第64話 ボク、ダンジョン前でまったりする。
狐鈴はずっと癒やして欲しいと、ぶぅぶぅ言っていたけど、和穂から軽食を出してもらうと、大人しく食していた。
「和穂はもう大丈夫?」
和穂は狐鈴に食事を出した後、またボクに抱きついてくる。
「……まだ……」
ボクの通訳の為にこうなってしまったのだから、ボクは拒むことはできないな……。
狐鈴の他にも、お腹を空かせた人は居ないか、声をかけてまわる。
怪我人もいなく、食欲のある人は軽食を受け取る。
身軽に移動のできるルークとクラマは近隣の状況の偵察に行っている様で、この場にはいなかった。
シルはハクフウさん、リュートさんのオーガ2人と話をしていた。
こちらに気がつき、手招きをする。
ボクは狐面を外し、眼鏡に変え、シルに呼ばれるまま、近くへ行く。
「アキラ、待っていたよ……」
「鎮火……したわけではなさそうだね」
「あぁ、殆ど狐鈴と和穂が処理してくれていたわけなんだけど、今回あたし達が相手にしたモンスターは思った以上に多くてね、少し長引きそうなんだよ……わざわざ来てもらって悪いねぇ」
「シルだって料理できるのに……」
「ふ……、あたしの料理は、人様の口に届ける様な物じゃないからね、だからと言って、アキラ以外の誰かを、こんな危険なところに呼ぶわけにはならないしね……」
「冗談だよ、ボクにはできることしか手伝えないから、指示を出して」
ここしばらく、シルはまともに休む事もできていない。元気に振る舞っている様だけれど、疲労が隠しきれていない。
ダンジョンの入り口には狐鈴による結界が施されているらしく、中からモンスターが出てくる事はそう無さそうだ。
休める時休んで、明日探索組が入るそうなのだが……。
「ねぇシル、一般人のボクが、なぜダンジョン探索組みなのさ?」
「えー? 言ったろ、可愛いアキラには旅をさせてやらないとねーって」
シルは笑っている。シルは大事な部分はボクには言わない。後からヤックさんが教えてくれ、和穂がそっと念話で訳してくれた。
『外にいる方が、いつどこからモンスターが襲ってくるか分からないから、それなら狐鈴や和穂が近くにいる方が安全だろうって……』
この世界に来てしまったからには、今回の様に直接命に関わる事だって避けては通れない事もあるはずだ。
ボクも、守られているばかりじゃダメだ、
自分の身は自分で護れるくらいにならないと……。
万が一、元の世界に帰れなかったとしても、生きていけるように……分かっている、分かっているんだけど。
ボクの感情に反応するかの様に、頭に額をくっつけて和穂が話しかけてくれる。
『……大丈夫、私がアキラを護るから……』
『ありがとう、じゃあボクが和穂の胃袋を護らないとだね』
「そろそろ、どこかで腰を落ち着けようか」
和穂に声をかけると返事の代わりにボクの首に回した腕をキュッとする。
岩壁を背に地面に座り込むと、ボクの肩に和穂が身を寄せる。
「足貸そうか?」
ボクが足を伸ばし、太腿をポンポンと叩くと、和穂はそのままゴロンと頭を乗せる。ボクは和穂の頭を撫でてやると、ゆっくり尻尾がパタ、パタと動く。
あぁ、そうか……狐鈴には、こういうことしてあげていないな……。ただ和穂が甘え上手なのかもしれないけど、狐鈴にも優しくしてあげないとな。
クラマはきっと大事無いと、構わせてくれないだろうけどね。
狐鈴はこんな時にも、積極的に交流するべく、あっちに行ったり、こっちに来たりと忙しなく歩き回っている。
和穂はボクの方に顔を向けたまま寝息を立てていたので、ちょうど立ち上がった狐鈴に声をかける。
「狐鈴、こっちおいでっ」
ボクの呼ぶ声に気がついた狐鈴は、テケテケ小走りにこちらへと来る。
「なんじゃ、和穂は眠ったのかや?」
そう言うと、ボクの隣りに座り込む。ボクは狐鈴の肩に手をまわし、ぐいっと引き寄せる。
すると何の抵抗もなくボクの肩に狐鈴の頭が寄っ掛かってくる。
狐鈴の体は少女そのものだから、全然重さを感じない。この小さな身体にボク達は助けられているんだなぁ……。しみじみと思う。
「狐鈴、今日もお疲れさま」
休んでいるものもいる為、狐鈴の頭を撫でながら、話しかける程の声量で労う。
「……ん、何だか照れ臭いのう」
「こういうのは嫌?」
ボクの問いかけに、無言で首を横に振り、そのままボクの肩に、グリグリと頭を押し付ける。
ボクはふふっと笑い、頭を撫で続ける。
「いつも、ありがとうね」
「……ん?」
小さく呟いたボクの言葉に狐鈴が反応する。
「ん〜ん、何でも無いよ」
ボクの職業、【精霊使い】……この未知の職業は、どんな事ができるのだろう。
狐鈴や、和穂、クラマやルークの影響もあって、ボクのランクが高いのだろうから、皆を支援できる、そんな能力があると嬉しいな……。
狐鈴の石鹸の匂いを感じながら、頭を撫でる。石鹸の匂いって何かいいよね、落ち着く……そして狐鈴を癒やしていたはずが、気がつけばボクが眠っていた……。
「んぅ……か、身体が痛ーい」
身体がバッキバキだ……。大きく腕を上に伸ばす。
「ん……おはよう、アキラも起きたか……」
どうやら、身を寄せていた狐鈴も眠っていた様だ。いつもと違って、狐鈴の寝起きの良さが、眠りの浅さを物語っている様な気がした。
ただ、ボクをクッションにしていたことで、ボクの様に身体に痛みが伴う事も無かった様だ。それは、何よりです。
「さて……と、和穂そろそろ起きて」
特等席でぐっすり眠っていた和穂の背中をポンポンとする。和穂はのそのそっと体を起こし、正座の状態でコシコシと眼を擦る。
「おはよ」
ボクの声に、和穂は耳をピクリと動かし、抱き着こうとする。そんな飛びついてきた和穂の顔に狐鈴が手を伸ばし、『ベシャッ』と突っ込む。
「キュゥゥ……」
どこから出た声? 顔を抑えている和穂に、声をかける。
「えと、ゴメン和穂、朝ご飯の準備をしたいのだけど……」
和穂が空間から取り出した寸胴鍋を受け取り、一晩焚かれ続けられていたカマドにのせ、寄ってくる人に配給する。
途中早起きのチャコにカマドを任せて、ボクは和穂から材料を受け取りながら、ホットケーキのタネを作る。
クラマとルークは帰ってきてはいた様で、ボク達が起きた事を確認して、すぐに寄ってきてくれる。
「おはよう、見回りお疲れ様、ホットケーキも焼くけど、どっちがいいかな?」
「拙者は汁物をいただこう」
クラマはチャコにすいとん汁をよそってもらい、喜んで食べてくれる。
やっぱりクラマは和食が好きなんだよね。今度芋が手に入ったら、煮物でも作ってあげようかね。
ボクは持ち運び用の魔石コンロをショルダーバッグから取り出し、和穂にフライパンを出してもらい、ホットケーキを焼く。
ルークは焼きたてのホットケーキを和穂と半分こして食べている。
皆のお腹が満たされる頃にはすいとん汁は綺麗に無くなっていた。
ホットケーキはタネが残っている分全部を焼き、余った分は狐鈴と和穂に預けておく。
これからダンジョンに潜るから、いつでも食べられる物を用意しておこうと思ったのだ。
さぁ、食料は用意したよ、ダンジョン攻略にいざ行かん!!
お帰りなさいませ、お疲れ様です。
いよいよ、アキラの考え方が冒険者らしくなってきました。
次回ダンジョン進行になります。
それではまた次の物語でお会いしましょう。
誤字報告して下さりありがとうございます。




