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第56話 ボク達の野営。


 現在のこちらの状況は、馬が2頭木に繋がれて、馬のいない荷車が縦列で2台並べられている状態。

 狐鈴からの念話で得た情報の馬のいない荷車に、コチラの馬を繋げて引いて来れるのではないかと、兵士達が夜目の効かない、馬の手綱を手に、歩いて連れて行った。


 荷車の1台にはコチラに避難してきた女性が休んでおり、開けた場所に焚き火を起こし、囲う様に、周りでボク達が料理をしたり、お茶を飲みながら休んでいた。


「ねぇシル、衛兵団か冒険者ギルドにダジャルの荷車とか無いのかな?あるなら、少しでも早く、あの被害を受けた人たちを街に送って安心させてあげられたらと思うのだけど…」


シルは困った表情でボクの話を聞く。

ひとつため息をつき、口を開く。


「ダジャルは稀少なんだ…夜目が多少効くうえ、速いから、そう思ったんだろうけど、馬ほど力がないから荷車は引けないのさ」


「そっか…」

「うん、アキラは優しいね、でも出来ないことで嘆くより、あったかい料理で腹を満たしてあげた方が、喜んで貰えるだろうよ」


シルは鍋を指さし微笑みかけてくる。

ボクもため息をひとつつき、シルにつられて笑う。


「うん、そうだね。

和穂、モータルをまた何本か焼こうと思うんだけど…」


 和穂は頷き、収納空間に手首だけ突っ込む。モータルを10本ほど取り出し、先ほどの様に焚き火へと並べてくれる。



 シルにオンダさん達の送別の宴会で、モータルの【すいとんぜんざい】を作る案に賛成してもらって、今日の出発までの時間に、街中の露店の何軒かから買い占めて来たんだよね。


 露店の店主に『買い占めたら、買いたい人に迷惑かけてしまうのではないか』とたずねると、『街中じゃ珍しい物じゃないから、いつも大量に余らせてる』なんて、困らせることなく逆に喜んで売ってもらえた。



 それから、人の頭程の大きさもある【アイル(タマネギ)】、小玉スイカ程の大きさの【モレット(ニンジン)】、武器屋の隅で一緒に売っていた大きめの鍋と鉄板も出してもらう。

 本当、制限の無い収納空間って便利だよね、和穂には悪いけれど、すっかり食材庫となってしまった。



 シルも和穂と狐鈴の収納空間の能力の話を聞くまで、持ち帰れる荷物の量で諦めていた物があった様で、聞くと、かなりのお金を街で使っていたそうだ。


 ボクが骨灰磁器を作っている時、シルは狐鈴と一緒にルーフェニアさんを連れて、街中に買い物に出かけていた。まぁ、狐鈴はもともと、ラナトゥラさんの留魂の儀もあったので、シルの買い物は、ついでだったんだろうけどね。


 ルーフェニアさんは『その金額で馬車が買えます』なんて恐ろしい事を言っていたっけ…

 

 そんな大袈裟な金額、たとえシルであろうと、持ち合わせて無いだろうなんて、ツッコミを入れたら、魔具の販売のお金は商業ギルドに預けているらしく、ボクのいた世界でいう、小切手のような物でやりとりしていたらしい。


 シルって、本当に【地位】も【名誉】も【財力】も【技術】も【能力】も何でも持っているから…。

 【シル=ローズに手を出すな】なんて言われている言葉も、色んな意味で頷ける。



「流石に、肉はないから野菜だけで作る料理になるかな…」


 ボクが和穂に言いながら、サバイバルツールで、小玉スイカほどの大きさの【モレット】の皮剥きに苦戦していると、シルはサラリと言う。


「ちょっと筋張っているけど、オークを食えば良いんじゃないかい?」


 ボクの思考は停止する…ああ、やっぱりコチラの世界では二足歩行の豚も、【豚は豚】という事なのですね…。



狐鈴に念話で伝える。


『狐鈴、帰りに足1本で良いんだけど、料理に使うために、血抜きのされたオークを持ってきてもらえるかな?』


『おぉ、凄いのぅ、アキラはコチラの状況が見えているかの様な話じゃの、血はルークが抜いているから、どの部分でも持って帰れるぞ』



ルーク…君は、オークを食べる気だったのかい…?



 肉の確保はできた、野菜の下ごしらえもできた。あとは皆が帰ってきてからだ。


 

「うー、帰ったらお風呂入ってのんびりしたいな…」


 すっかりゴワゴワになってしまった髪を撫で呟く。

 ボクの呟きに隣に座る和穂は、耳をピクピクさせ、尻尾を振る。


「あたしは、すっかり食いそびれた、アキラの仕込んでいた料理が気になるよ」

 

 シルが呟くと、和穂はガバッと顔をコチラへ向け、ボクの手を両手でとり、無言だが凄い期待の視線を送ってくる。

 尻尾ははちきれんばかりに振り乱されている。


 ルーフェニアさんは、この和穂の状況が気になったのか、シルに聞いている。

 ポンッと手を打ったら、ルーフェニアさんも前のめりになりコチラへと熱い眼差しを送ってくる。


あはは、期待に応えられるといいなぁ…。

苦笑いで応えるボク。



 今ボクが炊き出しで考えているのは、豚肉が手に入るということなので、スープを作ろうと思う。

 調味料はお馴染みの水色の粉、白い紅葉を砕いた物、青い液体…塩胡椒、醤油の代用品だね。こちらの調味料達も、あればあるだけ良いだろうと、多めに購入している。


 もうお馴染みの調味料なので、今更名前なんてきけない…あとはオーク肉から良い出汁が採れる事を祈ろう。

 欲を言えばキノコ類も入れたかったけれど、家に帰ったら収穫できる物に、お金を払うのは…と、思ったので買わなかった。


 ちなみに、明日の朝ごはんは既に決まっている。昨晩のうちにシルがフレンチトーストを御所望していた。

 ルーフェニアさんと、和穂が話を盛り上げていたから、食べられなかったシルが拗ねてしまったのだ。

 屋外の鉄板でなんて作った事ないけれど、作れる物なのかね??

 一応材料は購入したし、移動中の簡単な調理道具はギルドで借り、ルーフェニアさんに返却する事になっている。


『ああ〜、あれが朝から、空の下で食べられるのか…』


呟くルーフェニアさん、よだれ…。

…和穂も…。



クラマが空より帰って来る。

「お帰りなさい、お疲れ様」

ボクは立ち上がりクラマを迎え入れる。

そんなクラマにシルが声を掛ける。


「お帰りクラマ。

 帰ってきて早々で申し訳ないんだけど、現在の状況を、コロモンの街の入り口の衛兵に報告してきてもらえないかな。

 あと街道までオークが出てきているという事態を、冒険者ギルドに伝わる様に事付けて」


「ごめんね、クラマ。1番早く行けるのがクラマだから、お願いしても良いかな?戻って来る時は報告が終わったら、話しかけてくれたら呼び寄せるから」


ボクからもクラマにお願いする。


「承知した」

クラマはひとつ頷き、再び羽ばたき上空まで上がると、そのままコロモンの門に向かって飛んで行った。


頼んだよクラマ。



 少しすると、ルークと狐鈴、馬を引いて馬車を運んで兵士達が帰ってきた。



 生き残りの者達は口数少なく焚き火を囲む。生き残った事を喜ぶでもなく、火を見つめている。

 そうだよね、目の前でついさっきまで、一緒にコロモンに向けて移動してきた人や、中には家族や親しい人が亡くなった人もいるだろう…。



「最初に助けを求めてきた者、道中に倒れていた男が1人、馬車の中にいた母子、森の木の上にいた子供、冒険者の2人が生き残りじゃの。

 オークは最初10体いた様じゃ、5体の死体を確認した。冒険者達の頑張りで、数が減らされていたようじゃな。

 息の絶えた者達は、餌としてモンスターを呼び寄せてしまわん様に、1ヶ所に集めて、結界を張ってきた。

 明日の朝、ワチが居残って後からやってくる兵士を待とう。

亡き者達も、生き残りの者達を引き渡した後、結界を解いて、合流した兵士に任せれば良いな。

 アキラよ、この者達を引き渡したあと、ワチを呼び寄せてほしいのじゃ」



 焚き火の周囲を、連れ帰ってきた者達に譲り、荷車の脇で狐鈴は、状況の説明をサラリと、居残っていたボク等に話し、今後の事を伝えてくれる。



「うん、この中で、状況を知っていて、結界を解くことができるのは、狐鈴だけだから…

 ただ、普段街道に寄り付きもしないオークなのに、10体も現れて、襲いかかってきているのも事実だから、決して安全ではないと思うんだよ」


 狐鈴1人を残して、先に行くというのも、少し不安に感じてしまう。


「案ずるなアキラよ、ワチなら決して遅れをとらんよ、例え10体相手だったとしてもな。

 それに、ワチ以外が全く戦えんわけではないしの。

 冒険者の2人が守りに徹してくれていれば、守りながら戦う様な事はないじゃろうよ」


 焚き火で焼けた、焼きモータルをルーフェニアさんから受け取っていた冒険者2人がコチラに顔をあげる。


「もし、アキラネェさんが心配だって言うなら、呼び寄せのできる誰か、一緒にいれば良いんじゃないかな?」


 ルークはボクに提案をしてくる。


「そうだね、それなら安心かな。和穂お願いして良いかな?」


「……」


 無言で頷く和穂、今の間は…?


『オーク肉バラしたよー』

 兵士の1人がコチラに向かって手を上げながら声をかけてくれる。


 狐鈴にお願いして、持ってきてもらったオークの足は、太さや色以外は見た目も人に似た足そのもので、ボクは皮剥ぎなどに抵抗があった…


『ありがとうございます』

ボクは返事をして、焚き火の元へと戻り、スープ作りを再開する。

 

 あいだあいだで、灰汁取りをして、【コレは豚肉】と繰り返して自分に、呪いめいた暗示を掛けながら味見をする。


 明るい場所で食べたならば、きっと青い謎スープなのであろうが、ココは外で、そこまで手元をハッキリと照らす灯がない事が、ボクの食事の見た目に対しての抵抗力を緩めてくれる。


 若干物足りなさは感じるけれど、ある物を使って作った物としては上出来だろう。


 例え昼間は暖かくても、夜はやっぱり冷える。

 胡椒の代わりに使用する白い紅葉の香辛料を少し多めに入れてスープを完成させる。


 クラマから報告が完了したと報せが入ったのはスープが出来上がったタイミングだった。クラマを呼び寄せ、労いの言葉をかける。

 

 焼きモータルをはじめ、豚スープとすいとんぜんざいは、疲弊し切った避難者の表情を和らげる事に一役かっていた。


 たらふく晩御飯を食べてきた筈の皆が、食事を共にしていた事は、ツッコミどころではあったのだろうけど…笑顔が引き出せているみたいなので、まぁいいか…


 誰かの笑顔を引き出せるって、自分自身も笑顔になれて良いもんだね。それが例え偽善と言われても、何もやらない人には言われたくない、自己満足で終わったとしても、相手を笑顔に出来ている事は事実だしね。


 特に、子供達には悲しい出来事の中でも少しでも元気になってもらえたら嬉しいと思う。


 ボクは馬達と共に休んでいるダジャルの元へ、ナボラの実を持っていく、【すいとんぜんざい】で必要な分は使ったので、お裾分けだ。

 ダジャルは喜んで頬張る。

 少し離れたところから焚き火の皆を見渡せる。

 ボクができる事はここまでだ。

 今日巻き込まれてしまった人を覚えていてあげて欲しい、でもどうか、立ち上がって前向きに生きて欲しい。そう思う。



 深夜の見張りは衛兵とボク達とで、交代しながら行う事になった。


 ボクには何も出来ないのだけど、なぜか見張り要員の1人として数えられていた…ホントどうして??


 とはいえ、朝ごはんの準備との兼任という事で、明け方の最後の時間の見張りにしてくれていた。


 並べられた3台の荷車、焚き火、そしてダジャルと4頭の馬、冒険者の建てた簡易的なテント。


 ボクはシルと和穂、そして避難してきた冒険者の2人と共に見張りになる為、時間までそれぞれ、テントだったり荷車だったりで休む。


 ボクは外で構わないと言ったのだが、衛兵達に、女性を外で寝かせるわけにはいかないと、兵士達は焚き火で暖をとりながら休み、そして見張りもこなしてくれていた。


 和穂の添い寝権は持続しており、ボクの隣は和穂がいて、その隣には狐鈴、ボクの逆隣にシル、ルーフェニアさん。幌の上にクラマとルークが休んでいる。


 明日は何事もなく無事に、帰れる事を祈る。

お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

オーク肉ってやっぱり豚肉寄りなんでしょうか?林檎だけ食べさせたり、ビールを飲ませたら味が変わるとか…

異世界食材のレシピ誰か作ってくれないかな〜

なんて思ってみたり。

次の話で皆の元へと帰られるのでしょうか…

それでは、また次の物語でお会いできたら嬉しいです。

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