第68話 ダンジョンを駆けるモノ。
「アキラはどうやら、和穂と共に別の空間に運ばれてしまった様じゃ。まぁ、アキラは何かあれば、誰か呼び寄せることができるから心配はないがの。
レウルよ、この2層以外に飛ばされるとしたらどこになるのじゃ?」
アキラの報せを受けて、狐鈴はもう一度戻って試してみたが、アキラ達の行った先には繋がっておらず、こちらへ戻されてしまった。
「私もここ以外に通されたことがないので、全部でいくつ転移する入り口があるのかまでは分からない。
まさか、たて続けに同じ所を通って、個人だけが分断されることがあるなんて……
4層の最深部に辿り着いたとしても、フロアマスターとの戦闘の後、ダンジョンの創造主と会う事なく、外へと帰還する扉が現れたと聞いたことがある。
……ひょっとしたら、こんな事になるくらいだから、誰も会ったことがない、ダンジョンの創造主に呼ばれたのかもしれないな」
「このダンジョンの創造主?」
「そう。ダンジョンの中枢、核というべきかな、このダンジョンの魔物の核が魔石であるように、ダンジョンそのものにも維持するための魔石であったり、ダンジョンを構築する者、魔王なのか、神なのか、あるいは精霊なのか……ダンジョンマスターというものが存在し、管理していると聞く。
その者の力であればこの様な事も容易いのではないか」
レウルは初めての出来事に対して、驚きを覚えながらも、想像を言葉にして教えてくれる。
「ワチ等はこのまま進行するべきなのだろうか……レウルの話を聞くと、このまま攻略したところで、誰も会ったことのないというダンジョンマスターに会うことが出来るとは思えぬのじゃが……」
「俺は好奇心として、先に進みたいところだが、今の話を聞くと、このまま、この中にいると、俺達を人質として、あの娘達に何かの交渉がされる可能性も考えられるな」
今まで黙ってワチ等の話を聞いていた、ハクフウが話に入ってくる。
「ほむ、なら皆は引き返してシルへと報告してくれ、ワチは少し相手に踊らされているフリを続けてみようと思う、いざとなればアキラに呼び寄せて貰えば、囚われることもないからの」
「なら、ギリギリまで俺たちも暴れてみるか、狐鈴さんあなたが先に進むなら、俺たちは戻りながら1層の魔物を片付けて行こう」
ハクフウは笑いながら言う。
「狐鈴、無理はしないで」
チャコも、眉をハの字にして狐鈴を見つめる。
「チャコよ案ずるな、ワチが死ぬ様な事はないぞ。そんな顔をするんじゃない。晩御飯の時間にでもなれば、ワチもアキラも揃って戻っているはずじゃ、ソナタ達も無理はせぬようにな」
狐鈴はチャコに笑いかけ、肩にポンと手を乗せ言う。チャコは「そうだね」と言いながら不安と緊張に強張らせていた表情を緩める。
狐鈴はいったん皆と共に1層のホールへと戻った後、先に進むべく、もう1度光る壁を通ってみる。
やはり運ばれた先は、アキラの言っていた様な場所ではなく、先程までいた、岩肌剥き出しのゴツゴツとした通路だった。
『アキラよ、何度か光る壁を通ってみたが、ワチはそちらに運ばれなかった。
おそらく、このダンジョンの主はそなたに逢いたいようじゃ、他の者は撤退させて、ワチは撹乱の為この場に残っておる、何かあったらワチを呼び寄せておくれ』
『うん、分かった。お互い無理しないように進めよう』
念話で、アキラにこちらの状況を伝え、先に進む。
少し進むと広い空間があり、時々遭遇していたコボルドが、数十匹集まっている様だ。
狐鈴は狐火を召喚する。金の狐火、そして和穂も多用している紫色の狐火をそれぞれ3体ずつ。
「ワンコロども、参るぞっ!!」
狐火達をコボルドの群れに撃ち込み、狐鈴は刀を振いながら、ホールの中央の岩に向かって駆け出す。左後方の構えより、大振りに横薙ぎした刀は一振りで5匹ほど斬り崩す。
狐火達も周囲を焼き、すぐに狐鈴を囲う様に戻ってくる。
狐鈴は刀に紫の炎を纏わせ、炎の斬撃を飛ばしながら斬りつける。放たれた高温の炎は触れるだけで相手を焼き尽くしていく。
炎の斬撃は、狐鈴を中心に範囲を広げていくが、それでも中々終わりが見えない。
「次から次と……」
狐鈴は中央の岩に到達し、刀を振いながら、簡易結界を展開する。
「やれやれ、この数を相手に1人、武器を振り回すのは効率も悪いし、キリがない。正直キツイのぅ……」
ひとつため息をつき、誰に言うでも無くつぶやく。
「いつまでもこの場に止まっているわけにもならぬ、悪いが直ぐに終わらせて、先に行かせてもらうぞ……」
先程狐鈴が展開した結界を中心に目が眩むような光が爆発する。
その光の中心に7本の尾を揺らす大きな金毛の狐が現れた。
金狐は2色の炎を纏い、尾裂狐を従え、ダンジョン内を駆け回る。
遭遇する魔物はことごとく焼き払われ、殲滅されていく。
それぞれのフロアの最深部に配置されているフロアマスターである、2層のオークキングも、3層のガーゴイル2体も金狐達の進行を足止めすらできず、魔石へと返されていた。
その圧倒的な力を撒き散らす姿を確認した者は、その直後、散らされていたため、唯一の目撃者はダンジョンの眼、すなわちダンジョンマスターを除いて存在しなかった。
2度の転移を行い、4層に到達すると、足下はアキラの言っていた、タイルの様なブロックの様な石が敷き詰められた床に変わっていた。
しかし、アキラ達との合流は一向に出来ず、ついに最深部と思われるホールの手前で7尾の金狐は足を止める。
そして、金狐は纏っていた炎を離散させた後、一糸纏わない金髪の少女の姿を現す。
「やっぱり武器を振るうではなく、姿を戻した方が楽じゃの。
あの広大な金の草原も駆け回ったら、さぞかし快感じゃろうな……」
「狐鈴様、本来の姿で駆け回ってしまったら、周りの者達にも影響を与えてしまいますぞ」
狐鈴の足元にいる尾裂狐が狐鈴に注意する。
「ルイはうるさいのぅ、分かっとるわ、言うだけなら自由じゃろ」
巫女服を着込みながら狐鈴は文句で返す。
「さあて、ここは何やら楽しそうな感じが、プンプンするのう、ルイは戻ると良いぞ」
狐鈴は尾裂狐に言う。
「また呼んで貰えますか?」
「気が向いたらの」
狐鈴は目を細め、微笑みながら言う。
「おお、そうじゃそうじゃ、言うのを忘れておったのじゃ。実はの、ここは日本では無いのじゃ、それではまたの」
「な、なんですと!? 狐鈴さ……ま……」
狐鈴は驚かせるだけ、驚かせ、ルイと呼ばれた尾裂狐の言葉を聞く間も無く解放する。
巫女服に戻った狐鈴は、蛇の目傘を手に、上機嫌に最深部であるホールへと向かう。
ホールは石で作られた大きな部屋で、中央には大きな紫色の水晶の様な石が嵌められている台座があった。
水晶を覗き込むと逆さの向きに自分の姿が映る。
「ほむ、ワチじゃの……」
しかし、狐鈴の視線は既に水晶の中ではなく、水晶を挟んで反対側、そこにある自分の姿にいっていた。
「うーむ、困ったのぅ、自分自身と闘うことができるのならば、凄く楽しみではあるのじゃが……、じゃがすまないのぅ、ワチの真似は禁忌なのじゃよ」
水晶は手も触れる事なくヒビが入り割れる。すると目の前にいた狐鈴は煙の様に消えてしまった。
楽しみを失ってしまい、アキラからもお呼びがかからないので、狐鈴は来た道を魔石を拾いながら戻る。
あまりに短い時間で攻略したとなると、色々と面倒な事になりそうなので、適当に時間をやり過ごそうと考えた。
「うぅ、腰がいたいのぅ……」
腰をトントンと叩いたり、さすりながら、4層の魔石の回収をしていたが、途中で手が止まる。
魔物も狩り切ってしまい、ただ静寂なダンジョンをひとり黙々と魔石を拾う作業……。
「もうもうもう、ワチ1人じゃ無理じゃーっ!!
もーう、嫌じゃ! さっさと解決させて、外の皆と一緒に拾う!! それで良いじゃろう!!」
狐鈴は癇癪を起こし、早々に魔石拾いを諦め、手頃な石段に腰掛ける。
朝アキラに渡されたホットケーキを取り出し、かじりつき気持ちを落ち着かせる。
「うぅ……味気ないのぅ、いや美味しいのじゃが、ひとりで食べるのは……」
ひとりで喋っているこの時間が狐鈴にとって酷だった。
「アキラ、そなたは今何をしているのじゃ? ワチはまるで罰を受けている童のようじゃ……」
狐鈴は手元に残るホットケーキのカケラを口に放り込み、再び、ダンジョンの最深部に向けて足を進める。
ーーーーーー
ハクフウ、チャコ、レウルは1層の分岐、足を運んでいない方へと進む。
「本当にひとりにして良かったのかな……」
チャコが呟く様に言う。
ハクフウは突然現れたレッドオークをひと突きし、床に落ちた魔石を拾い振り返る。
「俺たちがいると、かえって邪魔になってしまう……
そんな底知れない強さをあの狐鈴さんは持っているんだ、だから彼女の言葉を信じよう」
チャコの実年齢を知らないハクフウは、子供を安心させるように、手で頭をポンポンとする。
「それに、狐鈴さんは離れたアキラさんと会話もできる様なので、うまく連携をとっているだろう」
レウルはチャコに言う。チャコはため息を吐きながら小さく頷く。
そして3人はダンジョンより外に出る。ダンジョン内は時間の経過がまるでわからない。3時間の様にも、5時間の様にも感じられる。
外ではシル達が、昨夜と今朝行なわれた戦闘でばら撒かれた魔石をあつめていた。量が量なので雑に扱われているが、そんな気持ちもわからないでも無い。
「シル、ただいま」
「おお、チャコお帰り、思ったより早かったじゃ無いか」
腰をさすりながら、シルは顔をあげ、帰還を喜ぶ。
レウルが、シルへと現状の報告をする。1層の討伐完了と、アキラ達の事、そしてダンジョンに残った狐鈴の事。
「シル=ローズさんでも、ダンジョンマスターの事は知らないのですか?」
ハクフウはシルへとたずねる。
「あたしは知らないねぇ、そんなに博識じゃあないんだよ。そもそも、ダンジョンマスターは誰よりも引き篭もりだから……ダンジョンそのものが、そいつの世界でもあるわけさ。
ひどいダンジョンなんて行ったら100層まである所も存在するらしいよ。人生をかけて攻略を目指す強者もいるらしいけど、そんな変人の気持ちなんてあたしは知ろうとも思わないねぇ。
まぁ、ダンジョンマスターにも色んな奴はいるだろうけど、そんな存在にお呼ばれされるなんて、アキラは本当に規格外な人間だねぇ」
腕組みをして、苦笑いをしながら話をするシル。
「まぁ、何にしても、ダンジョンマスターとのやり取り次第で、このスタンピードは幕引きとなるだろうね。
これだけ魔石があれば、オンダ達への宴も相当立派なものができるだろうよ」
ふふんと、喜びの表情を向けるシルにチャコは言う。
「たぶん狐鈴はダンジョン内の魔石を、面倒とか言って拾っていないと思う……」
そして、チャコの言葉に固まるシル……
この日、拠点にてシルとチャコによって大量のホウキが作られるのであった……。
お帰りなさいませ、お疲れ様でした。
今回は誰かの視点ではなく……あえて視点とすればダンジョンの視点になるのでしょうか。
物語りの中で狐鈴の口うるさい式神と、適当にあしらう狐鈴の関係とか入れてみたいと思ったので、楽しく書けました。
スゥ、ルイも度々出していけたら良いなと思います。
それではまた、次のお話でお会いできたら嬉しいです♪
いつも、誤字報告ありがとうございます。




