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第80話 ボクと素うどん。


「おはようさん」


 ボクと和穂がバルコニーから降りてくると、頭をポリポリ掻きながら外に出てきたシルがこちらへと寄ってきて声をかける。


「シルおはよう、今日は早起きだねぇ」

 ボクの挨拶にシルはジト目をおくってくる。いや、普段から眠たげな瞳なので視線を送って来ただけかもしれない。


「なんか、今朝は下の連中に歌のサービスをしたそうじゃないか、何でそんな面白そうな事に、あたしを呼ばないかなぁ」


 すると、一緒にいた和穂もウンウンと頷く。


「今日のは成り行きなんだよー」


 でも、考えてみると、鎮魂歌を歌う様に言われたにも関わらず、ボクはシルに歌を披露した事あったかな??


「聞いた事ないよ……。あたしはアキラの歌を聞かせてもらったことが無い!」


「えぇーっ、こわっ! ボクの心を読まないでよっ!!」


「やっぱり……アキラは顔に出るんだよ。何だか、あたしが聞けないまま本番までお預けなんて、納得いかないな。

 決めた、今決めた。今夜は前夜祭をやる、絶対やるんだ」


 右手の拳を握り天に突き上げ、鼻息を荒げながらシルは言う。


「えーっ、ボクは何の歌も用意してないよぉ」


 ボクの抗議の言葉は受け付けて貰えず、シルは1本だけ伸ばした右手の人差し指でボクのおでこを押す。


「歌は何でも良いよ、明日の様に目的ある宴にしようなんて思ってないから。

 どうせアキラの事だから、明日の為の歌は色々考えているんだろ。

 照明石の調子を確認する為に一肌脱いでくれるぐらいの軽い気持ちで良いんだ。

 まぁ、本当に脱ぎだしたとしても、男連中は喜ぶかもしれないけどね」


 シルは二ヒヒッと笑う。


「シル……言ってる事がオッさんになってるよ……」

 ボクはシルに呆れた表情で言う。


「あたしは楽しければ、何でも良いんだよ。アキラが歌ってくれても、脱いでくれてもね、和穂もそう思うだろっ?」


 和穂は笑顔で尻尾を振りながら、大きく頷く。




「……って、事になったんだよ」

 ボク達はステージの上で狐鈴に今夜の前夜祭に至った流れを伝える。

 そして、今夜の前夜祭の相談をしている。

 広場の周囲では、皆がコロモンからの一行がいつ到着しても、大丈夫な様に準備していた。

 手伝うと声をかけても、『お前さんは別のことに集中しな』と笑いながら、断られてしまう。


「ほむ、良いではないか、ワチもソナタの歌は好きじゃ。

 今朝聞けなかったのは本当に残念じゃったがの。

 いきなり本番で大勢を前にするより、練習を挟むことができるならその方が良かろう?」


 うー、確かに……。

 ボクはショルダーバッグからノートを取り出し、どんな流れにするか考える。

 明日の歌の構成ですら、ついさっきイメージが整ったというのに……。


 【楽しければ良いじゃん】


 テーマはそれにして、組み立てる。大事なのは明日、今日は皆に楽しんでもらおう、それで良しとする。

 


「そうだ、狐鈴、和穂、これ知ってる……?」






 お昼前に、ヤンマ姉妹、キルトさん、ミルフィさん、リンネちゃんが、ボクの元を訪ねてくる。


 以前ボクが作った焼きうどん、正確に言えば、うどんに興味を示してくれたのだ。


 どうせ教えるなら皆一緒に、そして皆で作れば量もかなり多くなるから、それなら今夜の前夜祭で、各々考えたアレンジの食べ比べができたら楽しいのではないかと思ったのだ(うどんフェスだね)。



 まぁ、それはそれは、ボクが目の前で初めてうどんを打った時に、チャコの見せていた驚きの表情にも、引けを取らない良い反応を見せてくれた。


 うどんを踏み踏みする作業は、リンネちゃんも楽しみながら参加することができた。


 踏まないで作ったものも比較の対象として、少量用意してみたが、やっぱり皆コシのあるものを選んでいた。


 生地に被せている葉っぱ(ビニール袋の代わり)も、うどんに良い匂いをつけてくれるんだよね。


 昼食には、広場のカマドに移り、以前ボクがキルトさんの家で仕込んでいた【干しアカウイダケ】も持参してもらっていたので、干し椎茸の要領で、戻してだし汁を作り、そのスープを使ってうどんを用意してみた。


 干しアカウイダケを楽しみにしていたシルも、昼には手が空き喜んで食べてくれた。


『これは驚きました。いったん干す手間を入れるだけで、こんなに香りも味も強くなるんですね』


 ミルフィさんはだし汁と、スープだけでお腹いっぱいになってしまうのではないかと思うほど、繰り返し味見をして何度も頷きながら感想を言う。

 

 今夜のボクは料理をする側ではないので、皆がどんなアレンジをするのか、本当に楽しみだ。



 ステージ上で皆んなで囲ってうどんを啜る。

 同じ釜の飯を食うっていうか、なんかこういうの良いな。


『それじゃ皆さん、うどんについては、これからどんな風になるか、夜を楽しみにしてます』

 ボクはそう言って、料理教室を締めくくった。


『アキラさん、大きな街とかでお店出さないんですか?』

 ルーフェニアさんはスケールの大きな話を持ち出してくる。


『え……? 出さないよー』

 ボクは思っていた以上の結果を出してくれた干しアカウイダケに満足し、スープを飲み干す。


『ユリファさんにも食べて貰いたかったです……』


『ルーフェニアさんが作ってあげたら良いんじゃないの?』


『あたしには無理ですよ〜』


 ボクは今後の街との取り引きの商品に、料理ではなく、干しアカウイダケを入れてもらって、可能性を広げて貰うのか良いと思った。


 あくまで、使い方の説明として料理を出すのは有りかもしれないけどね。


 そんなやりとりをしていると、馬車が1台、また1台と、森の街道から姿を現す。



 街の衛兵団の馬車と挟まれる様に、商業者ギルドの馬車が列を作って草原手前の、整地された場所へと誘導される。


 10台の馬車が停車し、馬達は草原の中に簡易的に作られた牧場の柵の中へと放される。


 作業を行っている衛兵達に指示を出していた、2人の男性がボク達のいるステージの方へとやってきた。


 コロモン衛兵団大隊長の【ロドグローリーさん】と、相変わらずドヨドヨした気配を纏った、商業者ギルドのギルドマスターの【ジャグラさん】だった。


 シルは階段からステージを降り、こちらに来る2人を招き入れる。


『ヤック! パーレンを呼んできてくれっ』


 シルはその場で、うどんを食べ終えて、タバコの様なものを吹かしながら、キロニフさんと話をしていた、ヤックさんに声をかける。

 そして、ボクの方に向きを変え手招きしながら話してくる。


「アキラ、いきなりで悪いけど、今到着した者達に、簡単な食事を作ってもらってもいいかな? どうせ、パンと干し肉くらいしか食べてないだろうから、賄ってやって欲しいんだ」


「別に良いよー。ジャグラさんもいるし、折角だから、干しアカウイダケを紹介しようかな」


 ボクが言うと、シルは手を打ち「いいね」と言い、ジャグラさんへ話す。

 ジャグラさんは興味深そうに、和穂の啜っているうどんを見て笑顔を見せる。



 料理教室は終わったけれど、引き続きボクの手伝いをしてくれると、皆残ってくれた。



 更に、作業も見たいと、ジャグラさんと共で連れて来ていた女性職員【エラッタさん】、キロニフさんに呼ばれた長女の【アンリンさん】、呼ばれたばかりのパーレンさんと、4人増えた状態で調理を始める。



 初見の4人はうどんの製造工程を知らないので、料理教室の時の皆の反応と同じ様に驚きを露わにし、それを見てつい先程同じ表情をしていた、皆が微笑む。


 リンネちゃんは率先してうどんを踏み、ジャグラさんも『どうせ、家じゃ奥さんに任せきりなんだろ、奥さんに作ってやんな』とパーレンさんにひっぱり出され、隣で一緒になってうどん踏みをする。


 まあ、そんな上司の姿は普段目にできない様で、エラッタさんは暖かい目でみつめる。


 うどんを作る前に、干しアカウイダケを水で戻しているところもジャグラさん達に見せているので、そちらにも興味をもってくれている。


 製麺を済ませたら、先程の様に広場のカマドに移り調理の続きをする。


 手伝ってくれていた、今夜の料理を担当している人達はカマドへの移動のところで、帰っていく。


 

 広場には、武器や防具を脱ぎ、解放されていた衛兵達が、精霊達、獣人達と交流している。

 そして、狐鈴が結界を張ったので、御霊になって、ついて来ていた者達も自由に姿を見せられる状態になり、交流の輪に加わる。


 オンダさんは、メイルさんと共にいた様で、狐鈴が結界を展開した途端、現した姿にメイルさんは驚いていたらしい。


 和穂にはダンダルさん達にも声をかけて貰う様に伝える。

 満腹になっていたハズなのだが、物欲しそうにこちらを気にしていた。


「戻ってきたらね」

 そう言うと、和穂は凄い勢いで広場を後にして行った。


 カマドには、後から参加した4人、そして興味を示して寄って来た衛兵達に囲まれる。

 そこにはダンダルさんもいた。


 皆の視線と圧が凄い。


 麺の茹で上がりから、うどんの盛り付けまでは素うどんだったので、簡単だった。

 ネギの味のするニラ【トゥ】をその場でみじん切りにするだけで歓声がわく。


 うどんを受け取り、人だかりははけて行く。


『本当、アキラさんは何でもできるんですね』

 ダンダルさんも、他の衛兵同様うどんを受け取りその場を離れる。


 その場で残って食べる4人。


『『『こ、これは』』』

 

 パーレンさんを、除く3人はひと口口に運んだ後、改めて手元の器を凝視する。


『へぇ〜面白いもんだね。焼きミツルもそうだけど、本当にアキラは不思議な料理をするね。でも、今夜は料理しないんだろ?』


 パーレンさんは器に口をつけて、スープを啜りながら言う。


 パーレンさんは確か今日、明日と料理を担当すると聞いている。


『そうだよ、アキラは今回宴の中心になって貰うんだ。

 アキラの料理は、黙っていたって勝手に有名になると思うから、今はもっともっと皆にアキラを知って貰いたいんだ』


 シルがこちらがひと段落ついたタイミングでやってきた。


『それにしたって、このアキラの料理の味が基準になるなんて、比較される料理を考えないとならない者には酷だと思うよ。

 ねえ、そこの3人はどう思う?』


 パーレンさんは苦笑いをしつつ、シルに言葉を返す。


『凄いですね、アカウイダケの良さがこんなに強く出せるなんて驚きです。しかも、これが完成系ではなく、たったひとつの調理法だなんて……』


 ジャグラさんは唸りながら食し、そして話す。


『ユリファが言っていた通り、美味しい料理を作るんですね、それにしても、あの作り方には驚きました』


 エラッタさんは笑いながら話す。どうやら、ジャグラさんのうどん踏みを思い出していたのだろう。


『…………』


 アンリンさんが黙り込んでしまった。


『どうした?』

 シルがアンリンさんに声をかける。


『あれが、どうして料理として成立するのか理解できないです』

『でも料理だろ? 国によって壁に叩きつける調理方だってあるし、アキラの調理方法だって知っている知識から教えているんだ、それを強要しているわけじゃないだろ。

 あんたも若いんだから、知識として覚える分には良いんじゃないか?

 気に入らないならやらなければ良い、違うかい?』


 シルがアンリンさんに話かけている、何だか元気ないようだけど、大丈夫かな?


『口に合わなかったら御免なさい』

 ボクが声をかけるとシルは笑いながら腰に手を当て言ってくる。


「大丈夫、客は喜んでくれたろ、後は夜まであたしも自由時間だよ。

 夜の出し物の準備でもするかい、それと何かあたしにできることあるかい?」


「それなら……」




 和穂はダンダルさんと、羊人族の家族を連れてきて、出来立てのうどんを美味しそうに啜る。

 お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

 プロローグとして、出した第1話に季節が追いついてしまいました。


 そんな、第1話も「誰かに読んでもらえたら……」と思いながらも、自己満足で作っている話だから、人様に見せても良いのだろうかと、投稿のボタンをクリックするまでに3日程かかった事を覚えています。


 投稿したからには後戻りできない……なんて冷や汗をかいていたあの時に比べて、今は自分が作り出したキャラクターが自由気ままに動いている事が微笑ましく思います。

 そして、今回で80話、読んで下さる皆様や、訂正して下さる方に大変感謝してます。

 他の小説を書かれている方に比べて、投稿頻度にムラがあって、ご迷惑をかけてしまっていて申し訳ないです。

 待って下さる皆さんへの感謝と、定期的に物語を続けている小説作家さんの凄さをいつも感じています。


 いずれ、これまでの物語も少し直さないと……と思って時々読み返したりしています。


 修正される前の物語を見られる事に気恥ずかしさもありますが、まずは100話に向けて、これからも頑張りたいと思います。


 長々となってしまいましたが、これからも楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。

 また、次の物語でお会いいたしましょう〜♪

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