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第78話 ボクと皆んなの宴準備。


 和穂の展開した簡易結界はそのままに、レトさん達はもう少し子供達と語らっていきたいと言っていたので、ボク達だけ引き上げることにした。


 ダンダルさんがいれば、あの夫婦も別に変な気を起こしたりはしないだろう。何もないとは思っているけれど、自分より先に子を亡くした親を見ると胸が詰まる思いになる。

 時間の許す限りゆっくり話して、気持ちを整理すれば良いと思う。


 うーん、もっともっと、ダンダルさん達の為に練習しないとだめだな……親愛なる人達の為に納得できる歌を届けたい。そうあらためて思ったんだ。



「〜〜♪〜♪〜」


 ボクは無意識の中、夢の中で思い出した、あの数え歌を口ずさむ。


「なんだか、ホッとする様な不思議な歌ですね」


 ボクの前を歩いていたウメちゃんが、くるりと、身体ごとこちらへと向きを変え、ボクを見上げながら言ってくる。


「昔、いっぱい聞いて、いっぱい歌った曲なんだよ。ちょっと思い出したから……」


 喉の負担もほとんどないし、準備運動として、歌の始まりに懐かしい歌から入るのも、良いかもしれない。 




 ボク達は、今朝作業が行われていた場所の裏側の脇道から戻ってくると、目の前には木製のステージが、ほぼできあがっていた。

 盛り土もしてあったので、水平になる様に丁寧に調整されているようだ。


『す、すごいっ!』


 ボクの声が聞こえたのか、ステージの上で作業していたヤックさんが立ち上がり、こちらへ振り返る。


『おう、上がって来いよっ!』


 大きく手招きをしてボク達をステージの上へと呼ぶ。


 促されるまま、ボク達はそのままステージへと向かう。


 1mちょっとくらいの高さだろうか、階段を使わなくても、手をかければ、よじ登る事ができるくらいの高さだった。

 それでも、ステージの上に立つと、それなりに高く感じる。


 ウメちゃんは横から、階段を使って上がってくる。


「わぁ、すごーいですぅ」

 ウメちゃんも、感動を表情と声に出す。


 ステージの広さは20畳くらいあるのかな、広々としたウッドデッキになっていた。

 ただ丸太が敷き詰められ、並べられてる様なものだったら、溝に躓いて転ぶ自信があるのだけど、ちゃんと板状になったものが貼られていた。


 何も置いていない状態だから、結構広く感じられるけれど、演劇のように、大道具とか置いたら……いや、流石に大道具は置けないかな……そんな広さだった。


 周りでは、ステージから落ちない様にと、低めだが柵を着ける作業が行われている。


 おそらく、宴の日程が告げられてから、整地とステージを作り上げる為に、みんなの努力と、労力が総動員されているのだろう。


 ステージはぐらついたりする事もなく、歩くと、ドッドッドッと、乾いた音を立てている。

 ボクはなんとなく、このウッドデッキを歩いた時の少し沈む感じと、鳴り響く足音が好きだ。

 シルのツリーハウスの周りも、家を囲う様にウッドデッキがはられているのだが、地面から離れているので、それ程音が響かない。


『いやあ、本当に凄いです。ボクも皆さんの努力に報いる事ができればと思います』


 ボクの素直な感想にヤックさんとキロニフさんは離れた位置で満足げな表情を見せてくれる。



 ボクはステージの上をぐるぐると、座る場所が定まらない犬の様に歩き回る。


「これが、当日のアキラさんが見る光景なんですねぇ〜」


 ウメちゃんはステージの中央に立ち、広場の奥の方に目を向けている様子。


「んーどうだろう」

 ボクがウメちゃんに言うと、ウメちゃんはこちらを向き、頭に『?』を乗せて、小首を傾げる。

 ボクはウメちゃんの背後から体を抱え上げ、「これくらいかな?」と、ボクの目線までウメちゃんの体を持ち上げる。


「わわわぁあぁ……こ、怖い、すっごく怖いですヨォぉ」

 手をバタバタさせていたので、流石に可哀想になって足元に降ろしてあげる。


「ごめん、ごめん、ウメちゃんは高いところ苦手なんだね……」


 悪い事をしてしまったな……。

 ボク達の住処を作るならば、白夜の為だけではなく、ウメちゃんの為にも、地に足着く場所に家を作る必要はありそうだ……。


 ボク達の家をどうにかしようと、考えてくれているシルと、相談しないと……と思う。



「ウメちゃん、こうすると気持ち良いよ」


 ボクはステージより足を降ろし、先端に腰をかける様に坐り、今取り付けられた柵の上に腕を乗せる。すると、右隣に和穂もボクに習って同じ様に腰を降ろす。


 ウメちゃんはボク達の左側に腰を降ろす。すると、和穂の方……草原の方から風が流れてくる。


「ホントウですぅ、自然の香り、優しい風が流れてきますねぇ〜」


 ウメちゃんは目を細める。


『そんじゃ、当日はよろしくなっ』


 ヤックさんはボクの背後から大きな手で、頭をポムポムとする。


『が、頑張ります』


 ボクが顔をそのまま上へと向けると、上からヤックさんはニカッと笑い、そのままステージから飛び降りる。

 ステージから離れて行くヤックさんの背中を見送り、広場の奥に目をやると、シルが狐鈴とキルトさんをつれてこちらへとやってくる。


「なんだ、もう帰っていたのかい? お疲れさんだね。狐鈴、さっき渡した道具はステージの上に置いといてくれ」


 シルは狐鈴に声を掛けると、狐鈴はピョンッとステージに上がり、収納空間から魔石(照明石かな)やらハリガネのようなモノが巻かれた物、工具の入った箱を取り出し中央へと置いていく。


 シルとキルトさんは階段を使って、ステージに上がってくる。


「アキラ、ちょっと悪いね」

 シルはボクの横から肩を押し、正面(ステージ最先端の中央)にある、ボクの手を置いていた、柵の上部にマジックの様な物で印をつける。

 キルトさんも、シルと同様に柵に印をつけていく。


「シルこれは?」

 ボクは作業を続けるシルに声をかける。


「照明石を埋め込むんだよ。

暗くなっても、ステージの上が明るく見えるようにしようと思ってね。

 それに、照らされていれば、足下も見えるし、安全だろ」


 自分の顔がはっきり見られるのは正直恥ずかしい。

 でも、ボクの方に光が当たるのなら、実は眩しさで、ステージ側からは聞き手の表情が見えないので、緊張をしないで済むと思う。


 シルとキルトさんが印を付けたところを結び繋げる様に、キロニフさんが魔道工具(電動工具の様な物)で溝を彫っていく。

 リニョレさんが、彫られた溝に、狐鈴が先程収納空間から出していた、ハリガネのようなものを這わせて行く。


『それは?』


 ボクがリニョレさんにたずねると、ビクッと驚き、作業の手を止める。


『あ、突然声かけて、ごめんなさい』


『い、いえ……たくさんの、照明石に同時に魔力を流す為に、必要なんですよ……』


 リニョレさんが、ボクの声かけに驚いた事が恥ずかしかったのか、顔を赤くしながら答えてくれる。


 ふむ、電線……回路のようなものかな……。


 ボク達の荷車にも同じ様に付ければ、照明の様に使えて、室内のカンテラの必要は無くなりそうな気がする。

 ボク達にとって、今回のお出かけをした事で、荷車は特別な空間と思えたから、改造するならば、何を取り入れれば、より便利になるのか……と、ついつい考えてしまう。

 ウメちゃんにも協力してもらって、もっと快適な空間にできたら良いなと思う。




「アキラ、ちょっとそこに立ってよ」

 

 シルが、ステージの中央を指差す。

 そして階段から広場の方へと、降りてボクの立ち位置を確認する。


 ボクは言われた通り、坐っていた場所から立ち上がり、中央に移動し「ココ?」と確認をする。


「もう2歩前かな、うん、少し左……ごめん、逆だ、こっちから見ての。んー、もうちょっと左かな? そう、そこ」


 ボクの立ったところを中心に、キルトさんが少し離れた位置に、丸く囲む様に6個の印を書く。


 おぉ、なんて言ったっけ、ステージの立ち位置の目印……バミだっけ? いや、ここにも照明石を埋めるのかな?


 改めて、広場を見ると結構な奥行きがある様に感じる。

 今朝歌の練習した水場は、音の反響もあったし、静寂の中だったので響いていたけれど、人が集まると声が吸収されて、奥までは流石に届かない様な気がする。


 ちょうど、ツリーハウスの麓で、座っている白夜を触っているチャコがいたので、実験として、少しづつ声を大きくしながら呼んでみる。


 確かチャコの耳は結構良いはずなのだが、大きめな声で呼んで、どうにかこちらに気がつく。


「うう……声、最後までもつかな……」


 ボクがそんな事を心配しながら呟くと、ステージの柵の上で片足立ちをしていた狐鈴が、器用にくるりと向きを変え、笑いながら、こちらに言葉を掛けてきた。


「案ずるな、ワチに任しておくと良い。結界を張れば、余計な雑音もおとなしくなるし、アキラの声も拡声されるじゃろう」


 本当に結界って便利だなぁ……。

 


 夜は久しぶりに、寝室で休む事にした。寝室にはボクと和穂、ルーフェニアさんが3台のベッドで横並びに川の字になり、クラマはハンモックで休む。

 ウメちゃんは頑なにツリーハウスへ上がる事を拒否して登らず、麓に停めた荷車で、狐鈴と白夜と共に休む。

 荷車もベッドに負けず劣らず快適なのだが、流石に全員で眠るには狭い。


 ゴーレムに寂しいという感情があるのか分からないけれど、白夜が1人ではないという状況については、とても心強く、安心に思える。


 ボクは久しぶりのベッドということもあり、ルーフェニアさんと眠る前の語り合いもなく、あっという間に眠りに落ちていった。

 


 翌朝、その翌朝も、ボクはルークの住処の水場で歌の練習をする。マイナスイオンで満たされている場所のようで、凄く調子が良い。


 ボクの練習に率先して、ついてくる和穂はその都度、ボクのすぐ近くで歌を聞き、ポロポロと涙をこぼし、ボクがなぐさめている状態だ。


 狐鈴はボクの歌声には魔力を乗せる事で、元々ある霊感を増幅させている。

 心をこめる事で言霊に、より強い力を持たせているのではないかと見解を述べていた。


 もっとも、ボクの歌声が影響を与えているのは、ボクの言葉が分かる御霊や精霊などで、言葉の分からない人には、言霊の力が抑えられて、少しばかりの感情を与える程度だろうと言っていた。


 言霊の力が原因なのか、練習前に歌う数え歌に興味を示して、水場周囲に集まってきた御霊達は、練習が終わる頃には浄化され、ほとんどいなくなっていた。


 それっぽくと思って歌っていたものが、実際のところ、本当に鎮魂歌になっていた様なのだ。



 水辺に長時間いると身体も冷えるので、歌の練習をした後、皆んなで朝風呂に入って、身体を温める様にしている。

 朝風呂では、ボクの歌声に宛てられていた和穂とスキンシップをとるので、入浴後の洗濯をする頃には和穂はツヤツヤに戻っている。



 ボクにとって、宴に向けての準備は、歌の練習だけではない。


 料理の方も準備が必要なので、出来立ての状態で保存ができる和穂の収納空間を頼りにして、当日手を加える物は殆どない状態にまで持って行く様にする。

 絶対にバタバタする事になると思うから……。


 完成したステージの横のカマドでは、見た目がカボチャのミツルを、次々と並べ焼いているので、ハロウィンの会場の様に見えて少し和む。

 焼けたものは火から降ろし、風通しの良いステージの上で冷ましていく。


 焼きミツルは最終的に92個の準備ができている。


 そして、今回ボクのメインの料理である、ミュートルの団子を大量に茹でる。

 これは普段お腹が空いた時にも常備できていたら便利なので、あるだけ茹でておく事にした。


 お試しに、茹でた団子を醤油の代用調味料【ソーイ】を塗って焼くと、香ばしい匂いをあげ、表面に焦げ目がつき、焼き団子が出来上がる。


 たまたま、出来上がったタイミングで戻ってきた、クラマにも食べさせてあげると、それはそれは普段見かけない程喜んでいた。


 モータルぜんざいも作り上げ、火傷したりしない様、冷ましてから収納する。


 今回は人数も全くわからないので、寸胴いっぱいの団子と、食感を楽しめる様に、軽く火を通した角切りモータルと、ぜんざいをそれぞれ寸胴1つ分用意した。

 流石に、寸胴3つ分のぜんざい、残る事はあっても足りない事はないだろう。


 ナボラの果汁は好みで入れてもらうのか良いだろうから別に用意する予定だ。 


 あれ? 

 気がついたらボクの担当した料理は、食事よりデザートのような内容になっていた。

 たまにはそんな事もあっても良いよね。

 

 ボクのやるべきことはやった、本番が明後日に控えているから、明日はゆっくり過ごす事にしよう、きっと前入りで来る人もいるかもしれないけど……



 お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

会場もできてきて、いよいよって感じがしてきましたね。


なかなか、思うペースで投稿できなくてお待たせしてしまいましてすみません。


次回は宴前日のお話になります。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。


いつも誤字報告ありがとうございます。

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