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第62話 俺達のモンスター討伐(ヤック視点)


 アキラと、和穂が同じ席で飯を食っていた時は、衝動に駆られたと、突然アキラが和穂の首を舐めたり、和穂が自ら襟元をはだけさせたりと、正直目のやり場に困った。つーか、何ちゅう事してんだって話だ。


 アキラは好感を持てる娘だと、俺も母ちゃんも思っている…。


 激辛オイル製造だったり、突然訳の分からん行動をしたりする事もあるけど、あの娘は感情豊かなうえ、感情を全力でぶつけて来るんだよな。

 他人に代わって怒れたり、人でなくても自分のためにした者への感謝だったりな…。

 

 和穂は無口で何を考えているのか、俺には全くもって理解できねぇ、ただ分かるのは、アキラに対しては必要以上に、好意を持っていることだけは分かる。

 アキラが料理を作ったって聞けば、尻尾を振って飛んでくるし、アキラが食っている物には興味を示す。


 オンダの家での戦闘では一瞬で返り討ちにしていたとメイルが言っていた。あのオンダの命を奪う様な、ならず者相手なのに一瞬って…マジかよって思った…。



 シルが、俺の席に土産だと、酒を持ってきたんで、労いの言葉をかけてやると、「驚き疲れた…しばらく、ちょっとや、そっとの事じゃ驚きもしない」なんて言ってやがったな。


 まぁ、俺も話を聞いて耳を疑ったがな…。


 ここ数十年は現れていないなんて言われているSランクに、狐鈴と和穂揃って、初登録で【天職の鏡】へと表示された(しかも、レベルマックスなんて聞いた事もない)そうだ。


 アキラは聞いたことも殆どない職業で、二職持ちだったと。


 狐鈴と和穂による、衛兵団大隊長と冒険者ギルドのギルマスを相手に、寄せ付けもしない手合わせ。


 そして、たったひと晩での男爵家の陥落。


 あまりにも信じられねえ事ばかり言っていたけど、シルの話を聞けば例の返り討ちにしたって事も、妙にシックリくるんだよな。


 本当、この森はどうなっちまうんだ…。

 シル=ローズ…もと宮廷魔術師にして、世界唯一のエレメンタルウィザード、そして前代未聞のSクラスレベルカンストの2人…か。

 国レベルの軍事戦力に対抗できる集落なんて無いよな…。


 俺がそんな普通ならありえない事を考えていると、血相を変えたアキラがシルを呼ぶ。シルは呼びかけに応えてそちらへと駆けていく。そんな事態に周りも騒めく。

 

 しばらくすると、シルがコチラに向かって、森の廃ダンジョンでスタンピードが発生したと報告してきた。



 モンスターのスタンピードは、あらゆる生き物にとって脅威でしかない。

 村が通り道にあったがために、壊滅し、草木一本残らない荒地になったなんて話も聞いた事ある。

 

 現に、チャコちゃんの盗賊に襲われたという荒野も、かつてはスタンピードがもたらした災害の末路だと聞いた事もある。  


 スタンピードが怖くないって言ったら嘘になる。

 俺だって冒険者として、暴れ回っていた時期もあったから、強いモンスターとの対峙した際の恐怖心も叩き付けられている。


 ただ、今この場にはシルがいて、強い仲間がいることで、取り乱すほどの恐怖心に支配される事もない。

 かと言って慢心した気持ちでいれるわけでもないがな…。



 俺は相棒のナックルダスターを震える指先でなぞり、出発の時を待っている。すると母ちゃんが、背中に力いっぱい平手打ちをしてくる。


「なぁに、子犬みたいな顔してるんだい、強いモンスターは強い人に任せて、あんたは雑魚でも、数で鬱陶しいモンスターを片付けていけばいいんだよ」


 ホント母ちゃんには、俺の心境なんて丸分かりなんだよな。母ちゃんの笑う顔で心配が吹っ飛んでいく。


「あぁ、今回は皆スゲェ奴しかいねぇから、見物を決め込むくらい余裕があるだろうな」


 指先の震えは止まっていた。


「皆んなの足を引っ張るんじゃないよ!」

 そう言って母ちゃんはカマドへと戻って行った。



「それじゃ、向かおうか」

 シルが声を発し、狐鈴の先導で森の中へと入って行く。

 和穂は何度も広場を振り返り、手を振るアキラに視線を送っていた。



「どうせ使っていない場所なんだから、シル=ローズが特大な魔法を叩き込んじまえばすむことだろ」

 ヘレント爺さんがシルに、面倒くさそうに話しかけている。


「いや…そんな単純な事じゃないさ、今後同じ様にスタンピードが起きた時、鎮火するための場所が特定できなくなるのは、マズいんだよ」

 シルは苦笑いしながらヘレント爺さんに言う。


 先頭は狐鈴が行く。ダンダルっていう事態を報せに来てくれた、冒険者の幽霊が先導してくれているらしい。

 夜目が効く獣人や精霊が辺りに注意を向け、シルとヘレント爺さんを誘導する。光で辺りを照らすなんて事したら、この足場の悪いところで、あっという間に、囲まれちまうから、暗闇の中を移動する。

 木々が開けたところで、いったん足を止め、息を整える。


「ところで、ダンジョ…ン?とは何じゃ?」

 狐鈴が、今更だがそんな質問を投げかけてくる。


「ダンジョンは古代の者が何かを隠す、或いは保管するために、簡単には盗まれない様に、中を入り組んだ洞窟や建物にしたのが始まりですな。


 また、アキラ殿の呼び寄せの魔法のように、ある日突然そういったダンジョンそのものが、何もないところに現れることもありますな。

 そういった突然現れるタイプのダンジョンは、転移してきたもの、隠蔽していた魔術が効果を失ったもの、と言われ、失われた技術などを求め、博識のあるものが調査に入ったり、盗賊達が宝を求めたり、人が集まってくるのです。


 大抵のダンジョンは防衛の為に、モンスターが巣食っていたり、中に入るものを惑わしたりする場所が多い様ですな。


 ダンジョンには意思があるとも言われ、自己防衛の為に、ゴーレムや門番を配置して、侵入者を排除したり、今回の様に魔力や魔素を排出し、モンスターを生み出すことも多く、普段森の中で出くわす事もない様な生き物が、いっぱいいる場所のようですな。


 冒険者が旅をするだけではなく、こういったダンジョンを探索して、モンスターを倒して魔石を集めたり、経験を積んで己を鍛える…そんな場所ですな…。

 今回向かっているダンジョンは、爺の記憶があっている様であれば、過去に冒険者が探索して、地下4層に及ぶ迷宮が見つけられたハズですぞ」

 ロディが答えている。



「お、何か来た様だぜ?」

 俺の前にいた、オーガのハクフウが矛に手を掛け、前方の上空を見つめニヤリと笑う。


 鳥の群れ?いや、コウモリ?いや…飛び方も姿も、パッと見た目はコウモリだが、普通のコウモリの何倍も大きく、顔の中心には大きなひとつの目ん玉がギョロリと開きコチラに向かって飛んでくる。

 問題はその数…木々の開けた空にカーテンを被せるように100や200じゃ済まないだろう…かなりの数が星空を隠して行く。


「これだけ広ければ火事の心配もないだろっ」

ヘレント爺さんが空に向かって、火球を次々と放つ。


「案ずるな、もし燃えるような場所がある様なら、ワチが雨を降らせて、鎮火してやろう」

 狐鈴が自分の刀を変な形の鞘から引き抜きながらヘレント爺さんに言う。

 ヘレント爺さんは「そりゃいい、気にせず暴れられるな」と笑いながら魔法の詠唱をすぐに再開する。


 おいおい、さすがに天候を操るなんて神様みたいな真似できる訳ないだろう。

 時々狐鈴は大きな事を言うのは、周りを安心させるためなのか、俺でも分かるような無茶苦茶な事を言う。


 シルは風魔法で次々とコウモリの様な奴らを落下させる。クラマって言ったけな、白い鳥も風魔法を使い迎撃する。


 こいつは射程圏外の前衛職には近づくまで手が出せないな…。


 なんて思っていたら、狐鈴が想像外の攻撃をしていた。


 いつの間にか、火の玉を自分の周りに浮き上がらせていて、刀の刃渡りを燃やしたかと思うと、「そりゃっ」っと、刀を振り抜き、次々と炎の鞭をコウモリの様なモンスター目掛けて飛ばしている。


「な、何だそりゃっ!?」

 俺は思わず声に出して驚いた、目の前にいたハクフウもポカーンとしていた。


 コウモリの様なモンスターはコチラに近付くこともできずに撃ち落とされていく。



 すると、今度は後方にいた和穂が金色に瞳を光らせ、「…来る…」と呟く。

自分達の先に広がる暗闇に幾つもの光る目が見える。

 コチラからは色までは確認できないが、恐らくウルフとオーク辺りの集団だろう…


「取り逃がしと後方を頼む」

 ハクフウが叫び、リュートとオーガ2人が前方へと駆け出す。

 紫色の火の玉を浮かべた和穂は両手に刃を握る。そして先ほどまで炎を飛ばしていた狐鈴が戻ってくる。


「やはり、下も前方から集まってくるのう」

 狐鈴が息も乱さず、しれっと話す。


「あのワンコロ達なら、鬼に任せれば大丈夫じゃと思うが、後ろの奴らがきっと曲者じゃろう、和穂よ、あの者達の加勢は任せる、ワチはあの鬱陶しい羽虫を、先に一掃するからの」

 そんな言葉を交わしているのが聞こえてくる。和穂は頷き、オーガの2人を追う。


 指示を出した狐鈴は、収納空間より何やら布切れの様な、袋の様なものを引っ張り出して、服の上に着込んでいる。

 そしてしまった刀の代わりに、金属音のする長い棒を取り出す。


 狐鈴は聞き覚えのない言葉を呟きながら、金属音をシャンシャンと響かせながら、棒と腕を上下左右に素早く動かしている。まるで目の前の見えない相手と棒で戦っているかの様な動作だった。


 そして、信じられない光景が目の前で起きたんだ。


 狐鈴が大きな声で聞いた事もない言葉を叫びながら頭上に振り上げた棒を地面に向かって振り降ろした時…。


  バリバリバリバリッ!!ドガーーーンッ!!


 目も開けていられない閃光と思わず耳を塞いでしまう巨大な爆発音が響く。


「よしっ次じゃな…」

 こちらは視界すら戻らない状態なのに、狐鈴は次の行動に向かっていったようだ。


 呆然としていたのは俺だけじゃなかった、視界がどうにかこうにか戻ってきたので辺りを見回すと、今の光景を見ていた、殆どの者がその場で固まっていた。

 

「狐鈴って魔術師なのか?」


 俺の呟きにヘレント爺さんは返事をする。


「俺は雷を落とす魔法なんて聞いた事ないぞ」

 ヘレント爺さんはシルへと意見を求める様に視線を送る。


「いや…あたしに答えを求められても困るぞ。…雷なんて、あたしにも扱えない物なのは確かだ、それに狐鈴の職は巫女だ」

 驚いた表情は俺たちだけではなく、シルも同じだった。


 先程まで量に手こずっていた、コウモリの様なモンスター達が和穂に話していた通り、一掃されている事に気がつく。



「ギャキャンッ!」

「ギャン!」

「グルオォオォ!」


 ハクフウとリュートの戦闘は、矛先で突き刺しては横に薙ぎ、刺さったモンスターがいればそのまま他のモンスターにぶつけたり、矛を回しては柄の先端で突き倒す。

 豪快さや、勢いで数を減らしている。いや、それで悪くはないんだ、槍や矛でのしっかりと地に足を付けた戦い方をしている。


 俺なんかの獣人の肉体強化と、ナックルダスターを用いた戦い方に比べて、速度は落ちるにしても、彼等の一撃一撃の威力は凄いと思う。


 それに、ウルフの奥から目を光らせていたのは、オークではなく、2回りは巨体の、レッドオークだと思われるが、それを合わせて相手にしても引けを取らない、そんな戦い方だった。



 和穂の戦い方は、見ているだけでため息が出る…いや、気がついたら息を止めて魅入ってしまっている。

 とにかく、無駄が一切なく、まるで舞踊りを見せられている様にさえ思える。

 こんなに綺麗な戦闘を俺は見た事がない。

 

 刃が煌めいたかと思うと、バラバラになったレッドオークが足下に転がる。


 切れ味の良い刃なのか、腕が良いのか、それともその両方なのだろうか、恐らく斬られた方も気がついていないのではないか…。


 刃を横薙ぎさせれば首を飛ばしつつ、隣りのレッドオークを袈裟斬りにし、体を回せばその勢いでウルフを蹴り飛ばす。

 

 囲まれて同時に攻撃を仕掛けられたかと思えば、地面に身を屈め、紫色の炎柱を出現させ、カウンターを与える。

 レッドオークさえもウルフの様に思えるくらい、圧倒的な強さだった。


 いや、取り逃がしたら…なんて言っていたが全くもって、コチラに流れて来ない。


 狐鈴の戦い方は木々を足場にして、縦横無尽に移動して、斬りつける。しかも太刀筋が早すぎて、何回斬りつけたのか見ている側にも分からない。

 レッドオークの足元を斬りつければ、一緒にウルフの首が宙を舞う。

 斬りつけた刀を止めようと棍棒で身を守ろうとするレッドオークの棍棒ごと身体を縦にまっぷたつにする。

 狐鈴の一方的な攻撃が止められないのだ。


 世界最高峰の戦闘職はやっぱり規格外の強さなんだな…、そもそも巫女って戦闘職なのか?? 


 腕に覚えのある騎士や、アサシンなんかよりよっぽど、能力も技術もあると思える…あぁ、そうかシルはコロモンで手合わせを見たって言っていたか…。



 結局コチラへと流れて来た(狐鈴達を避け、まわり込む様にコチラにきた)モンスターは、レッドオーク10体程と、ウルフ20体程、ダンジョンが生み出したモンスターは屍を残さず、魔石を落とし塵になって消えていく。


「魔石は明日明るくなってから拾おう、このままダンジョンへと向かう」

 シルが皆に言う。


「のぉ、和穂よ、何か食べ物は持って来ておらんか?ワチは満足に食せていなかったので、切なくなってしまったのじゃ…」

 狐鈴がお腹をさすり、和穂に言う。和穂は空間からミツルと焦げたミツルを取り出す。


「それは大事なやつじゃの…」

 狐鈴は、和穂の手元を見ると肩を落とし、和穂も頷きしまう。


 大事?ミツルが??焦げたミツルが??俺は2人の言っている事がイマイチ理解できないでいた。


 再び和穂が空間に手を突っ込み(コチラから見ると突然空中に和穂の手が消えるので正直不気味だ)、葉っぱに包まれた物を取り出し、狐鈴へ渡す。


「おぉ、こ、これはアキラが昼に作っていた、ヌギルのサンドウィッチじゃな!」

 コクコクと頷く。包みを開けるとパン…に何か挟まったものが入っていた。


 狐鈴が、美味そうにそれにかじりつき、隣にいる和穂はそれを見つめ、お腹を鳴らす。

 狐鈴は、手元のパンを2つにちぎり、和穂へと渡し、和穂は幸せそうに噛み締める。なんだか微笑ましい光景を見せつけられた。


「あまり、この遣いが長くなる様であれば、皆も空腹になるであろう?アキラでも迎えに行くかの?」


 和穂もコクコクと頷く…するとシルが狐鈴に声をかける。


「アキラ迎えに行くなら、せめてキリの良いところまで行ってから、迎えに行ったほうが合流しやすいだろうよ。

 それにアキラには、明日の朝ごはんを任せちゃったから、残っている者に指示を出してもらってから連れてこないと、明日の朝食無しになっちまうよ」

 

 ほう、明日の朝食当番はアキラだったのか、アキラの料理は不思議な加工されたものが多いから、楽しみではあるな。


 前回の晩餐会で作っていた、焼きうどんにしろ、激辛オイルにしろ、キルトの家で何故か干されカラカラになっていた【アカウイダケ】にしても…きっと、何か意味があるのだろう…。


 とりあえず、一行はダンジョン入り口を目指して歩く。

 向かう最中、群れに追いつけなかった、はぐれのウルフやレッドオークもいたが、単体のため、難なく切り捨てる事ができた。


「なぁ、さっきの焦げたミツルって和穂達にとって何か特別なのか?何か大事とか言っていたみたいだけど」


 足を進めながら、隣を歩くシルへとたずねてみる。


 シルは俺の質問に対して、少し驚き、ニパッと笑い答える。


「ヤックが辛い物以外の食べ物に興味を示すなんて珍しいねぇ。

 そうだね、あれはどこにでも売っているミツルだよ。特別なもんじゃない。

 でも、アキラが新しい食べ方を発見しているから、あの子達にとって大事なんだと思うよ」


 へぇ〜、ミツルなんて皮剥いて、そのままかじりつく物だと思っていたけど、新しい食べ方か…母ちゃんも味見すると思うから感想を聞いてみるか…。


「いやぁ、アレを食べたら普通には食べられなくなると思うよ」


 う…シルは俺の心中を察したのか、続けて話す。そこまで言われると、さすがに気になるな…。



 ダンジョンの周囲は先程同様に木々の開けた場所で、一段地形が凹み、低くなった岩壁の横穴からダンジョン内に入れる様になっている。


 その一段低くなって開けている場所には、ところ狭しと武器とバクラーを手にした、コボルドがいた。

 ダンジョン入り口の正面には異形なコボルドがいる。ありゃコボルドリーダーだな…周りのコボルドより体型は小さいが、黒毛のコボルドが大きな戦斧をかついでいる。


 俺達は身を寄せ作戦会議をし、実行へと移す。


 シルが大量の水を流し込み、ルークが水を操り攻撃を仕掛ける。

 水から逃れ、上がって来たもの達を、オーガの2人と俺たちが殲滅する。濡れる事を嫌う動物の習性を使った、単純な作戦だった。


 クラマと狐鈴と和穂は先程同様、敵地に飛び込んで自由に暴れまわる。


 ルークも水があれば、何も気にする事なく暴れられる訳だから…って、ルークの奴、えげつない戦い方をしていやがった…


 なんと、コボルドリーダーを相手に水の塊に閉じ込め、溺れさせていた。

 いくらダンジョンが生み出したモンスターとはいえ、生き物だから呼吸はしている。

 操った水でもがくこともできない様にしているのか??抵抗することもできず、苦しみ、やがて武器と魔石が地に落ちる。


 こわ…水が自由に操れるとかって、今の状況だと最強なんじゃないか??

 

 もっとも普通にコボルドリーダーの相手なんてしていたら、怪我人も幾らか出ていたかもしれないがな。


 狐鈴も和穂も足場の悪い事をものともせず、次から次へと一刀両断にして行く。


 狐鈴の死角から飛び出したコボルドに、和穂は手に持つ刃を投擲し、確実に仕留める。

 魔石になった事で地面に落ちた刃を、狐鈴は拾い上げ和穂へと放る。和穂は放たれた刃の柄を握りそのままの動作で、別の個体に切り掛かる。


 クラマも風魔法を身に纏い、翼の触れた場所が次々と切り裂かれて行く。


 そんな戦闘の様子に目を奪われていると、突然目の前に1匹のコボルドの顔がニュッと出て来て、お互いにびっくりする。

 俺は右に握りしめたナックルダスターを顎下から突き上げる様に繰り出す。顎に拳を受けたコボルドはそのまま、後方にのけぞり、魔石になり地上へと落ちて行く。


「だっはっ!今の顔っ!!」

 キロニフ(牡鹿の獣人)が、今の状況を見ていた様で大笑いする。

「うっせいっ!!」

 俺が言うと、ポンポンと肩を叩く。


 それ程長い時間をかける事なく、ダンジョン前を抑える。ここで集まった魔石だけでも相当な量になるだろう。

 もっとも、スタンピードの一部の鎮火を終えた状態なので、これからダンジョン内部の確認や、四方八方に散ったモンスター達が戻って来た時の処理も行う必要がある…。


 ともあれ、だ。こんな大量のモンスターを相手取って、誰もかける事なく、怪我人もいない状態で、やり過ごせているあたり、モンスターにとったら俺たちが脅威になるんだろうな…。


「ふぅ〜…まったく、とんでもねぇ量だな、今夜一晩でどうこうって訳にはいかねぇな」

 キロニフがため息をつき、ガシガシと頭をかきながら言う。


「まぁ、おそらくは1番厄介なのは、発生源のダンジョン内、次いでダンジョンの前に位置するここになるだろうから、例え散ったモンスターが戻って来ても、ウルフやレッドオーク程度の奴等だろうよ」


「つまり、モンスターに囲まれない様にする為にも、ダンジョンに入る者と、この場を守る者を分ける必要はありそうですな」


 ヘレント爺さんはそんな事を言ってロディが続く様に話す。


「和穂はアキラを呼びに行くんだろ?一緒にチャコと、アコ…ヘレントの弟子なんだが、連れて来てもらえないか?量を相手にすると、魔術師の力が必要になる気がするんだ」


 シルが和穂にアキラの他にチャコちゃんと、アコちゃんも、連れてくる様に伝えている。

 確かに、離れた位置からの攻撃が有効なのはここ迄で身をもって理解した。


 コクコクと頷き、目を閉じている。おそらく、アキラと【念話】をしているのだろう。便利なもんだよな。

 すると次の瞬間和穂の姿が消えた。狐鈴や和穂達がコロモンに行った時にも使われた【呼び寄せ】だろう。


 和穂という大きな戦力が欠けてしまったけれど、ダンジョンに潜ったりしなければ、問題ないだろう。


「さて、この後はどうするんだ?今回は間引きまでに留めて冒険者ギルドに報告して、廃ダンジョンから普通のダンジョンとして使ってもらうのか?」


 キロニフがシルに話しかける。


「どうするかねぇ、元が廃ダンジョンだから困る学者達もいないだろうしな…

アタシらで探索しても、新たな発見もないだろうしねぇ、せっかくだから客人に鎮火ついでに探索してもらうかね」


 キロニフの話じゃないけど、一晩でどうこうできるものじゃない、どれだけのモンスターが生まれたんだ…?

 誰も異常に気がつく事なく…予兆はあったかもしれねぇが、こんなとこに用事ねぇもんな。


 とりあえず、新たなモンスターが生み出されない様にダンジョン内をどうにかしないと、戻れそうにないな…

お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

 お留守番のアキラも招集されることになりました。

アキラにとって、お出かけ以外の初の冒険になります。さて、どうなる事やら…


それでは、また次回の物語でお会いしましょう♪

誤字脱字の報告いつもありがとうございます。

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