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第74話 ボクと食材情報と買い出しと。


 ボクはユリファさんと、ジャグラさんを呼び止め、食材や調味料についての情報を教えてもらえないか相談する。


 仕事の最中であろうから、恐る恐る声をかけさせてもらったのだが、離れたデスクで書類と睨めっこしていたナティルさんは、『本人らが良ければ情報交換も仕事のうちだろ』とこちらに声を投げかけてくれた。


 いったん、パーレンさんは狐鈴を連れて、ヤンマ姉妹の依頼してきたメモの食材や、自分の宴料理に使用する物、依頼を受けている物を購入するべく、街中に出ていく。


 通訳は引き続きクラマがしてくれる事になった。


 ユリファさんも、ジャグラさんも、はじめはボクの料理に対して『手探りで料理しているなんて……』と信じてもらえなかったのだけど……。


 あまりに食材に対して無知であった事に、驚いていた。


 そして、普段から自分の過去に食べた事、作ったことのある物に近づけるために、記憶と想像を頼りに味を寄せているので、苦労していると伝える。


『いずれは、手探りではなく、アキラさんが満足できる方法で作られた料理も食べてみたい』と今後も情報提供など、協力してくれる事になった。


 普段から忙しい、ジャグラさんはいつでも会えるわけではないけれど、ユリファさんはギルドに来れば、だいたい会えるそうだ。


 それに、ユリファさんを経由すれば、少し時間がかかっても、ジャグラさんへと話をつけることもできるそうだ。


 流通の中でボクの希望するような食材や調味料、新しい物に関しての情報を手にするためのパイプを繋ぐ事ができた。


 今後のルーフェニアさんの考えが実現できる様になれば、ボクが希望している物も、取り寄せしやすくなるだろうと話してくれた。



 今回は星の数程ある食材の、あれこれを聞いてボクの方がパンクを起こさないように、とりあえず、必要に思えた物を教えてもらうことにした。


 もっとも、特徴を伝えても手に入る物は、類似品という形だが、手探りで作る料理よりは確かな形で作れる様になると思う。


 調味料は……食材は……。


 あとは手頃に買えて、オススメの物……。


 聞きたい事がいっぱいあるんだ。


 この街に来た中で、1番充実した時間を過ごす事ができている気がする。


 たまたま、隣を見た時、和穂と目が合った。

 やる事なくて退屈しているのではないかと思いきや、ニコッと笑顔を返してくれた。


 和穂には、ボクの感情が筒抜けなんだよねー、ボクも笑い返す。


「はわぁ〜、なんだか〜、暖かい様な、楽しい様な気持ちになりますぅ」


 和穂の膝の上に抱えられたウメちゃんが、微笑みながら、そんな事を言う。


「え、ええ!?」


 ボクは左手に巻き付けていた数珠の存在に気がついた。


 あー、クラマを、呼び出すタイミングを計るため手に巻き付けたままだったのか……


 この場にいる人にボクの感情が分かるならまだ良いけど、離れた場所にいる、ルークやトルトンさんにまで、ボクの感情流れてしまっているのは、流石に恥ずかしく思える。


『だ、大丈夫ですか? 顔赤いですよ』

 

 ユリファさんが、ボクに心配しながら声をかけてくる。


 ボクは顔を下に下げ隠し、右の手の平を広げ見せながら『大丈夫』と返事をする。



 この場で得られた情報として、ミュート(ボクが炊く水加減が難しいと思ったトッポギ似の穀物)を発酵させたお酒があるそうで、日本酒の代わりと言っても良さそうだ。


 それと、胡椒の代わりになるのか、山椒の代わりになるのか……とりあえず、マプリの葉やジャルトの葉とは違った辛さのある実も教えてもらった。


 あとは……料理を作る時までのお楽しみ。


 結局、話の途中で数珠を外しても今更なので、気にしない事にした。


 ジャグラさんと、ユリファさんも仕事に戻り、ルーフェニアさんがボク達に、引き続き付き添ってくれて買い物をしにいく。



 相変わらず、注目を集める事になっているけれど、先程の様に取り囲まれる様な状況にはなっていないだけ良しとしよう。


 気安く住民が声をかけてくれる。

 何て声をかけてくれているのかわからないけれど、冒険者ギルドの時や街の入り口の辺りで、かけられる様なナンパの声かけではない事は確かだ。


 一緒にいる、ルーフェニアさんも、皆んなも表情を崩す事なく笑顔で声かけに返事している。


 先日モータルを買わせてもらったお店で、本日も全部買わせてもらう。2日前に買い占めての今日だったので、さぞビックリした事だろう。


『次はミュートルを買いたいな』

『ミュートルですか?』


 ボクが、最初宴料理で考えていたのは、すいとん入りのモータルぜんざいだったのだが、ミュートル団子入りに変更する事にした。

 すいとんも美味しかったんだけど、ミュートル団子の方が白玉っぽくて絶対に美味しいと思ったんだ。


 和穂は試食できていなかったので、キョトンとしていた。

 最近ボクは、そんな和穂の、新しい物に感動をする姿を見るのが好きなんだよねー。

 

「和穂、楽しみにしていてね」

 和穂はボクの声かけに小さく笑う。

 

 結局ボクはミュートルも一般家庭では買わないくらいの量を購入する。

 やっぱり、こちらの世界では、そのままを炊いたりしない様で、粉末状になっているモノを用意するか聞かれる。粉も確かに気にはなったので一袋だけ購入し、あとはそのままの状態のものを購入した。


 ちょうど和穂がミュートルの入った大袋を、収納空間へと片付けたタイミングで、パーレンさんと狐鈴がお店へと入って来た。


『やっぱりココにきたねっ』

 パーレンさんはボクと合流する為か、ココを最後の場所にしていたようだ。


 ボクの持っていた食材費の残りのお金は、狐鈴の持っていたものに合わせて預かってもらう。


 その後もユリファさん達に教えてもらった食材を購入したり、皆で露店で買い食いしたりした。


 実は、今回のお遣いはシルから「あたしは行かないから駄賃をやらないとね」って、お小遣いを貰っている。

 もっとも、お金の単位や価値観はコロモンにいる時にしか使っていないのでよく分かってないんだけれど……。


『アキラ、あんたお金を自分のことに使ったらどうだい?』

 パーレンさんが言う。過去にシルにも同じ事を言われた様な気がするのだが……気のせい?


 うーん、鍋も鉄板も、バッグもこの前買ったしな……。





『あ、それなら、糸がほしい』


 ボクはバッグのポケットに入っているソーイングセットから、刺繍糸を取り出しパーレンさんに見せる。


『糸? なんだい、キルトみたいな趣味でももっているのかい?』


 刺繍糸を手に取り、パーレンさんは言う。


『ボクの世界のおまじないを作っていたら、手持ちを切らしちゃて』


 ボクの話を近くで聞いていた和穂は、見せびらかす様に、右手首に結ばれているミサンガをパーレンさんに見せる。

 するとルーフェニアさんも、そちらに顔を寄せて『これ、可愛いね』と言う。


『あたしにも作る事できるかな?』

 ルーフェニアさんが、興味津々に聞いて来る。


『そうだね、帰るまでの道のりは長いから』



 狐鈴はシルに頼まれたお遣いをするために、ラナトゥラさん達の洋裁店に行った。ウメちゃんも久しぶりに訪れた街の様子に感激して、狐鈴と共に行動していた。



 裁縫道具屋は、コロモンの街中に何軒もある様で、それぞれの店で、品揃えの特化している物が違うらしい。その辺は、商業都市と言われて納得できる。


 例えば、今回ボクが求めている裁縫糸のお店だったり、ボタンに特化しているお店だったり、装飾用の羽なんかに特化していたり、黄色系の布地に特化していたりと、1区画がまるっと、裁縫道具店として店舗を並べている。


『なんというか、何でも揃うけれど、目的の物を決めていないと、目移りだったり、探すのが大変そうだねぇ……』


 ボクの正直な感想だ。

 まあ、どこの世界にも、色にこだわって、人生の幸運カラーとして、貫いている人だっているわけだから……。

 そんな人が来たら天国なんだろうな。


 目的の店は、シルの刺繍糸コレクションも、可愛いものに感じてしまうほど、色に溢れていた。


『過去にキルトが3日かけて買い物したみたいだよ』

 パーレンさんが笑いながら教えてくれる。 


 話でしか聞いていないはずなのに、鼻歌を歌いながら、店内を跳ねるように徘徊して品定めしているキルトさんの幻影が見えてきそうだ。



「和穂もまた作りたいでしょ、シルからお小遣い貰っているから好きな色選びなよ、色々買おう」



 それからボク達は2時間くらいかけて、沢山の刺繍糸を選んだ。

 もちろん業務用として、大口の購入もできるようだが、ボクは小口で30色程購入した。

 パーレンさんもルーフェニアさんも、ミサンガを作る気マンマンで何色も買っていた。

 なんだか、皆んなで同じ事をしている時間って楽しいよね。


 和穂は色決めでアワアワし、目をグルグル回しながらも何色か選んでいた(以前もボクの為にシルのストックの糸でアワアワしていたっけ……)。


 右手首に着けられている魔石の編み込まれたブレスレットを見て、あの時の様子を思い出す。


「クラマは新しく作る時、好みの色とかないの?」

 店内には、ところどころに荷物を置くための台が備え付けてあり、そこで休んでいたクラマに声をかける。

「まだ先の話ですし、拙者の為にアキラ殿が選んでくれるということであれば、大変名誉な事に思えます」


 クラマは頭を深々と下げる。喜んでもらえるなら作り甲斐もあると、ボクは嬉しく思える。




 買い物を済ませたボク達は、冒険者ギルドで、狐鈴達と待ち合わせしていた。



 合流したボク達は、ナティルさんよって、誰も入れない様に貸切りにされている、冒険者ギルドの修練場に通される。


 ウメちゃんがカーバンクルである事を、他人の目から隠した状態で、ジャグラさんと、ナティルさんを前に、ゴーレムの馬を創造する事になった。


 ウメちゃんの額にある、深紅の魔石に光りが灯り、前に向け広げて出した両手の平から高濃度の魔力が凝縮された状態で出される。

 凝縮された魔力は青い魔石となり、その魔石を中心に眉間となり、グレーの馬の形のゴーレムが創造される。


「この魔石に魔力を流してあげる事で、食事の代わりになります。


 あとは目的地を……道路と最終目的地をイメージして伝えてあげる事が大事です。

 初めて行く場所のような、分かれ道の度に確認が必要であれば、分岐する光景を目的地として、イメージしてあげれば、分岐になる度に足を止める事ができるんですよ〜。


 選択なく真っ直ぐに進むだけであれば、道だけイメージしてもらえれば、魔力が空になるまで、道に沿って、ただまっすぐにだけ、進ませることができますね〜」


『へぇー、そいつは利口だなぁ』


 ナティルさんはさっそく、目の前に現れた、馬のゴーレムの眉間にある魔石に手をかざし、魔力を送り込んでいるようだ。


 普段から魔力を使っている人にとっては、蛇口からお湯を出す様な感じで、イメージと送る魔力の量の調整が簡単にできるようだ。


 ナティルさんが、馬にフワリとまたがり、お尻をペチリと叩く、すると馬は修練場を一定の速度で歩き始める。

 そして、一周まわったところで足を止める。


『おお、コイツは賢いなルーフェニアより賢いんじゃないか?』

『ナティルさんひどいですよっ』

 ナティルさんはまたがったまま、馬の頭を撫でてやる。

 ルーフェニアさんは隣で頬を膨らませる。


 ウメちゃんはそんな光景を目を細めて見つめ、手持ちの袋へと手を突っ込む。

 その袋はアイテム袋の様で、中から1本の手綱が出てくる。


「これを着けてあげれば、こちらの意思を読んで、速度を変えたり、道の変更をする事ができますよ」


 ウメちゃんは取り出した手綱を、ルーフェニアさんへと手渡す。


 それから、ウメちゃんはもう1本手綱を取り出し、ジャグラさんへと渡す。

 両手をもみほぐしぶらぶらと振り、首をぐるりと回して、2頭目の馬の創造を始める。



 ボク達が街の外に出た時には日も傾き初めていた。普通の人だと、ひと晩街で過ごして夜明けと共に……なんて、言うのだろうけれど、ボク達は昼も夜も関係なく出発できる。


「またせたね、帰りもよろしくお願いね」

 ボクは荷車に繋がれた青い魔石の角をもつ、白い大きなオオカミに抱きつく。

 ボクはこの子に名前をつけた『白夜』と。


 必要のない荷物は収納空間に入れているので、全員で荷車に乗っても、密着しなくても済むほどの広さはあるのだが……


 狐鈴は呼び寄せをするまでの時間、冒険者ギルドに残って、訪れる冒険者達と言葉を交わしたいと希望してきた。

 

 普段から何だかバタバタと、忙しない毎日を過ごしているからこそ、できる時には好意を持ってくれる人達と、ゆっくり語らう時間を作っても良いと思う。


 流石に、狐鈴に変なちょっかいをかけてくる様な族はいないだろうけれど、何もしていなければ、異国の服を纏った美少女なのだ。

 気持ちとしては心配なので、クラマも一緒に残ってもらう様にお願いする。


 ボクはお小遣い袋を狐鈴に渡して、必要な時はそこから出して払う様に伝える。


「それじゃ、また後でね」


 ボク達を乗せた荷車は、ゆっくりと家に向かって動き出した。

お帰りなさいませお疲れ様でした。


 今回は街でのお泊まりはせず、帰宅に向う運びにさせてもらいました。


 気がつけば、何故だか料理物語りのように話が寄ってしまうので、食材の話はザックリと切らせてもらいました。

 本当はアキラ達に街中でも寄ってもらいたい所は幾つかあったのですが、既に決まっている宴の開催に向けて、バタバタさせてしまうので、今回は触れていません。 


 コロモンとの取引が始まる様になりそうですので、いずれは思っていた事にも触れていきたいと思います。


 それでは、本日はこの辺りで終わりにしたいと思います。

また、次のお話でお会いしましょう♪


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