと改めて思いましたとさ。


 それではまた次の物語でお会いできると嬉しいです。


 いつも誤字の報告ありがとうございます。

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