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第72話 ボクと和穂とお使いと。


 青いツノの魔石を光らせた、白い大きなオオカミが暗闇に閉ざされた道を走り続ける。

 オオカミに引かれた荷車もオオカミの駆ける速さに負ける事なく安定した状態だ。

 

 御者台に乗らなくても勝手にコロモンに到着する様に、オオカミに指示を与えてくれていたけど、乗り物がそれほど得意ではない和穂は、形だけの御者台に腰をかけて、吹き付ける風を楽しんでいた。


 突然のトイレ休憩とか、速度の変更の意思は、オオカミにつけられている手綱を通して、指示が送れると教えられている。


「和穂、大丈夫? 寒くない?」


 荷車から御者台は扉1枚で行き来できるようにできており、ボクはドワを開けて和穂に声をかける。


 カンテラの光を受けて確認できる和穂の顔は、すごく楽しそうに見えた。


 荷車もおそらく、ウメちゃんが創造した時に埋め込んでくれた魔石の効果だと思うが、どんなに酷いわだちに車輪が乗り上げても最小限の揺れになる。


 どんな自動車メーカーも顔負けの、チートサスペンションがつけられているような物だった。


 荷車の内装は板剥き出しではあるが、そこまで立派な物を求めていないので、衝撃がないだけで十分だ。


 ダブルベッドより少し狭い程の広さだったけど、運ぶ荷物も無いし、シルが布団を詰め込んでくれていたので気分は豪華な寝台車のような感じかな。

 

 外部の音はどうしても聞こえているのでどうにもならないけれど、それは仕方のない事だ。


「和穂楽しそうだね、中も過ごしやすいよ、体が冷える前に中においでね、ボク少し休むよ」

 和穂にひと声かけて、車内へ戻る。


 なんだか、今日はバタバタで眠くなってきちゃったな……。


 久しぶりの布団が嬉しい、ベッド程快適ではないけれど、最近ときたら布団も無い床や、ゴツゴツした岩壁に背中を預けて眠っていたりしていたから、即落ちコースだ。


 枕も通り抜けていた騒音が、眠気によって気にならなくなってくる……。






 ゴットンッ、ガタン、ガタンッ……


 どのくらい眠っていたんだろう……?

 意識が戻ってくると、隣に和穂がいてボクの腕を枕にして寝息を立てている事に気がつく。


 いやぁ、荷車である事をすっかり忘れてしまうくらい爆睡していたよ。


 そっと腕を引き抜こうとすると、ガバッと和穂はボクに抱きついて来る。


「や……」

「ん〜……和穂は甘えん坊さんだ……ねっ」


 いつもやられっぱなしなのも何なので、仕返しにギュッと抱き付き返す。


「んぁ……ふぅ……」

 和穂はボクの耳元で色っぽい声をあげる。その声にぞわぞわっと鳥肌が立つ。


 ボクはポンポンと和穂の頭を軽くたたく。

「和穂、ちょっと夜風に当たって来るよ〜」


「ン〜……」

 和穂は布団に潜り込む。

 ボクは手探りで、御者台に続く扉をゆっくり開けると、車内に冷たい風が入ってくる。


「わっ、さっむぅ……」

 息が白くなる程の寒さでは無いはずだが、布団の暖かさで、思っていた以上に寒く感じる。


 相変わらず真っ暗な道を進んでいるが、和穂が車内に入る時に、速度を落とす様に指示したのか、ボクが眠りにつく前よりゆっくりになっている様に感じる。


 それにしても、この安定感は凄い……。


 急ぐ旅でもないしな……手綱に右手をかけ声をかける「ありがとうね、もう少しゆっくりで良いよ」すると、1段階ペースが落ちる。


 夜明けまで、まだ時間はかかりそうだな。  

 

 深夜に停車して静寂に包まれたサービスエリアの雰囲気だったり、朝焼けの流れる景色を見るの好きだったな……。


 車内に戻り、布団に潜る。

 ボクが帰って来たと分かった和穂は、またボクに抱きついて来る……が、風に当たって冷え切った、ボクの身体に触れて身震いさせる。


「和穂、もうちょっとしたら朝ご飯にしよ」

「ん……」

 ボクの呟きに和穂は返事して、冷えた身体を離すことなく、温めてくれる。ボクはその温もりを受け、2度寝に落ちて行く……。



「んぅ〜、おあょう」

 ボクは布団の上に座り込んだ状態で目をこすりながら和穂に挨拶をする。


 和穂も向かい合った状態で、目を閉じたまま「んぅ……」と言い、ボクの膝の上に崩れて来る。


 そのまま、2人とも動きが止まり、少し時間が流れる。


 もの凄く快適な寝心地だった……。

 お風呂場に横付けして、住みたいと思える快適さだ。


 いつの間にか、和穂は寝巻きに着替えていた様で、巫女服へと着替える。


 その間ボクは布団をたたみ、端へと寄せる。

 たたんだ布団を椅子の代わりに座って朝ごはんにしても良かったけど、どうせなら……。


 御者台へと和穂と移り、森の独特の香りを楽しむ、空も白み出して来る。


「んー、風が気持ち良いっ」

 ボクが大きく伸びをしていると、和穂は昨夜ボクが作ったサンドウィッチを食べている。

 ボクはミルフィさんのシチューを小鍋から器に移してパンを浸しながら食べる。


「うー、あったまるー」

 風が冷たいので、より温かいシチューの染み渡る感じがよく分かる。

 もうひと口と、匙を沈めたところで、和穂がジッとコチラに視線を向けているのが、分かる。尻尾をフリフリとしながら……。


「はい、和穂」

 口に匙を運んでやると、目を細めて口をモグモグさせる。


 すると、和穂は両手で大事に持っていたサンドウィッチをボクの方へと差し出す。


 ボクは顔を寄せ、ひと口かじりつく。

 焼きたてのタイミングで収納された、照り焼きチキンはまだ、熱をしっかり保っていた。


「ありがとう」

 和穂はコクコクと頷き、再びサンドウィッチにかじりつく。

 

「ねぇ和穂、今回ミツルをいっぱい買ってこようと思うんだけどどう思う?」

 和穂は突然のボクの発言に、いったん咀嚼をとめたが、目をキラキラさせ、尻尾をブンブン振り、ボクを見つめる。


 実はコロモンからの帰り道で食べてから、どうにか、ミツルの美味しさを皆んなと分かち合いたく思っていたのだけど……お試しで買ってたので、数が少なく気軽に出せないでいた。


 作り置きのできる、焼きミツルであれば、ボク担当の宴の料理を作ることに支障はないだろうと思った。


「うん、和穂も賛成だね、良かったよ」



 すっかり道も確認できるくらい明るくなったところで、この前一泊した開けた場所が見えて来た。


「あっ!」

 馬車のホロが2台見えた。

 ボクは手綱を手にオオカミに「お疲れ様、一旦止まってもらえるかな」と伝える。

 流石に、この状況説明するの難しいからな……ボクはこの時間起きていそうなクラマに念話する。


『おはよう、クラマ起きているかな?』

『……アキラ殿、どうかなされましたか?』


 流石に突然の念話で応答に少し間が開いたけれど、さすがクラマというべきか起きてくれている。


『早い時間からごめんね、実はコロモンに着く前に、先行で出発していた衛兵達の馬車が目に入ったので合流しようと思うのだけど……

 ボクの現状況をうまく説明できなそうで、良ければ通訳お願いしたいんだ……』


『拙者で良ければ、かまいません』


『ありがとう、車止めたら呼び出すね』


『承知しました』


 多分狐鈴は起きないだろうし、ウメちゃんは慣れない晩餐会で疲れているだろうし、ルークは寝ていたらかわいそうだしね。


 再び荷車を動かし、ちょうどボク達が馬車の少し手前に到着する頃には、衛兵達もキャンプを撤収しているタイミングだったようで、突然の大きなオオカミの接近する状況に警戒していた。


『おはようございまーす』

 ボクは大きな声を出して手を振りながらアピールする。

 武器を構えていた衛兵達は構えを解き胸を撫で下ろす。


 ボクは御者台から降りてオオカミの前に回り込み「ありがとうね」といいながら、首元にギュッと抱きつく。


『何ですか、それは……』

 1人の衛兵が顔をひきつらせ、こちらにやってくる。


『ちょっと待ってね』

 衛兵を手で制し、「クラマおいでませ」とクラマを呼び寄せる。


「本当に朝早くからごめんね」

 呼び寄せたクラマに謝罪する。


「いえいえ、アキラ殿の力になれるならば、光栄な事です」

 クラマを左の手首に乗せて、改めて皆んなに挨拶する。すると、荷車の1台からルーフェニアさんと、パーレンさんも出て来る。


『うわぁー何これー?』

 ルーフェニアさんはオオカミの正面に回る。

『レウルとは違うんだねー』

 オオカミを見上げてパーレンさんは冷静に言う。



 ボク達は出発を前に、今回のスタンピードが鎮火したこと、原因だったダンジョンマスターのカーバンクルはボクの保護下になった事、そして今乗って来た荷車とオオカミはウメちゃんによる創造物である事を伝える。


 ボクがこちらでクラマを通して説明している間、和穂はオオカミにまたがり、頭を撫でてやっている。


 詳しい事は冒険者ギルドで伝えると話し、改めてコロモンへ向かうことになった。

 ルーフェニアさんと、パーレンさんはボク達の荷車へと移り3台揃って進む。

 ペースは馬に無理をさせないようにこちらが速度を落とす。


 こちらの快適な荷車と、無人操縦でも大丈夫なオオカミに驚く2人。


 今朝は簡単な朝食だったとの事だったので、和穂が照り焼きサンドと、デザートに焼きミツルを2人に渡す。

 ルーフェニアさんはサンドウィッチに、パーレンさんは焼きミツルに驚きを見せながら、喜んで食べてくれた。


 ここまで幸せそうな表情を見せてくれるなら、作った甲斐もあるというもの。

 和穂も食べていたので、ボクもクラマと半分こにして食べた。



 コロモンの街塀が見えて来たところで、狐鈴とウメちゃんを呼び寄せる。

 ウメちゃんにキラキラさせた視線を送るルーフェニアさん。へぇーっと、マジマジと見つめるパーレンさん。

 ボクと和穂は御者台に座り、狐鈴とウメちゃんが荷車に入る。


 キャッキャと声が後ろから聞こえる。



 商業都市コロモン、外部から様々な種族が街を出入りしていて、荷車も馬ではないモノがひいている光景も目に入る。


 しかしながら、魔石のツノを生やした白くて大きなオオカミが引いている荷車など、他にない。

 嫌でも注目を集める状態だが、そんな状態もだいぶ慣れてきた。


 衛兵達と一緒だったので、特別な街への入り口へと案内された。

 罪人達は、罪をしっかりと償うことを、パーレンさんに誓うと言葉をかけ、連行されていく。


 ボク達の荷車は一旦預かってもらう事にした。

 

 本来商業都市なので、手綱を手に引き、荷車から降りた状態であれば、商品の持ち運びの為、荷車を引いたまま街に入れる事ができる。

 ただ、前回のダジャルの様な貴重な動物や、周りから浮いてしまう様な荷引きを使用している場合に限り、衛兵の詰所に預ける事ができる。


 ボク達が街に入る為の手続きをしている間に、ルーフェニアさんは事の流れを報告しに冒険者ギルドへ向かっていた。


 ボク達が街へと踏み込むと、あっという間に人に囲まれてしまった。な、何で??

 隣にいたパーレンさんも、目を白黒させていたが、『お前ら邪魔だ、道を開けろっ!!』怒鳴り声が聞こえると、人垣が数歩下がり道ができる。

お帰りなさいませお疲れ様でした。

 切りどころを見失ってしまい長い話になってしまいましたので、少々無理矢理切らせてもらいました。

次の話は読み返しが済み次第、あげたいとので、早めにあげられたらと思っています。


それでは、また次のお話でお会いしましょう。

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